イトムシ    〜 幼少期〜

夜束牡牛

文字の大きさ
19 / 119

襲撃5

しおりを挟む
○○○○○

 シロは、ことんと眠ってしまったキイトの体を清め、着替えさせると、ソファーに毛布とクッションで埋めてやった。

「おやすみなさい、お星さまのような坊ちゃん」

 むずがり、体を捻るキイトの前髪を分け、ようやくシロは安心できた。
 出来ればそばについていたいのだが、館を放っておく訳にもいかない。そこで彼女は、キイトが起きた時に心細くならないよう、気に入りのぬいぐるみを持って来ようと考えた。それは、問題の寝室にあり、館士兵は絶対に入らせないつもりだろうが、使命感に燃える彼女を誰が止められようか。

(ここは、私が任された館なんだから)

 シロは、楽園の加護を招く仕草を何度もキイトへと送り、朝日を遮る厚いカーテンを引くと、戸締りを確認して部屋を出た。
 
 台所に向かうと、出てきたクロとすれ違った。大きな盆にお茶とケーキを一口ずつ乗せている、館士兵たちに労いとして配るのだろう。

「帰ってきた」
「誰が? いつ? あぁ! ヒノデちゃんね!」

 すれ違いざまクロに告げられ、シロは主人へと報告する事柄を次々と思い浮かべた。

 館士兵がどんなに言っても足を洗ってくれない事、手さえも。室内靴を履くことを頼んでも聞いてもらえず、譲歩してスリッパだったこと。宮から見目麗しい宮守が来たが、館士兵に追い返されたこと、出来ればその一人と、食事でも行ってみたらどうか……否、今は止めておこう。坊ちゃんがお風呂に入ってくれなかったこと、しかし、星のように眠りについていることと、きっとそれは、自分が寝かしつけてしまったに違いないので、勘弁してもらいたいと思っていること、それから、それから……。シロはいそいそと食堂へと入った。
 

 彼女は品の良い婦人らしく、落胆も憤慨も、迷惑そうな顔さえも、表情には出さなかった。
 食堂にはヒノデだけでなく、他に、立派な佇まいの男たちがいたのだ。
 クロが世話をしたのだろう、全員にお茶が配られ、ヒノデには御加水のグラスが出されている。主人は不眠不休にも関わらず、髪の乱れもなく、静かに座っていた。
 両側を守るように座っているのは、くすんだ砂色の髪の男と、赤毛の男、どちらも四十代前後、どっしりと構え、武人らしいたくましい肩を持っている。
 厳めしい館士服かんしふくが、守護館の館長、そして副館長である事を示していた。
 屈強な二人に囲まれると、若いイトムシは、益々白く輝いているように見える。まるで囚われた月の妖精だ。

 対する向かい席の二人。二人は宮から来た、男の宮使みやづかいだ。灰色の宮服みやふくに、そろって生真面目そうな顔。一人は白髪交じり。もう一人は、こげ茶色の髪。宮使いらしく書類の束を持っていた。

 クロが客人を客間に通さず、食堂へ通したことに憤慨しつつも、シロは素早く彼らを観察した。
 ふと、ヒノデが霧に満ちた夜の優しさで、それでいて、不安そうな眼差しを送ってきた。
 シロは、その視線に答えるため、何度も頷いた。『キイトは寝ている』と仕草で示し、さらに『私、ここに居ましょうか』と、口の形だけで伝えた。
 ヒノデが少し笑い、首を横に振ったので、シロは片手で丸を作り送る。きっと主人は、『いてくれたら心強いが、いまは、一番幼いキイトの所に、自分の代わりとして付いてやって欲しい。出来れば、館内の館士兵の世話も頼む』と、伝えたに違いない。そう解釈し、シロは再び使命感を燃やし、台所を出た。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

グラディア(旧作)

壱元
SF
※本作は連載終了しました。 ネオン光る近未来大都市。人々にとっての第一の娯楽は安全なる剣闘:グラディアであった。 恩人の仇を討つ為、そして自らの夢を求めて一人の貧しい少年は恩人の弓を携えてグラディアのリーグで成り上がっていく。少年の行き着く先は天国か地獄か、それとも…

完結 シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣

織部
ファンタジー
 ノルドは、古き風の島、正式名称シシルナ・アエリア・エルダで育った。母セラと二人きりで暮らし。  背は低く猫背で、隻眼で、両手は動くものの、左腕は上がらず、左足もほとんど動かない、生まれつき障害を抱えていた。  母セラもまた、頭に毒薬を浴びたような痣がある。彼女はスカーフで頭を覆い、人目を避けてひっそりと暮らしていた。  セラ親子がシシルナ島に渡ってきたのは、ノルドがわずか2歳の時だった。  彼の中で最も古い記憶。船のデッキで、母セラに抱かれながら、この新たな島がゆっくりと近づいてくるのを見つめた瞬間だ。  セラの腕の中で、ぽつりと一言、彼がつぶやく。 「セラ、ウミ」 「ええ、そうよ。海」 ノルドの成長譚と冒険譚の物語が開幕します! カクヨム様 小説家になろう様でも掲載しております。

処理中です...