わんもあ!

駿心

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第2部

TAKE28 平和 前編

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◇◇◇◇

授業が終わり、休み時間を使って亜門はケータイを開いた。

小夜からメールが入っていた。


そこにニヤッと笑う幸人が近付いてきた。


「何?姫から連絡きたの?」

「お前らのそのノリ、もういいから。」

「なんだよ。お前らのこと祝ってやったじゃねぇか…昨日。」

「昨日のはそれが目的で集まったんじゃねぇだろうが…」


晋が体育祭の打ち上げをしたいと言いだして、亜門は休日だった昨日に幸人達と一緒に遊んだのだ。

その時に体育祭であった小夜との経緯を三人にさくっと報告した。

しかしそれからというもの、三人にそのことをずっといじり倒されている。


(体育祭前までとか一応心配してくれたから言ったけど……言うんじゃなかった。めんどくせぇ…)


そう思いながら、小夜にメールの返信をした。

晋が後ろからやってきた。


「んー?ハコはハニーとメール中?うふふー♪」

「も、いいから…そのテンション…」

「…で、その革城はなんで今日は学校来てねぇの?」

「朝、病院行っただけ。午後からは来るって。」


小夜の捻挫も元々ひどいものでもなかったので体育祭から3日経った今、だいぶ完治しかけている。

しかし基がすごい心配性で絶対安静を強要したらしい。

幸人は返事を打ち終えた亜門に「ふーん。」と相槌を打った。


「じゃあせっかく付き合えたのに土日は会えなかったんだ?」

「…まぁ。」


何故か晋がモジモジしながら亜門の肩をつついた。


「ま、いいじゃん?よく言うでしょ?♪~あーえーなーい時間がー愛ぃそーだーてるのさ~♪」

「歌うな。わかんねーよ。てかシンうぜぇ…」

「ユキちゃん…最近ハコが俺に冷たいの…」

「大丈夫だ。単にお前の扱いがわかってきただけだから…」


幸人は呆れた顔をして、一応晋を慰めた。

そこに栄吉と奈未がやって来た。


「ユキ、ハコ。体育祭の写真をグループ作ってシェアしね?……ってシンは何してんだ?」

「ユキちゃんに慰めてもらってるところ。」


奈未が晋の顔を覗き込んだ。


「まぁまぁ。こないだの体育祭の写真のアルバムでも見て元気出して?一緒に見よう!!」

「ま…町田さーん!!ぐべッッ…」


奈未に抱き付こうとした晋の顔面を栄吉が素早く打《ぶ》った。

奈未は二人のやり取りを気にする様子もなく、亜門に話しかけた。


「グループ招待して私の分はアップしてる、波古山くんも見てみて~」


亜門は自分のスマホを開いた。

後ろから幸人も覗き込む。


「…町田さん、他のクラスの人とも仲良いんですね。あ...これも違うクラスの人…」

「みんな同じクラブの子。私達の写真は最後の方だよ。」


奈未に言われて亜門は最後の方の写真へスライドする。

しかし亜門の手は自分達が写っているものよりも前の写真に手を止めた。


「町田さん、小夜とも撮ってたの?写真。」

「うん!!てか私、同じクラスの人とはほとんど撮ったよ!!」

「へぇー。」


亜門は次へ行こうと指を動かしたが、その手首を幸人が掴んだ。

ビックリして幸人の方を見たら、目を細めて笑っている。

なんとも悪い顔だ。


「波古山…今の写真、保存すれば?」

「いらないっての。マジお前ら…いっぺん黙れ。頼むから…」


亜門が眉間に皺寄せていたら、奈未が亜門のことジーッと見ていた。


「波古山くん、小夜ちゃんの写真欲しいの?」

「は?いや…別に欲しいってわけじゃねぇけど…」

「…そっか。」


奈未は力なく笑った。

その時チャイムが鳴って、奈未はすぐさま背を向けた。

亜門は首を傾げた。


「なんか今一瞬、町田さん変じゃなかった?」


栄吉が亜門の肩を叩いた。


「俺言ったから。」

「…何を?」

「ハコと革城が付き合ったって。」

「…………あー。」


それで奈未の元気が心なしかなかったのか…と思うのは自惚れすぎだろうか。

そして亜門はそういう行動に出た栄吉も奈未に本気なのだと思うしかなかった。

◇◇◇◇

4限目の授業中に小夜が登校してきた。

昼休みになって、小夜は瑞希達に「おはよう」なり「今日は遅かったね」なりと、取り囲まれた。


多分そのまま瑞希達と昼食を一緒に食べるのだろうと思い、亜門は幸人達と食べることにした。

教室を出たら、晋がすぐに突っ掛かってきた。


「せっかく革城が来たのに一緒にいねぇの?」

「…別にいいだろ?つーか最近は昼飯一緒にいないのが普通だったし…そんなベタベタしねぇよ。」


パンを買い終えたあと、亜門達は中庭に腰掛けた。


晋は「あーぁ。」と大袈裟に溜め息をついた。


「俺が彼女出来たら、ソッコーで一緒にご飯食うのに!!」

「じゃあシンはユキを捨てて、彼女取るんだ?」


栄吉がポッキーの箱を開けながら、そう聞いた。

それに対して晋はう~んと唸った。


「それは悩むな…答えるまであと五分くれ。」

「悩まんでいい。どこへでも行け。」


幸人はシッシッと追い払うような手付きを晋に向けた。

亜門は弁当片手に三人のやり取りを黙って見ていた。

晋はパンの袋を開けながら、まだワーワー言っている。


「ユキちゃんはまたそんな冷たいこと言う!!」

「別に普通だろうが。」

「いつかはユキちゃんはサラッと彼女作って、多分俺らにはそのこと黙ってシレッとすんだぜ?水くせぇよ!!」

「作りたかったら、そら作る。当たり前だろ。でも今は作る気ねぇからギャーギャー騒ぐな。」


モグモグと口を動かす幸人を晋がジトーッとした目で見る。


「本当に?」

「おぉ。だから付き合ってもない彼女と俺で悩むな…キモい…。」

「……でも俺、知ってんだぜ?」

「あ?」

「ユキちゃん、告られただろ?体育祭の時!!」

「「マジ!?」」


亜門と栄吉は声をハモらせた。

幸人はピタッと固まり、視線だけ晋に向けた。

栄吉は晋にポッキーを差し出しながら、続きを促した。


「誰?同じクラスの女子?」

「そう!!同じクラスの…ってユキちゃん言ってもいいの?」

「……勝手にしろ。もうちゃんと断ってきたし。」


晋も栄吉も「えー!?」「フッたのか!?」だの喚いた。

しかし亜門は幸人の彼女というイメージがつかないので、断ったというのが自然に感じた。

晋はパンを口に入れながら、鼻で息を吐いた。


「まぁそうだよな。だってユキちゃんはあん…ぎゃふ!!」


幸人が晋の顔面にまだ封を開けてないジュースパックを投げつけた。

紙パックだが中身はタプタプに入っているので、顔に命中したパックはバインと音を立てた。

亜門は痛そうだなと思いながら眺めていた。

幸人は眉間に皺を寄せて、フーッと息をつく。


「ったく。シンは油断も隙もねぇな…」


クラッと後ろに倒れそうになる晋を栄吉が支えた。


「シン!?今なんて!?案?餡?杏??」

「む……無念。」


晋はガクーッと大袈裟に倒れる振りをして悪ふざけをする。

栄吉も「シィーン!!!!」と大袈裟に叫ぶ。

幸人はそんな二人をやれやれといった感じに眺めては、落ちているジュースパックを拾った。


(……平和…だなぁ。)


亜門は思わず空を仰いだ。

ひやかし、ひやかされ、こんなアホなやり取りを亜門はふとしみじみと感じた。

そして始めの頃、小夜に言い切った自分の言葉を思い出す。


――――『やっぱ友達作ったり!!サボらず学校行事とかも参加したり、テストだりぃとか言いつつ頑張って徹夜してみたり、彼女作ったり、悪いことは年に一度ぐらいにして  青春がしたいって!!!!』


瞳を閉じる。


(今月末にはまた期末テストがやってくる。なんてこたぁねぇ。普通だ。至って普通の学生生活だ…こいつらと一緒にいるのも、体育祭に参加するのも…普通だ。)


そよそよと風がなびく。


(喧嘩を通じなくても、人と関わっていける穏やかさ…)


体育祭の時の保健室。

亜門の腕の中で鼓動を打つ小夜を思い出す。


(斗真が言う…こんな普通の日々を青春というなら……俺は確かに今、青春してるのかもしれない。)


幸人達がギャーギャー騒いでいる中、亜門のスマホが鳴った。

ディスプレイには『革城小夜』の名前が出ている。

亜門は電話に出た。


「もしもし…」

『亜門!!おはよう!!』

「おぉ。」

『私…学校来てるよ!!』

「うん、知ってる。」

『じゃあなんで…』

「…?」

『…いや、なんでもない。今どこにいんの?』

「沢田らと中庭。」

『そっか……。』

「あぁ。」

『じゃああとでね。』


ツーツーツー…


淡白な電話だった。


(何の確認?)


亜門は切られた電話をしばらく見ていた。

電話の相手が小夜だと察したらしい幸人がストローをくわえながら笑った。


「やっぱ一緒に食いたかったんじゃねぇの?」

「…そうか?わかんねぇ…」


亜門はスマホをポケットに戻して溜め息をついた。

晋は当然の如く、そんな亜門に喰って掛かった。


「なんだよ!?付き合って3日目のカップルは普通ラブラブだろが!!」

「シンがキレんなよ…。」

「おめぇがそんな冷てぇなら、革城は俺が取っちまうぞ!?」

「……そんな気ねぇくせに。」


亜門の言葉に晋がケラケラと笑う。

亜門は弁当の残りを食べていく。

晋は伸びをしながら立ち上がった。


「俺、食い足んねぇからなんか買ってくる!!」


栄吉も膝を払いながら立ち上がった。


「俺も飲みもん欲しい。ユキとハコは?」

「俺はいい。」


そして晋は何やら楽しそうに栄吉に話しかけながら、二人は購買へ行ってしまった。


「どのみち革城にフラれなんよ。」


残された幸人は栄吉のポッキーを勝手に取り、笑いながらそう言った。

亜門は弁当を食べ終えて、無言で片付ける。


「革城も物好きだな。こんなめんどくさい奴と…」

「んなもん自分がよくわかってるよ…わざわざ言わんでもいい。」

「まぁ、"デーモン"の時は危険な可能性もあったけど、"今"なら大丈夫じゃね?なんだかんだ足洗えてるし。」

「……足洗うって……まぁ、でもそうだな。」


亜門は手を太陽にかざす。

その手は血で滲んでいない。


「そういや沢田、放課後空いてる日あるか?次の休みとかでもいいが…」

「…鞄にあるバイトのシフト見たらわかるけど……何?」

「小夜と一緒に聞きたいことあんだ。」

「……お前らのおノロケは受け付けねぇぞ。」

「しねぇよ。」


亜門の素早い切り返しに幸人がケケケと笑った。


亜門は決めていたのだ。

幸人の話は小夜と一緒に聞くと。


「斗真の話。」


亜門がそれだけ言うと、幸人は表情を変えずに口角だけ上げた。

どうやら亜門の用件を予想していたらしい。


「空けとくよ。」


幸人はそう言って、もう一本ポッキーを取った。
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