1 / 36
1、金の瞳が見つめる先で
しおりを挟む
死んだはずの人生が、再び始まった──。
薄暗い娼館の片隅で、名もなく、望まれず、壊れるように。
運命に抗う術もなく、ただ奪われ、弄ばれ、そして捨てられた存在——エリオット・ヴェイル。
けれど、気がつけばすべては“始まる前”へと巻き戻っていた。
若き公爵アドリアン・オルディスとの偽りの結婚。
それこそが不幸の始まりであり、冷たい公爵家の檻の中で待ち受ける数々の陰謀と裏切り。
それでも、再び得た時間の中で、公爵家での策略をかわし、味方を得て静かに抗い、支配されるだけの人生に別れを告げた。
そして出会ったのが「彼」だった。
金の瞳を持つ男。竜を統べる皇帝、シグルド・トラヴィス。
その瞳の奥に宿るのは、ただの支配ではなかった。
優しさ、情熱、そして……確かな執着。
「お前を、誰にも渡すつもりはない」
そう言い切った彼の腕に、エリオットはもう一度、未来を見出した。
すべてを超えた今、エリオットは“自らの意思”で、トラヴィス帝国の皇妃となる道を選んだ。
そして物語は、新たな地へ。
アルヴィオン王国を離れ、トラヴィス帝国へと旅立つエリオット。
皇妃として、Ωとして、そして一人の人間として——
過去を超え、未来を切り拓く戦いが、ここから始まる。
——これは、第二の人生を懸けて運命を塗り替える、あるΩの物語。
※※※
馬車の揺れが、まどろみを深く引き込んでいく。
うっすらと瞼を落としたエリオットは、夢の中に落ちていった。
……そこは、薄暗い部屋だった。
重たいカーテンが窓を塞ぎ、空気は甘く、どこか乾いた香水の残り香が漂っている。
(……この匂い……ここは……)
思い出したくない記憶が、皮膚の裏側から這い出してくる。
ベッドの上に横たわる自分。その傍らに座る、黒い影。
その人の顔は、夢の中でも霞んで見えない。
けれど、触れられた指先だけは妙にリアルだった。
冷たく、けれど優しく、まるで壊れものに触れるような仕草。
「強情なやつだ……生きているなら、それでいい」
誰のものとも知れない低い声が、部屋に静かに響く。
(……あなたは、誰? なぜ、僕を……)
問いかけようとしても、声が出ない。
ただ、遠ざかっていく足音を、耳が覚えている。
(待って……!)
叫んだつもりだったのに、返ってきたのは——
「……エリオット」
現実の声だった。
「……ん、……あ……」
揺らされて、意識が引き戻される。
見上げた先には、金の瞳。シグルドが心配そうに覗き込んでいた。
「うなされていた。大丈夫か?」
「……夢、を……見ていました……」
エリオットは額を押さえてゆっくりと起き上がる。
馬車のカーテンの隙間から、淡い光が差し込んでいた。
「……着いたのですか?」
シグルドが頷く。
「帝都は、もう目と鼻の先だ」
馬車が丘の上を越えた瞬間、視界が開けた。
遠くに見えるのは、堂々とそびえ立つ帝都の城壁。
その向こうには、鋼鉄の街並みが広がっていた。白と黒を基調とした石造りの建物。整然とした道路、列をなす衛兵たち。
けれど、それ以上に目を惹くのは——
「……空……?」
エリオットは思わず息を呑んだ。
空を、巨大な影がいくつも翔けていた。翼を広げた竜たち。
それはもはや伝説の中の存在ではなく、確かにこの帝国の“力”そのものだった。
「……ようこそ、トラヴィス帝国へ」
シグルドが静かに告げるその声に、エリオットは小さく頷いた。
ここからすべてが始まる。
忘れかけていた記憶。夢に現れる“名もなき男”。
金の瞳の皇帝。
そして、皇妃としての道。
(僕は、もう後戻りしない)
胸の奥に灯った決意を抱いて、エリオットは窓の外を見据えた。
帝都の門が、ゆっくりと開かれてゆく——。
薄暗い娼館の片隅で、名もなく、望まれず、壊れるように。
運命に抗う術もなく、ただ奪われ、弄ばれ、そして捨てられた存在——エリオット・ヴェイル。
けれど、気がつけばすべては“始まる前”へと巻き戻っていた。
若き公爵アドリアン・オルディスとの偽りの結婚。
それこそが不幸の始まりであり、冷たい公爵家の檻の中で待ち受ける数々の陰謀と裏切り。
それでも、再び得た時間の中で、公爵家での策略をかわし、味方を得て静かに抗い、支配されるだけの人生に別れを告げた。
そして出会ったのが「彼」だった。
金の瞳を持つ男。竜を統べる皇帝、シグルド・トラヴィス。
その瞳の奥に宿るのは、ただの支配ではなかった。
優しさ、情熱、そして……確かな執着。
「お前を、誰にも渡すつもりはない」
そう言い切った彼の腕に、エリオットはもう一度、未来を見出した。
すべてを超えた今、エリオットは“自らの意思”で、トラヴィス帝国の皇妃となる道を選んだ。
そして物語は、新たな地へ。
アルヴィオン王国を離れ、トラヴィス帝国へと旅立つエリオット。
皇妃として、Ωとして、そして一人の人間として——
過去を超え、未来を切り拓く戦いが、ここから始まる。
——これは、第二の人生を懸けて運命を塗り替える、あるΩの物語。
※※※
馬車の揺れが、まどろみを深く引き込んでいく。
うっすらと瞼を落としたエリオットは、夢の中に落ちていった。
……そこは、薄暗い部屋だった。
重たいカーテンが窓を塞ぎ、空気は甘く、どこか乾いた香水の残り香が漂っている。
(……この匂い……ここは……)
思い出したくない記憶が、皮膚の裏側から這い出してくる。
ベッドの上に横たわる自分。その傍らに座る、黒い影。
その人の顔は、夢の中でも霞んで見えない。
けれど、触れられた指先だけは妙にリアルだった。
冷たく、けれど優しく、まるで壊れものに触れるような仕草。
「強情なやつだ……生きているなら、それでいい」
誰のものとも知れない低い声が、部屋に静かに響く。
(……あなたは、誰? なぜ、僕を……)
問いかけようとしても、声が出ない。
ただ、遠ざかっていく足音を、耳が覚えている。
(待って……!)
叫んだつもりだったのに、返ってきたのは——
「……エリオット」
現実の声だった。
「……ん、……あ……」
揺らされて、意識が引き戻される。
見上げた先には、金の瞳。シグルドが心配そうに覗き込んでいた。
「うなされていた。大丈夫か?」
「……夢、を……見ていました……」
エリオットは額を押さえてゆっくりと起き上がる。
馬車のカーテンの隙間から、淡い光が差し込んでいた。
「……着いたのですか?」
シグルドが頷く。
「帝都は、もう目と鼻の先だ」
馬車が丘の上を越えた瞬間、視界が開けた。
遠くに見えるのは、堂々とそびえ立つ帝都の城壁。
その向こうには、鋼鉄の街並みが広がっていた。白と黒を基調とした石造りの建物。整然とした道路、列をなす衛兵たち。
けれど、それ以上に目を惹くのは——
「……空……?」
エリオットは思わず息を呑んだ。
空を、巨大な影がいくつも翔けていた。翼を広げた竜たち。
それはもはや伝説の中の存在ではなく、確かにこの帝国の“力”そのものだった。
「……ようこそ、トラヴィス帝国へ」
シグルドが静かに告げるその声に、エリオットは小さく頷いた。
ここからすべてが始まる。
忘れかけていた記憶。夢に現れる“名もなき男”。
金の瞳の皇帝。
そして、皇妃としての道。
(僕は、もう後戻りしない)
胸の奥に灯った決意を抱いて、エリオットは窓の外を見据えた。
帝都の門が、ゆっくりと開かれてゆく——。
510
あなたにおすすめの小説
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*不定期連載です。
時間を戻した後に~妹に全てを奪われたので諦めて無表情伯爵に嫁ぎました~
なりた
BL
悪女リリア・エルレルトには秘密がある。
一つは男であること。
そして、ある一定の未来を知っていること。
エルレルト家の人形として生きてきたアルバートは義妹リリアの策略によって火炙りの刑に処された。
意識を失い目を開けると自称魔女(男)に膝枕されていて…?
魔女はアルバートに『時間を戻す』提案をし、彼はそれを受け入れるが…。
なんと目覚めたのは断罪される2か月前!?
引くに引けない時期に戻されたことを嘆くも、あの忌まわしきイベントを回避するために奔走する。
でも回避した先は変態おじ伯爵と婚姻⁉
まぁどうせ出ていくからいっか!
北方の堅物伯爵×行動力の塊系主人公(途中まで女性)
身代わりになって推しの思い出の中で永遠になりたいんです!
冨士原のもち
BL
桜舞う王立学院の入学式、ヤマトはカイユー王子を見てここが前世でやったゲームの世界だと気付く。ヤマトが一番好きなキャラであるカイユー王子は、ゲーム内では非業の死を遂げる。
「そうだ!カイユーを助けて死んだら、忘れられない恩人として永遠になれるんじゃないか?」
前世の死に際のせいで人間不信と恋愛不信を拗らせていたヤマトは、推しの心の中で永遠になるために身代わりになろうと決意した。しかし、カイユー王子はゲームの時の印象と違っていて……
演技チャラ男攻め×美人人間不信受け
※最終的にはハッピーエンドです
※何かしら地雷のある方にはお勧めしません
※ムーンライトノベルズにも投稿しています
王命で第二王子と婚姻だそうです(王子目線追加)
かのこkanoko
BL
第二王子と婚姻せよ。
はい?
自分、末端貴族の冴えない魔法使いですが?
しかも、男なんですが?
BL初挑戦!
ヌルイです。
王子目線追加しました。
沢山の方に読んでいただき、感謝します!!
6月3日、BL部門日間1位になりました。
ありがとうございます!!!
美人なのに醜いと虐げられる転生公爵令息は、婚約破棄と家を捨てて成り上がることを画策しています。
竜鳴躍
BL
ミスティ=エルフィードには前世の記憶がある。
男しかいないこの世界、横暴な王子の婚約者であることには絶望しかない。
家族も屑ばかりで、母親(男)は美しく生まれた息子に嫉妬して、徹底的にその美を隠し、『醜い』子として育てられた。
前世の記憶があるから、本当は自分が誰よりも美しいことは分かっている。
前世の記憶チートで優秀なことも。
だけど、こんな家も婚約者も捨てたいから、僕は知られないように自分を磨く。
愚かで醜い子として婚約破棄されたいから。
不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!
ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。
その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。
しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。
何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。
聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)
【本編完結】断罪される度に強くなる男は、いい加減転生を仕舞いたい
雷尾
BL
目の前には金髪碧眼の美形王太子と、隣には桃色の髪に水色の目を持つ美少年が生まれたてのバンビのように震えている。
延々と繰り返される婚約破棄。主人公は何回ループさせられたら気が済むのだろうか。一応完結ですが気が向いたら番外編追加予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる