イトムシ    〜 幼少期〜

夜束牡牛

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会議2

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 ヌーは再び資料に目を戻し、死んだイトムシたちの名をなぞった。

が続きすぎる。表現を選んではいるが、宮は全ての事故に、小石丸様が絡んでいると考えている。彼は危険だ、危険すぎる)

 ヌーの胸に、いつも感じる焦りが湧いてくる。
 宮臣が灰色の声で、会議を進めていく。

「――追放者の捕え損ねと、過度なしつけの報告により、小石丸がキイトをうとましく思っているのは確かとする。
彼は己が種族を誇りに思っている、だが何故、ようやく誕生したイトムシキイトを邪険に扱うのか。ヒノデを愛弟子としながら、その子供には拳を振るう。その心情とはどこに由来するのか。また、これまで止んでいたが、再発する危険はあるのか?」

 ヌーが軽く眼鏡を押さえ、発言した。

「危険がございます。小石丸様の心情を図る前に、キイト様の保護をお願いします。同じ館で生活を続けるのは、あまりに危険です」

「シャテル、前回と同じ返答をするが、それは長が納得する理由がなくては不可能だ」

 宮臣の返答に、ヌーがなおも言い募ろうとするが、それを次の言葉が遮断する。

「事故が起こらぬよう、我々も手を尽くしている。館には常に、訓練された宮の者が給仕として出入りし、副館長も定期的に訪問を続けている。
現場では、数名の館士兵の矢は追放者ではなく、別のまとへと定められている。
宮守みやもり館士兵かんしへい、幾つもの目が小石丸を監視している。いまは、これ以上の手が出せない」

 『納得しろ』と宮臣の表情から伺えたが、ヌーは尚も食い下がった。

「三年前の『水路事故』を理由にしては? あれには糸が……小石丸様のモノと推測される、強い糸が使用されたと報告がありました」

 キイトが初の参内時に遇った、水路事故。宮はキイト自身の不注意として片づけていた。

「……確かに、糸はキイトの糸ではない可能性が高い。しかし、今となっては誰にも分からない。糸見分いとけんぶんをする前に、ヒノデが飲み込んでしまったからな」

「しかし報告にあるような、強い糸を操れる技量があるのは、やはり小石丸様だけかと」

「……二度も言わせるな。ヒノデが飲み込んだ。イトムシが関わるなと態度で示しているのだ」

 どこかで苦々し気に、『それでも母親か』と呟いた者がいる。ワリオス館長がそこへと言葉を返した。

「あの場合はそれが正しい。
 一度目の襲撃直後に、小石丸自ら動いたのだ、確実に殺すためにな。しかしキイトは生き延びた。あの悪魔は失敗などしない、も事に成功している。おそらく、何かしらの情に流されたのだろう。ヒノデはそれを感じ、そしてそれに賭けている。小石丸を罪人にはさせないつもりだ」

 ワリオスはヒノデをかばいながらも、明確に小石丸の罪を言及する。
 
 館長がはっきりと言った事こそが、この会議の主題であり、長い間の人間達の問題であった。
 
イトムシの長・小石丸は、五体のイトムシの命を奪った殺害容疑と、キイトの殺害未遂が疑われていた。

 そしてそれらが事実とすれば、小石丸は、国の法とイトムシの四原則よんげんそくの、どちらも反したことになる。
 いままではそうであっても、人は手を出せなかった。イトムシがいなくなっては、追放者に対峙できる者もいなくなる。国が得るべき、楽園の恩恵が得られなくなってしまう。
 人は黙認するしかなかった。

 しかし状況は変わってきた。

 五体のイトムシたちが命を落としたあと、次にイトムシに育ったヒノデは、事故に遭わずいまも生きている。それどころか、長の寵愛を受ける愛弟子だ。

 当初宮は、一時、少女ヒノデの身を保護したが、当人が師を恋しがり、宮から逃げ出す始末。また、その後の小石丸の配慮は適切で、彼女が傷付くような噂が立たぬよう、宮近くの館を、彼女ひとりにあてがうほどだった。

 宮は彼が改心したとし、多少の摩擦はあるが、イトムシと良い関係を築いた。

 しかし、キイトが生まれてから、再びおかしな流れが見えはじめる。

 小石丸は一度赤ん坊に会うと、それきり面会をしなくなった。そして、七つになったキイトの元へ、暗殺者が送られた。
 暗殺者は他国籍の者。捕獲した当日に自殺している。ただし、首吊りに使用した、紐状の物は見つかっていない。

 本糸を紡ぎ、歓迎を受けたキイトは、さらに宮の中で命を狙われた。
 逆さに吊られ殺されるところだった。その際に、ようやく手に入れた明確な証拠、イトムシの糸。キイトの物でも、ヒノデの物でもない糸――これで小石丸を追い詰める事が出来るはずだった。が、糸を手にしていたヒノデが、それを飲み込んでしまった。
 彼女は師の黒い噂を信じていない。
 師を思う気持ちか、それとも混乱か、誰にもわからないことだが、この件に関しヒノデは沈黙した。
 宮はこれを事故として処理し、キイトの保護を早急に進めようとした。しかしその矢先、ヒノデが幼いキイトを、小石丸へと預けてしまった。
 皆が驚いた。
 ただちに、小石丸とその館の監視が行われたが、幼子はに会わず、三年を生き延び、イトムシとして技術と力を成長させてきた。

 暴力によるしつけ、人間軽視の精神論をキイトへあてがうことで、小石丸は満足したのだろうか? 
 誰にも分からぬ思惑の糸が、何重にも絡まり、いまに至る。


 会議が再び暗礁へと乗り上げた時、扉を叩き宮守が入って来た。素早く宮守が報告をする。

「追放者出現。青池の水社みずやしろ前、すでに、イトムシ様、守護館が送りへと向っています」

 キイト専従であるヌーが、宮臣の許しを得て部屋を出ると、続いて館長も退席をした。
 足早に移動するヌーへと、館長が話しかけてくる。

「皆、小石丸が恐ろしく事実を口にしない。しかしお前は、中々骨があるようだな。宮使い」

 キイトが小石丸と生活を続けることを、はっきりと「危険だ」と、毎回発言している事を言っているのだろう。
 所属する宮の方針に、苦言を呈するヌーを、珍しがっている気配が伝わって来る。

「私はキイト様専従の宮使いです。主人の安全を、第一に考えて頂きたいと思っているだけでございます。けして、小石丸様を悪魔呼びする守護館を推している訳ではございません」
「イトムシ全てを等しく正しくか……その理念を、一度じっくり聞かせてくれ」

 朗らかにそう言われ、嫌みか冗談か、はたまた正式な申し出なのか、ヌーは判断に迷った。

「資料を作りますので、一日頂きたい」

 盛大に笑われた。どうやら冗談だったようだ。
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