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第九章
紅白戦(赤と青)その2
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先制された後も紅組の攻撃はロングボール主体で変わりない様だった。1TOPへポジションを上げたリーシャさんがライン裏を常に狙い、そこへ長いパスを送る。もちろんそんな単純な攻撃は簡単にカットされるのだが、サイドラインにクリアしたボールはスタッフがすぐさま投げ返すのでどちらのボールになるかは分からない。最初から高めのポジションをとったアイラ、ティアの両SBプラス中盤が若さと人数でボールへ殺到し、自分たちのものにしてしまう。奪った後はまた裏狙いのリーシャさんへ……という繰り返しを体力が続く限り行うつもりらしかった。
だがそれをそのまま受ける青組ではなかった。数分で赤組の狙いを見抜くと単純なクリアを極力排し、奪ったボールを丁寧に繋ぐ事でスローインからの混乱という不確定要素を消しにかかった。
そうなると「ボールをキープする青組」vs「プレスで奪い返そうとする赤組」という構図になり、それはそのまま実戦形式のゾーンプレスとその回避方法……となり、俺たちコーチ陣の望んだ通りとなる。
きっと今日の練習がドワーフ戦に活きるだろう、とホクホク顔の俺たちとは逆に選手達は鬼の形相でボールを追いかけていた。
「アイラパイセン、一発で行かないで!」
「戻るこっちの身にもなってよ!」
「策の無い子ね~」
「シャマー油断は禁物ですわ!」
「ルーナ! リーシャだけじゃ無理だ! リストも上げてくれ」
「駄目。リストは前半はお姫様番」
「姫様……ハアハア」
「なんだか呼吸が怖いです……」
両チーム、選手の怒号や指示が飛び交う中、ボールも同じくらい縦横無尽に飛び回っていた。というかスタッフさんが投げ入れるボールは素人のそれで、スローインのルールにもサッカードウ的狙いにも叶っておらず予想がつかない。選手の疲労は精神肉体ともに予想以上だろ。
あと俺の疲労も予想以上だった。実の所、スローイン時に誰が投げるかは俺がその都度スタッフさんに指示している。これは後半、ちょっとルールを変えないといけないかもな……と思っている時に「事件」が起きた。
それは例によってアイラさんが単独でプレスをかけにいって、あっさりとマイラさんに交わされた直後に起こった。
空いたスペースへ少しドリブルで持ち上がりパスコースを探すマイラさんの背中に、こんな声がかかったのだ。
「右から来てるよ! 無理しないでお婆ちゃん!」
「はっ!? 誰がお婆ちゃんなんです!?」
マイラさんが一応ボールを庇いつつも、声がした方向へ振り向く。だがその方向には味方はおらず、少し離れた位置に舌を出して「ごめんね」ポーズをとるアイラさんの姿があるだけだった。
「あれ? アイラにゃん?」
「マイラちゃんごめんなのだ!」
「師匠、危ない!」
事態を把握したシャマーさんが声をかけるが間に合わない。律儀にアイラさんのサイドの守備へ戻ったリーシャさん――なんだかんだで真面目な子だ――が右ではなくマイラさんの左の死角から現れ、ボールをかっさらったのだ。
「ナイスっす!」
それを見たクエンさんがボールを受け取ろうと中盤の底から前に進む。もし上手く受け取れたら、ボールを叩いてライン裏へ走り込むリーシャさんにも攻め残ったアイラさんにも、逆サイドでシャマーさんと一対一になるティアさんにも展開できると思えた。
だがリーシャさんの判断は違った。彼女はクエンさんにボールを預けずそのまま右にカットインし、ムルトさんを抜き切らないまま右足を振り抜く。
リーシャさんがペナルティエリアの外から放ったシュートは大きく左ポストを越えるかのような勢いで飛び出したにも関わらず急な弧を描いて落ち、ボナザさんの手を掠めてゴール右上に決まった。
「わたくしがブラインドになってしまって……すみません」
「いや、それは仕方ない。むしろあの軌道が反則なんだよ……」
すまなそうな顔で謝罪に近づくムルトさんに、GKのボナザさんが慰めの声をかける。確かにあのシュートはタイミング、コース、勢いとも完璧で止めるのはほぼ不可能だった。
「凄いよリーシャ! ナイスゴール!」
一方、赤組の誰よりも派手にリーシャさんのゴールを祝いに来たのは例によってユイノさんだった。GKになってもそれは変わらないのな。
「もう、ユイノってば……大げさだって」
「これで高級ホテルのアフタヌーンティーに一歩前進だよ!」
そっちかい!
