イトムシ    〜 幼少期〜

夜束牡牛

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話し合い1

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○○○○○

 何か伝えたかったらしいシロが、したり顔で食堂を出て行く。

(やっぱり、人間相手に気持ちのやりとりは、目線だけでは難しい)

 ヒノデは、後でもう一度、シロの仕草の意味を確認しようと自分の指先を眺めた。

 ヒノデの手は、そろえて卓の上へと置かれていた。それはイトムシの流儀で、糸を紡ぐ意思がなく、話し合いに参加する姿勢を表していた。
 宮を毛嫌いしていても、宮使いに対し、この位の礼儀を守る事は彼女にはできた。しかし、他の二人はどうだろうか? ヒノデは両を固める、尊敬する友人を思う。

(あまりこれに構っている時間は無いのに……)
「お疲れの所を申し訳ありません、イトムシ・ヒノデ様。私共としても、守護館館長様、副館長様伝いではなく、直接、ご本人様からお話伺いたく思いまして」

 白髪交じりの宮使いが、神経の細かそうな仕草で、召喚状をヒノデへと差し出す。ヒノデの指が動くより先に、館長ワリオス・アイコーが、やんわりと書類を返した。

「お断りする。後日こちらの処置が済み次第、ヒノデとキイトを宮へと向かわせよう。第一報が、遅滞なく発報されたことを、忘れないでいただきたい。義務は果たした」

 低く豊かな声が、迷惑を含ませ部屋へと響く。イトムシの行動を指示されたくないのだ。
 守護館は宮へと仕える機関ではあるものの、命を懸けた追放者送りを、イトムシと共に行う歴史の中で、独自の権力を築いていた。守護館とイトムシのつながりは強い。


 他の館も得意とする分野から、それぞれのつながりを持っている。

 教育館で育てられた子供の多くは、守護館へと勤める。それによって、守護館は早い段階から、人材育成に手を出す事が可能となり、より、館への忠誠心が厚い者を育てる事が出来る。
 商い館は、水の支出監理を持つ宮と強く結びつき、国益、外交での信頼が厚い。
 水館だけがひっそりと、国中の水路の御加水を循環させるべく、大水車をカタタンと廻していた。
 イトムシは国に仕え、宮の衣食住の保護の元で、水館・守護館と追放者送りを行っている。そして、生きる国益とも、国宝ともされることから、しばしば商い館とも、関係をもつ。
 
 イトムシは、宮とも、どの館とも、上手く渡り合う必要があった。
 
 今回の事も、宮をないがしろにしてはいけないという心積もりはあった。
 守護館で事情聴取が行われたが、その報告を館伝いに受け取るだけでは、国の財産である貴重なイトムシの命に関わった事だけに、王宮としては黙ってはいられないだろう。ヒノデはイトムシとして、それに配慮する必要を承知している。しかし、宮の考える、裏側の思惑も読めた。
 宮は、イトムシへと直接の事情聴取を行うことで、これに乗じて、ヒノデの息子イトムシ・キイトの参内を狙っているのだろう。母親として、『息子はまだ幼い』と断り続けたが、今回は回避できない理由が出来てしまった。
 
 守護館としては、宮への報告義務も、持ち分の業務も遂行している。なにより、イトムシと解決すべき自館の領分を、他の機関に口を出されたくない。どちらがこの件の主導を握っているか、はっきりと示したいのだ。
 表立った対立は避けられているが、水面下では複雑な流れが渦巻いている。

(守護館の主張も、宮の立場もわかっている。だけど……、いまはそっとしておいて欲しい。幼い子が襲われたのよ? 私とあの子の時間が必要なの)
 
 思わず夜の目を険しくさせてしまう。
 見つめる指先に、力が入る。
 そんなヒノデの気配を感じとり、ワリオス館長が穏やかな視線を寄せてくれる。バーメイスタ副館長もまた、壁時計を睨むことで、宮使いに迷惑を再度示した。
 
 守護館を代表する二人、館長と副館長は、ヒノデの心境もおもんばかってくれていた。
 

「ですので、賊とは言え、人間に対し糸を使用したことにつきましても、イトムシ・キイト様のご意向を、伺いたく思います」

 我が子の名で、ヒノデはゆっくりと視線を上げた。
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