52 / 66
第2部
TAKE29 赤鬼 後編
しおりを挟む
◇◇◇◇
晋が公園でタバコをふかしながら言った。
『次、俺らが最高学年なったから、もう誰も俺らんとこに来ねぇんじゃねぇの?』
『つーか前の3年の時点でショボかったから、もうナメた口利く奴いねぇよ。』
栄吉は缶ジュース片手にケケケと笑った。
幸人は大きな溜め息を吐いた。
『だりぃ…喧嘩してぇ。他校も弱いしよ…マジだりぃ。』
『じゃあさ!!浅葱中とかは?遠かねぇし。なんかすげぇ奴二人いるって噂あんじゃん?』
晋の提案に栄吉はめんどくさそうに答えた。
『わざわざ隣町まで行くのかよ…。つーか噂の"鬼達"も確か卒業したじゃん。浅葱にはもう大したのいねぇよ。』
幸人は二人の話を聞いて、瞬きをした。
『何?そんなすげぇ奴…浅葱にいたのか?』
『あ…そっか!!ユキちゃんは私立だったから聞いたことないんか!?』
『浅葱が異常に不良率が高いのは知ってるけど…』
『浅葱には最狂最悪コンビ、"鬼と悪魔"ってのがいたんだよ!!ここらでもちょっとした都市伝説になってたよ。』
晋がふかすタバコの煙を眺めながら、幸人はぼんやりと思い出した。
(そういや"赤髪"の制服も浅葱だっけ?じゃあそのすげぇ奴ってアイツのボスかもしんねぇな。)
そんな物思いにふける幸人に晋は当時の噂を教え始めた。
『"ハコヤマデーモン"と"鬼のトーマ"って言ってな、真っ黒な悪魔と真っ赤な鬼…その強さはまさに人じゃねぇってな。』
『……真っ赤な鬼?』
『あ…それはただの髪の色。あと名字にも確か鬼ってのがあったかな…。それらをモジってんだよ。』
『…』
ーーー“鬼ってぇーのは昔から"赤鬼"って決まってんだろ?”
幸人はしばらく黙ったあと、晋と栄吉に言った。
『おい…その鬼のトーマって奴に会いに行くぞ。』
『『マジで!?』』
幸人は確かめたかった。
そんなまさかとは思いつつも、自分の勘が当たってるような気もした。
会いに行くといっても卒業した今、【ソイツ】に会いに行くのに、どこに行けばいいかわからないからとりあえず浅葱中学へ目指した。
『なんか俺ら道場破りに行くみたいだな。』
『ばぁーか。道場じゃねぇよ。族潰しですらねぇよ…』
晋と栄吉の会話の横で幸人は空き地に目が止まった。
数名の不良がそこにたむろっていた。
『…あれ、浅葱の制服じゃね?』
『え?…あ!!ホントだ!!』
晋がそう言うよりも先に栄吉は集団に向かって歩き出していた。
幸人達もそれに続く。
『おい、ハコヤマデーモンと赤鬼のトーマってのはどこにいんだ?』
栄吉のその問いに浅葱中の不良達が全員睨んできた。
『あぁ?なんだ、てめぇ?』
『波古山さんと斗真さんに何の用だ、こら!!』
『おい、こいつら山吹中だぞ!!』
口々に出る言葉に幸人はすでに半切れで言った。
『そういうのいいから。早く言えよ。』
その幸人の物言いにあっという間に取っ組み合いとなった。
幸人達の方が人数少なくて苦戦したものの、どうにか浅葱中の不良を倒した。
若干足を引きずる栄吉を晋が支えながら歩く。
幸人はその後ろに着いていった。
栄吉は血を含む唾を吐いた。
『ーったく…アイツらも鬼達のいる場所知んねぇのかよ…』
『まぁ、今度また別の奴らから聞き出せばいいし…』
幸人達はそう言って、とりあえず今日は帰ろうとなった。
三人が歩いている先に一人の男子学生も歩いてきた。
すれ違った瞬間、幸人は立ち止まった。
晋も幸人を不思議がって立ち止まる。
『ん?ユキちゃんどうしたよ?』
幸人は振り返る。
栄吉は腫れていない片方の目で遠ざかる学生の背中を見た。
『あれは…ここらの進学校の制服じゃん。アイツがどうかしたか?』
髪は黒いけど…
進学校の制服だけど…
幸人は二人に言った。
『あれ、知り合いかもしんねぇ。悪りぃ!!先行ってろ。』
言うや否や幸人は先ほどの喧嘩で軋む体を動かし、必死で一人の男に追い付こうとした。
あと少しというところで幸人は声を出した。
『鬼の!!……トーマ…』
だんだん小さくなった声だが、男はちゃんと聞こえたらしく振り返った。
それは確かにあの時の赤髪の男だった。
斗真は首を傾げた。
『……お前…』
『アンタやっぱり…鬼のトーマかよ…。』
大した距離を走ったわけではないが痛む体に思わず膝に手をつく。
斗真は前と変わらない笑顔でヘラッとした。
『君、世華の子じゃん!!久しぶり?って日本語合ってる?』
『アンタがホントに噂の"赤鬼"かよ…。』
『噂?……まぁ多分そうだね。』
『なんか…すげぇ変わっちまってるけど、なんだそれ…髪…。』
『そういうエンジェル君も変わったね?世華じゃないし、髪も短くて染めたりもしたんかな?しかも…』
斗真は幸人の全身を見た。
『喧嘩も…してるみたい…だな?』
幸人は口元の傷を手の甲でグイッと拭った。
『んなこたぁどうでもいいだろ?つーかエンジェルってなんだよ…』
『君のあの黒髪よかったのになぁ…綺麗な天使の輪が出来てたもん!!』
『はぁ?何言って…』
『で、今日は何の用?』
斗真はニコニコと笑って聞いてきた。
幸人は深呼吸したあと、斗真を見た。
『俺と勝負しろ。喧嘩だ…手加減すんなよ?』
斗真はキョトンとした顔で首を傾げた。
『……俺、君から恨み買うようなこと何かしたっけ?』
『あ?ねぇよ、理由なんか!!』
それが幸人の本音だった。
ウドの大木と思ったヘラヘラしたバカな男の噂がどんなものなのか 。
自分の強さがどこまで通用するのか。
それを確かめたかっただけである。
そしてほんの少し斗真を侮っており、勝てる自信がどっかにあった。
すげぇ奴を潰したいワクワクさがあったのも否定出来ない。
幸人が両手で構えると斗真も諦めたように鞄を置き、ブレザーを脱いだ。
『わかった。しょうがないなぁ…』
その様子に幸人も戦闘体勢で一歩踏み出そうとした。
しかしすぐに止まった。
『……何…してんだ?』
幸人の目の前で斗真は体すべてを地面に丸投げして大の字で寝ているのである。
『何って…エンジェル君の気が済むまで好きなだけ殴り蹴りしていいよぉ~のポーズ。』
幸人は眉間に皺を寄せて、叫んだ。
『あぁ?てめぇ舐めてんじゃねぇぞ!?一体何のつもりだ!?手加減すんなっつっただろぉが!!!!』
『手加減してないっての!!これで全力のポーズなのだ!!』
『ふざけんな!!!!てめぇ最初から勝負に怖じけついてんのか!?この腰抜けが!!』
幸人の罵倒に斗真がゆっくり体を起こした。
それに思わずビクッと体を揺らしてしまったが、斗真は起きただけでその場に胡座をかき、立とうとしない。
そのままジッと幸人を見ている。
『悪いけど俺はもう"赤鬼"じゃあねぇんだ。だから極力喧嘩はしねぇことにしたんだ!!』
『なん…だ、それ…』
『それにお前、怪我してんじゃん。喧嘩したとしても、俺が勝つよ。』
斗真は立ち上がって、お尻の砂を払う。
そして横に置いていた鞄とブレザーを手に取った。
幸人は声が震えた。
『…んなもん、やってみなきゃ…』
『それに、』
斗真は幸人の頭に手を置いた。
『俺、実は強いから。怪我がなかったとしても俺の勝ちだよ。』
