48 / 57
第2章
40
しおりを挟む
久しぶりに、静かな朝を迎えた。
窓から差し込む陽光が部屋を優しく照らし、遠くで小鳥のさえずりが聞こえる。
王都の朝は昔と変わらない——はずなのに、どこか違って感じるのは、俺自身が変わったからだろうか。
……今日も身体は重い……これ、いつになったら治るんだろうか。
軽く腹をさすりながら、そんなことを思う。
「カイル、朝だぞ」
扉の向こうからレイの声がした。
静かに扉が開き、彼の姿が現れる。
「……大丈夫なのか?」
レイは俺の顔を覗き込み、眉をひそめた。
「なんとなく……起きるのが億劫でさ」 と冗談めかして笑うけど、実際のところ、身体が異様に重い。
寝返りを打つだけで、全身の疲労が滲み出るような感覚がある。
レイはベッドの端に腰を下ろし、俺の額に手を当てた。
「……顔色が悪いな」
「……そうかな?今日は割といい感じなんだけど」
「嘘をつくな」
レイはじっと俺を見つめる。
俺は誤魔化すように視線を逸らしながら、ベッドから起き上がろうとした——その瞬間。
「っ……」
視界が揺れ、頭がふらつく。
重心が定まらず、バランスを崩しかけた俺の身体を、レイが咄嗟に支えた。
「……カイル!」
「……大丈夫、大丈夫……ちょっと目が回っただけ……」
そう言いながらも、腕に力が入らない。
ふと、背中に冷や汗が滲むのを感じた。
レイは俺を慎重にベッドへ戻し、静かに息をついた。
「……どこが大丈夫なんだ」
「本当に……だって、これ病気ではないだろ……?」
「だからと言って……無理をするもんじゃない。普通じゃないことだ」
レイの手が、俺の背をゆっくりと撫でる。
その動きが優しくて、余計に力が抜けそうになる。
「……はぁ……」
小さく息を吐きながら、自分の腹にまた手を当てる。
目を閉じると、そこに確かに何かがいる気がした。
俺の身体の中に、新しい命がある。
それを知ってから、何度こうして手を当てただろう。
けれど——まだ実感が湧かない。
たしかに身体の調子は今までと違う。
疲れやすくなったし、様々に異常を身体は訴えている。ふとした瞬間に胸が詰まるような感覚に襲われることもある。
でも、それが本当に「誰かを育んでいる」という感覚には結びつかなくて。
本当に、俺の中に「命」があるのか?
今はただ、漠然とした違和感と、先の見えない不安が胸を満たしているだけだった。
「……カイル」
不意に、レイが俺の肩に手を置く。
すっと滑るような仕草で、彼の指が背中をなぞった。
「俺もいる……」
その言葉とともに、レイの腕が俺をそっと引き寄せる。
強引ではなく、けれど確かに俺を守るような力強さがあった。
レイの胸に額を預けると、静かに息を吐く音が聞こえた。
「……レイ……」
腕の中は温かかった。
まるで、俺の不安を見透かしたように、何も言わずただ抱きしめてくれる。
——安心する。
その温もりに包まれていると、不思議と「大丈夫だ」と思えてくる。
不安が完全に消えるわけじゃない。
それでも、こうして抱きしめられていると、自分がちゃんと「ここにいる」と思えた。
※
レイが支えてくれたおかげで、なんとか朝食の席には着いた。
だが、食欲はほとんどない。
目の前の料理はいつもと変わらないはずなのに、なぜか匂いが妙に強く感じる。
フォークを手に取るものの、少し口に運んだだけで、胸の奥がムカムカしてきた。
「……カイル?」
母がスープを飲みながら、じっとこちらを見ている。
「え、何?」
「あなた……最近、食欲が落ちてない?」
……するどい。
何気ない問いかけのようでいて、核心を突いてくるのが母らしい。
「えっと……旅が長かったし、疲れてるだけだよ」
「そう?」
母は微笑んだまま、俺の顔をじっくり観察する。
父も黙って紅茶を飲みながら、視線だけはこちらを向けている。
その時——ふと、フォークを置いた俺の手を、母がそっと取った。
「……カイル」
母の声が、いつもより柔らかい。
「あなた、お腹に子供がいるんじゃない……?」
——時が止まった。
「……え?」
耳を疑った。
一瞬、言葉の意味が理解できなくて、脳が処理を拒否する。
「ちょ、ちょっと待って……なに?」
「あなたの食欲の変化、疲れやすさ、顔色……全部、昔の私と同じよ」
母は静かに微笑む。
父がゆっくりとカップを置き、目を細めた。
「なるほどな……」
(あ……!ちょっと待て!)
心臓が一気に跳ね上がる。
予想外すぎる展開に、俺は動揺を隠せない。
「いやいやいや、まさか……そんな……!」
「本当に?」
母が優しく問いかける。
「……っ」
俺は言葉に詰まった。
否定しようとしたけど、確かに思い当たる節が多すぎる。
妊娠していると告げられたときの、あの驚愕。
レイに話せなかったこと。
でも……まさか、本当に、こうも早くバレるなんて……!
