イトムシ    〜 幼少期〜

夜束牡牛

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襲撃5

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○○○○○

 シロは、ことんと眠ってしまったキイトの体を清め、着替えさせると、ソファーに毛布とクッションで埋めてやった。

「おやすみなさい、お星さまのような坊ちゃん」

 むずがり、体を捻るキイトの前髪を分け、ようやくシロは安心できた。
 出来ればそばについていたいのだが、館を放っておく訳にもいかない。そこで彼女は、キイトが起きた時に心細くならないよう、気に入りのぬいぐるみを持って来ようと考えた。それは、問題の寝室にあり、館士兵は絶対に入らせないつもりだろうが、使命感に燃える彼女を誰が止められようか。

(ここは、私が任された館なんだから)

 シロは、楽園の加護を招く仕草を何度もキイトへと送り、朝日を遮る厚いカーテンを引くと、戸締りを確認して部屋を出た。
 
 台所に向かうと、出てきたクロとすれ違った。大きな盆にお茶とケーキを一口ずつ乗せている、館士兵たちに労いとして配るのだろう。

「帰ってきた」
「誰が? いつ? あぁ! ヒノデちゃんね!」

 すれ違いざまクロに告げられ、シロは主人へと報告する事柄を次々と思い浮かべた。

 館士兵がどんなに言っても足を洗ってくれない事、手さえも。室内靴を履くことを頼んでも聞いてもらえず、譲歩してスリッパだったこと。宮から見目麗しい宮守が来たが、館士兵に追い返されたこと、出来ればその一人と、食事でも行ってみたらどうか……否、今は止めておこう。坊ちゃんがお風呂に入ってくれなかったこと、しかし、星のように眠りについていることと、きっとそれは、自分が寝かしつけてしまったに違いないので、勘弁してもらいたいと思っていること、それから、それから……。シロはいそいそと食堂へと入った。
 

 彼女は品の良い婦人らしく、落胆も憤慨も、迷惑そうな顔さえも、表情には出さなかった。
 食堂にはヒノデだけでなく、他に、立派な佇まいの男たちがいたのだ。
 クロが世話をしたのだろう、全員にお茶が配られ、ヒノデには御加水のグラスが出されている。主人は不眠不休にも関わらず、髪の乱れもなく、静かに座っていた。
 両側を守るように座っているのは、くすんだ砂色の髪の男と、赤毛の男、どちらも四十代前後、どっしりと構え、武人らしいたくましい肩を持っている。
 厳めしい館士服かんしふくが、守護館の館長、そして副館長である事を示していた。
 屈強な二人に囲まれると、若いイトムシは、益々白く輝いているように見える。まるで囚われた月の妖精だ。

 対する向かい席の二人。二人は宮から来た、男の宮使みやづかいだ。灰色の宮服みやふくに、そろって生真面目そうな顔。一人は白髪交じり。もう一人は、こげ茶色の髪。宮使いらしく書類の束を持っていた。

 クロが客人を客間に通さず、食堂へ通したことに憤慨しつつも、シロは素早く彼らを観察した。
 ふと、ヒノデが霧に満ちた夜の優しさで、それでいて、不安そうな眼差しを送ってきた。
 シロは、その視線に答えるため、何度も頷いた。『キイトは寝ている』と仕草で示し、さらに『私、ここに居ましょうか』と、口の形だけで伝えた。
 ヒノデが少し笑い、首を横に振ったので、シロは片手で丸を作り送る。きっと主人は、『いてくれたら心強いが、いまは、一番幼いキイトの所に、自分の代わりとして付いてやって欲しい。出来れば、館内の館士兵の世話も頼む』と、伝えたに違いない。そう解釈し、シロは再び使命感を燃やし、台所を出た。
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