自信過剰ではない。
ハッタリでもない。
幸人は肌でそれがわかった。
(こいつ…本物だ。)
幸人はニッコリと笑うその顔を凝視した。
『お前が寝転ぶ奴をそれでも殴るような奴じゃなくて、助かったよ。』
『なッッ!?』
『喧嘩もいいけど、お前みたいに優しい奴はもっと青春を謳歌しとけ?』
斗真は幸人にもう一度背を向けて歩き出した。
今までどんなに殴られたって、どんなに膝を地面に着いてしまったって…
どんな喧嘩も幸人は何度でも立ち向かっていった。
しかし何かしたわけでもされたわけでもないのに、かつてない敗北感が幸人にのし掛かった。
◇◇◇◇
「俺、そんときにマジで思ったのは"鬼原斗真の本気が見てぇ"ってことだった。」
小夜、亜門、幸人のコップはすっかり空になっていたが、誰も入れに行こうとはしなかった。
そして小夜は前に尚太から見せてもらった写真の斗真の顔を思い出していた。
喧嘩をやめて黒髪に戻したのは、亜門と同じ理由なんじゃないかと小夜は思った。
青春をしたかった。
(それが…鬼原斗真。)
ーーー『小夜!!大丈夫だ!!』
ーーー『小夜…俺はあいつの…』
前に時々聞こえたことのある斗真の言葉の切れ切れ。
しかし全ては思い出せない。
「小夜?」
目の前の亜門の声にハッとなった。
「あ…あぁ!!ごめん!!ボーッとしてた…。」
「……具合、悪くなったらすぐに言えよ?」
小夜はゆっくりと頷いた。
その様子に亜門はもう一度、幸人の方を見た。
「それで沢田は斗真の顔を知ってたんだな…。斗真とはそれっきりか?」
「あぁ。……いや…厳密に言やぁ、ちょっと違う。」
「…どういうことだ?」
「さっきも言ったが、俺はかつてない敗北感で屈辱的に感じたのと同時に、純粋に鬼原斗真の強さってのを見たいと思ったんだ。」
「あぁ。」
「でも喧嘩をやめたって言ってるし、髪を戻したり進学した学校はなんてとこない普通な学校だったり…何よりあの大の字を見たから、正直無理だろうなって思ってたんだ。だからこそ見たいって思ったっつーか…」
「…」
「でもそのチャンスがその年の夏…まぁ去年の夏休みのわけだが……意外にもあの鬼原斗真の本気が見れるかもしんねぇって情報が入ったんだよ。」
「お前…それってまさか…」
「あぁ。波古山もさすがにわかるだろ?」
幸人は口だけで笑ってみせた。
「鬼原斗真と黒高の頭がお互いの仲間引き連れて、やり合うって話だよ。」
小夜は亜門と幸人を交互に見た。
「黒高って?」
亜門が説明してくれた。
「黒岩《くろいわ》高校っていう、ここら一帯の不良がほぼ集まるような治安が悪いで有名な不良校だ。俺と斗真がさんざん暴れてた時に相手になった奴らは大概、黒高に進学してると思う。」
「そんな黒高と斗真君が喧嘩って…なんで?だって斗真は喧嘩をやめたんじゃ…」
幸人は腕を組んで、小夜を横目に見た。
「それは俺もよく知らねぇ。聞いた情報はやるらしいっていう日時と場所だけだ。そういうのは俺なんかよりも波古山のがわかってんだろ。」
幸人が顎で指す先は亜門だ。
亜門は一旦、息を吐いてから小夜と幸人を見た。
「あぁ。その黒高との闘争には…俺も参加したからな。」
幸人は頷いた。
「やっぱな…。」
「…お前が聞きたいことって、それか?」
亜門の質問に幸人は首を掻いた。
「あ?別に聞きたくないわけでもねぇが、んな理由なんてどうでもいい。なんであれ、鬼原斗真の力を見ることが出来たんだからな…。」
小夜は幸人に気になることを聞いてみた。
「沢田くん、見に行ったの?」
「あぁ。実はどさくさに紛れて俺もその喧嘩の輪に入って、鬼原斗真の姿を確認しに行った。もみくちゃすぎて、そんな長いこと見れなかったけどな…」
「どっちが…勝ったの?」
幸人は亜門の方を見てから、小夜にニヤッと笑った。
「鬼原達の勝ちだよ。」
「あ…そうなんだ。」
「波古山のことをその当時は知らなかったから、その時はどんなだったかわかんねぇけど、鬼原は凄かった。ちゃんと噂通りだったよ。」
亜門は深い溜め息を吐いて、椅子に背もたれた。
「それで…斗真の実力はわかったから、今度は俺のを調べるために喧嘩ふっかけたってわけか?」
「まぁそれもあるけど、あれはそれよりも第一に波古山に近付くことが目的だったんだよ。」
「え?」
「お前が"デーモン"だと気付いたのは、デーモンと鬼の噂をした後、シンとモリにかました蹴りを見てからだ。名字も"ハコヤマ"ってその時に知ったしな。」
小夜も亜門もやはりその時だったのかと頷いた。
「まぁ思えば普通の時はドモるくせに、こっちが殺気放って喧嘩を匂わすと途端にイキイキというか…堂々となりやがるから、前から妙な奴だとは思ってたけど、そうと思えばなんか納得したよ。」
幸人は亜門との初めての接触の時のことを思い出しては笑った。
「やたら喧嘩はしないっていう主張が鬼原の大の字と通ずるもんがあったしな。」
「それで俺に近付いたのは…俺に聞きたいことがあったから…か?」
「まぁな。」
幸人は真顔で亜門を見た。
「俺が聞きたいのは鬼原の事故のことだよ。」
小夜は「事故?」と幸人の言葉を繰り返した。
それに幸人は頷いた。
「あぁ。あの黒高との闘争後に起こったという…電車との衝突事故だよ…。」
小夜は息が止まる気持ちになった。
(電車の…衝突事故!?)
そんな小夜を気にしない風に幸人は亜門に聞いた。
「鬼原斗真は…ただの不慮な事故なのか?自殺?それとも……殺人か?本当はどれなんだ?」
晋が公園でタバコをふかしながら言った。
『次、俺らが最高学年なったから、もう誰も俺らんとこに来ねぇんじゃねぇの?』
『つーか前の3年の時点でショボかったから、もうナメた口利く奴いねぇよ。』
栄吉は缶ジュース片手にケケケと笑った。
幸人は大きな溜め息を吐いた。
『だりぃ…喧嘩してぇ。他校も弱いしよ…マジだりぃ。』
『じゃあさ!!浅葱中とかは?遠かねぇし。なんかすげぇ奴二人いるって噂あんじゃん?』
晋の提案に栄吉はめんどくさそうに答えた。
『わざわざ隣町まで行くのかよ…。つーか噂の"鬼達"も確か卒業したじゃん。浅葱にはもう大したのいねぇよ。』
幸人は二人の話を聞いて、瞬きをした。
『何?そんなすげぇ奴…浅葱にいたのか?』
『あ…そっか!!ユキちゃんは私立だったから聞いたことないんか!?』
『浅葱が異常に不良率が高いのは知ってるけど…』
『浅葱には最狂最悪コンビ、"鬼と悪魔"ってのがいたんだよ!!ここらでもちょっとした都市伝説になってたよ。』
晋がふかすタバコの煙を眺めながら、幸人はぼんやりと思い出した。
(そういや"赤髪"の制服も浅葱だっけ?じゃあそのすげぇ奴ってアイツのボスかもしんねぇな。)
そんな物思いにふける幸人に晋は当時の噂を教え始めた。
『"ハコヤマデーモン"と"鬼のトーマ"って言ってな、真っ黒な悪魔と真っ赤な鬼…その強さはまさに人じゃねぇってな。』
『……真っ赤な鬼?』
『あ…それはただの髪の色。あと名字にも確か鬼ってのがあったかな…。それらをモジってんだよ。』
『…』
ーーー“鬼ってぇーのは昔から"赤鬼"って決まってんだろ?”
幸人はしばらく黙ったあと、晋と栄吉に言った。
『おい…その鬼のトーマって奴に会いに行くぞ。』
『『マジで!?』』
幸人は確かめたかった。
そんなまさかとは思いつつも、自分の勘が当たってるような気もした。
会いに行くといっても卒業した今、【ソイツ】に会いに行くのに、どこに行けばいいかわからないからとりあえず浅葱中学へ目指した。
『なんか俺ら道場破りに行くみたいだな。』
『ばぁーか。道場じゃねぇよ。族潰しですらねぇよ…』
晋と栄吉の会話の横で幸人は空き地に目が止まった。
数名の不良がそこにたむろっていた。
『…あれ、浅葱の制服じゃね?』
『え?…あ!!ホントだ!!』
晋がそう言うよりも先に栄吉は集団に向かって歩き出していた。
幸人達もそれに続く。
『おい、ハコヤマデーモンと赤鬼のトーマってのはどこにいんだ?』
栄吉のその問いに浅葱中の不良達が全員睨んできた。
『あぁ?なんだ、てめぇ?』
『波古山さんと斗真さんに何の用だ、こら!!』
『おい、こいつら山吹中だぞ!!』
口々に出る言葉に幸人はすでに半切れで言った。
『そういうのいいから。早く言えよ。』
その幸人の物言いにあっという間に取っ組み合いとなった。
幸人達の方が人数少なくて苦戦したものの、どうにか浅葱中の不良を倒した。
若干足を引きずる栄吉を晋が支えながら歩く。
幸人はその後ろに着いていった。
栄吉は血を含む唾を吐いた。
『ーったく…アイツらも鬼達のいる場所知んねぇのかよ…』
『まぁ、今度また別の奴らから聞き出せばいいし…』
幸人達はそう言って、とりあえず今日は帰ろうとなった。
三人が歩いている先に一人の男子学生も歩いてきた。
すれ違った瞬間、幸人は立ち止まった。
晋も幸人を不思議がって立ち止まる。
『ん?ユキちゃんどうしたよ?』
幸人は振り返る。
栄吉は腫れていない片方の目で遠ざかる学生の背中を見た。
『あれは…ここらの進学校の制服じゃん。アイツがどうかしたか?』
髪は黒いけど…
進学校の制服だけど…
幸人は二人に言った。
『あれ、知り合いかもしんねぇ。悪りぃ!!先行ってろ。』
言うや否や幸人は先ほどの喧嘩で軋む体を動かし、必死で一人の男に追い付こうとした。
あと少しというところで幸人は声を出した。
『鬼の!!……トーマ…』
だんだん小さくなった声だが、男はちゃんと聞こえたらしく振り返った。
それは確かにあの時の赤髪の男だった。
斗真は首を傾げた。
『……お前…』
『アンタやっぱり…鬼のトーマかよ…。』
大した距離を走ったわけではないが痛む体に思わず膝に手をつく。
斗真は前と変わらない笑顔でヘラッとした。
『君、世華の子じゃん!!久しぶり?って日本語合ってる?』
『アンタがホントに噂の"赤鬼"かよ…。』
『噂?……まぁ多分そうだね。』
『なんか…すげぇ変わっちまってるけど、なんだそれ…髪…。』
『そういうエンジェル君も変わったね?世華じゃないし、髪も短くて染めたりもしたんかな?しかも…』
斗真は幸人の全身を見た。
『喧嘩も…してるみたい…だな?』
幸人は口元の傷を手の甲でグイッと拭った。
『んなこたぁどうでもいいだろ?つーかエンジェルってなんだよ…』
『君のあの黒髪よかったのになぁ…綺麗な天使の輪が出来てたもん!!』
『はぁ?何言って…』
『で、今日は何の用?』
斗真はニコニコと笑って聞いてきた。
幸人は深呼吸したあと、斗真を見た。
『俺と勝負しろ。喧嘩だ…手加減すんなよ?』
斗真はキョトンとした顔で首を傾げた。
『……俺、君から恨み買うようなこと何かしたっけ?』
『あ?ねぇよ、理由なんか!!』
それが幸人の本音だった。
ウドの大木と思ったヘラヘラしたバカな男の噂がどんなものなのか 。
自分の強さがどこまで通用するのか。
それを確かめたかっただけである。
そしてほんの少し斗真を侮っており、勝てる自信がどっかにあった。
すげぇ奴を潰したいワクワクさがあったのも否定出来ない。
幸人が両手で構えると斗真も諦めたように鞄を置き、ブレザーを脱いだ。
『わかった。しょうがないなぁ…』
その様子に幸人も戦闘体勢で一歩踏み出そうとした。
しかしすぐに止まった。
『……何…してんだ?』
幸人の目の前で斗真は体すべてを地面に丸投げして大の字で寝ているのである。
『何って…エンジェル君の気が済むまで好きなだけ殴り蹴りしていいよぉ~のポーズ。』
幸人は眉間に皺を寄せて、叫んだ。
『あぁ?てめぇ舐めてんじゃねぇぞ!?一体何のつもりだ!?手加減すんなっつっただろぉが!!!!』
『手加減してないっての!!これで全力のポーズなのだ!!』
『ふざけんな!!!!てめぇ最初から勝負に怖じけついてんのか!?この腰抜けが!!』
幸人の罵倒に斗真がゆっくり体を起こした。
それに思わずビクッと体を揺らしてしまったが、斗真は起きただけでその場に胡座をかき、立とうとしない。
そのままジッと幸人を見ている。
『悪いけど俺はもう"赤鬼"じゃあねぇんだ。だから極力喧嘩はしねぇことにしたんだ!!』
『なん…だ、それ…』
『それにお前、怪我してんじゃん。喧嘩したとしても、俺が勝つよ。』
斗真は立ち上がって、お尻の砂を払う。
そして横に置いていた鞄とブレザーを手に取った。
幸人は声が震えた。
『…んなもん、やってみなきゃ…』
『それに、』
斗真は幸人の頭に手を置いた。
『俺、実は強いから。怪我がなかったとしても俺の勝ちだよ。』
自信過剰ではない。
ハッタリでもない。
幸人は肌でそれがわかった。
(こいつ…本物だ。)
幸人はニッコリと笑うその顔を凝視した。
『お前が寝転ぶ奴をそれでも殴るような奴じゃなくて、助かったよ。』
『なッッ!?』
『喧嘩もいいけど、お前みたいに優しい奴はもっと青春を謳歌しとけ?』
斗真は幸人にもう一度背を向けて歩き出した。
今までどんなに殴られたって、どんなに膝を地面に着いてしまったって…
どんな喧嘩も幸人は何度でも立ち向かっていった。
しかし何かしたわけでもされたわけでもないのに、かつてない敗北感が幸人にのし掛かった。
◇◇◇◇
「俺、そんときにマジで思ったのは"鬼原斗真の本気が見てぇ"ってことだった。」
小夜、亜門、幸人のコップはすっかり空になっていたが、誰も入れに行こうとはしなかった。
そして小夜は前に尚太から見せてもらった写真の斗真の顔を思い出していた。
喧嘩をやめて黒髪に戻したのは、亜門と同じ理由なんじゃないかと小夜は思った。
青春をしたかった。
(それが…鬼原斗真。)
ーーー『小夜!!大丈夫だ!!』
ーーー『小夜…俺はあいつの…』
前に時々聞こえたことのある斗真の言葉の切れ切れ。
しかし全ては思い出せない。
「小夜?」
目の前の亜門の声にハッとなった。
「あ…あぁ!!ごめん!!ボーッとしてた…。」
「……具合、悪くなったらすぐに言えよ?」
小夜はゆっくりと頷いた。
その様子に亜門はもう一度、幸人の方を見た。
「それで沢田は斗真の顔を知ってたんだな…。斗真とはそれっきりか?」
「あぁ。……いや…厳密に言やぁ、ちょっと違う。」
「…どういうことだ?」
「さっきも言ったが、俺はかつてない敗北感で屈辱的に感じたのと同時に、純粋に鬼原斗真の強さってのを見たいと思ったんだ。」
「あぁ。」
「でも喧嘩をやめたって言ってるし、髪を戻したり進学した学校はなんてとこない普通な学校だったり…何よりあの大の字を見たから、正直無理だろうなって思ってたんだ。だからこそ見たいって思ったっつーか…」
「…」
「でもそのチャンスがその年の夏…まぁ去年の夏休みのわけだが……意外にもあの鬼原斗真の本気が見れるかもしんねぇって情報が入ったんだよ。」
「お前…それってまさか…」
「あぁ。波古山もさすがにわかるだろ?」
幸人は口だけで笑ってみせた。
「鬼原斗真と黒高の頭がお互いの仲間引き連れて、やり合うって話だよ。」
小夜は亜門と幸人を交互に見た。
「黒高って?」
亜門が説明してくれた。
