異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし

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第6話『人間じゃないって、そんなに珍しい?』

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朝の鐘の音で目が覚める。硬い寝台の上、無音の天井をぼんやりと見つめるのも、少しずつ習慣になってきた。

……慣れって怖い。

「──レン。お前、散歩ついてくる?」

食事のあと、ルースさんが不意に声をかけてきた。
唐突すぎる登場に、驚いた僕はパンを飲み込みかけて咽せた。

「けほっ、げほっ……何がですか?」
「いや、見回り兼ねてるから。監視役としてね? 安心して、下心は半分だけだから」
「あるんかい……しかもいつの間にか呼び捨てされてる」
「気にするなよ」

本当に安心できる気はしなかったけど、気分転換にはちょうどよかった。
ふたりで並んで砦の廊下を歩く。黒鎧の騎士たちとすれ違うたび、ぴりっと空気が張るのは相変わらずだ。

「……みんな、僕をすごい目で見てきますよね」
「そりゃあな。お前、“人間”だろ」

軽く言われたその一言に、足が止まった。

「人間……って、そんなに珍しいんですか?」
「前にもちょこっと話したけど、この国にはいねぇよ。てか、俺らがいる《西の獣王領》は、ほとんどが獣人。人間は南東の海を越えた大陸に集まってて、国交もろくにない」

ルースさんは、踵を返さずにそのまま歩いていく。

「それに“異世界”ってやつだろ? そりゃもう、稀少ってレベルじゃねぇ。見たことない奴、喋ったことない奴、触ったこともない奴──みんなそんな感じだよ」

言い方は軽いけど、その視線はふっと遠くを見るようだった。

「じゃあ……僕、ここじゃ本当に、“誰でもない”んですね」
「……それ、嫌か?」

少しだけ、ルースさんの声が低くなった。

「嫌っていうか……ちょっと、寂しいのかも?まあ、知り合いがいないからですかね」

正直に言った。

誰も知らない場所で、誰の記憶にもいない。
存在が「初見」で「未知」で、だからこそ──怖がられる。

「知り合いがいないって……俺らはもうおともだちだろ?」

ルースさんは僕を茶化しながら背中を叩く。
どこまで本気なんだかな、と背中の痛みに耐えつつ思った。



その後、砦の倉庫周りでちょっとした騒ぎが起こった。

補給物資の振り分けリストと、実際の在庫がズレていたらしい。
責任者らしき獣人が部下に怒鳴っていて、空気がぴりついていた。

「だから違ぇって! 先週の便で、布薬は届いてねぇんだよ!」
「いや、でもこっちの表では──」
「だから! そいつが間違ってんだろ!」

言い争いが激しくなってきたそのとき。

「すみません、ちょっといいですか?」

僕はすっと割って入った。ルースが「マジかよ」と苦笑するのが見えた。
うるさいな。職業病ってやつなんだ。

「リスト、見せてもらってもいいですか?」

戸惑いながらも、補給係の騎士が記録用紙を手渡してくれた。
獣人語だったが、【全言語理解】スキルがあれば問題ない。

(えーっと……これは、書式のミスだ。チェックボックスの記入欄が一段ズレてる。てか、これ……見難いなぁ……)

「これ、多分……表の記入の仕方が間違ってるだけです。“布薬”は次週の便になってるはずです」

僕はページをめくりながら、配送記録と突き合わせて説明した。
騎士たちはぽかんとしていたけれど、納得はいったようだった。

「……ああ、ほんとだ」
「書き方、見直さねぇとな……また混乱するぞ、これ」

険悪だった空気がすっと緩んでいく。

「助かった」
「……人間のくせに、使えるな」
「え、それ褒めてます?」

思わず苦笑すると、周囲にいた何人かがふっと笑ったように見えた。

そんなこんなで夕方、部屋に戻ると、ロナルドさんが扉の前に立っていた。

「あっ、お疲れさまです」
「……補給係の件、聞いた。よくやったな」
「いえ、たまたま、コンビニ……いや、えーと店で似たようなことがよくあったので……」

ロナルドさんは静かに頷いた。

「使えると判断されれば、居場所も得やすい。だが無理はするな。……体調に異変があれば、報告を」
「心配してくれるんですか?」
「管理の一環だ。なにかったら必ず俺に報告を」

顔は相変わらず無表情。
でも、その言葉の選び方は、以前より少しだけ……優しくなった気がする。

(……もしかして、ちょっとだけ認められりして……?)

夜、ベッドに腰を下ろして、今日のことを反芻する。

言葉を交わせるだけで、誰かと笑えるだけで、こんなにも気持ちが違うんだ。

人間で、異世界から来たオメガで、回復スキルのある得体の知れない存在──。
でも、「それでもいい」と思ってもらえたなら。

(少しずつ、ここで……居場所ができるといいんだけどなぁ。他に行く当てもないし)

そう願いながら、僕はゆっくりと目を閉じた。
そういえば、店……どうなってるんだろうか。ごめんね、高岡さん。



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