イトムシ    〜 幼少期〜

夜束牡牛

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会議1

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○○○○○

 キイトが守護館で昼食をとっている時、宮の会議室では、追放者対応・イトムシ保護保全に関わる数十名がそろっていた。

 宮臣みやおみが直々に会議を進行し、守護館の総責任者である館長もいる。
 水館の総責任者は欠席だった。女主人は滅多に会議に参加しない。

 円卓へつく彼らの中には、イトムシ・キイトを担当するヌーの姿もあった。
 ヌーは、手元の資料を確認しながらも、ちらりと時計を見る。

(キイト様、ちゃんと食べているかな)

 昼を跨ぐ会議のため、午前中から菊へと預けていた。長引く会議時には、同じ建物内の宮で預かりたいものだが、守護館との取り決め上、そうもいかないのだ。

(寂しい思いをしていないといいが……大丈夫か、彼ら守護館はイトムシと繋がりが深い)

 そう区切りをつけ、ヌーは再び資料へと目を落とした。

 『小石丸こいしまる』。
 その場廃棄の重要書類には、その名が記されていた。

 イトムシのおさであり、キイトの曽祖父。
 彼には様々な疑惑が掛けられていた。


 小石丸は十二歳で本糸を紡ぎ、十三歳で現場へと出ている。
 彼は、歴代の中でも強く優秀なイトムシであった。しかし、それと同時に、、異端者でもあった。
 
 少年の小石丸は、その高い身体能力と、イトムシと楽園の知識を持って、『送り』を行う現状に問いかけてきた。


 曰く『追放者は追放者ではなく、淡いに留まるべき災いとして、夜から使わされた聖なる生物だ。
 人間たちは、それを受け入れるべきだ。

 私たちイトムシが感じる、親愛の情。それを裏切り続け、追放者と戦い続ける理由はなんだ? 
 追放者を淡いに留まらせ、保護するべきだ。そもそも、楽園のそばに、人が国を建てたのが間違いだ。

 夜の生き物が正気を失うのは、人間の毒にあてられたからではないか? 

 そしてイトムシは、同じ夜の生き物同郷の友送って殺してまで、
いったい誰のために、なんの為に戦っているのか?』


 対する答えを、その時代のイトムシの長が説いた。


『小石丸は、過激な思想を持つことで、従来の解釈を捻じ曲げている。
 我らは、人とイトムシの命、淡いに生きる全ての命に対し、誠実で正しくなくてはいけない。
 追放者は、そのことわりを歪め、自身をも歪めている。
 彼らを受け入れられる、彼らの楽園へと送るのだ。

 世に土地は多くあれど、楽園の恩恵を受ける土地は他にない。我らがこの土地を離れれば、人の国は衰退する。恩恵を狙う、他の国は楽園を尊ぶことが出来るだろうか? この国の者ほど、我らイトムシに理解ある者はいない。

 我らは従来の思想の元、楽園を尊び、追放者を送り、人と共に生きる』

 長と若き小石丸、互いに歩み寄ることなく、イトムシの間で、様々な疑惑が生まれた。
 小石丸は、イトムシを使役する宮の体制、それどころか、楽園の加護受ける国全体に対し、疑問と反旗を翻した。


私たちイトムシは、人間が豊かに暮らすためだけに、生かされているのか?」


 文字を追うヌーの耳に、時を超え、少年の鋭い声が届く。


 刃のように真っ直ぐ、疑問を問う少年の声。
 その声に、盲目的に人に仕えていたイトムシたちが足を止め、振り返り、数少ないイトムシは二分化した。

 一つは長と国へ従順に仕え、宮へと留まった。
 もう一つは、少年の元に集い、宮を出た。
 長は力ある異端者を許さず、深い沼の目を持つ少年は、考えを変えなかった。
 
 そして、国が乱れた。

 追放者を送ろうとする糸は、それを阻む糸に絡まり、送りは難航した。
 そして、送られない追放者が出てしまった。
 太陽を浴び続けた追放者の体は腐り、その血が土を汚していく。
 国がけがれた。
 やがて、その穢れた土から病が芽吹き、多くの人とイトムシが命を落とした。
 しかし、が少年のきっかけとなった。
 仲間が死んだことで少年は考えを改め、再び、宮へと戻り、追放者を楽園へと送り始める。
 やがて御加水が穢れを流し、国はもとの清浄な水の国へと戻った。

 長は、その時の病を理由に、その座を少年へと譲り、その二日後に静かに息を引き取っている。
 
 その後、新しい長・小石丸は、秀でた能力と統率力で、残されたイトムシをまとめ、追放者を楽園へと送り続けている。
 その間、人とイトムシに死者は出ず、異端者であった若い長は、『最強』と評された。
 
 その三十年後、様々な理由で、送りをするイトムシは入れ替わり六体となる。
 白波しらなみ、クワコ、カイト、マナムシ、ヒナミそして長・小石丸。六体のイトムシは、つつが無く送りを行った。
 さらに二年が経ち、がやって来た。

 イトムシたちが命を落としはじめた。

 はじめに、次期長とされていたカイトが死んだ。送りの際に糸が喉に詰り、窒息死。次に、糸から足を滑らせ、白波が転落死。クワコ、マナムシは行方不明となったが、数日後、湖の底から引き揚げられた。
 そして最後にヒナミ。ヒナミは一番若く、二十代になったばかりだった。
 彼女はその月、婚礼をあげる予定の小さな水社みずやしろで、水車に糸が絡まり、首を吊られた状態で発見された。

 以後、小石丸はたった一人で追放者を送っている。彼らイトムシ達の死と並行し、イトムシが発生しなくなっていたのだ。
 再び時が巡り、ようやくイトムシが発生した。
 人間として生まれ、イトムシへと成長した少女。それが、ヒノデだった。


 部屋が薄暗くなり、窓を見ると雲行きが怪しい。
 何処からかカエルの声がする。
 生温かな風が、吐息のようにヌーの頬を撫でた。
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