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10、夜の影、朝の光
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あれから、まるで眠れなかった。
私室には淡い陽が差し込んでいたが、その柔らかな光に反して、エリオットの顔には深い影が落ちていた。
ノルドと名乗った男。
夢の中の記憶を呼び起こすような声、そして——あの手の甲への口づけ。
ただの好奇心や冗談ではない、“何かを訴えかけるような熱”が、確かにそこにはあった。
(……なぜ、あんな感覚が……知らないはずなのに……)
名前を何度思い浮かべてみても、記憶の中には繋がらない。
あやふやな記憶は秘術の影響だと以前にシグルドが説明してくれた。
確かに、エリオットの記憶はところどころ抜けているところが多い。
シグルドを思い出せたのも、首にずっとかけたままのペンダントのおかげだろう。
喉奥に絡むような疑問と、そこはかとなく残る罪悪感。
——だからなのか、シグルドには言えそうにもなかった。
疚しいことなどない。あの男をエリオットが引き入れたわけでもない。
けれど心に重く圧し掛かる。それはきっと過去に繋がっているはずなのに、思い出せない。
小さく溜息を吐生きながら朝の支度を終えた頃、扉の向こうからノックが響く。
いつもより柔らかく、けれど決して遠慮がちではないその音。
「……どうぞ」
開かれた扉の向こうに、シグルドがいた。
「おはよう。昨夜、様子がおかしかったとメラニーから聞いた。……体調でも崩したのか?」
その問いに、エリオットは一瞬だけ言葉を詰まらせる。
「……大丈夫。少し、夢見が悪かっただけです」
嘘ではない。けれど、全てでもない。
シグルドはそれを悟っているかのように、ただ一歩、エリオットへ近づいた。
「君の中に、“私の知らない何か”があるなら、それを無理に暴こうとはしない。けれど——」
そこまで言って、シグルドはそっとエリオットの手を取り、甲に残る印へ唇を落とした。
ノルドが口づけた場所と、まったく同じ場所に。
「……“上書き”しておきたい。君が惑わされる前に」
それは所有の証ではなく、誓いだった。
エリオットは目を伏せたまま、何も言えずにその指先を握り返した。
(……どうして、こんなにも……痛いくらいに、優しいんだ)
シグルドが好きだ。
最期に求めてくれたということだけではない。
アルヴィオンで過ごした日々で確かに惹かれている。
——それでも、ノルドの言葉が胸の奥で煙のように漂い続けていた。
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私室には淡い陽が差し込んでいたが、その柔らかな光に反して、エリオットの顔には深い影が落ちていた。
ノルドと名乗った男。
夢の中の記憶を呼び起こすような声、そして——あの手の甲への口づけ。
ただの好奇心や冗談ではない、“何かを訴えかけるような熱”が、確かにそこにはあった。
(……なぜ、あんな感覚が……知らないはずなのに……)
名前を何度思い浮かべてみても、記憶の中には繋がらない。
あやふやな記憶は秘術の影響だと以前にシグルドが説明してくれた。
確かに、エリオットの記憶はところどころ抜けているところが多い。
シグルドを思い出せたのも、首にずっとかけたままのペンダントのおかげだろう。
喉奥に絡むような疑問と、そこはかとなく残る罪悪感。
——だからなのか、シグルドには言えそうにもなかった。
疚しいことなどない。あの男をエリオットが引き入れたわけでもない。
けれど心に重く圧し掛かる。それはきっと過去に繋がっているはずなのに、思い出せない。
小さく溜息を吐生きながら朝の支度を終えた頃、扉の向こうからノックが響く。
いつもより柔らかく、けれど決して遠慮がちではないその音。
「……どうぞ」
開かれた扉の向こうに、シグルドがいた。
「おはよう。昨夜、様子がおかしかったとメラニーから聞いた。……体調でも崩したのか?」
その問いに、エリオットは一瞬だけ言葉を詰まらせる。
「……大丈夫。少し、夢見が悪かっただけです」
嘘ではない。けれど、全てでもない。
シグルドはそれを悟っているかのように、ただ一歩、エリオットへ近づいた。
「君の中に、“私の知らない何か”があるなら、それを無理に暴こうとはしない。けれど——」
そこまで言って、シグルドはそっとエリオットの手を取り、甲に残る印へ唇を落とした。
ノルドが口づけた場所と、まったく同じ場所に。
「……“上書き”しておきたい。君が惑わされる前に」
それは所有の証ではなく、誓いだった。
エリオットは目を伏せたまま、何も言えずにその指先を握り返した。
(……どうして、こんなにも……痛いくらいに、優しいんだ)
シグルドが好きだ。
最期に求めてくれたということだけではない。
アルヴィオンで過ごした日々で確かに惹かれている。
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