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第十三章
水上会議
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「ほう。ティアさんやるな」
落ち着いて見るとティア号とリーシャ号の距離は更に開いていた。ぱっと見だが、ティアさんの船長っぷりが良いみたいだ。
トップに置くなら有能な怠け者……とかなんとかも頭によぎったが、たぶんそれだけではない。ティアさんは声が大きく自信満々で、指示を出すにも躊躇いがない。故に船員も迷い無く動けるのだろう。
一方リーシャさんは自分が早く動く分には良いのだろうが、他者を素早く動かせる方は苦手なようだった。まあリネカー曰くFWなんて90分の間85分くらい良いボールが来るまでイライラしながら待ってるようなもんだし、我慢を覚えて貰おう。
「お先ですよ~」
ちょうど2杯とすれ違う位置関係に近づき帆と舵も固定できたので、俺は彼女らに向けて変顔をしながら声をかけた。
「…………」
残念ながら無反応だ。いつもならこれくらいで大爆笑してくれるダリオさんシャマーさんといったドーンエルフの皆さんですら、一心不乱に操船作業に勤しんでいる。ちょっと寂しいな……。
「むかー!」
「リーシャパイセン、落ち着いて欲しいっす!」
良かった、リーシャさんには挑発が効いた。クエンさんに宥め賺される強気なFWの姿に満足して、俺はレースに戻ることにした。
その為、クエンさんの後の言葉に気付いてなかった。
「このままじゃ勝てないっす。でも自分に策があるっす!」
俺のディードは早くも2周目にさしかかろうとしていた。なるべくインを攻めようとした俺は、ゴールラインの片端にいるユウゾさんに呼び止められる。
「ちょいと監督さん? あの娘たち……少し様子が変だぜ!」
ユウゾさんはそう言いながら俺の後方を指差す。彼の指し示す方向を見ると、折り返し地点のブイを挟んでティア号とリーシャ号が接近し、何か話し合っていた。
「トラブル……ですかね? まさか喧嘩とか!?」
「いや、見てた感じそうではないな。何か間を飛び越えて行ったりきたりしている娘もいるが……」
ユウゾさんがそういう間にもレイさんがひょいと跳躍し、リーシャ号からティア号へ飛び移った。
「うわ怖っ! 義経かよ!」
彼女たちが止まっているなら俺も停止して差し支えあるまい。俺は完全には停泊しないまでも帆をまとめ、視力の良いエルフのユウゾさんに更に状況を聞く。
「何か持って行って箱の上に広げているみたいだ。どうする?」
「攻撃は反則にしてますけど、モノの移動も別に禁止してませんしねえ」
それ以前に何か持って行ったからと言って有利不利はない筈だ。マ○オカートみたいに投げつける甲羅がある訳でもないし、船体重量が変わるほど荷物の移動を行っている様子もない。
「あーありゃ会議だな」
ユウゾさんは目を細めて言う。どうも鎌倉殿の13人ならぬ幅寄せヨットの13人以上のエルフは、箱を挟んで軍議を行っているらしかった。
「ははーん、さては。分かりました、じゃあゴニョゴニョということで」
なんとなくピンときた俺はユウゾさんに耳打ちすると、再びレースへ戻った。アローズの皆が狙っている事は大変、好ましく思うが簡単にやらせるつもりはない。せいぜい、足掻いて貰おう。
ディードが島を回り込み再び彼女らと真正面に向き合った時、レースの順位はディードリット号、リーシャ号、ティア号になっていた。
「ふーん、やっぱり……」
リーシャ号がティア号を追い抜いた、という訳ではない。リーシャ号はそのまま進み、ティア号が先ほどの折り返し地点付近に停まったままだったのだ。
しかもその船体をレースの進行方向に対して直角に向けながら、だ。明らかに、先頭の俺を妨害する構えだ。
「ブロッキング……いや、スクリーンと言った方が良いかな?」
レースにおいてエースが逃げ切るのをアシストする為に、仲間が後続車或いは後続者を妨害するのがブロッキングだ。今回は周回遅れに甘んじつつ先行する俺を足止めし、仲間が追いつくのを期待する……という形で少し特殊ではあるが、一応そう呼んで差し支えないだろう。
だが俺はそれをスクリーンだと思った。何故ならそれは、俺たちコーチ陣が現在進行形でアローズに仕込んでいる戦術だからだ。
スクリーンとはバスケットボール等で良く見られるモノで、マーカーにつかれている選手の為に仲間が壁として立ちはだかり、マーカーの進路を妨害して味方をフリーにするテクニックだ。壁になった選手とマーカーは得てしてまあまあの速度で衝突しそれでも踏ん張る必要があるのでそれなりの度胸と体力、そして何よりも利他精神が必要となる。
因みにサッカーをはじめ幾つかの球技にはインピード――オブストラクションとも――と言うボールを保持していない選手が進路妨害する事を禁止するルールがあり上手くやらないと反則を取られる。件のバスケットボールにおいてもスクリーンの選手は完全に静止していないとならない、といった決まりがある。つまりこの技の使用は前述の幾つかに加え、位置関係の把握やタイミングの調整など知性も要求されるのだ。
しかし、である。そのインピード、ことセットプレーにおいては非常に取られにくい反則である。何故なら直接ゴールを狙うではない、味方に合わせるタイプのFK等の場合はボールに対して全員がアクションを起こすし、そもそも待ち受ける地点で攻撃側も守備側も選手が溢れ、ゴチャゴチャしている。結果、誰が「ボールに対してプレイする意図を持たずに進路を妨害しているか?」が判断し難いのだ。
だから俺はスクリーンを使うならセットプレー、しかも対オーク戦がベストだと踏んでいた。
なにせオーク代表は極端なマンマークDFを行うチームで――余談だが「マークする相手がトイレへ行けばトイレまでついて行く」と言われている。本当に来たらめっちゃ怖いな!――スクリーンプレイを仕掛けやすい。しかも俺たちはセットプレーの威力を見せて、オーク代表のイエローカードも辞さない激しいDFを萎縮させようと狙っている。こんなに適したタイミングはない。
とは言えこの戦術、オフサイドトラップやゾーンプレス以上に消化するのが難しい概念だったらしく、ここ数日の練習でもかなり苦戦していた。
だからこんな場で彼女たちがそれを試みて来るとは、本当に意外な喜びだった。デス90が嫌だから知恵を絞ったのかな? と思うと悲しいけどね……。
落ち着いて見るとティア号とリーシャ号の距離は更に開いていた。ぱっと見だが、ティアさんの船長っぷりが良いみたいだ。
トップに置くなら有能な怠け者……とかなんとかも頭によぎったが、たぶんそれだけではない。ティアさんは声が大きく自信満々で、指示を出すにも躊躇いがない。故に船員も迷い無く動けるのだろう。
一方リーシャさんは自分が早く動く分には良いのだろうが、他者を素早く動かせる方は苦手なようだった。まあリネカー曰くFWなんて90分の間85分くらい良いボールが来るまでイライラしながら待ってるようなもんだし、我慢を覚えて貰おう。
「お先ですよ~」
ちょうど2杯とすれ違う位置関係に近づき帆と舵も固定できたので、俺は彼女らに向けて変顔をしながら声をかけた。
「…………」
残念ながら無反応だ。いつもならこれくらいで大爆笑してくれるダリオさんシャマーさんといったドーンエルフの皆さんですら、一心不乱に操船作業に勤しんでいる。ちょっと寂しいな……。
「むかー!」
「リーシャパイセン、落ち着いて欲しいっす!」
良かった、リーシャさんには挑発が効いた。クエンさんに宥め賺される強気なFWの姿に満足して、俺はレースに戻ることにした。
その為、クエンさんの後の言葉に気付いてなかった。
「このままじゃ勝てないっす。でも自分に策があるっす!」
俺のディードは早くも2周目にさしかかろうとしていた。なるべくインを攻めようとした俺は、ゴールラインの片端にいるユウゾさんに呼び止められる。
「ちょいと監督さん? あの娘たち……少し様子が変だぜ!」
ユウゾさんはそう言いながら俺の後方を指差す。彼の指し示す方向を見ると、折り返し地点のブイを挟んでティア号とリーシャ号が接近し、何か話し合っていた。
「トラブル……ですかね? まさか喧嘩とか!?」
「いや、見てた感じそうではないな。何か間を飛び越えて行ったりきたりしている娘もいるが……」
ユウゾさんがそういう間にもレイさんがひょいと跳躍し、リーシャ号からティア号へ飛び移った。
「うわ怖っ! 義経かよ!」
彼女たちが止まっているなら俺も停止して差し支えあるまい。俺は完全には停泊しないまでも帆をまとめ、視力の良いエルフのユウゾさんに更に状況を聞く。
「何か持って行って箱の上に広げているみたいだ。どうする?」
「攻撃は反則にしてますけど、モノの移動も別に禁止してませんしねえ」
それ以前に何か持って行ったからと言って有利不利はない筈だ。マ○オカートみたいに投げつける甲羅がある訳でもないし、船体重量が変わるほど荷物の移動を行っている様子もない。
「あーありゃ会議だな」
ユウゾさんは目を細めて言う。どうも鎌倉殿の13人ならぬ幅寄せヨットの13人以上のエルフは、箱を挟んで軍議を行っているらしかった。
「ははーん、さては。分かりました、じゃあゴニョゴニョということで」
なんとなくピンときた俺はユウゾさんに耳打ちすると、再びレースへ戻った。アローズの皆が狙っている事は大変、好ましく思うが簡単にやらせるつもりはない。せいぜい、足掻いて貰おう。
ディードが島を回り込み再び彼女らと真正面に向き合った時、レースの順位はディードリット号、リーシャ号、ティア号になっていた。
「ふーん、やっぱり……」
リーシャ号がティア号を追い抜いた、という訳ではない。リーシャ号はそのまま進み、ティア号が先ほどの折り返し地点付近に停まったままだったのだ。
しかもその船体をレースの進行方向に対して直角に向けながら、だ。明らかに、先頭の俺を妨害する構えだ。
「ブロッキング……いや、スクリーンと言った方が良いかな?」
レースにおいてエースが逃げ切るのをアシストする為に、仲間が後続車或いは後続者を妨害するのがブロッキングだ。今回は周回遅れに甘んじつつ先行する俺を足止めし、仲間が追いつくのを期待する……という形で少し特殊ではあるが、一応そう呼んで差し支えないだろう。
だが俺はそれをスクリーンだと思った。何故ならそれは、俺たちコーチ陣が現在進行形でアローズに仕込んでいる戦術だからだ。
スクリーンとはバスケットボール等で良く見られるモノで、マーカーにつかれている選手の為に仲間が壁として立ちはだかり、マーカーの進路を妨害して味方をフリーにするテクニックだ。壁になった選手とマーカーは得てしてまあまあの速度で衝突しそれでも踏ん張る必要があるのでそれなりの度胸と体力、そして何よりも利他精神が必要となる。
因みにサッカーをはじめ幾つかの球技にはインピード――オブストラクションとも――と言うボールを保持していない選手が進路妨害する事を禁止するルールがあり上手くやらないと反則を取られる。件のバスケットボールにおいてもスクリーンの選手は完全に静止していないとならない、といった決まりがある。つまりこの技の使用は前述の幾つかに加え、位置関係の把握やタイミングの調整など知性も要求されるのだ。
しかし、である。そのインピード、ことセットプレーにおいては非常に取られにくい反則である。何故なら直接ゴールを狙うではない、味方に合わせるタイプのFK等の場合はボールに対して全員がアクションを起こすし、そもそも待ち受ける地点で攻撃側も守備側も選手が溢れ、ゴチャゴチャしている。結果、誰が「ボールに対してプレイする意図を持たずに進路を妨害しているか?」が判断し難いのだ。
だから俺はスクリーンを使うならセットプレー、しかも対オーク戦がベストだと踏んでいた。
なにせオーク代表は極端なマンマークDFを行うチームで――余談だが「マークする相手がトイレへ行けばトイレまでついて行く」と言われている。本当に来たらめっちゃ怖いな!――スクリーンプレイを仕掛けやすい。しかも俺たちはセットプレーの威力を見せて、オーク代表のイエローカードも辞さない激しいDFを萎縮させようと狙っている。こんなに適したタイミングはない。
とは言えこの戦術、オフサイドトラップやゾーンプレス以上に消化するのが難しい概念だったらしく、ここ数日の練習でもかなり苦戦していた。
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