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糸1
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国王が質疑応答へと戻った後。宮守が見守る中、ひとり遊ぶ事を許されたキイトは、水路脇の石に腰かけ木陰から船を操っていた。
糸を船の先端と後方に付け、くるりと回すと、頑丈な船は水飛沫を挙げ半回転ずつ回った。
本来の遊び方とは多少ずれていたが、一瞬の飛沫越しの船の雄々しさと美しさ、それに、指へと伝わる水の抵抗が、キイトを夢中にさせていた。
キイトは不意に顔を上げた。
吹き抜けの回廊を仰ぐと、二階通路が目に入る。
(あそこへ糸を掛け、斜めに走らせ柱につなげて)
習慣的に糸を張る計算を始めると、手元の糸が重みを増した。視線を戻すと、船に飛沫の水が溜まって、いまにも沈没しそうではないか。
慌て糸を手繰り、船を引き揚げる。ひっくり返して水を零した。どこも弱ってないか確認しようとした指が、ピタリと止まる。
何とも言えない、釈然としない気持ちが胸へと上がって来る。
(なんだろう……、何だか変だ。なにか変)
不安に似た落ち着きの無さが、ジワジワと体に伝わる。キイトは首を傾げ、自分の行動を振り返った。
(……なぜ船に水が溜まった? それは僕が目を離したから。なぜ目を離した? 回廊を見上げたから。なぜ見た? だって、誰かが見ていた。宮守? 違う。人間の目じゃない。誰?)
不思議に思い、顔を上げようとしたその時、風を切る音がした。
糸だ。
そう気づいた時には、キイトは首と足に糸を巻かれていた。
突然の事だった。強い力で引きずられ、体が反転し、頭を下に宙へと逆さになる。そしてそのまま木へと吊るされてしまった。
「っ……!」
「イトムシ・キイト様? どうなさいました?」
船が落ちた水音を聞きつけ、宮守が急ぎ駆けて来た。慌てて水路を覗き込んでいる。
しかしキイトはその頭上で、高枝へと喉を締め上げられながら、引き上げられていた。
声を出そうにも、息をか細く吸うのが精一杯だ。頭に血が昇り、耳の中でがんがんと音が響く。
キイトは、自由な手を使い、少しでも首の糸を緩めようと力いっぱい引いた。首後ろの皮がきりきりと痛み、裂け、ようやく首と糸の間に隙間ができた。宮守へと助けを求めようとする、とたんに、それを察したのか、首の糸が締りだした。
(絞め殺されるっ)
糸を伝い殺意が首を絞めていく。容赦ないそれに、死の恐怖を感じた。
何としてでも宮守に気づいてもらわなくては。
キイトの必死を知らない宮守は、辺りを伺うと、他を探すために一歩踏み出した。
(行かないで! お願い、気づいてっ)
キイトは唇を糸切り歯に挟むと、思い切り噛み切った。痛みが走り血の味が口に広がる。唇から溢れた血がこめかみを伝い、ポタリと、宮守の足元へ落ちていった。
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