わんもあ!

駿心

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第2部

TAKE27 好き 後編

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保健室に着いたら誰もいなかった。

亜門は小夜をベッドに座らせて、溜め息をついた。


「忘れてた…保険医もテントで応急措置してたんだ…そっち行きゃあ早かったな。」


亜門は小夜に背を向け離れようとした。


「ーッッどこいくの!?」


小夜は咄嗟に呼び止めた。

亜門は振り返り瞬きをした。


「…湿布。」

「シップ?」

「湿布となんか巻くもんが必要だろ?捻挫なら…」


亜門はそう言って救急用具を探し出した。

校庭の声援がとても遠くに聞こえた。

そしてなんとか見つけた救急箱で亜門は小夜の足の処置をした。


「…ん。一応帰りに病院かどっか行けよ?」

「ありがとう。」

「…ん。」


小夜はベッドから腰を上げようとしなかった。


(まだ…グラウンドに戻りたくないな。)


少し俯いて動かなかったら、亜門が隣に腰掛けてきた。


「手紙…」

「……え?」

「読んだ。」

「……うん。」

「返事まだだけど…。」

「うん。」


遠くのピストルと歓声が聞こえる。


保健室のカーテンが揺れる。


俯いた顔を上げて隣の亜門の方を見た。

とたんに目が合う。


小夜はギョッと驚いた。


小夜が俯いてる時から亜門は小夜を見ていたのだ。


久々に間近で見る亜門の顔。


(まただ。また胸がキューってなる…)


見つめ合っていたら、どちらともなく照れ臭さに笑った。


「久々…だね。」

「だな。」


小夜の心がツンと細くなってザワザワとくすぐったくなって、手先が冷たいのに頭が熱くなって喉がねじられていく。

何にもしてないのに、息がしんどい。

呼吸してるのに喉と肺が細くなってるから充分な酸素が行き届かない。

余計に指は冷たくなる。

でも頬ばかり火照る。


「小夜?」


小夜を呼ぶその声を聞くだけで原因は明らかになる。


(もう…私の降参だ。)


小夜は本気でそう思った。


「亜門…やばい…」

「…何?足痛い?」

「私……亜門が……好きだ。」


歓声もスタートの合図も何も聞こえなくなった。

ただ風が揺れるだけ。


「…………………………………………うん。」


小夜はハッと気付く。

亜門の真顔と長いの返答で我に返る。

溢れる気持ちが無意識にこぼれるように出た言葉だった。


好き

しかし…


(……『うん』?『うん』って何?どういうこと?)


小夜がその意味を理解しかねていたら、亜門は正面に向き直って少し天井を仰いだ。


「まぁあれだ…じゃあ前みたいないつも通りに戻るか…仲直りってことで。」

「…うん、そうだ…ね?」


頷いたものの小夜は疑問だらけだった。


「えっとー…亜門もその…私のこと…好き?」

「…………………………………………まぁ。」


やっぱり亜門は真顔で答えた。

小夜はいよいよポカーンとした。


(だから何!?何よ、その長い!!!!『まぁ』って!?これは私…フラれたの!?フラれてないの!?)


勢いとはいえ、最高潮にドキドキした言葉である『好き』が曖昧に流されて、恥ずかしさが後追いでやってきた。


恥ずかしさでそれ以上、言葉に出来なくて沈黙が出来た。


(フラれたとか…そんなんじゃなくて、わざと曖昧にされたのかも。もしかして亜門に避けられてる?)


気まずさに小夜はますます下を向いた。

亜門は小さく溜め息をついた。


「つーか…小夜はもう少し言葉を選べよ。」

「え?」


ズキッと胸の奥が痛んだ。

やはり『好き』と言ってはいけなかったのであろうかと小夜は恥ずかしさを増した。


「選ぶっつーか…足りないっつーか…」

「た…足りない?」

「男に『好き』しか言わなかったら普通は誤解されんぞ?」

「誤解!?」

「他の奴とかには気を付けろよ…」

「え…えと……」

「いーよ。ちゃんとわかってるから。」


亜門にポンポンと軽く小夜の頭を触られた。


(…えっと。これは何?避けられてるってより…伝わってない!?)


亜門は伸びながらベッドから腰を上げた。


「そろそろ戻るか…お前、歩ける?」


小夜は亜門の手を強く握った。


熱くなる。


脳天を引っ張られるような熱い緊張。


何故か涙ぐみそうになるのを堪えて、でも小夜は出来るだけ大きくはっきりと口を動かした。


「誤解して……ほしいんだけどッッ!!!!」

「何が?」

「何がって…」


小夜がまごまごしていたら、亜門は眉間に皺を寄せた。

しかし次の瞬間、亜門は目を大きく開いた。


「…………………………………………え?」


そしてみるみるうちに顔を真っ赤にしていった。


「…はあ?おま…ッッえぇ!?バッ……ッッ何言ってんだよ!!??」


亜門は後ろに退こうとするが、小夜が亜門の手を離さない。


「だから!!私は亜門のことがー!!」

「わかった!!!!わかったから手を離せ!!」

「やだ!!!!」

「えぇっ!?」


しっかりと握られたその手に観念したかのように亜門はそのまましゃがんでしまった。


「勘弁してくれよ…」

「……それは私の告白がやっぱ…困るってこと?」

「…あ?」

「私のことは…友達にしか思えない?」

「ーッッそんなんじゃなくて!!!!」


亜門は顔を上げた。

蛙を見た時のような慌てぶり。


好きと言わなきゃよかったのだろうか。


「…じゃあ娘ぐらいにしか思えない?」

「娘!?」

「でも…私は亜門が保護者ってのじゃ…物足りないくらい……好きなんですけど。…多分。」

「…ーお前は」


亜門は小夜の両手を握り返して、顔を下へと落とす。


「ストレートすぎて、俺の心臓がもたん。」


亜門のつむじがこちらに向いていて顔は見えないが、あらわとなっている耳は果実のように真っ赤だった。

冷えていた指は亜門の手から熱が伝わり、ジワッと痺れた。


「俺もお前が……好きだから。」


小夜は一瞬理解できなかった。


「……嘘!?」

「この期に及んで嘘言うわけねぇだろ。」

「だって…その『好き』だけじゃ…」

「…」

「…誤解しちゃうよ…って、わあぁ!!!!」


小夜は腕を引っ張られ、ベッドから降りた。

行き着く先は亜門の腕の中だった。


「こういうのは誤解って言わねぇんだよ。」


すぐ近くからするその声は少し笑っているように聞こえた。

全身がドクドクと脈打つ体を亜門に抱き留められ、小夜もまた亜門の背中に手を回した。


「…亜門。」

「ん?」

「『好き』って…もう一回言って?」

「………………まじか。」


小夜の頭を預けているその胸からバクッバクッと心臓が早くなっていくのが聞こえた。
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