小沢機動部隊

真珠湾を奇襲せよ！

ニイタカヤマノボレ

小沢は司令長官になってからすぐに航空隊に猛訓練を施した。
鹿児島の錦江湾ではまさに月月火水木金金の状態だった。
目的はただ1つ。
真珠湾奇襲作戦を確実に成功させるためだった。
「これなら…」
小沢は錦江湾を飛び回る九七式艦攻を遠目で見ながら何かを言いかけた。


時計の針は止まらない。
日本が7月下旬に南部仏印に進駐するとアメリカは石油の対日輸出を禁止。
既に日米関係は修復不可能な領域に達したのだ。
11月にはアメリカ側からハル・ノートが提示された。
これを受け日本政府は御前会議を開き、対米開戦を決定したのだった。
決行日は日本時間12月8日、ハワイ時間12月7日だった。


「君なら心配ないと思うが一応言っておく」
長門の長官室に呼び出した小沢に山本が厳命する。
「まず1つ目に、万が一日米交渉がまとまった場合にはたとえ攻撃隊を発進させた後であっても引き返すこと。2つ目は、米空母の撃滅を最優先に掲げること。この2つだ」
「承知しております」
小沢の力強い声に山本も幾分かは気が楽になった。
（南雲から小沢に代えて正解だったかもしんな）
山本はこの時つくづくそう思った。


11月26日午前8時。
単冠湾は異様な空気に包まれていた。
「我々が今から出撃するのはハワイ・オワフ島である」
赤城の全搭乗員はここで初めて自分たちに課せられていた猛訓練の理由が分かった。
「諸子十年養うは、一日これ用いんが為なり」
赤城艦長の長谷川喜一大佐は山本の訓示を読み上げる。
それらが終わると搭乗員たちは敬礼し持ち場へ戻っていった。
そして第1航空艦隊は単冠湾を出港した。


「彼らならやってくれるでしょう」
源田は太鼓判を押す。
「そうだな」
小沢もその点に関しては疑いの余地は無かった。
「それもそうでしょうが、戦争が起こらないことを願うばかりです」
草鹿は願望を口にする。
小沢はこれに黙って頷いた。


北大西洋の荒れる海を第1航空艦隊の艦艇たちは白波を立てて進んでいく。
艦隊には真珠湾で決死の諜報活動を行う者から総領事を通じて湾内の状況が報告されていた。
「どうやら空母は湾内にいないようですな」
草鹿は少し肩を落とした。
「居なくてもいいではないか。我が艦隊がハワイ近海に留まれば必ず敵空母は迎撃に現れる」
小沢は平然と言ってのけた。
草鹿少し考え込んだがすぐに合点がいった。
（確かにこの方の言うとおりだ！戦力では我々が圧倒的ではないか！）
そうこうしている頃に電文が届いた。
「大本営からです！”ニイタカヤマノボレ”」
通信兵の報告に小沢は”もう後戻りはできない”と腹を括った。