「黒岩《くろいわ》高校っていう、ここら一帯の不良がほぼ集まるような治安が悪いで有名な不良校だ。俺と斗真がさんざん暴れてた時に相手になった奴らは大概、黒高に進学してると思う。」
「そんな黒高と斗真君が喧嘩って…なんで?だって斗真は喧嘩をやめたんじゃ…」
幸人は腕を組んで、小夜を横目に見た。
「それは俺もよく知らねぇ。聞いた情報はやるらしいっていう日時と場所だけだ。そういうのは俺なんかよりも波古山のがわかってんだろ。」
幸人が顎で指す先は亜門だ。
亜門は一旦、息を吐いてから小夜と幸人を見た。
「あぁ。その黒高との闘争には…俺も参加したからな。」
幸人は頷いた。
「やっぱな…。」
「…お前が聞きたいことって、それか?」
亜門の質問に幸人は首を掻いた。
「あ?別に聞きたくないわけでもねぇが、んな理由なんてどうでもいい。なんであれ、鬼原斗真の力を見ることが出来たんだからな…。」
小夜は幸人に気になることを聞いてみた。
「沢田くん、見に行ったの?」
「あぁ。実はどさくさに紛れて俺もその喧嘩の輪に入って、鬼原斗真の姿を確認しに行った。もみくちゃすぎて、そんな長いこと見れなかったけどな…」
「どっちが…勝ったの?」
幸人は亜門の方を見てから、小夜にニヤッと笑った。
「鬼原達の勝ちだよ。」
「あ…そうなんだ。」
「波古山のことをその当時は知らなかったから、その時はどんなだったかわかんねぇけど、鬼原は凄かった。ちゃんと噂通りだったよ。」
亜門は深い溜め息を吐いて、椅子に背もたれた。
「それで…斗真の実力はわかったから、今度は俺のを調べるために喧嘩ふっかけたってわけか?」
「まぁそれもあるけど、あれはそれよりも第一に波古山に近付くことが目的だったんだよ。」
「え?」
「お前が"デーモン"だと気付いたのは、デーモンと鬼の噂をした後、シンとモリにかました蹴りを見てからだ。名字も"ハコヤマ"ってその時に知ったしな。」
小夜も亜門もやはりその時だったのかと頷いた。
「まぁ思えば普通の時はドモるくせに、こっちが殺気放って喧嘩を匂わすと途端にイキイキというか…堂々となりやがるから、前から妙な奴だとは思ってたけど、そうと思えばなんか納得したよ。」
幸人は亜門との初めての接触の時のことを思い出しては笑った。
「やたら喧嘩はしないっていう主張が鬼原の大の字と通ずるもんがあったしな。」
「それで俺に近付いたのは…俺に聞きたいことがあったから…か?」
「まぁな。」
幸人は真顔で亜門を見た。
「俺が聞きたいのは鬼原の事故のことだよ。」
小夜は「事故?」と幸人の言葉を繰り返した。
それに幸人は頷いた。
「あぁ。あの黒高との闘争後に起こったという…電車との衝突事故だよ…。」
小夜は息が止まる気持ちになった。
(電車の…衝突事故!?)
そんな小夜を気にしない風に幸人は亜門に聞いた。
「鬼原斗真は…ただの不慮な事故なのか?自殺?それとも……殺人か?本当はどれなんだ?」
0
あなたにおすすめの小説
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。
カレンと晴人はその後、どうなる?
クラスで1番の美少女のことが好きなのに、なぜかクラスで3番目に可愛い子に絡まれる
グミ食べたい
青春
高校一年生の高居宙は、クラスで一番の美少女・一ノ瀬雫に一目惚れし、片想い中。
彼女と仲良くなりたい一心で高校生活を送っていた……はずだった。
だが、なぜか隣の席の女子、三間坂雪が頻繁に絡んでくる。
容姿は良いが、距離感が近く、からかってくる厄介な存在――のはずだった。
「一ノ瀬さんのこと、好きなんでしょ? 手伝ってあげる」
そう言って始まったのは、恋の応援か、それとも別の何かか。
これは、一ノ瀬雫への恋をきっかけに始まる、
高居宙と三間坂雪の、少し騒がしくて少し甘い学園ラブコメディ。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる