社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし

文字の大きさ
11 / 57

10

しおりを挟む
夜はあれからなんとか寝付くことができた。
――レイが「隣にいる」と言ってくれたおかげだろうか。なんだか、妙な安心感があったのは事実だ。

「……おはよう、異世界。三日目……」

昨日の出来事が夢ではないことを再確認しながら、俺はベッドから起き上がる。
カーテンの隙間から差し込む朝日が、静かな部屋を照らしている。
だけど――静かすぎる。

「……なんか嫌な予感がするんだよなぁ」

ゴクリと唾を飲み込みつつ、俺は部屋の扉を見つめた。その瞬間――。

ドンッ!ガチャッ!

大きな音と共に扉が勢いよく開かれた。

「おい、カイル!」
「ひゃぁぁッ!?」

突如現れたレイの声に、俺は思わず叫び声を上げてしまった。
リリウムも驚いたのかベッドの上で飛び上がる。
寝起きに騎士の登場は心臓に悪すぎる。
いや――推しの登場で叫ぶとか、どうなんだ俺。落ち着け、俺。

「何、どうしたの!?朝から騒々し――」

言いかけた俺の言葉は、レイの険しい表情に飲み込まれた。彼は息を整えることもせず、真剣な顔でこちらへと近づいてくる。

「カイル、お前は部屋から出るな」
「え……?」
「――呪刻符の出所が判明した」

レイの声は低く、静かな怒りが滲んでいる。

「それって、誰が?」
「屋敷の内側だ」
「……え?」

一瞬、思考が止まる。

「どういう……?」
「昨夜、屋敷の一部の使用人が不審な動きをしているのを確認した。どうやら奴らは、外部の者と繋がっているようだ」

屋敷の中に内通者──まさか、エミリーが言っていたことが現実だなんて。

「奴らの目的は、お前だ」

レイはそう言い切ると、俺の肩をしっかりと掴んだ。

「お前を傷つけさせはしない。俺が必ず守る」
「……レイ」

その真剣な表情に、胸が締め付けられる。
だけど、同時に頭の中には別の考えが浮かぶ――。

「レイ、本当に俺が狙われているのかな……?」
「何を言っている」
「俺、なんかおかしい気がするんだよ。確かに『カイル』は大事な人間かもしれない。でも――」

俺はそこで言葉を飲み込む。
――俺は本物のカイルじゃない。

「……何か隠しているのか?」

レイが俺を見つめる。ドキッと心臓が跳ねるが、俺は慌てて首を振った。

「ち、違う!ただ、なんか、うまく説明できないだけで……」

「……そうか」

レイはまだ納得していない様子だが、俺を見つめる視線が少しだけ和らぐ。

「とにかく、お前の安全を最優先する。部屋を出るな――いいな?」

レイはそれだけ言い残して、足早に部屋を出て行った。

あれから数時間後──部屋の外が少しだけざわついているのに気づいた。
……何か進展があった?
そわそわしながら耳を澄ませていると、廊下の向こうからかすかな声が聞こえてくる。

「侵入者が捕まったらしい」
「誰だ?」
「まさか、あの方が関わっているなんて……」

――あの方?……誰だ?……本当に捕まったのか?

俺は落ち着かないまま部屋を行ったり来たりする。レイが「部屋から出るな」と言ったのは分かっているけれど、こうも情報がないと不安になる一方だ。

「……少しだけ、見に行こう」

意を決して扉に手をかける――その瞬間、扉が開き、そこには――。

「カイル……言っただろう、部屋から出るなと」

レイが立っていた。目を細めて、俺を見下ろす彼の姿に、思わずビクリとする。
お、おわあああああ、なんかセンサーでもついてんのかよ、この人。吃驚したああああ!