「マジそれな! リーシャ良いの持ってんじゃねーか!」
「アイラパイセンも良い守備だったっす!」
「ふふふ。後が怖いけどリゾートには代えられないのだ!」
祝福の輪の近くでマイラさんの背から冷気が立ち上るのが見える気がした。さっきのプレー、厳密に言えば「反スポーツ的行為」なのかもしれないが、それを明確に判断できるのは当事者や俺他数名だけで、審判の中にはいない。ゴールが認められ1-1。と同時に前半も終了する事となった。
だがそれをそのまま受ける青組ではなかった。数分で赤組の狙いを見抜くと単純なクリアを極力排し、奪ったボールを丁寧に繋ぐ事でスローインからの混乱という不確定要素を消しにかかった。
そうなると「ボールをキープする青組」vs「プレスで奪い返そうとする赤組」という構図になり、それはそのまま実戦形式のゾーンプレスとその回避方法……となり、俺たちコーチ陣の望んだ通りとなる。
きっと今日の練習がドワーフ戦に活きるだろう、とホクホク顔の俺たちとは逆に選手達は鬼の形相でボールを追いかけていた。
「アイラパイセン、一発で行かないで!」
「戻るこっちの身にもなってよ!」
「策の無い子ね~」
「シャマー油断は禁物ですわ!」
「ルーナ! リーシャだけじゃ無理だ! リストも上げてくれ」
「駄目。リストは前半はお姫様番」
「姫様……ハアハア」
「なんだか呼吸が怖いです……」
両チーム、選手の怒号や指示が飛び交う中、ボールも同じくらい縦横無尽に飛び回っていた。というかスタッフさんが投げ入れるボールは素人のそれで、スローインのルールにもサッカードウ的狙いにも叶っておらず予想がつかない。選手の疲労は精神肉体ともに予想以上だろ。
あと俺の疲労も予想以上だった。実の所、スローイン時に誰が投げるかは俺がその都度スタッフさんに指示している。これは後半、ちょっとルールを変えないといけないかもな……と思っている時に「事件」が起きた。
それは例によってアイラさんが単独でプレスをかけにいって、あっさりとマイラさんに交わされた直後に起こった。
空いたスペースへ少しドリブルで持ち上がりパスコースを探すマイラさんの背中に、こんな声がかかったのだ。
「右から来てるよ! 無理しないでお婆ちゃん!」
「はっ!? 誰がお婆ちゃんなんです!?」
マイラさんが一応ボールを庇いつつも、声がした方向へ振り向く。だがその方向には味方はおらず、少し離れた位置に舌を出して「ごめんね」ポーズをとるアイラさんの姿があるだけだった。
「あれ? アイラにゃん?」
「マイラちゃんごめんなのだ!」
「師匠、危ない!」
事態を把握したシャマーさんが声をかけるが間に合わない。律儀にアイラさんのサイドの守備へ戻ったリーシャさん――なんだかんだで真面目な子だ――が右ではなくマイラさんの左の死角から現れ、ボールをかっさらったのだ。
「ナイスっす!」
それを見たクエンさんがボールを受け取ろうと中盤の底から前に進む。もし上手く受け取れたら、ボールを叩いてライン裏へ走り込むリーシャさんにも攻め残ったアイラさんにも、逆サイドでシャマーさんと一対一になるティアさんにも展開できると思えた。
だがリーシャさんの判断は違った。彼女はクエンさんにボールを預けずそのまま右にカットインし、ムルトさんを抜き切らないまま右足を振り抜く。
リーシャさんがペナルティエリアの外から放ったシュートは大きく左ポストを越えるかのような勢いで飛び出したにも関わらず急な弧を描いて落ち、ボナザさんの手を掠めてゴール右上に決まった。
「わたくしがブラインドになってしまって……すみません」
「いや、それは仕方ない。むしろあの軌道が反則なんだよ……」
すまなそうな顔で謝罪に近づくムルトさんに、GKのボナザさんが慰めの声をかける。確かにあのシュートはタイミング、コース、勢いとも完璧で止めるのはほぼ不可能だった。
「凄いよリーシャ! ナイスゴール!」
一方、赤組の誰よりも派手にリーシャさんのゴールを祝いに来たのは例によってユイノさんだった。GKになってもそれは変わらないのな。
「もう、ユイノってば……大げさだって」
「これで高級ホテルのアフタヌーンティーに一歩前進だよ!」
そっちかい!
「マジそれな! リーシャ良いの持ってんじゃねーか!」
「アイラパイセンも良い守備だったっす!」
「ふふふ。後が怖いけどリゾートには代えられないのだ!」
祝福の輪の近くでマイラさんの背から冷気が立ち上るのが見える気がした。さっきのプレー、厳密に言えば「反スポーツ的行為」なのかもしれないが、それを明確に判断できるのは当事者や俺他数名だけで、審判の中にはいない。ゴールが認められ1-1。と同時に前半も終了する事となった。
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