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第十八章
廊下で語ろうか
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「良い試合でした……うわっ」
俺は試合後の握手をラリー監督と交わしつつ、スタンドの様子を見て思わず悲鳴を上げた。
「ショーキチどうしたでありますか?」
「いや、なんでもありません。ラリー監督もすみません」
ついてきてくれたナリンさんとラリー監督に謝罪しつつ、改めて観客席をみる。そこでは……インセクターの観客達が、恐ろしいほど綺麗に整列して規制退場を行っていた。
「そうか、勝利を祝って歌うとかサンフレ劇場とかも要らないんだ」
あの辺りのセレモニーやイベント、お客様の帰路での混雑を避ける意味もあるらしいが、ことインセクターにとっては感情の意味でも利便性の意味でも必要ない様子だ。
「ボクシー女王もいない、か」
スタンドを見たついでに貴賓席へ視線を飛ばしたが、そこに今日の真の対戦相手、影の指揮官の姿はなかった。規制退場についてのアナウンスも特に無かったと思われるし、この観衆の動きについても命令を発して退散済み、という事か。今回は何から何まで先手を打たれていたなあ。
「ショーキチ殿、急ぐであります! 皆が待っているでありますよ!」
遠い目をしている俺を珍しくナリンさんが急かした。見ると既に選手の殆どはゴール裏に到着している。そうだ、3連勝も勝ち点3も届けられなかったが、遠路はるばる来てくれてたサポーターに挨拶しなければ。
「すみません、ぼーっとしちゃって。行きましょう!」
俺はナリンさんにもう一度、謝罪し皆の元へ駆けて行った。
その後の記者会見や試合後の後かたづけは、これまたインセクターさんが例の手腕を発揮し非常にテキパキと行われた。そんな中、選手とコーチ陣を試合後の整理体操へ送り出した俺は誰もいない廊下を何とか見つけだし、そっと地べたに腰を下ろした。
「危なかった……疲れた……」
ため息と同時に心からの本音を吐く。もう少しで試合に負ける所だったという恐怖、相手に主導権を奪われひたすら頭脳戦を挑まれる疲労、そう言ったモノが今になって襲いかかってきたのだ。
「ミノタウロス戦よりも疲れたかもしれん」
あの時は指揮も初めてだったしオフサイドラインに合わせて走る、といった肉体的疲労が先立ってきたので今日ほどでは無かった。
「良いFKだったなあ」
ネクタイを緩めシャツのボタンを幾つか外しながら呟く。FKで負け或いは引き分け試合を引き分けや勝ちへ持ち込む、というのは良いチームあるあるで、そういう意味では喜ばしくもあるのだが……。今日は本当に指揮官の対決で負けていた所を選手に救われた形だ。
「随分とお疲れですね」
「はい!?」
急に話しかけられ、そちらを見つつ立ち上がる。
「まあ、お座りになったままで良かったのに」
ラメラさんだ。インセクターに仕えるドーンエルフの女性は、その美しい金色の瞳に優しい光を湛えつつこちらを見ていた。
「いえ、そんな失礼は……」
俺は慌てて姿勢を直しネクタイを締め直す。彼女はインセクター側が手配してくれた案内役で言うならばこちら側の人員ではあるが、ボクシー女王の側近でもあると聞く。無礼があってはいけない。
「私、サッカードウの事は分かりませんが、素晴らしい試合だったと思います」
「それはありがとうございます。インセクターさんも想像以上に良いチームで。ボクシー女王の薫陶によるものですね」
サッカードウ知らん言うてはるしお偉いさんのつれやしボロは出しはりませんやろけどなあ? と俺の内なる京都人が言ってはいるが、駄目もとでカマをかけてみる。
「うふふ。女王と言えば、こちらを……」
しかしラメラさんはそんな一撃を柔らかい笑みで受け流し、懐から小瓶を取り出した。ちなみに彼女、今日は髪の色と同じ薄い青色の着物っぽい服を着てらっしゃる。胸の谷間が見えそうになるので目を背けるしかない。ズルい。
「宜しければお飲み下さい、と。疲労回復に良いそうですよ?」
そう言いながらラメラさんが手渡してきた瓶を俺は受け取った。白い陶器っぽい材質で中身は見えない。栓を開けると花の蜜の様な甘い香りがする。
「どうも。頂きます」
ここにきて下剤とかその類のモノは無いだろう。俺は礼を言って一気に飲み干した。
「あれ? なんか……」
予想通り甘い味で疲れに効きそうではある。予想と違うのは口にした時の感覚だ。新しいような懐かしいような……。
「今晩は泊まって、明日の朝アーロンへ飛ばれるのですよね?」
何かが脳内で繋がりかけていたが、ラメラさんに質問されてそれは消えた。俺は頭を振って必死に思考を切り替える。
「ええ、もう一晩お世話になります。アーロンに魔法の馬車を用意しているので、帰国せずそこからウォルスへ向かう予定でして」
そこまで言う義理はないがこのドリンクの礼もあるし、こっちはアウェイ連戦で移動も大変なんすよ? と謎にアピールしたい気持ちもある。
「それではチャプターで素晴らしい夜と、その先の安全な旅をお祈り申し上げます。失礼しますね」
ラメラさんはそう言うと俺が飲み干した瓶を回収し去っていった。ドーンエルフの例に漏れず不思議な女性だ。
「うん、でも元気にはなったな」
これなら選手の前に出ても疲れてそうで心配される事はないだろう。俺は選手たちと合流し宿舎へ帰る事にした。
俺は試合後の握手をラリー監督と交わしつつ、スタンドの様子を見て思わず悲鳴を上げた。
「ショーキチどうしたでありますか?」
「いや、なんでもありません。ラリー監督もすみません」
ついてきてくれたナリンさんとラリー監督に謝罪しつつ、改めて観客席をみる。そこでは……インセクターの観客達が、恐ろしいほど綺麗に整列して規制退場を行っていた。
「そうか、勝利を祝って歌うとかサンフレ劇場とかも要らないんだ」
あの辺りのセレモニーやイベント、お客様の帰路での混雑を避ける意味もあるらしいが、ことインセクターにとっては感情の意味でも利便性の意味でも必要ない様子だ。
「ボクシー女王もいない、か」
スタンドを見たついでに貴賓席へ視線を飛ばしたが、そこに今日の真の対戦相手、影の指揮官の姿はなかった。規制退場についてのアナウンスも特に無かったと思われるし、この観衆の動きについても命令を発して退散済み、という事か。今回は何から何まで先手を打たれていたなあ。
「ショーキチ殿、急ぐであります! 皆が待っているでありますよ!」
遠い目をしている俺を珍しくナリンさんが急かした。見ると既に選手の殆どはゴール裏に到着している。そうだ、3連勝も勝ち点3も届けられなかったが、遠路はるばる来てくれてたサポーターに挨拶しなければ。
「すみません、ぼーっとしちゃって。行きましょう!」
俺はナリンさんにもう一度、謝罪し皆の元へ駆けて行った。
その後の記者会見や試合後の後かたづけは、これまたインセクターさんが例の手腕を発揮し非常にテキパキと行われた。そんな中、選手とコーチ陣を試合後の整理体操へ送り出した俺は誰もいない廊下を何とか見つけだし、そっと地べたに腰を下ろした。
「危なかった……疲れた……」
ため息と同時に心からの本音を吐く。もう少しで試合に負ける所だったという恐怖、相手に主導権を奪われひたすら頭脳戦を挑まれる疲労、そう言ったモノが今になって襲いかかってきたのだ。
「ミノタウロス戦よりも疲れたかもしれん」
あの時は指揮も初めてだったしオフサイドラインに合わせて走る、といった肉体的疲労が先立ってきたので今日ほどでは無かった。
「良いFKだったなあ」
ネクタイを緩めシャツのボタンを幾つか外しながら呟く。FKで負け或いは引き分け試合を引き分けや勝ちへ持ち込む、というのは良いチームあるあるで、そういう意味では喜ばしくもあるのだが……。今日は本当に指揮官の対決で負けていた所を選手に救われた形だ。
「随分とお疲れですね」
「はい!?」
急に話しかけられ、そちらを見つつ立ち上がる。
「まあ、お座りになったままで良かったのに」
ラメラさんだ。インセクターに仕えるドーンエルフの女性は、その美しい金色の瞳に優しい光を湛えつつこちらを見ていた。
「いえ、そんな失礼は……」
俺は慌てて姿勢を直しネクタイを締め直す。彼女はインセクター側が手配してくれた案内役で言うならばこちら側の人員ではあるが、ボクシー女王の側近でもあると聞く。無礼があってはいけない。
「私、サッカードウの事は分かりませんが、素晴らしい試合だったと思います」
「それはありがとうございます。インセクターさんも想像以上に良いチームで。ボクシー女王の薫陶によるものですね」
サッカードウ知らん言うてはるしお偉いさんのつれやしボロは出しはりませんやろけどなあ? と俺の内なる京都人が言ってはいるが、駄目もとでカマをかけてみる。
「うふふ。女王と言えば、こちらを……」
しかしラメラさんはそんな一撃を柔らかい笑みで受け流し、懐から小瓶を取り出した。ちなみに彼女、今日は髪の色と同じ薄い青色の着物っぽい服を着てらっしゃる。胸の谷間が見えそうになるので目を背けるしかない。ズルい。
「宜しければお飲み下さい、と。疲労回復に良いそうですよ?」
そう言いながらラメラさんが手渡してきた瓶を俺は受け取った。白い陶器っぽい材質で中身は見えない。栓を開けると花の蜜の様な甘い香りがする。
「どうも。頂きます」
ここにきて下剤とかその類のモノは無いだろう。俺は礼を言って一気に飲み干した。
「あれ? なんか……」
予想通り甘い味で疲れに効きそうではある。予想と違うのは口にした時の感覚だ。新しいような懐かしいような……。
「今晩は泊まって、明日の朝アーロンへ飛ばれるのですよね?」
何かが脳内で繋がりかけていたが、ラメラさんに質問されてそれは消えた。俺は頭を振って必死に思考を切り替える。
「ええ、もう一晩お世話になります。アーロンに魔法の馬車を用意しているので、帰国せずそこからウォルスへ向かう予定でして」
そこまで言う義理はないがこのドリンクの礼もあるし、こっちはアウェイ連戦で移動も大変なんすよ? と謎にアピールしたい気持ちもある。
「それではチャプターで素晴らしい夜と、その先の安全な旅をお祈り申し上げます。失礼しますね」
ラメラさんはそう言うと俺が飲み干した瓶を回収し去っていった。ドーンエルフの例に漏れず不思議な女性だ。
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