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第二十章
不自由なゴブリベロ
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「シャマーもダリオもよく守ってくれているであります!」
「ふふ、そうですね」
驚きと称賛が混ざった声を上げるナリンさんに、俺は笑いを含んだ返答を返した。
「ダリオは様々な事ができる選手ではありますが、あの様な使い方があるとは……」
ナリンさんが言っているのは今回の行われてる作戦、『ダリオさんがカーリー選手をマークする』の事だった。
一般的にFWはDFにマークされる側である。今日の対戦で言えばダリオさんがカーリー選手にマークされる、とか。しかし今回俺は、ウチの10番に相手のリベロを逆にマークさせる事にしたのだ。
と言ってもそんなガチガチにつきまとってボールを奪いにいく、という訳ではない。ただゴブリン代表のボール保持時、必ずカーリー選手の前に立ち自由にはさせない、そして彼女が攻撃に出ればついて行く……その事だけを厳命した。
何故かと言うとゴブリン代表の攻撃の肝がそこにあるからだ。小鬼達の攻撃と言えばサイドからの波状攻撃が最も目を引くが、実のところ攻撃のスタートはカーリー選手のパスからである。中盤やSBとウォーミングアップの様に何度かパスを交換し、その間に相手チームの守備の陣形や決まり事を確認し逆サイドの味方の上がりを待ち、色々な意味で『整った』段階でスイッチを入れるパスを出す。それが彼女らのやり方だった。
ある意味、インセクター戦で行ったオーバーロードに似ている。ただ俺たちは条件を設定しチーム全員で共有し機械のプログラムのように遂行したのに対し、ゴブリン代表のそれはカーリー選手自身の判断や感覚に頼る部分が多い。
そこを邪魔されれば……小鬼達の苛烈な攻撃は、開始すらされない。例えて言うなら海岸を浚うような恐ろしい連続した津波も、最初の一揺れがなければ生じない、といった所だ。
『くソ、しつこいぞこのおんナ!』
『いつも追われる側でしたが……追いかける方も楽しいのですね! ショウキチさんにそれを教わりました!』
もちろん、カーリー選手もむざむざと封じ込められるばかりではない。フェイント、味方を使った壁パス、大きなポジション移動……あらゆる手や足を使ってダリオさんを振り切ろうとしていた。しかし、それは悉く失敗していた。
もし相手がボールを奪おうとする、触らせまいとするDFならそれらで外す事ができたかもしれない。だがウチの10番はただカーリー選手の前に立とうとしているだけだ。攻撃が専門ではない守備の選手を守備が専門ではない攻撃の選手が防いでいるのだ、それだけで十分だった。
『ダリオは良い選手じゃが、どちらかと言うと華麗なタイプじゃよな? あれほどユニフォームを汚してくれるとはのう!』
「ジノリコーチは、ダリオがあそこまでねばり強く守備をしてくれる選手とは思わなかったとおっしゃっているであります」
ドワーフのコーチーの言葉をナリンさんが伝えてくれる。なるほど、根性を重視する鉱山の種族らしい感想だ。
「彼女はドーンエルフにしては責任感がある方ですし。あと指示の出し方にもコツがありまして」
少し長い話になるので、エルフとドワーフの両コーチに詫びをいれピッチの方を向いたまま、彼女たちに目を合わさずに続ける。
「部下に命令を下す場合、指揮官が明確にしなければならないポイントが3つあります。一つは目標、何を目指してそれをするのか。『何の為に自分はこの作業をやっているんだろう?』と疑問に感じながら行うのは辛いですから」
今回の場合、大目標はもちろんサッカードウでゴブリン代表を倒す事ではあるが、ダリオさんへ指示したプレーにおいて最も直接的な目標は『カーリー選手のパスを封じゴブリン代表の攻撃を停滞させる』だ。
「二つ目は権限。どこまでなら独自に判断して良いか? また何か資源が使えるならどれだけ使って良いか? です。今日のについては制限と言えるかもしれません」
なぜなら今回は『どうやっても良いから止めてくれ』ではなく明確に『前に立ってくれ』と伝えているからだ。あと『自分だけで』とも。もし止める手段を自己判断させれば、一か八かのタックルを試みて失敗し自由を与えてしまうかもしれない。また仲間と連動して止めようとすれば、連携ミスが発生する可能性もある。だから『自分だけ前に立つ』なのだ。
「三つ目は期限。これも、いつまでやっていれば良いのか分からないと不安ですし疲労も感じますし」
ダリオさんは派手な攻撃の選手だ。地味な守備を命じられるのはそれだけでストレスだろう。だが『最初の10分だけ』とハッキリ決められているなら『その間だけならやろう』と思ってくれるだろう。
「なるほどであります! あジノリコーチ、ショーキチ殿はですね……」
ナリンさんは感心した後、かなりの長文を通訳し始めた。ドワーフの才女はエルフ語も話すが、ネイティブスピーカーでもないので理解するのに時間がかかるだろう。