「カイル」
父が静かに言った。
「……話してくれるか?」
優しく、しかし誤魔化しの効かない声音だった。
レイが隣で黙って俺を見つめているのも感じる。
俺は喉をゴクリと鳴らし、そして——
「……うん」
小さく息を吐き、すべてを話す決意をした。
窓から差し込む陽光が部屋を優しく照らし、遠くで小鳥のさえずりが聞こえる。
王都の朝は昔と変わらない——はずなのに、どこか違って感じるのは、俺自身が変わったからだろうか。
……今日も身体は重い……これ、いつになったら治るんだろうか。
軽く腹をさすりながら、そんなことを思う。
「カイル、朝だぞ」
扉の向こうからレイの声がした。
静かに扉が開き、彼の姿が現れる。
「……大丈夫なのか?」
レイは俺の顔を覗き込み、眉をひそめた。
「なんとなく……起きるのが億劫でさ」 と冗談めかして笑うけど、実際のところ、身体が異様に重い。
寝返りを打つだけで、全身の疲労が滲み出るような感覚がある。
レイはベッドの端に腰を下ろし、俺の額に手を当てた。
「……顔色が悪いな」
「……そうかな?今日は割といい感じなんだけど」
「嘘をつくな」
レイはじっと俺を見つめる。
俺は誤魔化すように視線を逸らしながら、ベッドから起き上がろうとした——その瞬間。
「っ……」
視界が揺れ、頭がふらつく。
重心が定まらず、バランスを崩しかけた俺の身体を、レイが咄嗟に支えた。
「……カイル!」
「……大丈夫、大丈夫……ちょっと目が回っただけ……」
そう言いながらも、腕に力が入らない。
ふと、背中に冷や汗が滲むのを感じた。
レイは俺を慎重にベッドへ戻し、静かに息をついた。
「……どこが大丈夫なんだ」
「本当に……だって、これ病気ではないだろ……?」
「だからと言って……無理をするもんじゃない。普通じゃないことだ」
レイの手が、俺の背をゆっくりと撫でる。
その動きが優しくて、余計に力が抜けそうになる。
「……はぁ……」
小さく息を吐きながら、自分の腹にまた手を当てる。
目を閉じると、そこに確かに何かがいる気がした。
俺の身体の中に、新しい命がある。
それを知ってから、何度こうして手を当てただろう。
けれど——まだ実感が湧かない。
たしかに身体の調子は今までと違う。
疲れやすくなったし、様々に異常を身体は訴えている。ふとした瞬間に胸が詰まるような感覚に襲われることもある。
でも、それが本当に「誰かを育んでいる」という感覚には結びつかなくて。
本当に、俺の中に「命」があるのか?
今はただ、漠然とした違和感と、先の見えない不安が胸を満たしているだけだった。
「……カイル」
不意に、レイが俺の肩に手を置く。
すっと滑るような仕草で、彼の指が背中をなぞった。
「俺もいる……」
その言葉とともに、レイの腕が俺をそっと引き寄せる。
強引ではなく、けれど確かに俺を守るような力強さがあった。
レイの胸に額を預けると、静かに息を吐く音が聞こえた。
「……レイ……」
腕の中は温かかった。
まるで、俺の不安を見透かしたように、何も言わずただ抱きしめてくれる。
——安心する。
その温もりに包まれていると、不思議と「大丈夫だ」と思えてくる。
不安が完全に消えるわけじゃない。
それでも、こうして抱きしめられていると、自分がちゃんと「ここにいる」と思えた。
※
レイが支えてくれたおかげで、なんとか朝食の席には着いた。
だが、食欲はほとんどない。
目の前の料理はいつもと変わらないはずなのに、なぜか匂いが妙に強く感じる。
フォークを手に取るものの、少し口に運んだだけで、胸の奥がムカムカしてきた。
「……カイル?」
母がスープを飲みながら、じっとこちらを見ている。
「え、何?」
「あなた……最近、食欲が落ちてない?」
……するどい。
何気ない問いかけのようでいて、核心を突いてくるのが母らしい。
「えっと……旅が長かったし、疲れてるだけだよ」
「そう?」
母は微笑んだまま、俺の顔をじっくり観察する。
父も黙って紅茶を飲みながら、視線だけはこちらを向けている。
その時——ふと、フォークを置いた俺の手を、母がそっと取った。
「……カイル」
母の声が、いつもより柔らかい。
「あなた、お腹に子供がいるんじゃない……?」
——時が止まった。
「……え?」
耳を疑った。
一瞬、言葉の意味が理解できなくて、脳が処理を拒否する。
「ちょ、ちょっと待って……なに?」
「あなたの食欲の変化、疲れやすさ、顔色……全部、昔の私と同じよ」
母は静かに微笑む。
父がゆっくりとカップを置き、目を細めた。
「なるほどな……」
(あ……!ちょっと待て!)
心臓が一気に跳ね上がる。
予想外すぎる展開に、俺は動揺を隠せない。
「いやいやいや、まさか……そんな……!」
「本当に?」
母が優しく問いかける。
「……っ」
俺は言葉に詰まった。
否定しようとしたけど、確かに思い当たる節が多すぎる。
妊娠していると告げられたときの、あの驚愕。
レイに話せなかったこと。
でも……まさか、本当に、こうも早くバレるなんて……!
「カイル」
父が静かに言った。
「……話してくれるか?」
優しく、しかし誤魔化しの効かない声音だった。
レイが隣で黙って俺を見つめているのも感じる。
俺は喉をゴクリと鳴らし、そして——
「……うん」
小さく息を吐き、すべてを話す決意をした。
123
あなたにおすすめの小説
悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】
瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。
そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた!
……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。
ウィル様のおまけにて完結致しました。
長い間お付き合い頂きありがとうございました!
異世界で孵化したので全力で推しを守ります
のぶしげ
BL
ある日、聞いていたシチュエーションCDの世界に転生してしまった主人公。推しの幼少期に出会い、魔王化へのルートを回避して健やかな成長をサポートしよう!と奮闘していく異世界転生BL 執着最強×人外美人BL
俺の異世界先は激重魔導騎士の懐の中
油淋丼
BL
少女漫画のような人生を送っていたクラスメイトがある日突然命を落とした。
背景の一部のようなモブは、卒業式の前日に事故に遭った。
魔王候補の一人として無能力のまま召喚され、魔物達に混じりこっそりと元の世界に戻る方法を探す。
魔物の脅威である魔導騎士は、不思議と初対面のようには感じなかった。
少女漫画のようなヒーローが本当に好きだったのは、モブ君だった。
異世界に転生したヒーローは、前世も含めて長年片思いをして愛が激重に変化した。
今度こそ必ず捕らえて囲って愛す事を誓います。
激重愛魔導最強転生騎士×魔王候補無能力転移モブ
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
【本編完結】最強魔導騎士は、騎士団長に頭を撫でて欲しい【番外編あり】
ゆらり
BL
帝国の侵略から国境を守る、レゲムアーク皇国第一魔導騎士団の駐屯地に派遣された、新人の魔導騎士ネウクレア。
着任当日に勃発した砲撃防衛戦で、彼は敵の砲撃部隊を単独で壊滅に追いやった。
凄まじい能力を持つ彼を部下として迎え入れた騎士団長セディウスは、研究機関育ちであるネウクレアの独特な言動に戸惑いながらも、全身鎧の下に隠された……どこか歪ではあるが、純粋無垢であどけない姿に触れたことで、彼に対して強い庇護欲を抱いてしまう。
撫でて、抱きしめて、甘やかしたい。
帝国との全面戦争が迫るなか、ネウクレアへの深い想いと、皇国の守護者たる騎士としての責務の間で、セディウスは葛藤する。
独身なのに父性強めな騎士団長×不憫な生い立ちで情緒薄めな甘えたがり魔導騎士+仲が良すぎる副官コンビ。
甘いだけじゃない、骨太文体でお送りする軍記物BL小説です。番外は日常エピソード中心。ややダーク・ファンタジー寄り。
※ぼかしなし、本当の意味で全年齢向け。
★お気に入りやいいね、エールをありがとうございます! お気に召しましたらぜひポチリとお願いします。凄く励みになります!
異世界で聖男と呼ばれる僕、助けた小さな君は宰相になっていた
k-ing /きんぐ★商業5作品
BL
病院に勤めている橘湊は夜勤明けに家へ帰ると、傷ついた少年が玄関で倒れていた。
言葉も話せず、身寄りもわからない少年を一時的に保護することにした。
小さく甘えん坊な少年との穏やかな日々は、湊にとってかけがえのない時間となる。
しかし、ある日突然、少年は「ありがとう」とだけ告げて異世界へ帰ってしまう。
湊の生活は以前のような日に戻った。
一カ月後に少年は再び湊の前に現れた。
ただ、明らかに成長スピードが早い。
どうやら違う世界から来ているようで、時間軸が異なっているらしい。
弟のように可愛がっていたのに、急に成長する少年に戸惑う湊。
お互いに少しずつ気持ちに気づいた途端、少年は遊びに来なくなってしまう。
あの時、気持ちだけでも伝えれば良かった。
後悔した湊は彼が口ずさむ不思議な呪文を口にする。
気づけば少年の住む異世界に来ていた。
二つの世界を越えた、純情な淡い両片思いの恋物語。
序盤は幼い宰相との現実世界での物語、その後異世界への物語と話は続いていきます。
この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!
ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。
ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。
これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。
ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!?
ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19)
公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年BLです。
【完結】悪役に転生したので、皇太子を推して生き延びる
ざっしゅ
BL
気づけば、男の婚約者がいる悪役として転生してしまったソウタ。
この小説は、主人公である皇太子ルースが、悪役たちの陰謀によって記憶を失い、最終的に復讐を遂げるという残酷な物語だった。ソウタは、自分の命を守るため、原作の悪役としての行動を改め、記憶を失ったルースを友人として大切にする。
ソウタの献身的な行動は周囲に「ルースへの深い愛」だと噂され、ルース自身もその噂に満更でもない様子を見せ始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる