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同郷の友1
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「とろとろすんな!紙垂を確認しながら囲むんだよっ、素人みたいな動きしてんじゃないよ!」
ワッカが大声で、注連縄の指示を館士兵たちに出す。その隣で、菊は腕を組み桜の木を見上げていた。
黒い大きな影が、木の上に居た。
追放者はまだ実体は持てず、揺らめく異形の影から、葉の模様が透けている。
「こりゃ厄介なデカブツだ。小石丸様だけで送ってもらいてぇが、来ねぇなぁ」
「菊、ヒノデをまだ動かしたくない。傷は良くなっているけど、足に癖が残っちまった。小さいイトムシを前に出す? だったらギリギリまで御大を探そう。癪だけど強いからさ」
ワッカも影を見上げ、その大きさに眉をひそめた。
菊は、少し離れた場所で、ヌーと共に居るキイトを眺めた。さらに視線を動かし、馬車へと腰かけ、待機しているヒノデを見た。
どちらのイトムシも、見かけだけは場にそぐわぬ、麗しい面差しだ。
「や、ご老体には期待しないでおこうや。最近じゃ、祭りの後に現れるくれぇだ。どっかで高みの見物を決め込んでるんだろうよ。俺がはなっからキイトの横に着いて出る。お前とヒノデは援護に回れ。あの影は日を浴びてだいぶ経つ、黒刀を出しとけ」
「あいよ」
ワッカは返事をし、準備に歩き出した。その途中で、幼馴染であり、親しい友人でもあるイトムシの元に寄った。
馬車へと腰かけたヒノデが、優しげな夜の視線でワッカを迎えた。
澄んだ夜空の目が、嵌め込まれたイトムシ。
一部の人間から、観賞用と揶揄される美しい女性体のイトムシ。
良くも悪くもとれるその表現に、ヒノデが反応をしめした事は一度もない。それを良いことに、彼女にちょっかいを出す礼儀知らずな人間を、ワッカは何人も戒め吊るし上げて来た。
しかしそれは、静かなイトムシを守る為と言うよりは、案外、感情的で、激高すると手が付けられないヒノデから、人間を守るためにやっていると言う事を、一部の館士兵達はよく知っていた。
ワッカはヒノデの前に立つと、彼女の注意を引くように人差し指を振った。ヒノデがこちらを見上げた時に、肩を滑った黒髪が、残された夜の様に艶やかだ。
「ヒノデ、アンタと私は援護だ。注連縄の外。怪我人は良い子にするんだよ」
「蝶が」
短い言葉だったが、彼女と付き合いの長いワッカは、すぐに合点が着いた。
視力の良いヒノデは、桜の元に転がったままの蝶の死骸に心を痛めているのだ。
「そうね、送り終わったら、あの蝶も水守に届けよう。だから悲しむんじゃないよ」
ヒノデは視線を揺らし、ワッカを見つめ瞬きをした。戦闘向きとは思えない優しい夜が、感謝と同意を示している。
そこへとイチヤが、ヒノデにコーヒー持ってきた。
「ご所望の品でーす」
ヒノデへと差し出されたそれを、ワッカは流れるように奪い、一口飲んでからヒノデへと渡す。
静かだったヒノデが、可笑しそうに笑った。
「毒が入っていたら、貴女まで死んじゃうわ」
「これも仕事なの。おかげで甘党の私が、ブラックのままいけるようになったよ。あー泥水」
くすくすと笑いあう二人に、イチヤが不満そうに口を尖らせた。
「毒って、俺が入れたんすけどね?」
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