318 / 700
第十八章
壁を撃ち抜き
しおりを挟む
『死んじゃう死んじゃう! あ、タッキ!』
エルフの鋭さと人間のパワーを併せ持つハーフエルフ、ルーナさん全力のシュートを至近距離で喰らう事は『死』を意味する。FKの練習でも壁に入る事は一種の罰ゲームとして扱われているくらいだ。
エルエルはその弾丸が自分に当たる事を想像し怯え、ついでその軌道が壁に入ったタッキさんへ向かう事に気づいた。
しかし当のタッキさんは薄ら笑いを浮かべ瞬き一つせず、近づいてくるロケットを見つめていた。
「いったな」
逝ったでも行ったでもない。射ったと確信して俺は呟いた。
「よっト!」
先程まで壁に入ったインセクターと押し合いへし合いしながら鋼の足腰で踏ん張っていた武術家は、今度は信じられない柔軟性を見せて後ろに反り返り、高速で飛んできたボールを避けた。まるでそう、映画「マトリックス」でエージェントが撃った弾丸をのけぞって避ける主人公の様に。
『うわぁぁ!』
凶器と化したボールがタッキさんの胸部に突き刺さる幻覚を見たか、エルエルが悲鳴を上げる。しかし現実では無回転の球体はタッキさんのユニフォームにすら掠らず、壁のど真ん中を抜けてアロンゾ選手の守るゴールへ向かっていく。
「バアアアン!」
今度はギリギリ、ボールから聞こえてもおかしくはない音だった。だが剣呑さではタッキさんの肘打ちと似たようなもの。蹴り出された時のエネルギーを殆ど失っていないそれは、GKの手を弾き飛ばして……ゴールネットへ突き刺さった!
「ピピーッ!」
「よっしゃあああ!」
審判さんがゴールを認める笛を吹いたのを確認し、俺は拳を突き上げアローズサポーターが陣取るゴール裏方向へ数mダッシュして両手を上下に振って煽る。
インセクターが大半で殆ど歓声の無いこのスタジアムでは、彼ら彼女らしか盛り上げてくれる存在はいない。
「ショーキチ、決めたよー!」
その背に、FKを蹴った時の勢いそのままにルーナさんが飛びつき、おんぶするような形になった。
「ナイス、ルーナさん! ロベカルみたいなFK!」
俺は左手で彼女の左足を抱え――殊勲の左足だ。敬意を払わなければ――右手で俺の顔の左側にあるルーナさんの頭を叩いて髪をくしゃくしゃにした。
「やったよ……ちゅ」
「ん!?」
そう呟く唇が、俺の唇ギリギリ左端に吸いつき小さな音を立てる。これは……そう、ゴールを決めた興奮のあまりってやつだ。そうだよね?
『ルーナ! お前なら決めると思ってたぜ!』
『あの蹴り方、教えて欲しいっす!』
悩む間もなくベンチのティアさんやファーで待っていたクエンさんらが追いつきもみくちゃになる。
「エルフ代表、早く戻って。まだ時間はあります」
その場に審判さんが来て解散を促す。そうだ、アディショナルタイムはまだあった。
「みんな戻って! 勝ち点1じゃなくて3を狙うよ! あ、タッキさんもナイス!」
俺が言うまでもなく選手はピッチへ戻りつつあり、最後にタッキさんとも握手して俺はベンチ前へ駆け出した。
コーチ陣の元へ戻った戻った俺はジノリコーチやザックコーチとハイタッチを交わしつつメインスタンドの方を見上げる。仲間たちと作った新作セットプレイ『マトリックス』。仕組みは壁に紛れ込んだ味方が開けた穴を弾丸シュートでぶち抜く、という単純なモノだがキャッチに自信があり過ぎるGKアロンゾ選手の特徴と、特殊な体術を持つモンクであるタッキさんの個性を考慮し、ニャイアーコーチとザックコーチの助言を取り入れつつ作った作戦だ。
「彼女ならキャッチしようとして抜けるか、最悪でもファンブルするよ」
「タッキなら避けられる。或いは直撃しても死にはせんだろう。モンクの腹筋は伊達ではない」
とはその両コーチの談。
「にっひっひ。くやしいのうくやしいのう」
見上げた貴賓席ではボクシー女王が俺でも分かるほど明確に――人間の女性がやるように下唇を噛み憎々しげにこちらを睨んで――悔しがっていた。
実の所、状況としてはまだ同点だ。だが1点リードし優位にも試合を進めていたホームチームが終了間際にセットプレイ1発で追いつかれるというのは、まあまあある事とは言え受け入れ難いものだろう。
その上、彼女も俺も分かっていた。あのように言ったものの手堅いインセクターと同点にするのに力を使い尽くしたアローズでは、これ以上なにも動きようがない。
数分後、試合は2-2のままで終了を迎えた。
エルフの鋭さと人間のパワーを併せ持つハーフエルフ、ルーナさん全力のシュートを至近距離で喰らう事は『死』を意味する。FKの練習でも壁に入る事は一種の罰ゲームとして扱われているくらいだ。
エルエルはその弾丸が自分に当たる事を想像し怯え、ついでその軌道が壁に入ったタッキさんへ向かう事に気づいた。
しかし当のタッキさんは薄ら笑いを浮かべ瞬き一つせず、近づいてくるロケットを見つめていた。
「いったな」
逝ったでも行ったでもない。射ったと確信して俺は呟いた。
「よっト!」
先程まで壁に入ったインセクターと押し合いへし合いしながら鋼の足腰で踏ん張っていた武術家は、今度は信じられない柔軟性を見せて後ろに反り返り、高速で飛んできたボールを避けた。まるでそう、映画「マトリックス」でエージェントが撃った弾丸をのけぞって避ける主人公の様に。
『うわぁぁ!』
凶器と化したボールがタッキさんの胸部に突き刺さる幻覚を見たか、エルエルが悲鳴を上げる。しかし現実では無回転の球体はタッキさんのユニフォームにすら掠らず、壁のど真ん中を抜けてアロンゾ選手の守るゴールへ向かっていく。
「バアアアン!」
今度はギリギリ、ボールから聞こえてもおかしくはない音だった。だが剣呑さではタッキさんの肘打ちと似たようなもの。蹴り出された時のエネルギーを殆ど失っていないそれは、GKの手を弾き飛ばして……ゴールネットへ突き刺さった!
「ピピーッ!」
「よっしゃあああ!」
審判さんがゴールを認める笛を吹いたのを確認し、俺は拳を突き上げアローズサポーターが陣取るゴール裏方向へ数mダッシュして両手を上下に振って煽る。
インセクターが大半で殆ど歓声の無いこのスタジアムでは、彼ら彼女らしか盛り上げてくれる存在はいない。
「ショーキチ、決めたよー!」
その背に、FKを蹴った時の勢いそのままにルーナさんが飛びつき、おんぶするような形になった。
「ナイス、ルーナさん! ロベカルみたいなFK!」
俺は左手で彼女の左足を抱え――殊勲の左足だ。敬意を払わなければ――右手で俺の顔の左側にあるルーナさんの頭を叩いて髪をくしゃくしゃにした。
「やったよ……ちゅ」
「ん!?」
そう呟く唇が、俺の唇ギリギリ左端に吸いつき小さな音を立てる。これは……そう、ゴールを決めた興奮のあまりってやつだ。そうだよね?
『ルーナ! お前なら決めると思ってたぜ!』
『あの蹴り方、教えて欲しいっす!』
悩む間もなくベンチのティアさんやファーで待っていたクエンさんらが追いつきもみくちゃになる。
「エルフ代表、早く戻って。まだ時間はあります」
その場に審判さんが来て解散を促す。そうだ、アディショナルタイムはまだあった。
「みんな戻って! 勝ち点1じゃなくて3を狙うよ! あ、タッキさんもナイス!」
俺が言うまでもなく選手はピッチへ戻りつつあり、最後にタッキさんとも握手して俺はベンチ前へ駆け出した。
コーチ陣の元へ戻った戻った俺はジノリコーチやザックコーチとハイタッチを交わしつつメインスタンドの方を見上げる。仲間たちと作った新作セットプレイ『マトリックス』。仕組みは壁に紛れ込んだ味方が開けた穴を弾丸シュートでぶち抜く、という単純なモノだがキャッチに自信があり過ぎるGKアロンゾ選手の特徴と、特殊な体術を持つモンクであるタッキさんの個性を考慮し、ニャイアーコーチとザックコーチの助言を取り入れつつ作った作戦だ。
「彼女ならキャッチしようとして抜けるか、最悪でもファンブルするよ」
「タッキなら避けられる。或いは直撃しても死にはせんだろう。モンクの腹筋は伊達ではない」
とはその両コーチの談。
「にっひっひ。くやしいのうくやしいのう」
見上げた貴賓席ではボクシー女王が俺でも分かるほど明確に――人間の女性がやるように下唇を噛み憎々しげにこちらを睨んで――悔しがっていた。
実の所、状況としてはまだ同点だ。だが1点リードし優位にも試合を進めていたホームチームが終了間際にセットプレイ1発で追いつかれるというのは、まあまあある事とは言え受け入れ難いものだろう。
その上、彼女も俺も分かっていた。あのように言ったものの手堅いインセクターと同点にするのに力を使い尽くしたアローズでは、これ以上なにも動きようがない。
数分後、試合は2-2のままで終了を迎えた。
0
あなたにおすすめの小説
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…
アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。
そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!
『スローライフどこ行った?!』追放された最強凡人は望まぬハーレムに困惑する?!
たらふくごん
ファンタジー
最強の凡人――追放され、転生した蘇我頼人。
新たな世界で、彼は『ライト・ガルデス』として再び生を受ける。
※※※※※
1億年の試練。
そして、神をもしのぐ力。
それでも俺の望みは――ただのスローライフだった。
すべての試練を終え、創世神にすら認められた俺。
だが、もはや生きることに飽きていた。
『違う選択肢もあるぞ?』
創世神の言葉に乗り気でなかった俺は、
その“策略”にまんまと引っかかる。
――『神しか飲めぬ最高級のお茶』。
確かに神は嘘をついていない。
けれど、あの流れは勘違いするだろうがっ!!
そして俺は、あまりにも非道な仕打ちの末、
神の娘ティアリーナが治める世界へと“追放転生”させられた。
記憶を失い、『ライト・ガルデス』として迎えた新しい日々。
それは、久しく感じたことのない“安心”と“愛”に満ちていた。
だが――5歳の洗礼の儀式を境に、運命は動き出す。
くどいようだが、俺の望みはスローライフ。
……のはずだったのに。
呪いのような“女難の相”が炸裂し、
気づけば婚約者たちに囲まれる毎日。
どうしてこうなった!?
最初から最強ぼっちの俺は英雄になります
総長ヒューガ
ファンタジー
いつも通りに一人ぼっちでゲームをしていた、そして疲れて寝ていたら、人々の驚きの声が聞こえた、目を開けてみるとそこにはゲームの世界だった、これから待ち受ける敵にも勝たないといけない、予想外の敵にも勝たないといけないぼっちはゲーム内の英雄になれるのか!
ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話
ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。
異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。
「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」
異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ダンジョンをある日見つけた結果→世界最強になってしまった
仮実谷 望
ファンタジー
いつも遊び場にしていた山である日ダンジョンを見つけた。とりあえず入ってみるがそこは未知の場所で……モンスターや宝箱などお宝やワクワクが溢れている場所だった。
そんなところで過ごしているといつの間にかステータスが伸びて伸びていつの間にか世界最強になっていた!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる