97 / 119
会議1
しおりを挟む○○○○○
キイトが守護館で昼食をとっている時、宮の会議室では、追放者対応・イトムシ保護保全に関わる数十名がそろっていた。
宮臣が直々に会議を進行し、守護館の総責任者である館長もいる。
水館の総責任者は欠席だった。女主人は滅多に会議に参加しない。
円卓へつく彼らの中には、イトムシ・キイトを担当するヌーの姿もあった。
ヌーは、手元の資料を確認しながらも、ちらりと時計を見る。
(キイト様、ちゃんと食べているかな)
昼を跨ぐ会議のため、午前中から菊へと預けていた。長引く会議時には、同じ建物内の宮で預かりたいものだが、守護館との取り決め上、そうもいかないのだ。
(寂しい思いをしていないといいが……大丈夫か、彼らはイトムシと繋がりが深い)
そう区切りをつけ、ヌーは再び資料へと目を落とした。
『小石丸』。
その場廃棄の重要書類には、その名が記されていた。
イトムシの長であり、キイトの曽祖父。
彼には様々な疑惑が掛けられていた。
小石丸は十二歳で本糸を紡ぎ、十三歳で現場へと出ている。
彼は、歴代の中でも強く優秀なイトムシであった。しかし、それと同時に、追放者送りに疑問を持つ、異端者でもあった。
少年の小石丸は、その高い身体能力と、イトムシと楽園の知識を持って、『送り』を行う現状に問いかけてきた。
曰く『追放者は追放者ではなく、淡いに留まるべき災いとして、夜から使わされた聖なる生物だ。
人間たちは、それを受け入れるべきだ。
私たちが感じる、親愛の情。それを裏切り続け、追放者と戦い続ける理由はなんだ?
追放者を淡いに留まらせ、保護するべきだ。そもそも、楽園のそばに、人が国を建てたのが間違いだ。
夜の生き物が正気を失うのは、人間の毒にあてられたからではないか?
そしてイトムシは、同じ夜の生き物を送ってまで、
いったい誰のために、なんの為に戦っているのか?』
対する答えを、その時代のイトムシの長が説いた。
『小石丸は、過激な思想を持つことで、従来の解釈を捻じ曲げている。
我らは、人とイトムシの命、淡いに生きる全ての命に対し、誠実で正しくなくてはいけない。
追放者は、その理を歪め、自身をも歪めている。
彼らを受け入れられる、彼らの楽園へと送るのだ。
世に土地は多くあれど、楽園の恩恵を受ける土地は他にない。我らがこの土地を離れれば、人の国は衰退する。恩恵を狙う、他の国は楽園を尊ぶことが出来るだろうか? この国の者ほど、我らイトムシに理解ある者はいない。
我らは従来の思想の元、楽園を尊び、追放者を送り、人と共に生きる』
長と若き小石丸、互いに歩み寄ることなく、イトムシの間で、様々な疑惑が生まれた。
小石丸は、イトムシを使役する宮の体制、それどころか、楽園の加護受ける国全体に対し、疑問と反旗を翻した。
「私たちは、人間が豊かに暮らすためだけに、生かされているのか?」
文字を追うヌーの耳に、時を超え、少年の鋭い声が届く。
刃のように真っ直ぐ、疑問を問う少年の声。
その声に、盲目的に人に仕えていたイトムシたちが足を止め、振り返り、数少ないイトムシは二分化した。
一つは長と国へ従順に仕え、宮へと留まった。
もう一つは、少年の元に集い、宮を出た。
長は力ある異端者を許さず、深い沼の目を持つ少年は、考えを変えなかった。
そして、国が乱れた。
追放者を送ろうとする糸は、それを阻む糸に絡まり、送りは難航した。
そして、送られない追放者が出てしまった。
太陽を浴び続けた追放者の体は腐り、その血が土を汚していく。
国が穢れた。
やがて、その穢れた土から病が芽吹き、多くの人とイトムシが命を落とした。
しかし、それが少年のきっかけとなった。
仲間が死んだことで少年は考えを改め、再び、宮へと戻り、追放者を楽園へと送り始める。
やがて御加水が穢れを流し、国はもとの清浄な水の国へと戻った。
長は、その時の病を理由に、その座を少年へと譲り、その二日後に静かに息を引き取っている。
その後、新しい長・小石丸は、秀でた能力と統率力で、残されたイトムシをまとめ、追放者を楽園へと送り続けている。
その間、人とイトムシに死者は出ず、異端者であった若い長は、『最強』と評された。
その三十年後、様々な理由で、送りをするイトムシは入れ替わり六体となる。
白波、クワコ、カイト、マナムシ、ヒナミそして長・小石丸。六体のイトムシは、つつが無く送りを行った。
さらに二年が経ち、その時がやって来た。
イトムシたちが命を落としはじめた。
はじめに、次期長とされていたカイトが死んだ。送りの際に糸が喉に詰り、窒息死。次に、糸から足を滑らせ、白波が転落死。クワコ、マナムシは行方不明となったが、数日後、湖の底から引き揚げられた。
そして最後にヒナミ。ヒナミは一番若く、二十代になったばかりだった。
彼女はその月、婚礼をあげる予定の小さな水社で、水車に糸が絡まり、首を吊られた状態で発見された。
以後、小石丸はたった一人で追放者を送っている。彼らイトムシ達の死と並行し、イトムシが発生しなくなっていたのだ。
再び時が巡り、ようやくイトムシが発生した。
人間として生まれ、イトムシへと成長した少女。それが、ヒノデだった。
部屋が薄暗くなり、窓を見ると雲行きが怪しい。
何処からかカエルの声がする。
生温かな風が、吐息のようにヌーの頬を撫でた。
0
あなたにおすすめの小説
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦
未羊
ファンタジー
気が付くとまん丸と太った少女だった?!
痩せたいのに食事を制限しても運動をしても太っていってしまう。
一体私が何をしたというのよーっ!
驚愕の異世界転生、始まり始まり。
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
公爵家の秘密の愛娘
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。
過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。
そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。
「パパ……私はあなたの娘です」
名乗り出るアンジェラ。
◇
アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。
この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。
初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。
母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞
🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞
🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇♀️
根暗令嬢の華麗なる転身
しろねこ。
恋愛
「来なきゃよかったな」
ミューズは茶会が嫌いだった。
茶会デビューを果たしたものの、人から不細工と言われたショックから笑顔になれず、しまいには根暗令嬢と陰で呼ばれるようになった。
公爵家の次女に産まれ、キレイな母と実直な父、優しい姉に囲まれ幸せに暮らしていた。
何不自由なく、暮らしていた。
家族からも愛されて育った。
それを壊したのは悪意ある言葉。
「あんな不細工な令嬢見たことない」
それなのに今回の茶会だけは断れなかった。
父から絶対に参加してほしいという言われた茶会は特別で、第一王子と第二王子が来るものだ。
婚約者選びのものとして。
国王直々の声掛けに娘思いの父も断れず…
応援して頂けると嬉しいです(*´ω`*)
ハピエン大好き、完全自己満、ご都合主義の作者による作品です。
同名主人公にてアナザーワールド的に別な作品も書いています。
立場や環境が違えども、幸せになって欲しいという思いで作品を書いています。
一部リンクしてるところもあり、他作品を見て頂ければよりキャラへの理解が深まって楽しいかと思います。
描写的なものに不安があるため、お気をつけ下さい。
ゆるりとお楽しみください。
こちら小説家になろうさん、カクヨムさんにも投稿させてもらっています。
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる