娼館で死んだΩですが、竜帝の溺愛皇妃やってます

めがねあざらし

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1、金の瞳が見つめる先で

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死んだはずの人生が、再び始まった──。

薄暗い娼館の片隅で、名もなく、望まれず、壊れるように。
運命に抗う術もなく、ただ奪われ、弄ばれ、そして捨てられた存在——エリオット・ヴェイル。
けれど、気がつけばすべては“始まる前”へと巻き戻っていた。

若き公爵アドリアン・オルディスとの偽りの結婚。
それこそが不幸の始まりであり、冷たい公爵家の檻の中で待ち受ける数々の陰謀と裏切り。
それでも、再び得た時間の中で、公爵家での策略をかわし、味方を得て静かに抗い、支配されるだけの人生に別れを告げた。

そして出会ったのが「彼」だった。
金の瞳を持つ男。竜を統べる皇帝、シグルド・トラヴィス。
その瞳の奥に宿るのは、ただの支配ではなかった。
優しさ、情熱、そして……確かな執着。

「お前を、誰にも渡すつもりはない」

そう言い切った彼の腕に、エリオットはもう一度、未来を見出した。
すべてを超えた今、エリオットは“自らの意思”で、トラヴィス帝国の皇妃となる道を選んだ。

そして物語は、新たな地へ。
アルヴィオン王国を離れ、トラヴィス帝国へと旅立つエリオット。
皇妃として、Ωとして、そして一人の人間として——
過去を超え、未来を切り拓く戦いが、ここから始まる。

——これは、第二の人生を懸けて運命を塗り替える、あるΩの物語。

※※※

馬車の揺れが、まどろみを深く引き込んでいく。
うっすらと瞼を落としたエリオットは、夢の中に落ちていった。
……そこは、薄暗い部屋だった。
重たいカーテンが窓を塞ぎ、空気は甘く、どこか乾いた香水の残り香が漂っている。

(……この匂い……ここは……)

思い出したくない記憶が、皮膚の裏側から這い出してくる。
ベッドの上に横たわる自分。その傍らに座る、黒い影。
その人の顔は、夢の中でも霞んで見えない。
けれど、触れられた指先だけは妙にリアルだった。
冷たく、けれど優しく、まるで壊れものに触れるような仕草。

「強情なやつだ……生きているなら、それでいい」

誰のものとも知れない低い声が、部屋に静かに響く。

(……あなたは、誰? なぜ、僕を……)

問いかけようとしても、声が出ない。
ただ、遠ざかっていく足音を、耳が覚えている。

(待って……!)

叫んだつもりだったのに、返ってきたのは——

「……エリオット」

現実の声だった。

「……ん、……あ……」

揺らされて、意識が引き戻される。
見上げた先には、金の瞳。シグルドが心配そうに覗き込んでいた。

「うなされていた。大丈夫か?」
「……夢、を……見ていました……」

エリオットは額を押さえてゆっくりと起き上がる。
馬車のカーテンの隙間から、淡い光が差し込んでいた。

「……着いたのですか?」

シグルドが頷く。

「帝都は、もう目と鼻の先だ」

馬車が丘の上を越えた瞬間、視界が開けた。
遠くに見えるのは、堂々とそびえ立つ帝都の城壁。
その向こうには、鋼鉄の街並みが広がっていた。白と黒を基調とした石造りの建物。整然とした道路、列をなす衛兵たち。
けれど、それ以上に目を惹くのは——

「……空……?」

エリオットは思わず息を呑んだ。
空を、巨大な影がいくつも翔けていた。翼を広げた竜たち。
それはもはや伝説の中の存在ではなく、確かにこの帝国の“力”そのものだった。

「……ようこそ、トラヴィス帝国へ」

シグルドが静かに告げるその声に、エリオットは小さく頷いた。
ここからすべてが始まる。
忘れかけていた記憶。夢に現れる“名もなき男”。
金の瞳の皇帝。
そして、皇妃としての道。

(僕は、もう後戻りしない)

胸の奥に灯った決意を抱いて、エリオットは窓の外を見据えた。
帝都の門が、ゆっくりと開かれてゆく——。
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