恋した君は、嘘のキミ──それでも、好きにならずにいられなかった──

めがねあざらし

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第3話:ウザい奴

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翌日、昼休み。
大学の中庭のベンチに腰を下ろした俺は、片手でスマホを持ち、無意識に親指で画面をなぞっていた。

“LEON(☆)”

昨夜、あのホストクラブで交換したLINEの名前。
白地に浮かぶその文字列は、単なる連絡先のはずなのに、やけに存在感を放っている。
画面を開くたび、胸の奥に落ち着かないざわめきが広がった。

(なんなんだよ、俺……ただの営業トークに浮かれてるだけだろ?)

未読ゼロ。既読もゼロ。
向こうからメッセージが来ているわけでもない。
それなのに、気づけば何度も同じアイコンをタップして、同じ画面を見つめている。
そのたびに、ため息がひとつ、またひとつ。

(別に……期待なんかしてない。してないってのに)

自分に言い聞かせながら、画面を閉じてはまた開くという無駄なループを繰り返していた。

そんなとき――

「……何してるんだ、そんな真剣な顔で」

不意に降ってきた声に、肩がびくりと跳ねた。
慌てて顔を上げると、眼鏡越しの冷たいほど澄んだ瞳が、真っ直ぐに俺を射抜いていた。

「っ……奏真」

桐嶋奏真。
同じ学部で、授業やサークルでもよく顔を合わせる男。
成績優秀、真面目でクール、そして見た目も整っている。
その完璧さが余計に鼻につくし、俺にはなぜか、ちょっかいを出さずにはいられないらしい。

「別に……なんでもない」
「ふぅん」

奏真は眼鏡のフレームを軽く押し上げ、当然のように俺の隣へ腰を下ろした。
白いシャツの袖口から覗く手首まできっちり整っていて、近くに座られると余計にその完璧さが目につく。
整えられたセンターパートが午後の光を反射して、やたらと眩しい。

「午後からは講義ないだろ?……誰かと連絡とってた?」
「違うっての」

慌ててスマホを伏せると、奏真の口元に、からかうような笑みが浮かんだ。

「へぇ。なんか今日は、顔が赤いように見えたけど」
「見間違いだろ」
「……陸が照れる相手なんて、想像つかないけどな」

わざわざそんなことを言う、その口ぶりがどうにも癇に障る。

「お前、ほんとそういうのウザい」
「そう?俺は結構、優しくしてるつもりなんだけど」

サラリと返されて、余計にイラつく。
小さく舌打ちが漏れた。

「俺に構うなよ。他に友達いっぱいいるだろ」
「まあ、いるにはいるけど……でも陸と話してるほうが退屈しない」
「は?」
「だって、すぐ顔に出るし。わかりやすくて、見てて飽きない」

冗談半分のような軽さ。
けれど、こちらを見つめる瞳は妙に真剣で、嘘をついているようには見えなかった。

(……気のせいだよな)

「ほんと、お前って……」

言葉を探す間に、視線が絡み合ってしまう。
何も言えないまま、奏真は薄く笑った。

「……昨日、何してた?」
「は?」
「顔に出てるって話。普段と違う表情してたから、ふと思ってさ」

ドクン、と心臓がひときわ大きく跳ねた。

その一言で、脳裏に“LEON(☆)”の名前がちらつく。
胸がざわつくのを、咄嗟に首を振って振り払った。

「別に……友達と飲んでただけ」
「へぇ。楽しかった?」
「……まあ、そこそこ」
「そっか。なんか、いつもより色気あるなって思って」
「はあ!? なに言ってんだお前!」

声が一段高くなる。
奏真は眼鏡の奥でニヤリと笑い、肩をすくめた。

「冗談だよ。……そんなに怒るなって」
「怒ってねぇし」
「はいはい。じゃあ照れてるだけか」
「ちげーって!」

完全にペースを乱され、内心ますます苛立ちが募る。
ほんと、いつもいつも……俺をおちょくってくる。

「なあ、奏真」
「ん?」
「お前って、そういうこと誰にでも言ってんの?」
「“そういうこと”って?」
「……色気があるとか、顔赤いとか」
「いや、別に」
「じゃあなんで俺には……」

自分でも、なぜ聞いたのかわからなかった。
問いかけた直後、胸の奥にぞわりとした感覚が走る。

(……なに聞いてんだよ、俺……なんか調子狂う)

奏真は一瞬、目を細めたかと思うと、声を落として囁くように言った。

「……陸には言いたくなるから、じゃダメか?」

その声色が、昨夜の“レオン”の響きと重なった気がした。

(いや、いやいやいや、そんなわけ……ないないないない)

「……っ、用あるから行く」

立ち上がる俺を、奏真は引き留めもせず「またな」とだけ言った。
振り返らなかったけれど、その短い一言が、やけに耳に残り続けた。
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