社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし

文字の大きさ
50 / 57
第2章

42

しおりを挟む
荘厳な王宮の広間には、冷たい空気が満ちていた。
高くそびえる天井に、金色の装飾が施された巨大なシャンデリアが揺れる。
壁には歴代の王の肖像画が並び、視線を向けられているような錯覚を覚える。

俺とレイは、広間の中央に立ち、王の前にいた。
その隣には父、リチャード・エルステッド伯爵。
そして、その向かいには、手錠をかけられたアルベルト・エヴァンスと、その息子アランが立たされていた。
アルベルトは予め王都に護送されていたようだった。
王座に座るのは、グラハム三世。
堂々とした体躯に、王冠を戴き、その視線は鋭く、すべてを見通しているかのようだった。

「さて……」

王は指で王座の肘掛を叩きながら、嘲るように口元を歪めた。

「どこの馬鹿が、このお粗末な提案を持ってきた?」

広間に緊張が走る。
——問題となっているのは、隣国からの『アラン・エヴァンスの身柄引き渡し』の要請だった。
彼らは、“アランは我が国の貴族であり、我が国の裁きを受けるべきだ”と主張していた。

「まさか、カイル・エヴァンスを害しようとした張本人を、呑気に隣国へ送り出せと?それだけでも重いものを……我が国を売らんとした者を?」

王の声には、明確な嘲笑が滲んでいた。

「ふん、全く……。で、この馬鹿げた要求を真に受けた者はいるのか?」

そう言って王が周囲を見渡すと、誰もが沈黙した。

「当然だな」

王は低く笑い、視線をアランに向ける。

「ところで、アラン・エヴァンスよ」
「……」

アランは微かに目を伏せたまま、何も答えない。

「お前は、いつから隣国の貴族になったのだ?」

その言葉に、広間がざわめく。
——そうだ、それが一番の疑問だった。
アランは生まれながらの王国貴族であり、エヴァンス家の嫡男だった。
隣国が彼の『身柄引き渡し』を要求するなら、それに見合う根拠が必要なはず。

なのに、その証拠は何一つ示されていない。

「……答えよ」

王が低く命じる。

アランは口を開こうとしたが——その前に、父であるアルベルトが苦々しく笑った。

「——戯れ言だ」

全員の視線がアルベルトに集まる。

「アランは、最初から隣国の貴族ではない。連中はただ、自分たちの都合のいいように言っているだけだ」
「ならば、なぜ隣国はそこまでお前たちを庇う?」

王の問いに、アルベルトは軽く肩をすくめる。

「簡単な話だ。連中は、我が家を“駒”として利用したかった。それだけでしょう」

まるで他人事のような口ぶりだった。

だが、それを聞いた父——リチャード・エルステッドが、静かに——しかし確実に怒りを滲ませた声を放った。

「とんだ内政干渉だな」

アルベルトは鼻で笑った。

「今さら何を。貴族同士の駆け引きに、国境の違いなど関係あるまい」
「貴様……!」

父の声が鋭くなる。
だが、王が手を軽く振ると、すべての音が消えた。

「もうよい」

王はアルベルトを一瞥し、冷たく言い放つ。

「貴様のような者が、この国の貴族だったこと自体が恥辱だ」

その言葉に、アルベルトは一瞬だけ、わずかに唇を噛んだ。

「……では、裁定を下す」

広間が静まり返る。

「アルベルト・エヴァンス——お前は国家反逆の罪により、伯爵位を剥奪する」

無情な──けれど、国家反逆罪としては驚くほど軽い──宣告だった。

「そして、貴族としての権利をすべて剥奪し——フランベルクの修道院に幽閉とする」
「……!」

アルベルトが目を伏せたまま、わずかに拳を握る。
そして——次に、王はアランを見た。

「アラン・エヴァンス」

その名を呼ばれた途端、アランの肩が微かに揺れた。

「お前は、父とともに修道院での幽閉とする」
「……」

アランは何も言わなかった。
それどころか——苦笑すら浮かべていた。

「……どこへ送られようと、同じさ」

そう呟く彼の顔には、すでに戦意も、誇りも、何も残っていなかった。

「以上だ。……下げよ」

王が手を振ると、騎士たちがアルベルトとアランを引き立てる。
二人は抵抗することなく、そのまま連行されていった。
そして、広間には沈黙が残った。

「……」

俺は、去っていくアランの背を見つめる。

アランは最後まで、こちらを振り返らなかった。

——こうして、エヴァンス家は終わりを迎えた。



裁定が終わった後、王は俺たちに目を向けた。

「フランベルク領主よ」

レイが一歩前に出る。

「貴公には、この度の騒動において多大な尽力をしてもらった。改めて礼を言う。その尽力に報いて、あの者らの身柄をそちらに引き渡すこととした。まあ、色々と漏れてはいそうだが……何、まだ国内の小競り合い程度で収められるだろう」

レイは静かに頭を下げた。

「光栄です、陛下。また、寛大なご処置に感謝を」
「……さて」

王は指で肘掛を叩きながら、軽く笑った。

「もう一つ、話さねばならぬことがある」

——その言葉に、俺はふと、背筋に悪寒を感じた。
王の目が鋭くなる。

「隣国の動きが活発化している」

……やはり、まだ終わっていなかった。
俺とレイは、無言で視線を交わした。

「フランベルク領主よ、カイル・エヴァンスよよ」

王の声が響く。

「この先の戦に備えよ」

広間の空気が、一気に凍りついた——。
——まだ、すべてが終わったわけではなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】

瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。 そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた! ……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。 ウィル様のおまけにて完結致しました。 長い間お付き合い頂きありがとうございました!

異世界で孵化したので全力で推しを守ります

のぶしげ
BL
ある日、聞いていたシチュエーションCDの世界に転生してしまった主人公。推しの幼少期に出会い、魔王化へのルートを回避して健やかな成長をサポートしよう!と奮闘していく異世界転生BL 執着最強×人外美人BL

俺の異世界先は激重魔導騎士の懐の中

油淋丼
BL
少女漫画のような人生を送っていたクラスメイトがある日突然命を落とした。 背景の一部のようなモブは、卒業式の前日に事故に遭った。 魔王候補の一人として無能力のまま召喚され、魔物達に混じりこっそりと元の世界に戻る方法を探す。 魔物の脅威である魔導騎士は、不思議と初対面のようには感じなかった。 少女漫画のようなヒーローが本当に好きだったのは、モブ君だった。 異世界に転生したヒーローは、前世も含めて長年片思いをして愛が激重に変化した。 今度こそ必ず捕らえて囲って愛す事を誓います。 激重愛魔導最強転生騎士×魔王候補無能力転移モブ

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

【本編完結】最強魔導騎士は、騎士団長に頭を撫でて欲しい【番外編あり】

ゆらり
BL
 帝国の侵略から国境を守る、レゲムアーク皇国第一魔導騎士団の駐屯地に派遣された、新人の魔導騎士ネウクレア。  着任当日に勃発した砲撃防衛戦で、彼は敵の砲撃部隊を単独で壊滅に追いやった。  凄まじい能力を持つ彼を部下として迎え入れた騎士団長セディウスは、研究機関育ちであるネウクレアの独特な言動に戸惑いながらも、全身鎧の下に隠された……どこか歪ではあるが、純粋無垢であどけない姿に触れたことで、彼に対して強い庇護欲を抱いてしまう。  撫でて、抱きしめて、甘やかしたい。  帝国との全面戦争が迫るなか、ネウクレアへの深い想いと、皇国の守護者たる騎士としての責務の間で、セディウスは葛藤する。  独身なのに父性強めな騎士団長×不憫な生い立ちで情緒薄めな甘えたがり魔導騎士+仲が良すぎる副官コンビ。  甘いだけじゃない、骨太文体でお送りする軍記物BL小説です。番外は日常エピソード中心。ややダーク・ファンタジー寄り。  ※ぼかしなし、本当の意味で全年齢向け。 ★お気に入りやいいね、エールをありがとうございます! お気に召しましたらぜひポチリとお願いします。凄く励みになります!

異世界で聖男と呼ばれる僕、助けた小さな君は宰相になっていた

k-ing /きんぐ★商業5作品
BL
 病院に勤めている橘湊は夜勤明けに家へ帰ると、傷ついた少年が玄関で倒れていた。  言葉も話せず、身寄りもわからない少年を一時的に保護することにした。  小さく甘えん坊な少年との穏やかな日々は、湊にとってかけがえのない時間となる。  しかし、ある日突然、少年は「ありがとう」とだけ告げて異世界へ帰ってしまう。  湊の生活は以前のような日に戻った。  一カ月後に少年は再び湊の前に現れた。  ただ、明らかに成長スピードが早い。  どうやら違う世界から来ているようで、時間軸が異なっているらしい。  弟のように可愛がっていたのに、急に成長する少年に戸惑う湊。  お互いに少しずつ気持ちに気づいた途端、少年は遊びに来なくなってしまう。  あの時、気持ちだけでも伝えれば良かった。  後悔した湊は彼が口ずさむ不思議な呪文を口にする。  気づけば少年の住む異世界に来ていた。  二つの世界を越えた、純情な淡い両片思いの恋物語。  序盤は幼い宰相との現実世界での物語、その後異世界への物語と話は続いていきます。

この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!

ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。 ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。 これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。 ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!? ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19) 公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年BLです。

【完結】悪役に転生したので、皇太子を推して生き延びる

ざっしゅ
BL
気づけば、男の婚約者がいる悪役として転生してしまったソウタ。 この小説は、主人公である皇太子ルースが、悪役たちの陰謀によって記憶を失い、最終的に復讐を遂げるという残酷な物語だった。ソウタは、自分の命を守るため、原作の悪役としての行動を改め、記憶を失ったルースを友人として大切にする。 ソウタの献身的な行動は周囲に「ルースへの深い愛」だと噂され、ルース自身もその噂に満更でもない様子を見せ始める。

処理中です...