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62、茶会の後
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茶会は波乱含みのまま終わった。
あの後は特に情報と言う情報が出ることはなかった。
エリオットはライナス、シグルドと共に王宮の一室へ移動する。
豪奢な調度品が並ぶ部屋だが、華やかさよりも静かな緊張感が漂っていた。
ライナスは長椅子にどっかりと腰を下ろし、片手で額をこする。
「いやぁ、思った以上に濃いお茶会だったね」
「……そうですね」
エリオットは窓際に立ち、外を見つめる。
落ち着いてはいるが、その表情には警戒心が見え隠れしていた。
「問題は、ここからですよ」
低く呟くと、ライナスがニヤリと笑う。
「だろうね。もし今の話がヴェロニクの耳に入れば、間違いなく宮廷内に内通者がいるってことになる」
「そして、それを最も疑われるのは……ヴァルフォード伯爵とクラウス侯爵、ですね」
エリオットが振り返りながら言うと、シグルドが腕を組みながら無表情に頷いた。
「ヴァルフォード伯爵は見ての通り、動揺しやすい。だが、クラウス侯爵は違う。彼は老獪な政治家だ」
「そうですね……彼は、陛下の関与を避けようとしているように感じました」
「ふむ」
シグルドは考え込むように顎に手を当てた。
「クラウスが本当に貴族派の代表として動いているのなら、ヴェロニクと接触する可能性は高い。だが、彼が純粋に国の安定を考えているだけなら……むしろ、ヴェロニクを利用する形で動くかもしれん。まあ、私の介入を嫌がるのは純粋な愛国心故かもしれないが」
「どちらにせよ、動向を見極める必要がありますね」
エリオットがそう言うと、シグルドは短く頷いた。
「ヴァルフォード伯爵の監視は、私の部下にやらせる。宮廷内の動きも含めて、確実に内通者を炙り出すつもりだ」
エリオットは目を見開き、迷わず言った。
「僕も協力させてください」
「……何?」
シグルドの金色の瞳が鋭く細められる。
「僕にはまだ動かせる人間ほとんどがいません。でも、だからこそ、何かあったときは直接目で確かめたいんです。クラウス侯爵はこういうことも分かっているんでしょうね。そこはやはり流石というべきでしょうか」
シグルドはしばし沈黙する。
「わかった。下手に一人で動かれるよりはそう言ってもらえた方がこちらも助かる——ただし、深入りはするな。敵が何者か分からない以上、君の身を危険に晒すわけにはいかん」
エリオットはその言葉に一瞬口をつぐむが、やがて小さく頷いた。
「分かりました」
そのやり取りを聞いていたライナスが、楽しげに肩をすくめる。
「まったく、君たちは相変わらずだねぇ」
エリオットは眉をひそめる。
「相変わらずとは?」
「んー?」
ライナスは顎に手を当て、わざとらしく考える素振りを見せる。
「一見、冷静そうに見えて、実はお互いのことを気にしすぎてるところとか? いやぁ、見ていて飽きないね」
「……そんなことは」
エリオットが反論しようとしたところで、ライナスは肩をすくめ、シグルドの方を向いた。
「なぁ、陛下? 陛下こそ、公爵夫人に甘すぎると思うけど?」
シグルドは無表情のままライナスを一瞥する。
「私がどうしようと、お前には関係ない」
「ほらね、そういうとこ。君たちは本当に相変わらずだ」
ライナスは呆れたように笑い、椅子の背にもたれかかる。
「まぁ、いいさ。お互いに気にしすぎるのも、関係性が深い証拠ってやつだし?」
「……からかわないでください」
エリオットがため息混じりに言うと、ライナスはさらに楽しそうに笑う。
「いやいや、これは純粋な観察の結果だよ。ま、ほどほどにね。君たちが喧嘩し始めたら、僕が仲裁しなきゃならないんだから」
「喧嘩なんて……」
エリオットが言いかけると、シグルドが短く言い放つ。
「しない」
ライナスはニヤリと笑い、改めて肩をすくめた。
「はは!いいね、テンポもあってるようだ。まぁ、相変わらずって言葉の意味、そろそろ納得した?」
「……」
エリオットは黙っていたが、ライナスの愉快そうな視線から逃れるようにそっと目を逸らした。
※
数時間後。
「はいはーいヴァルフォード伯爵が、屋敷を出たそうです」
王宮の一室で、レオンが軽い口調で報告を持ってきた。
しかし、その目は鋭く警戒を帯びている。
「どこへ向かったのですか?」
「公爵家です」
エリオットの目が鋭くなる。
「……ヴェロニクに?」
「まだ確定ではありませんが、今のタイミングで公爵家を訪れるのは、どう考えても怪しいですね」
ライナスが微笑しながら肘をついた。
「ほうほう、これは面白くなってきたねぇ」
「レオン、可能ならば中の様子を探れますか?」
レオンは軽く肩をすくめた。
「もちろん。それと、クラウス侯爵も気になりますね」
「彼も動きを見せましたか?」
「ええ。何やら、別の貴族たちと密かに接触しているようです。詳細はまだ掴めていませんが、彼が単独で動くとは思えません」
エリオットは腕を組み、深く考え込んだ。
(ヴェロニクとヴァルフォード伯爵、そしてクラウス侯爵……彼らは繋がっているのだろうとは思うけれど……)
「……レオン、ヴァルフォード伯爵の動きを引き続き監視してください」
「了解」
「ライナス殿下、クラウス侯爵の動きは……」
「僕の方で抑えておくよ。ちょっと彼に小言でも言いに行こうかねぇ」
軽やかに笑うライナスだったが、その瞳の奥は冷え冷えとしていた。
「……では、僕は公爵家に戻る準備をします」
エリオットがそう告げると、シグルドが眉をひそめる。
「本気か?」
「ええ。これ以上、王宮にいても状況は変わりません。公爵家に戻れば、直接証拠を掴めるかもしれません。僕は協力をしたい、とさっきも言いましたよ」
シグルドは短く息を吐き、鋭い視線を向ける。
「それは、君が囮になるということだ」
「……違います。交渉です」
シグルドはしばらく沈黙する。
「頑固だな……好きにしろ。ただし、レオンが全力で君を守る。それが条件だ」
「おやおや、陛下、私をこんな無茶ぶりに巻き込むとは酷いですねぇ」
レオンが軽く肩をすくめる。
「まぁ……公爵夫人が何をしでかすか、近くで見張っておくのも面白いですけど」
「ありがとう、レオン」
「いえいえ、ご丁寧に。でも、覚えておいてくださいね?」
レオンは短剣をくるりと回しながら、ニヤリと笑う。
「何かあれば、私が全力で公爵夫人を連れ戻しますので」
「その時は、よろしく頼むよ」
エリオットも微笑んだ。
※
エリオットは静かに扉をノックした。
「陛下、失礼します」
許可を得て中に入ると、シグルドはソファに腰を下ろし、書類に目を通していた。
普段の執務机ではなく、少し寛いだ姿勢でいるのが珍しい。
「出発前に、ご挨拶をと思いまして」
そう告げると、シグルドは手元の書類を置き、ゆっくりと顔を上げた。
金色の瞳が、じっとエリオットを捉える。
「……そうか」
低く響く声。
エリオットはゆっくりとシグルドの近くまで歩み寄った。
「本当に、行くつもりなのか」
「はい」
エリオットがそう答えた瞬間、シグルドの腕が伸びる。
驚く間もなく、腰を引き寄せられ、気づけばシグルドの膝の上に抱え込まれていた。
「……っ、陛下?」
シグルドは座ったまま、しっかりとエリオットを抱きしめる。
その腕は決して強引ではないが、逃がす気はないという確かな意志を感じさせた。
「絶対に危ないことはするな」
静かだが、低く押し殺したような声。
それがどれほど本気の言葉なのか、エリオットには分かってしまった。
「……分かっています」
そう応えながらも、シグルドの腕は緩まない。
むしろ、ますます力が込められているように思えた。
「……もし、無事に戻ったら」
シグルドの声が、すぐ耳元で囁かれる。
「君をもう二度と手放さない。その為に動いてきた」
エリオットは、息を飲んだ。
(……どういう、意味……?)
シグルドの手が、そっとエリオットの背に添えられる。
心臓がうるさく鳴る。
「……陛下」
少しでも距離を取ろうと身じろぐが、腕の中の温もりが離れることはない。
「君の中にも色々と譲れないものがあるのは分かる」
シグルドの低い声が続く。
「だが——」
そこで、一瞬言葉が途切れる。
まるで、何かを堪えるように。
エリオットは、シグルドの胸元に手を添えた。
「……僕は、探さなければならない人がいます」
「……」
シグルドが僅かに身を固くするのが伝わった。
「以前、僕はその人と出会いました。でも、顔も名前も分からないんです。おかしな話だと思うでしょう。ただ……」
エリオットは、少しだけ視線を伏せる。
「その人は、『僕』を愛してくれていました」
(たとえ名前も、顔も話からなくても。最後に、僕を愛してくれた人だった。ああ、それでもこの強引な人に惹かれている自分が確かに居る……)
「だから、その人を探したいのです」
シグルドの腕がわずかに緩む。
エリオットは、ようやく顔を上げた。
「……分かっています。そんな曖昧な話をされても、困りますよね」
乾いた笑みを浮かべながらそう言うと、シグルドの表情がわずかに陰る。
「それは——」
瞠目する金色の瞳。
エリオットは、シグルドの腕から抜け出すようにそっと身を引いた。
「……では、行ってきます」
シグルドは、何かを言いかけたようだった。
だが、結局その言葉は飲み込まれたまま、沈黙が落ちる。
静かに部屋を後にするエリオットの背中を、シグルドはただ見つめていた——。
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次の更新→3/4 PM10:30頃
⭐︎感想いただけると嬉しいです⭐︎
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あの後は特に情報と言う情報が出ることはなかった。
エリオットはライナス、シグルドと共に王宮の一室へ移動する。
豪奢な調度品が並ぶ部屋だが、華やかさよりも静かな緊張感が漂っていた。
ライナスは長椅子にどっかりと腰を下ろし、片手で額をこする。
「いやぁ、思った以上に濃いお茶会だったね」
「……そうですね」
エリオットは窓際に立ち、外を見つめる。
落ち着いてはいるが、その表情には警戒心が見え隠れしていた。
「問題は、ここからですよ」
低く呟くと、ライナスがニヤリと笑う。
「だろうね。もし今の話がヴェロニクの耳に入れば、間違いなく宮廷内に内通者がいるってことになる」
「そして、それを最も疑われるのは……ヴァルフォード伯爵とクラウス侯爵、ですね」
エリオットが振り返りながら言うと、シグルドが腕を組みながら無表情に頷いた。
「ヴァルフォード伯爵は見ての通り、動揺しやすい。だが、クラウス侯爵は違う。彼は老獪な政治家だ」
「そうですね……彼は、陛下の関与を避けようとしているように感じました」
「ふむ」
シグルドは考え込むように顎に手を当てた。
「クラウスが本当に貴族派の代表として動いているのなら、ヴェロニクと接触する可能性は高い。だが、彼が純粋に国の安定を考えているだけなら……むしろ、ヴェロニクを利用する形で動くかもしれん。まあ、私の介入を嫌がるのは純粋な愛国心故かもしれないが」
「どちらにせよ、動向を見極める必要がありますね」
エリオットがそう言うと、シグルドは短く頷いた。
「ヴァルフォード伯爵の監視は、私の部下にやらせる。宮廷内の動きも含めて、確実に内通者を炙り出すつもりだ」
エリオットは目を見開き、迷わず言った。
「僕も協力させてください」
「……何?」
シグルドの金色の瞳が鋭く細められる。
「僕にはまだ動かせる人間ほとんどがいません。でも、だからこそ、何かあったときは直接目で確かめたいんです。クラウス侯爵はこういうことも分かっているんでしょうね。そこはやはり流石というべきでしょうか」
シグルドはしばし沈黙する。
「わかった。下手に一人で動かれるよりはそう言ってもらえた方がこちらも助かる——ただし、深入りはするな。敵が何者か分からない以上、君の身を危険に晒すわけにはいかん」
エリオットはその言葉に一瞬口をつぐむが、やがて小さく頷いた。
「分かりました」
そのやり取りを聞いていたライナスが、楽しげに肩をすくめる。
「まったく、君たちは相変わらずだねぇ」
エリオットは眉をひそめる。
「相変わらずとは?」
「んー?」
ライナスは顎に手を当て、わざとらしく考える素振りを見せる。
「一見、冷静そうに見えて、実はお互いのことを気にしすぎてるところとか? いやぁ、見ていて飽きないね」
「……そんなことは」
エリオットが反論しようとしたところで、ライナスは肩をすくめ、シグルドの方を向いた。
「なぁ、陛下? 陛下こそ、公爵夫人に甘すぎると思うけど?」
シグルドは無表情のままライナスを一瞥する。
「私がどうしようと、お前には関係ない」
「ほらね、そういうとこ。君たちは本当に相変わらずだ」
ライナスは呆れたように笑い、椅子の背にもたれかかる。
「まぁ、いいさ。お互いに気にしすぎるのも、関係性が深い証拠ってやつだし?」
「……からかわないでください」
エリオットがため息混じりに言うと、ライナスはさらに楽しそうに笑う。
「いやいや、これは純粋な観察の結果だよ。ま、ほどほどにね。君たちが喧嘩し始めたら、僕が仲裁しなきゃならないんだから」
「喧嘩なんて……」
エリオットが言いかけると、シグルドが短く言い放つ。
「しない」
ライナスはニヤリと笑い、改めて肩をすくめた。
「はは!いいね、テンポもあってるようだ。まぁ、相変わらずって言葉の意味、そろそろ納得した?」
「……」
エリオットは黙っていたが、ライナスの愉快そうな視線から逃れるようにそっと目を逸らした。
※
数時間後。
「はいはーいヴァルフォード伯爵が、屋敷を出たそうです」
王宮の一室で、レオンが軽い口調で報告を持ってきた。
しかし、その目は鋭く警戒を帯びている。
「どこへ向かったのですか?」
「公爵家です」
エリオットの目が鋭くなる。
「……ヴェロニクに?」
「まだ確定ではありませんが、今のタイミングで公爵家を訪れるのは、どう考えても怪しいですね」
ライナスが微笑しながら肘をついた。
「ほうほう、これは面白くなってきたねぇ」
「レオン、可能ならば中の様子を探れますか?」
レオンは軽く肩をすくめた。
「もちろん。それと、クラウス侯爵も気になりますね」
「彼も動きを見せましたか?」
「ええ。何やら、別の貴族たちと密かに接触しているようです。詳細はまだ掴めていませんが、彼が単独で動くとは思えません」
エリオットは腕を組み、深く考え込んだ。
(ヴェロニクとヴァルフォード伯爵、そしてクラウス侯爵……彼らは繋がっているのだろうとは思うけれど……)
「……レオン、ヴァルフォード伯爵の動きを引き続き監視してください」
「了解」
「ライナス殿下、クラウス侯爵の動きは……」
「僕の方で抑えておくよ。ちょっと彼に小言でも言いに行こうかねぇ」
軽やかに笑うライナスだったが、その瞳の奥は冷え冷えとしていた。
「……では、僕は公爵家に戻る準備をします」
エリオットがそう告げると、シグルドが眉をひそめる。
「本気か?」
「ええ。これ以上、王宮にいても状況は変わりません。公爵家に戻れば、直接証拠を掴めるかもしれません。僕は協力をしたい、とさっきも言いましたよ」
シグルドは短く息を吐き、鋭い視線を向ける。
「それは、君が囮になるということだ」
「……違います。交渉です」
シグルドはしばらく沈黙する。
「頑固だな……好きにしろ。ただし、レオンが全力で君を守る。それが条件だ」
「おやおや、陛下、私をこんな無茶ぶりに巻き込むとは酷いですねぇ」
レオンが軽く肩をすくめる。
「まぁ……公爵夫人が何をしでかすか、近くで見張っておくのも面白いですけど」
「ありがとう、レオン」
「いえいえ、ご丁寧に。でも、覚えておいてくださいね?」
レオンは短剣をくるりと回しながら、ニヤリと笑う。
「何かあれば、私が全力で公爵夫人を連れ戻しますので」
「その時は、よろしく頼むよ」
エリオットも微笑んだ。
※
エリオットは静かに扉をノックした。
「陛下、失礼します」
許可を得て中に入ると、シグルドはソファに腰を下ろし、書類に目を通していた。
普段の執務机ではなく、少し寛いだ姿勢でいるのが珍しい。
「出発前に、ご挨拶をと思いまして」
そう告げると、シグルドは手元の書類を置き、ゆっくりと顔を上げた。
金色の瞳が、じっとエリオットを捉える。
「……そうか」
低く響く声。
エリオットはゆっくりとシグルドの近くまで歩み寄った。
「本当に、行くつもりなのか」
「はい」
エリオットがそう答えた瞬間、シグルドの腕が伸びる。
驚く間もなく、腰を引き寄せられ、気づけばシグルドの膝の上に抱え込まれていた。
「……っ、陛下?」
シグルドは座ったまま、しっかりとエリオットを抱きしめる。
その腕は決して強引ではないが、逃がす気はないという確かな意志を感じさせた。
「絶対に危ないことはするな」
静かだが、低く押し殺したような声。
それがどれほど本気の言葉なのか、エリオットには分かってしまった。
「……分かっています」
そう応えながらも、シグルドの腕は緩まない。
むしろ、ますます力が込められているように思えた。
「……もし、無事に戻ったら」
シグルドの声が、すぐ耳元で囁かれる。
「君をもう二度と手放さない。その為に動いてきた」
エリオットは、息を飲んだ。
(……どういう、意味……?)
シグルドの手が、そっとエリオットの背に添えられる。
心臓がうるさく鳴る。
「……陛下」
少しでも距離を取ろうと身じろぐが、腕の中の温もりが離れることはない。
「君の中にも色々と譲れないものがあるのは分かる」
シグルドの低い声が続く。
「だが——」
そこで、一瞬言葉が途切れる。
まるで、何かを堪えるように。
エリオットは、シグルドの胸元に手を添えた。
「……僕は、探さなければならない人がいます」
「……」
シグルドが僅かに身を固くするのが伝わった。
「以前、僕はその人と出会いました。でも、顔も名前も分からないんです。おかしな話だと思うでしょう。ただ……」
エリオットは、少しだけ視線を伏せる。
「その人は、『僕』を愛してくれていました」
(たとえ名前も、顔も話からなくても。最後に、僕を愛してくれた人だった。ああ、それでもこの強引な人に惹かれている自分が確かに居る……)
「だから、その人を探したいのです」
シグルドの腕がわずかに緩む。
エリオットは、ようやく顔を上げた。
「……分かっています。そんな曖昧な話をされても、困りますよね」
乾いた笑みを浮かべながらそう言うと、シグルドの表情がわずかに陰る。
「それは——」
瞠目する金色の瞳。
エリオットは、シグルドの腕から抜け出すようにそっと身を引いた。
「……では、行ってきます」
シグルドは、何かを言いかけたようだった。
だが、結局その言葉は飲み込まれたまま、沈黙が落ちる。
静かに部屋を後にするエリオットの背中を、シグルドはただ見つめていた——。
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