「え、あ、いや……ちょっと、き、気になって」
「……お前は、危機感がなさすぎる」

レイはため息をつくと、突然俺の腕を引いて、ベッドに座らせた。

「俺がついていなければ、お前はどこへでもフラフラと行きそうだな」
「い、いやいや、そんなことない……多分……」
「なら、なおさら目を離せないな」
「レイ?」
「分からないか?お前が狙われている――それだけで、俺は……」

そこまで言いかけて、レイは言葉を飲み込んだ。そして、俺の手を強く握りしめる。

「俺は、お前にもしものことがあれば、耐えられない」

そう言いながら俺をベッドへと押し倒す。
柔らかな感触が背中に当たった。
……んんん⁈押し倒されてるな⁈天井と推しが見えますね⁈

「……れ、レイ……っ」

慌てて俺はレイの胸元に手を挙げて押し返そうとした。
胸板固っ!悲しいことに、ビクともしない。
レイは俺の動作なんて気にすることなく、俺の目をじっと見つめる。距離が近い……!

「……カイル……」

そう言って、レイの手が頬に触れた瞬間、俺の心臓は爆発しそうになった。

「ちょっ、ちょっと待っ――!」

言葉を遮るように、レイの唇が額に再び触れる――が、今度はそのままゆっくりと鼻先に下り、唇端にキスが落ちてくる。そしてそこから首筋に落ちた。

「……ひ、ぅ……」

レイの唇が薄い皮膚を強く吸い、甘噛みをしてから離れる。
俺は思わず声を漏らしていた。
ふ、とレイが笑って顔を上げる。

「……安心しろ。今はまだ、これだけだ……」

レイの指が俺の唇の端をかすめるように触れて、すっと離れた。

「っ……!」

その指先の感触すら残っている気がして、思わず息を呑む。

「次があれば、覚悟しておけ……部屋から出られないようにする」

そう囁くように言い残して、レイは身体を起こした。
顔が熱い。心臓が爆発寸前だ。そろそろ心臓のお薬とかいると思うのよ……。

「部屋を出るな――いいな?」

レイは小さく微笑み、俺の頭を軽く撫でて部屋を後にした。
リリウムが俺の足元にすり寄ってくる。それを抱き上げて柔らかいお腹に顔を押し当てた。
――絶対確信犯だわ、あれ……。
そもそもだ!そもそも!

「……今はまだ、これだけ……って……」

レイの言葉が頭の中でリピート再生される。
いや待て、これ完全にR18ルートのフラグじゃねぇか⁈
俺、全年齢ルートで進めたかったんですけど⁈ちょっと神様、選択肢間違えました??
――額から唇、そして首筋。ほんの少し触れられただけで……てかね⁈童貞なんですよ!俺はね!わかる⁈非モテの学生時代から社畜のサラリーマンにレベルアップしたせいで、彼女がいた試しなんてない。勿論彼氏もだ。
なのでこんな風なふれあいをしたことはゼロなわけで。
そこでいきなりの推しのスキンシップ!過剰なスキンシップ!……破壊力がありすぎるだろうよ。
俺のライフはとっくにゼロ地点を超えてマイナス……。

「……いや、違う、今はそんなこと言ってる場合じゃない!」

そう、今は恋愛(とも違うか……?)にうつつを抜かしている場合ではない。
気合いを入れ直して頭を振る。
冷静になれ、俺。推しとどうこうなる前に、命が狙われてるんだぞ!
それに、レイが言った「内通者がいる」という話――それが本当なら、屋敷の中だって安全とは言えない。
リリウムをベッドに置き、考える。

「……俺、ここにいていいのか?」

推しに守られるだけの存在で、本当にいいのか?
今はレイがそばにいるから守られているだけで、何も知らないままじゃ、ずっと足手まといのままだ。
レイに甘えているだけじゃ、ダメだ。

「……少しでも、手がかりを探さないと」

結局、どこにいたって危ないならば……せめて邸内だけでも回るべきじゃないだろうか。
昨日のように拾う例もあるわけだし……な!
決意を固めた俺は、そっと部屋の扉に手をかけた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】

瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。 そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた! ……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。 ウィル様のおまけにて完結致しました。 長い間お付き合い頂きありがとうございました!

異世界で孵化したので全力で推しを守ります

のぶしげ
BL
ある日、聞いていたシチュエーションCDの世界に転生してしまった主人公。推しの幼少期に出会い、魔王化へのルートを回避して健やかな成長をサポートしよう!と奮闘していく異世界転生BL 執着最強×人外美人BL

俺の異世界先は激重魔導騎士の懐の中

油淋丼
BL
少女漫画のような人生を送っていたクラスメイトがある日突然命を落とした。 背景の一部のようなモブは、卒業式の前日に事故に遭った。 魔王候補の一人として無能力のまま召喚され、魔物達に混じりこっそりと元の世界に戻る方法を探す。 魔物の脅威である魔導騎士は、不思議と初対面のようには感じなかった。 少女漫画のようなヒーローが本当に好きだったのは、モブ君だった。 異世界に転生したヒーローは、前世も含めて長年片思いをして愛が激重に変化した。 今度こそ必ず捕らえて囲って愛す事を誓います。 激重愛魔導最強転生騎士×魔王候補無能力転移モブ

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

【本編完結】最強魔導騎士は、騎士団長に頭を撫でて欲しい【番外編あり】

ゆらり
BL
 帝国の侵略から国境を守る、レゲムアーク皇国第一魔導騎士団の駐屯地に派遣された、新人の魔導騎士ネウクレア。  着任当日に勃発した砲撃防衛戦で、彼は敵の砲撃部隊を単独で壊滅に追いやった。  凄まじい能力を持つ彼を部下として迎え入れた騎士団長セディウスは、研究機関育ちであるネウクレアの独特な言動に戸惑いながらも、全身鎧の下に隠された……どこか歪ではあるが、純粋無垢であどけない姿に触れたことで、彼に対して強い庇護欲を抱いてしまう。  撫でて、抱きしめて、甘やかしたい。  帝国との全面戦争が迫るなか、ネウクレアへの深い想いと、皇国の守護者たる騎士としての責務の間で、セディウスは葛藤する。  独身なのに父性強めな騎士団長×不憫な生い立ちで情緒薄めな甘えたがり魔導騎士+仲が良すぎる副官コンビ。  甘いだけじゃない、骨太文体でお送りする軍記物BL小説です。番外は日常エピソード中心。ややダーク・ファンタジー寄り。  ※ぼかしなし、本当の意味で全年齢向け。 ★お気に入りやいいね、エールをありがとうございます! お気に召しましたらぜひポチリとお願いします。凄く励みになります!

異世界で聖男と呼ばれる僕、助けた小さな君は宰相になっていた

k-ing /きんぐ★商業5作品
BL
 病院に勤めている橘湊は夜勤明けに家へ帰ると、傷ついた少年が玄関で倒れていた。  言葉も話せず、身寄りもわからない少年を一時的に保護することにした。  小さく甘えん坊な少年との穏やかな日々は、湊にとってかけがえのない時間となる。  しかし、ある日突然、少年は「ありがとう」とだけ告げて異世界へ帰ってしまう。  湊の生活は以前のような日に戻った。  一カ月後に少年は再び湊の前に現れた。  ただ、明らかに成長スピードが早い。  どうやら違う世界から来ているようで、時間軸が異なっているらしい。  弟のように可愛がっていたのに、急に成長する少年に戸惑う湊。  お互いに少しずつ気持ちに気づいた途端、少年は遊びに来なくなってしまう。  あの時、気持ちだけでも伝えれば良かった。  後悔した湊は彼が口ずさむ不思議な呪文を口にする。  気づけば少年の住む異世界に来ていた。  二つの世界を越えた、純情な淡い両片思いの恋物語。  序盤は幼い宰相との現実世界での物語、その後異世界への物語と話は続いていきます。

この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!

ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。 ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。 これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。 ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!? ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19) 公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年BLです。

【完結】悪役に転生したので、皇太子を推して生き延びる

ざっしゅ
BL
気づけば、男の婚約者がいる悪役として転生してしまったソウタ。 この小説は、主人公である皇太子ルースが、悪役たちの陰謀によって記憶を失い、最終的に復讐を遂げるという残酷な物語だった。ソウタは、自分の命を守るため、原作の悪役としての行動を改め、記憶を失ったルースを友人として大切にする。 ソウタの献身的な行動は周囲に「ルースへの深い愛」だと噂され、ルース自身もその噂に満更でもない様子を見せ始める。

処理中です...