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第2章
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荘厳な王宮の広間には、冷たい空気が満ちていた。
高くそびえる天井に、金色の装飾が施された巨大なシャンデリアが揺れる。
壁には歴代の王の肖像画が並び、視線を向けられているような錯覚を覚える。
俺とレイは、広間の中央に立ち、王の前にいた。
その隣には父、リチャード・エルステッド伯爵。
そして、その向かいには、手錠をかけられたアルベルト・エヴァンスと、その息子アランが立たされていた。
アルベルトは予め王都に護送されていたようだった。
王座に座るのは、グラハム三世。
堂々とした体躯に、王冠を戴き、その視線は鋭く、すべてを見通しているかのようだった。
「さて……」
王は指で王座の肘掛を叩きながら、嘲るように口元を歪めた。
「どこの馬鹿が、このお粗末な提案を持ってきた?」
広間に緊張が走る。
——問題となっているのは、隣国からの『アラン・エヴァンスの身柄引き渡し』の要請だった。
彼らは、“アランは我が国の貴族であり、我が国の裁きを受けるべきだ”と主張していた。
「まさか、カイル・エヴァンスを害しようとした張本人を、呑気に隣国へ送り出せと?それだけでも重いものを……我が国を売らんとした者を?」
王の声には、明確な嘲笑が滲んでいた。
「ふん、全く……。で、この馬鹿げた要求を真に受けた者はいるのか?」
そう言って王が周囲を見渡すと、誰もが沈黙した。
「当然だな」
王は低く笑い、視線をアランに向ける。
「ところで、アラン・エヴァンスよ」
「……」
アランは微かに目を伏せたまま、何も答えない。
「お前は、いつから隣国の貴族になったのだ?」
その言葉に、広間がざわめく。
——そうだ、それが一番の疑問だった。
アランは生まれながらの王国貴族であり、エヴァンス家の嫡男だった。
隣国が彼の『身柄引き渡し』を要求するなら、それに見合う根拠が必要なはず。
なのに、その証拠は何一つ示されていない。
「……答えよ」
王が低く命じる。
アランは口を開こうとしたが——その前に、父であるアルベルトが苦々しく笑った。
「——戯れ言だ」
全員の視線がアルベルトに集まる。
「アランは、最初から隣国の貴族ではない。連中はただ、自分たちの都合のいいように言っているだけだ」
「ならば、なぜ隣国はそこまでお前たちを庇う?」
王の問いに、アルベルトは軽く肩をすくめる。
「簡単な話だ。連中は、我が家を“駒”として利用したかった。それだけでしょう」
まるで他人事のような口ぶりだった。
だが、それを聞いた父——リチャード・エルステッドが、静かに——しかし確実に怒りを滲ませた声を放った。
「とんだ内政干渉だな」
アルベルトは鼻で笑った。
「今さら何を。貴族同士の駆け引きに、国境の違いなど関係あるまい」
「貴様……!」
父の声が鋭くなる。
だが、王が手を軽く振ると、すべての音が消えた。
「もうよい」
王はアルベルトを一瞥し、冷たく言い放つ。
「貴様のような者が、この国の貴族だったこと自体が恥辱だ」
その言葉に、アルベルトは一瞬だけ、わずかに唇を噛んだ。
「……では、裁定を下す」
広間が静まり返る。
「アルベルト・エヴァンス——お前は国家反逆の罪により、伯爵位を剥奪する」
無情な──けれど、国家反逆罪としては驚くほど軽い──宣告だった。
「そして、貴族としての権利をすべて剥奪し——フランベルクの修道院に幽閉とする」
「……!」
アルベルトが目を伏せたまま、わずかに拳を握る。
そして——次に、王はアランを見た。
「アラン・エヴァンス」
その名を呼ばれた途端、アランの肩が微かに揺れた。
「お前は、父とともに修道院での幽閉とする」
「……」
アランは何も言わなかった。
それどころか——苦笑すら浮かべていた。
「……どこへ送られようと、同じさ」
そう呟く彼の顔には、すでに戦意も、誇りも、何も残っていなかった。
「以上だ。……下げよ」
王が手を振ると、騎士たちがアルベルトとアランを引き立てる。
二人は抵抗することなく、そのまま連行されていった。
そして、広間には沈黙が残った。
「……」
俺は、去っていくアランの背を見つめる。
アランは最後まで、こちらを振り返らなかった。
——こうして、エヴァンス家は終わりを迎えた。
※
裁定が終わった後、王は俺たちに目を向けた。
「フランベルク領主よ」
レイが一歩前に出る。
「貴公には、この度の騒動において多大な尽力をしてもらった。改めて礼を言う。その尽力に報いて、あの者らの身柄をそちらに引き渡すこととした。まあ、色々と漏れてはいそうだが……何、まだ国内の小競り合い程度で収められるだろう」
レイは静かに頭を下げた。
「光栄です、陛下。また、寛大なご処置に感謝を」
「……さて」
王は指で肘掛を叩きながら、軽く笑った。
「もう一つ、話さねばならぬことがある」
——その言葉に、俺はふと、背筋に悪寒を感じた。
王の目が鋭くなる。
「隣国の動きが活発化している」
……やはり、まだ終わっていなかった。
俺とレイは、無言で視線を交わした。
「フランベルク領主よ、カイル・エヴァンスよよ」
王の声が響く。
「この先の戦に備えよ」
広間の空気が、一気に凍りついた——。
——まだ、すべてが終わったわけではなかった。
高くそびえる天井に、金色の装飾が施された巨大なシャンデリアが揺れる。
壁には歴代の王の肖像画が並び、視線を向けられているような錯覚を覚える。
俺とレイは、広間の中央に立ち、王の前にいた。
その隣には父、リチャード・エルステッド伯爵。
そして、その向かいには、手錠をかけられたアルベルト・エヴァンスと、その息子アランが立たされていた。
アルベルトは予め王都に護送されていたようだった。
王座に座るのは、グラハム三世。
堂々とした体躯に、王冠を戴き、その視線は鋭く、すべてを見通しているかのようだった。
「さて……」
王は指で王座の肘掛を叩きながら、嘲るように口元を歪めた。
「どこの馬鹿が、このお粗末な提案を持ってきた?」
広間に緊張が走る。
——問題となっているのは、隣国からの『アラン・エヴァンスの身柄引き渡し』の要請だった。
彼らは、“アランは我が国の貴族であり、我が国の裁きを受けるべきだ”と主張していた。
「まさか、カイル・エヴァンスを害しようとした張本人を、呑気に隣国へ送り出せと?それだけでも重いものを……我が国を売らんとした者を?」
王の声には、明確な嘲笑が滲んでいた。
「ふん、全く……。で、この馬鹿げた要求を真に受けた者はいるのか?」
そう言って王が周囲を見渡すと、誰もが沈黙した。
「当然だな」
王は低く笑い、視線をアランに向ける。
「ところで、アラン・エヴァンスよ」
「……」
アランは微かに目を伏せたまま、何も答えない。
「お前は、いつから隣国の貴族になったのだ?」
その言葉に、広間がざわめく。
——そうだ、それが一番の疑問だった。
アランは生まれながらの王国貴族であり、エヴァンス家の嫡男だった。
隣国が彼の『身柄引き渡し』を要求するなら、それに見合う根拠が必要なはず。
なのに、その証拠は何一つ示されていない。
「……答えよ」
王が低く命じる。
アランは口を開こうとしたが——その前に、父であるアルベルトが苦々しく笑った。
「——戯れ言だ」
全員の視線がアルベルトに集まる。
「アランは、最初から隣国の貴族ではない。連中はただ、自分たちの都合のいいように言っているだけだ」
「ならば、なぜ隣国はそこまでお前たちを庇う?」
王の問いに、アルベルトは軽く肩をすくめる。
「簡単な話だ。連中は、我が家を“駒”として利用したかった。それだけでしょう」
まるで他人事のような口ぶりだった。
だが、それを聞いた父——リチャード・エルステッドが、静かに——しかし確実に怒りを滲ませた声を放った。
「とんだ内政干渉だな」
アルベルトは鼻で笑った。
「今さら何を。貴族同士の駆け引きに、国境の違いなど関係あるまい」
「貴様……!」
父の声が鋭くなる。
だが、王が手を軽く振ると、すべての音が消えた。
「もうよい」
王はアルベルトを一瞥し、冷たく言い放つ。
「貴様のような者が、この国の貴族だったこと自体が恥辱だ」
その言葉に、アルベルトは一瞬だけ、わずかに唇を噛んだ。
「……では、裁定を下す」
広間が静まり返る。
「アルベルト・エヴァンス——お前は国家反逆の罪により、伯爵位を剥奪する」
無情な──けれど、国家反逆罪としては驚くほど軽い──宣告だった。
「そして、貴族としての権利をすべて剥奪し——フランベルクの修道院に幽閉とする」
「……!」
アルベルトが目を伏せたまま、わずかに拳を握る。
そして——次に、王はアランを見た。
「アラン・エヴァンス」
その名を呼ばれた途端、アランの肩が微かに揺れた。
「お前は、父とともに修道院での幽閉とする」
「……」
アランは何も言わなかった。
それどころか——苦笑すら浮かべていた。
「……どこへ送られようと、同じさ」
そう呟く彼の顔には、すでに戦意も、誇りも、何も残っていなかった。
「以上だ。……下げよ」
王が手を振ると、騎士たちがアルベルトとアランを引き立てる。
二人は抵抗することなく、そのまま連行されていった。
そして、広間には沈黙が残った。
「……」
俺は、去っていくアランの背を見つめる。
アランは最後まで、こちらを振り返らなかった。
——こうして、エヴァンス家は終わりを迎えた。
※
裁定が終わった後、王は俺たちに目を向けた。
「フランベルク領主よ」
レイが一歩前に出る。
「貴公には、この度の騒動において多大な尽力をしてもらった。改めて礼を言う。その尽力に報いて、あの者らの身柄をそちらに引き渡すこととした。まあ、色々と漏れてはいそうだが……何、まだ国内の小競り合い程度で収められるだろう」
レイは静かに頭を下げた。
「光栄です、陛下。また、寛大なご処置に感謝を」
「……さて」
王は指で肘掛を叩きながら、軽く笑った。
「もう一つ、話さねばならぬことがある」
——その言葉に、俺はふと、背筋に悪寒を感じた。
王の目が鋭くなる。
「隣国の動きが活発化している」
……やはり、まだ終わっていなかった。
俺とレイは、無言で視線を交わした。
「フランベルク領主よ、カイル・エヴァンスよよ」
王の声が響く。
「この先の戦に備えよ」
広間の空気が、一気に凍りついた——。
——まだ、すべてが終わったわけではなかった。
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