わんもあ!

駿心

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第2部

TAKE38 恋人の意識 後編

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小夜の掌がまたビリビリ痺れた。

熱い息に火照る頬に行き場のないその痺れをどうにかしたくて、亜門の襟元を力の限り握りしめていた。

長かったような一瞬だったようなキスは亜門が顔を離して終わった。


「これ以上は俺が我慢出来なくなるから。」

「あもん…」

「言っとくけど、俺は今日で理性を使い果たしたから、次は知んねぇぞ。」

「うぉッッ!?」

「おやすみ。」


亜門は今度こそ扉を閉めて部屋を出ていった。

小夜は両手で自分の顔を包んだ。


「うわっ…うわっ、うわっ!!」


何とも言えない気持ちの高ぶりに声を出さずにはいられなかった。


(私…亜門とキスした!?マジで!?)


「と…とりあえず、寝る。」


独り言を言ってしまうほどに動揺しているが、小夜はそそくさと電気を消してベッドに入った。

しかしベッドに入っても…


(亜門の匂いが…する。)


ギャーと叫びたい気持ちを抑えて布団をかぶるが、余計に亜門に包まれたかのように感じた。


…――――


日の光を瞼の向こうに感じて、ゆっくり目を開ける。

小夜は体を起こして無意識に周りを確認した。

なんだかんだでちゃんと眠りにつけたらしい。


時計を確認すると7時すぎぐらいだった。

目覚ましがなかったのに起きてしまったとは、普段からの習慣というのは恐ろしい。


トイレや洗面所を借りて朝の用意をしたが、それ以上何をすればいいのかわからない。

ビルだけど、仮にも人の家だからどうすればいいのかわからない。


(…お腹空いたし。でも冷蔵庫は勝手に開けちゃダメだよね。……暇。)


ソファーの周りをうろうろしてみたが、暇で仕方がない。


(亜門は下で寝てるって言ってたよね。……まだ寝てるのかな。)


「…」


突如、生まれる好奇心は小夜を1階へと足を運ばせる。


ノックをするのを躊躇ためらって、ゆっくりと扉を開けて部屋の様子を覗いてみた。


「あ…。」


そこには確かにソファーで横たわっている亜門の姿があった。

少し迷ってから、小夜は亜門の傍まで近寄った。

毛布一枚を掛けて、亜門は規則正しく寝息を立てて眠っている。


(わー…可愛い顔して、すっごい無防備。)


その顔を覗き込んでいたら、小夜はハッと気付く。


(寝顔を勝手に覗いてるとか……もしかして悪趣味!?)


とてつもなく気まずい状況だと気付いてしまったが、亜門が起きる気配もないので迷った末にそのまま床に腰を下ろした。


(…傷も昨日より青くなってる。)


吸い込まれるように亜門の頭を撫でた。

黒くて柔らかい髪の毛。


(髪…また伸びてる。)


ーと、思う間に手を掴まれた。


「え?」

「…何だ?」


半目の亜門がこちらを見ていた。

小夜は驚いて固まってしまった。

しばらくして亜門はハッと気付いたように体を起こして小夜を見た。


「…」

「…」

「あ…そうか。昨日うちに小夜が泊まってたんだっけ…。」


一人納得したように亜門はまたソファーに倒れこんだ。

亜門は眠そうに目に腕を当てる。


小夜は改めて寝顔を見ていた後ろめたさに亜門の手を握り返して慌てた。


「いや…あの、その…」

「ん?」

「お…お腹…すいちゃった…」

「んっ。」


亜門はそういうわりに動こうとしない。


「あ…もん?」

「ん?」

「…どうすればいいのかもわからないし、暇だし。」

「んー…」

「…」

「…今何時?」

「7時半すぎ。」

「早。」


亜門はしばらくして寝転びながらソファーのスペースを空けて、そのスペースをポンポンと叩く。



小夜は亜門の行動の意味がわからず、ただぼんやりと眺めていた。


「今は眠すぎて動けない…から暇ならココいろ。」

「え?…わっ!?」


小夜は手を引っ張られてソファーに乗っかった。

そのまま強引に眠る亜門の懐にすっぽりと収まった。


「おやすみ。」


亜門はそう呟くが、抱きしめられている小夜は昨日を思い出したかのようにバクバクと心臓が動き始めた。


(…何、この状況。)


呆然としながらすぐ目の前の亜門を見た。


「亜門?」

「ん?」


よほど眠いのか亜門は目を瞑ったまま返事をする。


「亜門って…朝弱いの?」

「弱いってことはないけど、」


寝起きの小声でボソボソと喋った。


「昨日は小夜がいると思うと緊張して寝れなかった…」

「…は!?」



亜門は目を開けようとせずにそのまま寝ようとする。

小夜は赤くなった顔のまま亜門を凝視した。


(亜門…絶対、寝惚けてる!!!!だっていつもより、なんか、ちょっと、素直!!!!)


いつもだったら面倒くさそうに顔をしかめたり、言葉を選ぶように長い『…』があったりする亜門は穏やかな顔のままである。

小夜は狭いスペースに体制が安定せずにモゾモゾと動いた。

ソファーから降りようとしたが、亜門がその気配に気付いた。


「ん…小夜?」


呼ばれてすぐに抱き寄せられた。


「離れんな、ココいろ。」


さっきよりも大きなキュンが小夜の体の底から湧いた。


(わっ、わっ、わー。寝惚けの亜門さんは殺し文句炸裂なんですけどぉ!?)


熱くなった体は亜門から離れたくなくなって、そのまま亜門の体に抱き着いた。

少しして、亜門はスースーと寝息をたてて眠ってしまった。


小夜は亜門の腕の中でドキドキが止まらない。

そして間近から亜門を見た。


(亜門も太っているわけじゃないけど…私よりも太くてしっかりした腕に首…。昨日も思ったけど…男の子だよな。)


優しい亜門も強い亜門もしかめっ面の亜門も色々見てきた。

亜門の昔の話も聞いたけど、多分まだまだ知らない顔があるかもしれない。


「亜門…」


寝息しか返ってこないのを知っていても小夜は言葉を連ねた。


「亜門…」

「…」

「好き。」


自分で言って恥ずかしくなったから、亜門の首に顔を埋めて背中に手を回してギュッとした。

しばらく亜門の香りを堪能したあと、起こさないように腕からすり抜けた。

昨日からずっと決めていたことを実行しようと、小夜は3階に戻り、自分のカバンから携帯を出す。

小さな引っ掻き傷があるディスプレイから『慶介』の名前を出した。

発信ボタンを押してすぐに耳に押しあてる。

呼び出し音がプツリと切れて『はい。』というどこか含み笑いのような声が聞こえてきた。


「もしもし…慶介くん。」

『おはよう。早いね、小夜。』


寝起きを感じさせないその声はおそらく元々起きていたのだろう。

そしてやっぱりクスクス笑っている。


『昨日の今日で、さっそくそっちから電話がくるのはちょっと意外だった。…で、何?』

小夜は大きく深呼吸した。


"離れんな、ココいろ。"


「私は亜門とは別れません。」

『…』

「私はあなたと一緒にいることは選びません。」


小夜はケータイを強く握りしめた。


「なんであなたがそんなに私をこだわるのか…」

『…"人形"が。』

「え?」


慶介がボソッと低い声で呟いた。


(今、何て…"人形"?)


電話の向こうで切り替えをするように小さな息をつく音が聞こえた。

すぐにいつもの慶介の穏やかな声がした。


『それはデメリットをわかってて…言ってるんだよね?』

「…うん。」

『その答えがどういうことになるのか、』

「どうなろうとも!!」

『…』

「絶対負けない。」

『…』

「周りにも、気持ちにも、…記憶にも。もちろん、あなたにも。」

『…ふはっ!!』

「…?」

『あはは…はぁーあ、いんじゃない?それが君の答えってなら…』

「…」

『記憶がなくなって、小夜って少し変わったなー変わってないなーとか色々あるけど、しいて言うなら少し子供になったね?』

「子供?」

『子供だよ。君のその答えは夢しか考えてない子供だ。』

「…」

『まぁ、いいや。言いたいことはそれで終わり?』

「え…あ…うん。」

『ふーん。じゃあね!!"デーモン"によろしく!!』

「え!?ちょっと!!!!けいっ」


ツーツーツー…

応答のない電話を見つめて小夜は眉をひそめた。

拍子抜けといった感じだ。

あっさりしていた。

慶介は笑っていた。

でも付き合うのを断っただけなのだから、普通ならこういうものかもしれない。

しかし…


(じゃあなんであんな黒高とやり合うのをけしかけたりして…私にこだわったりしたの?)


小夜の中に二つの不安が巡る。

慶介は本当にこのまま終わるのであろうか。

そして何故、慶介があんな掴めない行動をしたのか。

それは自分に欠けてる記憶の中に何か重要なことが抜けているのかもしれないということ。


たぶん。
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