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第九章
紅白戦(赤と青)その1
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試合は赤組、主に若手――と言ってもエルフなので全員が俺より年上だ――中心で形成されたチームのキックオフで始まった。FWのリストさんが自陣にボールを戻し、中盤に入ったリーシャさんを経由して更に後ろに、左CBを務めるらしいルーナさんまで下げる。
若手にしては後ろ向きだな……と思ったのは浅慮だった。主にベテランを集めた青組がまだ全体を上げきる前に、ルーナさんからライナーの様なボールが青組のDFラインに送られたのだ。
「このデカ女はマイラも無理なのです~」
「受け取ったでござる!」
狙いは青組の左SBに入ったマイラさんだった。普段はボランチとして読みと駆け引きでインターセプトの山を築く彼女だが、最終ラインでリストさんのような屈強なFWと高いボールを競り合うのは荷が重かった。
「よっしゃ出せ!」
そこを怒鳴りながらティアさんが追い越して行く。元々攻撃的なSBとは言え、ずいぶん早い。これは完全にデザインされたパターン、序盤の奇襲攻撃の策だろう。
「若手にしてはやりますね」
俺は隣にいるジノリコーチに話しかけた。ゾーンプレスでもボール保持でも、普通に考えればベテランの青組に成熟度では分がある。それが効果を発揮する前に先制パンチを入れるつもりなのだ。しかもルーナ→ティアのラインはミノタウロス戦で実績がある。
「いや見ろ」
ジノリコーチの指さす先には、素早くラインブレイクしてティアさんへ距離を詰めるムルトさんの姿があった。ティアさんもリストさんから申し分のないタイミングでパスを受けたものの、ミノタウロス戦の様に独走とはいかない。
「おーさすがの間合い」
「距離が良いからサポートへ行けたんじゃ」
なるほどゾーンDFの成熟度もベテラン組が上か。感心している間にも中央の守備が揃い、ティアさんは苦し紛れになんとかボールをムルトさんの足に当てボールをゴールライン外へ出す。
「ちっ、コーナーか」
「マギーさんお願いします!」
俺は拡声器で清掃員のノームのオバサンに声をかける。マギーさんはにっこりと頷いて持っていたボールをぽいっとピッチ内に投げ入れた。
「あれ?」
つかつかとコーナーへ歩き出していたティアさんの逆を取るようにボールが飛び、ペナルティエリア内のボナザさんの足下まで転がる。
「ボナザこっち!」
中盤で手を振るシャマーさんにボナザさんがボールを拾って投げる。
「何やってんのティア!」
「コーナーもスローインもないのだ!」
リーシャさんとアイラさんがそう叫びながら守備位置をスライドしていくが、それぞれの距離がせばまる前にシャマーさんは素早くダリオさんへパスを送る。
「あーここのラインもミノタウロス戦で見たな」
さかつくで言うところのラインが繋がってる状態だな。この世界の人には通じない例えだけど。
そんな事を考えている間にもダリオさんはティアさんが戻ってない左にドリブルを進め、クエンさんと一対一を迎えた。
「ここは自分が止めるっす!」
「あら? 私の担当はクエンさん? あちらじゃなくて?」
ダリオさんは虎視眈々とフェイントをかけつつ嫣然と微笑み、視線を自陣の方へ向ける。
「姫~いかせないでござる!」
「ちょ、リストパイセン!?」
その方向には猛然と守備に戻るリストさんの姿があった。クエンさんがそれに気を取られたのは一瞬ではあったが、ダリオさんには十分な時間だった。
ダリオさんは一気に両者を置き去りに縦へ進み、角度のない所から足を振り抜く。強烈なシュートをユイノさんは何とか弾いたが、ボールは運悪くもう一名のFWヨンさんの前に転がった。
「ユイノ悪い!」
何気にミノタウロス戦でユイノさんと交代で入っていた似たような長身FWさんは、その長身を全く必要としない地面のボールを丁寧にゴールへ叩き込んだ。
前半5分。青組先制。
「なにやってんだよー」
「お前が言うな!」
キックオフ時の位置へ戻りながら文句を垂れるティアさんに赤組の若手達が一斉に突っ込む。そりゃそうだ。失点の切っ掛けは、CKを獲得したと思いこんだティアさんのミスからだから。
「ムルトさんを抜き切れなくてCKを取りに行ったのは、ティアさんらしい機転の効いたプレーではありましたけどね」
「うむ。しかしあの子は頭が回る分、ズルをするというか上手く手を抜いてしまう部分もあるからのう。これで学んでくれれば良いのじゃが」
俺とジノリコーチはそう語り合いながらも選手の様子をチェックする。この『デス90』において数少ない息をつける場面が、得点が入ってキックオフで再開するまでの時間だ。その間に誰がどういうコミュニケーションを取るか、確認しておきたかった。
「後ろからボナザ、ムルト、マイラ、シャマー、ダリオと声を出せる選手が揃っている青組はやはり固いのう。マイラとシャマーの位置を変えよったわ」
「紅組はルーナさんしかいませんね。あ、でもリストさんを呼んだ。リストさんをCBに落として他を一列づつ上げるつもりかな?」
見守る間にそれぞれのチームが少し布陣を直し、試合が再開された。ベテランの多い青組が先制してやや守りに入り、若者の多い赤組がそれを攻め立てる。一番、面白い展開になりそうだった。
若手にしては後ろ向きだな……と思ったのは浅慮だった。主にベテランを集めた青組がまだ全体を上げきる前に、ルーナさんからライナーの様なボールが青組のDFラインに送られたのだ。
「このデカ女はマイラも無理なのです~」
「受け取ったでござる!」
狙いは青組の左SBに入ったマイラさんだった。普段はボランチとして読みと駆け引きでインターセプトの山を築く彼女だが、最終ラインでリストさんのような屈強なFWと高いボールを競り合うのは荷が重かった。
「よっしゃ出せ!」
そこを怒鳴りながらティアさんが追い越して行く。元々攻撃的なSBとは言え、ずいぶん早い。これは完全にデザインされたパターン、序盤の奇襲攻撃の策だろう。
「若手にしてはやりますね」
俺は隣にいるジノリコーチに話しかけた。ゾーンプレスでもボール保持でも、普通に考えればベテランの青組に成熟度では分がある。それが効果を発揮する前に先制パンチを入れるつもりなのだ。しかもルーナ→ティアのラインはミノタウロス戦で実績がある。
「いや見ろ」
ジノリコーチの指さす先には、素早くラインブレイクしてティアさんへ距離を詰めるムルトさんの姿があった。ティアさんもリストさんから申し分のないタイミングでパスを受けたものの、ミノタウロス戦の様に独走とはいかない。
「おーさすがの間合い」
「距離が良いからサポートへ行けたんじゃ」
なるほどゾーンDFの成熟度もベテラン組が上か。感心している間にも中央の守備が揃い、ティアさんは苦し紛れになんとかボールをムルトさんの足に当てボールをゴールライン外へ出す。
「ちっ、コーナーか」
「マギーさんお願いします!」
俺は拡声器で清掃員のノームのオバサンに声をかける。マギーさんはにっこりと頷いて持っていたボールをぽいっとピッチ内に投げ入れた。
「あれ?」
つかつかとコーナーへ歩き出していたティアさんの逆を取るようにボールが飛び、ペナルティエリア内のボナザさんの足下まで転がる。
「ボナザこっち!」
中盤で手を振るシャマーさんにボナザさんがボールを拾って投げる。
「何やってんのティア!」
「コーナーもスローインもないのだ!」
リーシャさんとアイラさんがそう叫びながら守備位置をスライドしていくが、それぞれの距離がせばまる前にシャマーさんは素早くダリオさんへパスを送る。
「あーここのラインもミノタウロス戦で見たな」
さかつくで言うところのラインが繋がってる状態だな。この世界の人には通じない例えだけど。
そんな事を考えている間にもダリオさんはティアさんが戻ってない左にドリブルを進め、クエンさんと一対一を迎えた。
「ここは自分が止めるっす!」
「あら? 私の担当はクエンさん? あちらじゃなくて?」
ダリオさんは虎視眈々とフェイントをかけつつ嫣然と微笑み、視線を自陣の方へ向ける。
「姫~いかせないでござる!」
「ちょ、リストパイセン!?」
その方向には猛然と守備に戻るリストさんの姿があった。クエンさんがそれに気を取られたのは一瞬ではあったが、ダリオさんには十分な時間だった。
ダリオさんは一気に両者を置き去りに縦へ進み、角度のない所から足を振り抜く。強烈なシュートをユイノさんは何とか弾いたが、ボールは運悪くもう一名のFWヨンさんの前に転がった。
「ユイノ悪い!」
何気にミノタウロス戦でユイノさんと交代で入っていた似たような長身FWさんは、その長身を全く必要としない地面のボールを丁寧にゴールへ叩き込んだ。
前半5分。青組先制。
「なにやってんだよー」
「お前が言うな!」
キックオフ時の位置へ戻りながら文句を垂れるティアさんに赤組の若手達が一斉に突っ込む。そりゃそうだ。失点の切っ掛けは、CKを獲得したと思いこんだティアさんのミスからだから。
「ムルトさんを抜き切れなくてCKを取りに行ったのは、ティアさんらしい機転の効いたプレーではありましたけどね」
「うむ。しかしあの子は頭が回る分、ズルをするというか上手く手を抜いてしまう部分もあるからのう。これで学んでくれれば良いのじゃが」
俺とジノリコーチはそう語り合いながらも選手の様子をチェックする。この『デス90』において数少ない息をつける場面が、得点が入ってキックオフで再開するまでの時間だ。その間に誰がどういうコミュニケーションを取るか、確認しておきたかった。
「後ろからボナザ、ムルト、マイラ、シャマー、ダリオと声を出せる選手が揃っている青組はやはり固いのう。マイラとシャマーの位置を変えよったわ」
「紅組はルーナさんしかいませんね。あ、でもリストさんを呼んだ。リストさんをCBに落として他を一列づつ上げるつもりかな?」
見守る間にそれぞれのチームが少し布陣を直し、試合が再開された。ベテランの多い青組が先制してやや守りに入り、若者の多い赤組がそれを攻め立てる。一番、面白い展開になりそうだった。
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