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国土の三割近くを占める東西両辺境地帯は、いまだ未開拓のまま荒廃し、幾多の民が困窮に喘いでいる。王家はこれを重く見て、辺境再建を国家最重要課題に位置づけるべく、新たな官職「辺境開拓総監」を創設。王都の財政・技術・法令を一元管理し、未開拓地の開墾とインフラ整備を加速させる覚悟を示した。
その記念すべき授与式が、本日、王城大広間で執り行われる。大理石の床に光が反射し、豪華なシャンデリアがきらめく中、有力侯爵・伯爵、高官、そして辺境復興に関わった者たちが整列していた。壇上には、王座を背に三段の祭壇が設えられ、その中央へレオニス王太子がゆっくりと歩み寄った。
「諸侯、貴族院議員、並びに辺境を守りし者よ。本日ここに、セリナ・リーヴェル殿を『辺境開拓総監』に任じ、王国遺産保護功労章を併せて授与する。さらに、辺境の治安と警備に尽力したクロフォード領地伯アレイスターにも、辺境警備功労章を贈るものとする」
王太子の宣言を受け、広間は静まり返った。だがその沈黙の中にこそ、ここまでの軌跡が響いている。北部の干ばつを救った水路の作成、南部山岳地帯に命を吹き込んだ仮設導水トンネル──数え切れぬほどの夜通しの調査と設計があった。
社交界では「冷たい影の令嬢」と嘲られたセリナが、辺境の果てで建設現場に身を投じ、鉄と石を操って人々の生活を守り抜いた日々。その背後で、アレイスターは常に現場の最前線に立っていた。夜を徹して行軍路を確保し、王都から派遣された技師団や物資輸送隊の安全を保証する「盾」として、砦の見張り台で剣を構えることもあった。書簡を携えた使節行列にも随行し、王都と辺境の間に信頼の回廊を築いてきたのだ。
今、この二人の地道な努力が、王都の最高権威をも動かした。長年放置されていた未開拓地の三割を、彼女たちは信頼という名の開墾具で耕すべく、祝賀の晴れ姿に至ったのだ。遠くで拍手がこだまし、いままさに新しい時代の扉が開かれようとしている。
彼は王冠を脱ぎ、深々と一礼すると、二人の前に書簡と勲章が運ばれてきた。
まずセリナが一歩前に進み、その手で書簡を受け取る。書簡には王権直轄の権限が細かに記され、辺境全域の事業計画・予算執行・人材派遣の最終決裁権が総監に付与される旨が明記されていた。続いて、銀製の勲章が胸元に飾られる。
「セリナ殿、王家はもはやあなたを“代理”とは呼ばない。王国の辺境開拓を司る総監として、その才覚と決断力に全面的に委ねる」
太子の言葉は静かな威厳を帯び、周囲の貴族たちは大きく息を飲んだ。かつて辺境を見下していた者も、今は拍手で応えざるを得ない状況となっている。
次いでアレイスターが一歩前に進む。胸元には銀製の勲章が輝き、その重みを噛みしめるように彼は深く礼をした。セリナはその姿を静かに見守り、堅い笑みを返す。
太子の視線が、セリナとリーナの両者を柔らかく照らす。二人は感謝の意を込めて深く礼を返し、壇上を下りた。
式典を見守っていた枢密院議長が同席の伯爵に囁く。
「三か月前まで辺境復興は半ばお伽噺と思われていたが、総監設置の声が唐突に高まったな」
「王家が軍事・財政両面で背中を押したい——という見方だ。特区指定、税減免、技術派遣まで、次々に法案を通すつもりなのだろう」
こうした公的決断により、辺境再建は単なる地域振興から「国策」に格上げされる。長らく既得権益派が抑えてきた予算と人材の流れが、いよいよ開放される兆しだ。
続く饗宴の場では、王都からの技術者や測量士、土木技術者三百名の派遣結団式が行われる。セリナは技術計画書を手に取り、王家顧問たちに具体的な要望を伝えた。
「まずは北部渓谷の水路拡張工事を完了し、その後、南部油料工場と山麓道路の整備です。緊急用導水トンネルの点検・改修も忘れずにお願いします」
顧問官が深く頷き、技師団長と共にカタログを開く。
「承知しました。次年度予算にも計上済みです。本日より正式に作業に着手いたします」
こうして王都の人材と資金が辺境に集まり、かつてない大規模プロジェクトが動き出す。セリナの目に、辺境の村々だけでなく山岳地帯の影まで浮かび上がる。
夜更け、王城バルコニー。式典を終えた二人は、城壁に面した石のバルコニーに残った。眼下には王都の夜景が宝石のように瞬き、遠く東の山々には雪明かりが見える。
「これで、王都の支援は名目だけではなくなる」
アレイスターは書簡を広げ、指を走らせながら言った。
「特別補助金の増額、自治権の拡大、鉱山と森林伐採の特区指定、さらに軍備隊の常駐──辺境の再建に必要な全てが、王都の本気度を示している」
「ええ。これまで辺境は自己責任と言われ続けてきたのに、一気に情勢が変わりましたね」
セリナは書簡を抱え、夜風にたなびく緑の衣を押さえた。アレイスターがそっと肩に手を置く。
「君の実績が、王都を動かしたんだ。僕も誇りに思う」
セリナは微笑み、「ありがとう」とだけ呟いた。遠くにレオニスの影は見えない。王都の灯りは二人の未来を祝福しているかのように優しく揺れた。
二人の誓いを背負い、辺境から都へ夜空に紡がれた新たな国策が、辺境の荒野にどんな緑を芽吹かせるのか。ふたりは胸に抱いた使命を再確認し、堅い握手を交わした。
バルコニーの欄干に映る二つの影が、未来へと真っ直ぐに伸びていった。
その記念すべき授与式が、本日、王城大広間で執り行われる。大理石の床に光が反射し、豪華なシャンデリアがきらめく中、有力侯爵・伯爵、高官、そして辺境復興に関わった者たちが整列していた。壇上には、王座を背に三段の祭壇が設えられ、その中央へレオニス王太子がゆっくりと歩み寄った。
「諸侯、貴族院議員、並びに辺境を守りし者よ。本日ここに、セリナ・リーヴェル殿を『辺境開拓総監』に任じ、王国遺産保護功労章を併せて授与する。さらに、辺境の治安と警備に尽力したクロフォード領地伯アレイスターにも、辺境警備功労章を贈るものとする」
王太子の宣言を受け、広間は静まり返った。だがその沈黙の中にこそ、ここまでの軌跡が響いている。北部の干ばつを救った水路の作成、南部山岳地帯に命を吹き込んだ仮設導水トンネル──数え切れぬほどの夜通しの調査と設計があった。
社交界では「冷たい影の令嬢」と嘲られたセリナが、辺境の果てで建設現場に身を投じ、鉄と石を操って人々の生活を守り抜いた日々。その背後で、アレイスターは常に現場の最前線に立っていた。夜を徹して行軍路を確保し、王都から派遣された技師団や物資輸送隊の安全を保証する「盾」として、砦の見張り台で剣を構えることもあった。書簡を携えた使節行列にも随行し、王都と辺境の間に信頼の回廊を築いてきたのだ。
今、この二人の地道な努力が、王都の最高権威をも動かした。長年放置されていた未開拓地の三割を、彼女たちは信頼という名の開墾具で耕すべく、祝賀の晴れ姿に至ったのだ。遠くで拍手がこだまし、いままさに新しい時代の扉が開かれようとしている。
彼は王冠を脱ぎ、深々と一礼すると、二人の前に書簡と勲章が運ばれてきた。
まずセリナが一歩前に進み、その手で書簡を受け取る。書簡には王権直轄の権限が細かに記され、辺境全域の事業計画・予算執行・人材派遣の最終決裁権が総監に付与される旨が明記されていた。続いて、銀製の勲章が胸元に飾られる。
「セリナ殿、王家はもはやあなたを“代理”とは呼ばない。王国の辺境開拓を司る総監として、その才覚と決断力に全面的に委ねる」
太子の言葉は静かな威厳を帯び、周囲の貴族たちは大きく息を飲んだ。かつて辺境を見下していた者も、今は拍手で応えざるを得ない状況となっている。
次いでアレイスターが一歩前に進む。胸元には銀製の勲章が輝き、その重みを噛みしめるように彼は深く礼をした。セリナはその姿を静かに見守り、堅い笑みを返す。
太子の視線が、セリナとリーナの両者を柔らかく照らす。二人は感謝の意を込めて深く礼を返し、壇上を下りた。
式典を見守っていた枢密院議長が同席の伯爵に囁く。
「三か月前まで辺境復興は半ばお伽噺と思われていたが、総監設置の声が唐突に高まったな」
「王家が軍事・財政両面で背中を押したい——という見方だ。特区指定、税減免、技術派遣まで、次々に法案を通すつもりなのだろう」
こうした公的決断により、辺境再建は単なる地域振興から「国策」に格上げされる。長らく既得権益派が抑えてきた予算と人材の流れが、いよいよ開放される兆しだ。
続く饗宴の場では、王都からの技術者や測量士、土木技術者三百名の派遣結団式が行われる。セリナは技術計画書を手に取り、王家顧問たちに具体的な要望を伝えた。
「まずは北部渓谷の水路拡張工事を完了し、その後、南部油料工場と山麓道路の整備です。緊急用導水トンネルの点検・改修も忘れずにお願いします」
顧問官が深く頷き、技師団長と共にカタログを開く。
「承知しました。次年度予算にも計上済みです。本日より正式に作業に着手いたします」
こうして王都の人材と資金が辺境に集まり、かつてない大規模プロジェクトが動き出す。セリナの目に、辺境の村々だけでなく山岳地帯の影まで浮かび上がる。
夜更け、王城バルコニー。式典を終えた二人は、城壁に面した石のバルコニーに残った。眼下には王都の夜景が宝石のように瞬き、遠く東の山々には雪明かりが見える。
「これで、王都の支援は名目だけではなくなる」
アレイスターは書簡を広げ、指を走らせながら言った。
「特別補助金の増額、自治権の拡大、鉱山と森林伐採の特区指定、さらに軍備隊の常駐──辺境の再建に必要な全てが、王都の本気度を示している」
「ええ。これまで辺境は自己責任と言われ続けてきたのに、一気に情勢が変わりましたね」
セリナは書簡を抱え、夜風にたなびく緑の衣を押さえた。アレイスターがそっと肩に手を置く。
「君の実績が、王都を動かしたんだ。僕も誇りに思う」
セリナは微笑み、「ありがとう」とだけ呟いた。遠くにレオニスの影は見えない。王都の灯りは二人の未来を祝福しているかのように優しく揺れた。
二人の誓いを背負い、辺境から都へ夜空に紡がれた新たな国策が、辺境の荒野にどんな緑を芽吹かせるのか。ふたりは胸に抱いた使命を再確認し、堅い握手を交わした。
バルコニーの欄干に映る二つの影が、未来へと真っ直ぐに伸びていった。
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