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話し合い2
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いまは、守護館で聞かれた事を伝え、もう一度確認をとっていたのだ。
何と無用な作業。隣から、副館長、赤毛のバーメイスタ・カンスタンブルが口を挟んだ。
「イトムシは危険を感じれば糸を紡ぐ、当たり前の習性だ。そんなこと、キイト本人を連れ出さなくてもわかりきった話だ。無駄な質問を省くためにも、館の報告書を受け取ってもらいたい」
バーメイスタ副館長が乱暴に、つい先ほど作られた書類を出す。ほとんど投げるような出し方だが、悪気は無い。少し動作が大きいのだ。
白髪交じりの宮使いは鼻の頭に皺をよせ、書類を隣の男へと渡す。一瞥もせずに渡したのが、彼なりの応酬なのだろう。
「報告書はもちろん頂きます。ですが私共、宮の報告書を作成するにあたりましても、どうしてもご本人、イトムシ・キイト様の口から……」
「キイトは疲れている。後日の面談ではいかがだろうか」
ワリオス館長が穏やかに言った。それに宮使いが返答するより先、バーメイスタ副館長が割って入る。
「それより、侵入者の口を割りたい。保留の指示を出した宮の考えはどういうつもりだ。牢屋に入れたまま、時間を延ばせばのばすほど、侵入者は余計な知恵を回すだろう」
「その件に関しましても、イトムシに関わることは、王宮の令が出るまで、行動を控えて頂きたく願います」
「だから、その令とはいつ下りるんだ!」
「キイト様のお話を、直接伺ってからです」
「その必要が?」
「ヒノデ様とキイト様の調書、日付が異なるのは可笑しいでしょう。整合性の取れた資料だけが、宮臣へと報告出来るのです。令はその後になります」
理屈や書面が大の得意だと、宮使いの細い目が言っている。バーメイスタ副館長の舌打ちが響く。
ヒノデは息子を思った。今頃は、糸を紡ぎ疲れ、眠っているだろう。事件時の糸が、いつもと違うことは一目でわかった。糸は、日常に紡ぐ糸とは全くの別物、本糸だった。
まだまだ先と思われた、戦闘向きの糸、本糸を、キイトは七つにして紡いでしまったのだ。
(あの子はそれに気付いただろうか。私こそ、キイトと話さなくてはいけないことが、山ほどあるというのに)
ヒノデは目を閉じた。浮かぶのは暗闇の中、何重もの糸を操るキイトの姿。青い月灯りを受け、糸に光が走っていた。
あの瞬間のキイトの目は、本当の夜の色を映していた。足を滑らせたら、二度と浮き上がることの出来ない、漆黒の湖。美しも深みの知れない、夜の湖。
(あの人間が生きていて良かった。本糸は危険な糸。間違いを犯さずにすんで良かった)
「ここは母親である、ヒノデ様のご意見をお伺いしたほうが、良いのでは?」
若い声に顔を上げると、こげ茶色の宮使いがこちらを見ていた。思いがけず、明るい琥珀色の目とぶつかる。宮使いが、慌てて視線を下げた。幾分か、自分の発言を恥じているようにも見えた。
何と無用な作業。隣から、副館長、赤毛のバーメイスタ・カンスタンブルが口を挟んだ。
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