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第5話『黒騎士団って、家族経営ですか?』
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砦の暮らしは地獄かと思えば、意外とそうでもなかった。
朝は鐘の音で目覚め、昼は監視付きの砦内散歩。
夜は硬い寝台と、誰もいない天井とのにらめっこ。
(いや、誰かいても困るけど)
騎士団の人たちは、あいかわらず“遠巻き”だ。
僕が通れば、目だけが追ってくる。だけど声はかけられない。
まるで──「なにかわからないモノ」を見ているみたいだった。
まあ、実際そうなんだと思う。
と、いうのも砦内には人が存在しないからだ。
近づいてくるルースさんに確認したところ、そもそもこの国は獣人の国らしく人はで形成された国は遥か遠くにあり、交流がほぼないらしい。
(いや、本当に……スキルの一つが超語学でよかったよ……)
そんなことを思いつつも、少しずつこの環境に慣れ始めていた。
……そんなある日。
「団長が呼んでいる。ついてこい」
朝の訓練を終えたロナルドさんが、いつも通り無表情で告げた。
それだけで、砦中がぴしっと緊張した気がしたのは、たぶん気のせいじゃない。
「え? い、今から……?」
「文句があるのか?」
「いえ、ありがたく同行させていただきます……」
前言撤回の速度には自信がある。
自分の意見を通せない会社にいた僕を舐めないで頂きたい。
彼の後ろについていき、通されたのは、砦の一番奥──石造りの通路を何度も曲がった先にある重厚な扉の前だった。
「入れ」
低く、短く、それだけ。
扉の向こうには、空気そのものが重くなるような存在が座っていた。
(……うわ、……ごつ……!)
真っ直ぐな白銀の髪。金属のように鋭い眼差し。
狼耳と太く重い尾、そして何より、言葉がなくとも伝わる圧。
「団長。連れてきました」
「ああ」
その一言で、空気がさらに静かになった。
団長と呼ばれたその人は、まるで獣が相手を値踏みするような目つきで僕を見た。
「私はイーサン・クラスト。この黒騎士団を預かっている者だ。調査書は読んだが……オメガで、異世界人。加えて“体液による回復”か」
「……は、はい」
「ふむ……」
「……?」
「我々に必要なのか? お前という存在は」
言葉の棘が、皮膚ではなく心臓を刺してくる。
そんな感じがした。
けれど、ロナルドさんがその横で、低く呟いた。
「……少なくとも、自分の怪我を治せる程度には、役に立ちましたた」
イーサンさんは僕を見たまま、動かない。
そのまま一拍、沈黙。
そして唐突に──
「それなら治癒師がいるだろう?まあ……テオの判断に任せる。現場の副官が不要だと思えば処分しろ」
「え⁈処分⁈」
思わぬ死刑宣告に僕は目を見開いた。声も出た。
そりゃ、必要か不必要かでいえばよくわからない僕は後者に近いかもしれないが。
「冗談だ」
僕の様子に、ふ、と口角が上がる。
……冗談に聞こえなかったんですが⁈
ロナルドさんも、特に何も言わない。
「まあ、おかしな行動がなければ危害を加える気はこちらもない。ただし、おかしな行動がなければ、だ。そこを肝に銘じておけ。君が仮に間諜であれば死が待つのみだ」
そう告げられて、面会は終わった。
「……父が、失礼した」
帰り道、ぽつりとロナルドさんが言った。
その言葉に、足が一瞬止まりかける。
(父? 今、父って……あれ……?)
「ああ、いえ……え? ……父? えっ、父⁉」
ようやく、今さら、ちゃんと気づく。
そういえば、ロナルドさんはロナルド・クラトスと僕に名乗っていた。
あれ?副団長さんもそんな名前じゃなかったか……?
「副団長のテオ・クラトスは母だ」
どうやら僕の様子に思考が伝わったようで、ロナルドさんがそう言った。
というか、この家族、誰も感情の起伏が見えにくい気がする。
しかし。ロナルドさんの階級も低くなさそうだし、てっぺんが両親というこの状況。
「……あの、黒騎士団って、その……?」
「なんだ」
「……家族経営……みたいな……?」
「違う」
そこは即答だった。
「結果的にそうなっているようにも見えるが、団長も、副団長も、実力があるから今の地位にいる。それだけだ。俺はわからないがな」
ロナルドさんは、少しだけ顔を伏せて言った。
(……両親が有能だと悩みが多いのかね?まあ、色々とあるもんだ……)
自身に満ちていたその背中が、少しだけ遠く見えた。
※
食堂では相変わらず、孤立ポジション。
ただ、やたらルースさんが近くに現れる。
「やぁオメガくん、今日もぼっち飯? かわいそ~」
「なんですか、その語尾に悪意しかない挨拶……」
「いやいや、気にしてるのかなって思って。さびしくない?俺が隣座ってあげよっか?」
「さびしくないです」
何かとちょっかいをかけてくる彼だが、時折ふと、意味深なことを言う。
「……あいつさ、昔はもっと笑ったんだよ、ロナルド」
「……え?」
「今はもう、感情の死骸みたいな顔してるけど。あの家族さ、真面目すぎて空気まで真っ直ぐになってんの。歪みが出るのも、仕方ないよな」
僕は思わず、言い返していた。
「でもロナルドさん、助けてくれましたよ。……怪我のときも、食事のときも」
「へぇ。……それ、誰かに言ったら、即好感度爆上がりしそうだな」
「好感度って何の……」
「さぁ?」
にやっと笑って、ルースさんはパンを齧った。
この人の底もまた、なかなかに見えない。
(家族経営に、複雑な感情と、体液ヒーラー……何それ、カオスすぎんか……)
そう呟いて、今日の食事もひとり、終えた。
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遅刻でした🤤
投稿は毎日8時・21時の2回です。
リアクションやコメントいただけると嬉しいです♪
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朝は鐘の音で目覚め、昼は監視付きの砦内散歩。
夜は硬い寝台と、誰もいない天井とのにらめっこ。
(いや、誰かいても困るけど)
騎士団の人たちは、あいかわらず“遠巻き”だ。
僕が通れば、目だけが追ってくる。だけど声はかけられない。
まるで──「なにかわからないモノ」を見ているみたいだった。
まあ、実際そうなんだと思う。
と、いうのも砦内には人が存在しないからだ。
近づいてくるルースさんに確認したところ、そもそもこの国は獣人の国らしく人はで形成された国は遥か遠くにあり、交流がほぼないらしい。
(いや、本当に……スキルの一つが超語学でよかったよ……)
そんなことを思いつつも、少しずつこの環境に慣れ始めていた。
……そんなある日。
「団長が呼んでいる。ついてこい」
朝の訓練を終えたロナルドさんが、いつも通り無表情で告げた。
それだけで、砦中がぴしっと緊張した気がしたのは、たぶん気のせいじゃない。
「え? い、今から……?」
「文句があるのか?」
「いえ、ありがたく同行させていただきます……」
前言撤回の速度には自信がある。
自分の意見を通せない会社にいた僕を舐めないで頂きたい。
彼の後ろについていき、通されたのは、砦の一番奥──石造りの通路を何度も曲がった先にある重厚な扉の前だった。
「入れ」
低く、短く、それだけ。
扉の向こうには、空気そのものが重くなるような存在が座っていた。
(……うわ、……ごつ……!)
真っ直ぐな白銀の髪。金属のように鋭い眼差し。
狼耳と太く重い尾、そして何より、言葉がなくとも伝わる圧。
「団長。連れてきました」
「ああ」
その一言で、空気がさらに静かになった。
団長と呼ばれたその人は、まるで獣が相手を値踏みするような目つきで僕を見た。
「私はイーサン・クラスト。この黒騎士団を預かっている者だ。調査書は読んだが……オメガで、異世界人。加えて“体液による回復”か」
「……は、はい」
「ふむ……」
「……?」
「我々に必要なのか? お前という存在は」
言葉の棘が、皮膚ではなく心臓を刺してくる。
そんな感じがした。
けれど、ロナルドさんがその横で、低く呟いた。
「……少なくとも、自分の怪我を治せる程度には、役に立ちましたた」
イーサンさんは僕を見たまま、動かない。
そのまま一拍、沈黙。
そして唐突に──
「それなら治癒師がいるだろう?まあ……テオの判断に任せる。現場の副官が不要だと思えば処分しろ」
「え⁈処分⁈」
思わぬ死刑宣告に僕は目を見開いた。声も出た。
そりゃ、必要か不必要かでいえばよくわからない僕は後者に近いかもしれないが。
「冗談だ」
僕の様子に、ふ、と口角が上がる。
……冗談に聞こえなかったんですが⁈
ロナルドさんも、特に何も言わない。
「まあ、おかしな行動がなければ危害を加える気はこちらもない。ただし、おかしな行動がなければ、だ。そこを肝に銘じておけ。君が仮に間諜であれば死が待つのみだ」
そう告げられて、面会は終わった。
「……父が、失礼した」
帰り道、ぽつりとロナルドさんが言った。
その言葉に、足が一瞬止まりかける。
(父? 今、父って……あれ……?)
「ああ、いえ……え? ……父? えっ、父⁉」
ようやく、今さら、ちゃんと気づく。
そういえば、ロナルドさんはロナルド・クラトスと僕に名乗っていた。
あれ?副団長さんもそんな名前じゃなかったか……?
「副団長のテオ・クラトスは母だ」
どうやら僕の様子に思考が伝わったようで、ロナルドさんがそう言った。
というか、この家族、誰も感情の起伏が見えにくい気がする。
しかし。ロナルドさんの階級も低くなさそうだし、てっぺんが両親というこの状況。
「……あの、黒騎士団って、その……?」
「なんだ」
「……家族経営……みたいな……?」
「違う」
そこは即答だった。
「結果的にそうなっているようにも見えるが、団長も、副団長も、実力があるから今の地位にいる。それだけだ。俺はわからないがな」
ロナルドさんは、少しだけ顔を伏せて言った。
(……両親が有能だと悩みが多いのかね?まあ、色々とあるもんだ……)
自身に満ちていたその背中が、少しだけ遠く見えた。
※
食堂では相変わらず、孤立ポジション。
ただ、やたらルースさんが近くに現れる。
「やぁオメガくん、今日もぼっち飯? かわいそ~」
「なんですか、その語尾に悪意しかない挨拶……」
「いやいや、気にしてるのかなって思って。さびしくない?俺が隣座ってあげよっか?」
「さびしくないです」
何かとちょっかいをかけてくる彼だが、時折ふと、意味深なことを言う。
「……あいつさ、昔はもっと笑ったんだよ、ロナルド」
「……え?」
「今はもう、感情の死骸みたいな顔してるけど。あの家族さ、真面目すぎて空気まで真っ直ぐになってんの。歪みが出るのも、仕方ないよな」
僕は思わず、言い返していた。
「でもロナルドさん、助けてくれましたよ。……怪我のときも、食事のときも」
「へぇ。……それ、誰かに言ったら、即好感度爆上がりしそうだな」
「好感度って何の……」
「さぁ?」
にやっと笑って、ルースさんはパンを齧った。
この人の底もまた、なかなかに見えない。
(家族経営に、複雑な感情と、体液ヒーラー……何それ、カオスすぎんか……)
そう呟いて、今日の食事もひとり、終えた。
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