社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし

文字の大きさ
21 / 57
第2章

18

しおりを挟む
レイに手を引かれ、寝室に入ったものの──
部屋の空気が妙に甘ったるい気がするのは、俺の気のせいじゃないはずだ。
レイは普段通りの顔をしているけど、こっちは**「推しと同じ寝室で寝る」という事実**だけで既に瀕死状態である。

「レイ……今日は本当に寝るだけだからな?」

念を押すと、レイは静かに微笑む。

「もちろんだ。……無理はさせない」
「あ、ああ、ならいいけど……」

ホッと胸を撫で下ろそうとした瞬間──

「だが、口づけくらいは問題ないだろう?」
「えっ」

その穏やかな声に、一気に眠気が吹っ飛ぶ。
ちょっ、え、なに? キス? いやいやいや、待て待て待て!
俺がパニックになっているというのに、レイは冷静そのもの。
むしろ「何を驚くことがある?」みたいな顔をしている。

「お前は俺の妻だろう……?」
「いや、それはそうだけど……いや、でも、えぇ」

必死に抵抗する俺をよそに、レイはさりげなく俺の頬に手を添える。

「そんなに力を入れなくてもいい」
「ちょ、ま……っ」

逃げようと体を反らすけど、後ろにはベッドがある。
気づけば、レイの腕に完全に包囲されていた。

「少し……久しぶりだからな」
「は!?」

 ちょっと待って!久しぶりとか言わないで!? 余計緊張する……!!
けれど、そんな俺の必死な抵抗もむなしく、レイは顔を近づけてくる。
拒む暇すら与えられず、触れるか触れないかの距離でピタリと止まる。

「……カイル?」
「えっ、な、何?」
「震えている」
「震えてない……!」

むしろ動揺しすぎて、逆に硬直……いや、少し震えているかもしれん。俺。

「……俺とキスするのが嫌か?」

レイがふっと眉を下げる。
そんな顔するな!!推しの悲しそうな顔は致死量!!

「いや、その……嫌じゃないけど、心臓がヤバいんだよ!」
「それなら、尚更したほうがいい」
「えっ、なにその理論!?」

言葉の意味がまるでわからない。

「お前がどれだけ緊張しても、俺が受け止める」

そう言うと、レイは一瞬だけ優しく微笑み、次の瞬間──
ふわりと唇が触れた。

「っ……」

完全に固まる俺を見て、レイが目を細める。

「これだけで、そんなに驚くとは」
「お、お前が急に……するからだろ……!」

唇が触れた時間はほんの一瞬だったはずなのに、顔が熱い。
思わず顔を覆うけれど、レイは全く動じていない。
むしろ、落ち着いた声で囁いてくる。

「俺がお前が愛していることを忘れないでくれ……」
「忘れるわけないだろ……!」
「それなら良い」

俺の言葉を受けて、レイが軽く頷く。
すごく自然な流れでキスされたんだけど!?
推しから「当たり前」のようにキスされるの、心の準備が追いつかない……。

「さて、そろそろ休もう」
「あれっ⁈ これで終わり⁈」

思わず俺が小さく叫ぶと、レイは可笑しそうに微笑んだ。

「お前の体調が第一だと言っただろう」
「そ、そっか……」

キスだけして、そのまま普通に寝るらしい。
いや、むしろそれが一番ありがたいのかもしれないけど……心臓がバクバクして眠れそうにない。

「カイル」

レイが俺を離してベッドに横になり、静かに俺の方を見つめる。

「こっちへ」

そう言って、レイは俺のために布団を持ち上げた。

「ええ……」

さっきのキスで気持ちは完全に浮ついてるんだけど!?
でも、結局断れずに布団の中へと滑り込むしかなかった。
レイが優しく腕を回し、俺の肩を抱き寄せる。

「お前が隣にいると、安心する」
「……うん」

ふわりと漂うレイの香りが、ますます意識を持っていく。
やばい、これ、寝られる気がしない。
推しのそばで眠るって、こんなに大変なことだったんだな……。
そんなことを考えながら、俺はレイの胸元に顔をうずめた。

「おやすみ、カイル」
「……おやすみ」

レイの囁きに包まれながら、眠れない夜が静かに始まった。



──眠れない。

どれだけ目を閉じても、意識が妙に冴えてしまってどうにも寝つけない。
隣にレイがいる。しかもさっきキスされたばかり。
これで寝ろって方が無理がある。
レイはというと、穏やかな寝息を立てている。
俺の肩に回した腕はしっかり固定されていて、まるで俺がどこかへ行かないように抱き寄せているみたいだ。

逃げたりしないんだけどな。

心の中でこっそりツッコミを入れるけど、当然レイがそれを聞くわけもない。
ふと顔を上げると、レイの寝顔が目に入る。
普段の冷徹さが嘘みたいに柔らかくて、心臓がまた爆発しそうになる。

「……ずるいんだよな、こういうの」

俺がもぞもぞと身じろぎをすると、レイの腕が無意識に俺をさらに引き寄せた。
至近距離で顔を覗き込むような形になる。

近い!!

「ん……カイル?」

突然、レイが薄く目を開ける。
驚いて咄嗟に目をそらすも、もう遅い。

「眠れないのか?」

寝ぼけまじりの声が耳元で響く。

「い、いや!寝ようとはしてるんだけど……」

言い訳しながらも、こうして至近距離で話すだけで頭がパンクしそうになる。

「眠れないなら……どうする?」

レイがふっと微笑む。
その目がまだ眠そうなのに、なんでそんな甘い声で囁くんだよ。

「どど、どうするって……!」
「……どうしたい?」

レイは少しだけ体を起こすと、俺の髪に手を滑らせるように触れる。

「もっと……お前を落ち着かせる方法があるかもしれない」
「……レイ!?」

これ、完全にヤバいやつじゃない!?

「眠る前に、もう少し……触れてもいいか?」
「え、いや……ってかもう触れてるっ……」

レイは俺の髪を優しく指でとかすように弄びながら、俺の頬に指を落した。
先ほどのキスを思い出して、思わず視線を逸らす。

「目を逸らすな」
「……っ」

レイが俺の顎をそっと持ち上げて、強制的に目を合わせさせる。
近い近い近い!!

「……カイル」

レイがじっと俺を見つめる。
その瞳は、まるで何かを確かめるように深くて──

「……やっぱり、かわいいな」
「~~~!!?」

そんなこと言われたら、心臓が持たんわ!!
俺がじたばたしていると、レイは少しだけ口元を緩めた。

「冗談だ」
「……っ!! お前、冗談に見えないから!」

本気である。どう見ても本気である。
冗談のテンションで人をこんな状況に追い込まないでくれ……!

「カイルが可愛いのは事実だが……今夜はこのまま寝よう」

そう言って、レイは俺の額に軽く口づけると、再び横になる。
俺を抱き寄せる腕の力は緩まないままだった。

「……やっぱりずるい」

呟く俺の声は、レイの寝息にかき消される。
──そして俺は、その夜、一睡もできなかった。
……リリウム連れてくればよかったな……。



翌朝。
俺が朝食の席で、くあ、とあくびを漏らすと、

「眠れなかったのか?」

レイが俺の顔をじっと見つめる。

「……レイのせいだよ!!」

思わずフォークを持つ手に力が入る。
レイはしれっとしているが、俺の寝不足は完全に推しのせいである。

「隣で寝ていただけだが?」
「……いや、その“だけ”が問題だったんだよ!!」

レイはそんな俺の叫びを軽く受け流しながら、静かに微笑んだ。

「なら、今夜も一緒に眠ればいい」
「……は?」
「慣れれば、次はぐっすり眠れるだろう?」

お前、それ絶対次の夜も眠れないやつだろ!!

「レイ、お前ってやつは……!!」
「お前が可愛いせいだな」

そう言ってレイは紅茶を口に運ぶ。
完全に俺のペースが乱されているのが悔しい。

「はぁ……せめて、今夜は少し距離取らせてくれよな?」
「それじゃあ、慣れる訓練にならないだろう?まあ、考えてはおく」

絶対考えてない顔してる。
次の夜も眠れない未来がすでに見えた気がした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】

瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。 そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた! ……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。 ウィル様のおまけにて完結致しました。 長い間お付き合い頂きありがとうございました!

異世界で孵化したので全力で推しを守ります

のぶしげ
BL
ある日、聞いていたシチュエーションCDの世界に転生してしまった主人公。推しの幼少期に出会い、魔王化へのルートを回避して健やかな成長をサポートしよう!と奮闘していく異世界転生BL 執着最強×人外美人BL

俺の異世界先は激重魔導騎士の懐の中

油淋丼
BL
少女漫画のような人生を送っていたクラスメイトがある日突然命を落とした。 背景の一部のようなモブは、卒業式の前日に事故に遭った。 魔王候補の一人として無能力のまま召喚され、魔物達に混じりこっそりと元の世界に戻る方法を探す。 魔物の脅威である魔導騎士は、不思議と初対面のようには感じなかった。 少女漫画のようなヒーローが本当に好きだったのは、モブ君だった。 異世界に転生したヒーローは、前世も含めて長年片思いをして愛が激重に変化した。 今度こそ必ず捕らえて囲って愛す事を誓います。 激重愛魔導最強転生騎士×魔王候補無能力転移モブ

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

【本編完結】最強魔導騎士は、騎士団長に頭を撫でて欲しい【番外編あり】

ゆらり
BL
 帝国の侵略から国境を守る、レゲムアーク皇国第一魔導騎士団の駐屯地に派遣された、新人の魔導騎士ネウクレア。  着任当日に勃発した砲撃防衛戦で、彼は敵の砲撃部隊を単独で壊滅に追いやった。  凄まじい能力を持つ彼を部下として迎え入れた騎士団長セディウスは、研究機関育ちであるネウクレアの独特な言動に戸惑いながらも、全身鎧の下に隠された……どこか歪ではあるが、純粋無垢であどけない姿に触れたことで、彼に対して強い庇護欲を抱いてしまう。  撫でて、抱きしめて、甘やかしたい。  帝国との全面戦争が迫るなか、ネウクレアへの深い想いと、皇国の守護者たる騎士としての責務の間で、セディウスは葛藤する。  独身なのに父性強めな騎士団長×不憫な生い立ちで情緒薄めな甘えたがり魔導騎士+仲が良すぎる副官コンビ。  甘いだけじゃない、骨太文体でお送りする軍記物BL小説です。番外は日常エピソード中心。ややダーク・ファンタジー寄り。  ※ぼかしなし、本当の意味で全年齢向け。 ★お気に入りやいいね、エールをありがとうございます! お気に召しましたらぜひポチリとお願いします。凄く励みになります!

異世界で聖男と呼ばれる僕、助けた小さな君は宰相になっていた

k-ing /きんぐ★商業5作品
BL
 病院に勤めている橘湊は夜勤明けに家へ帰ると、傷ついた少年が玄関で倒れていた。  言葉も話せず、身寄りもわからない少年を一時的に保護することにした。  小さく甘えん坊な少年との穏やかな日々は、湊にとってかけがえのない時間となる。  しかし、ある日突然、少年は「ありがとう」とだけ告げて異世界へ帰ってしまう。  湊の生活は以前のような日に戻った。  一カ月後に少年は再び湊の前に現れた。  ただ、明らかに成長スピードが早い。  どうやら違う世界から来ているようで、時間軸が異なっているらしい。  弟のように可愛がっていたのに、急に成長する少年に戸惑う湊。  お互いに少しずつ気持ちに気づいた途端、少年は遊びに来なくなってしまう。  あの時、気持ちだけでも伝えれば良かった。  後悔した湊は彼が口ずさむ不思議な呪文を口にする。  気づけば少年の住む異世界に来ていた。  二つの世界を越えた、純情な淡い両片思いの恋物語。  序盤は幼い宰相との現実世界での物語、その後異世界への物語と話は続いていきます。

この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!

ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。 ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。 これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。 ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!? ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19) 公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年BLです。

【完結】悪役に転生したので、皇太子を推して生き延びる

ざっしゅ
BL
気づけば、男の婚約者がいる悪役として転生してしまったソウタ。 この小説は、主人公である皇太子ルースが、悪役たちの陰謀によって記憶を失い、最終的に復讐を遂げるという残酷な物語だった。ソウタは、自分の命を守るため、原作の悪役としての行動を改め、記憶を失ったルースを友人として大切にする。 ソウタの献身的な行動は周囲に「ルースへの深い愛」だと噂され、ルース自身もその噂に満更でもない様子を見せ始める。

処理中です...