そう、時間だ。なんだかんだ言っている間にロッカーで示した、そしてダリオさんにカーリー選手の見張りを頼んだ『10分間』が終わりを告げようとしていた。
「ふふ、そうですね」
驚きと称賛が混ざった声を上げるナリンさんに、俺は笑いを含んだ返答を返した。
「ダリオは様々な事ができる選手ではありますが、あの様な使い方があるとは……」
ナリンさんが言っているのは今回の行われてる作戦、『ダリオさんがカーリー選手をマークする』の事だった。
一般的にFWはDFにマークされる側である。今日の対戦で言えばダリオさんがカーリー選手にマークされる、とか。しかし今回俺は、ウチの10番に相手のリベロを逆にマークさせる事にしたのだ。
と言ってもそんなガチガチにつきまとってボールを奪いにいく、という訳ではない。ただゴブリン代表のボール保持時、必ずカーリー選手の前に立ち自由にはさせない、そして彼女が攻撃に出ればついて行く……その事だけを厳命した。
何故かと言うとゴブリン代表の攻撃の肝がそこにあるからだ。小鬼達の攻撃と言えばサイドからの波状攻撃が最も目を引くが、実のところ攻撃のスタートはカーリー選手のパスからである。中盤やSBとウォーミングアップの様に何度かパスを交換し、その間に相手チームの守備の陣形や決まり事を確認し逆サイドの味方の上がりを待ち、色々な意味で『整った』段階でスイッチを入れるパスを出す。それが彼女らのやり方だった。
ある意味、インセクター戦で行ったオーバーロードに似ている。ただ俺たちは条件を設定しチーム全員で共有し機械のプログラムのように遂行したのに対し、ゴブリン代表のそれはカーリー選手自身の判断や感覚に頼る部分が多い。
そこを邪魔されれば……小鬼達の苛烈な攻撃は、開始すらされない。例えて言うなら海岸を浚うような恐ろしい連続した津波も、最初の一揺れがなければ生じない、といった所だ。
『くソ、しつこいぞこのおんナ!』
『いつも追われる側でしたが……追いかける方も楽しいのですね! ショウキチさんにそれを教わりました!』
もちろん、カーリー選手もむざむざと封じ込められるばかりではない。フェイント、味方を使った壁パス、大きなポジション移動……あらゆる手や足を使ってダリオさんを振り切ろうとしていた。しかし、それは悉く失敗していた。
もし相手がボールを奪おうとする、触らせまいとするDFならそれらで外す事ができたかもしれない。だがウチの10番はただカーリー選手の前に立とうとしているだけだ。攻撃が専門ではない守備の選手を守備が専門ではない攻撃の選手が防いでいるのだ、それだけで十分だった。
『ダリオは良い選手じゃが、どちらかと言うと華麗なタイプじゃよな? あれほどユニフォームを汚してくれるとはのう!』
「ジノリコーチは、ダリオがあそこまでねばり強く守備をしてくれる選手とは思わなかったとおっしゃっているであります」
ドワーフのコーチーの言葉をナリンさんが伝えてくれる。なるほど、根性を重視する鉱山の種族らしい感想だ。
「彼女はドーンエルフにしては責任感がある方ですし。あと指示の出し方にもコツがありまして」
少し長い話になるので、エルフとドワーフの両コーチに詫びをいれピッチの方を向いたまま、彼女たちに目を合わさずに続ける。
「部下に命令を下す場合、指揮官が明確にしなければならないポイントが3つあります。一つは目標、何を目指してそれをするのか。『何の為に自分はこの作業をやっているんだろう?』と疑問に感じながら行うのは辛いですから」
今回の場合、大目標はもちろんサッカードウでゴブリン代表を倒す事ではあるが、ダリオさんへ指示したプレーにおいて最も直接的な目標は『カーリー選手のパスを封じゴブリン代表の攻撃を停滞させる』だ。
「二つ目は権限。どこまでなら独自に判断して良いか? また何か資源が使えるならどれだけ使って良いか? です。今日のについては制限と言えるかもしれません」
なぜなら今回は『どうやっても良いから止めてくれ』ではなく明確に『前に立ってくれ』と伝えているからだ。あと『自分だけで』とも。もし止める手段を自己判断させれば、一か八かのタックルを試みて失敗し自由を与えてしまうかもしれない。また仲間と連動して止めようとすれば、連携ミスが発生する可能性もある。だから『自分だけ前に立つ』なのだ。
「三つ目は期限。これも、いつまでやっていれば良いのか分からないと不安ですし疲労も感じますし」
ダリオさんは派手な攻撃の選手だ。地味な守備を命じられるのはそれだけでストレスだろう。だが『最初の10分だけ』とハッキリ決められているなら『その間だけならやろう』と思ってくれるだろう。
「なるほどであります! あジノリコーチ、ショーキチ殿はですね……」
ナリンさんは感心した後、かなりの長文を通訳し始めた。ドワーフの才女はエルフ語も話すが、ネイティブスピーカーでもないので理解するのに時間がかかるだろう。
そう、時間だ。なんだかんだ言っている間にロッカーで示した、そしてダリオさんにカーリー選手の見張りを頼んだ『10分間』が終わりを告げようとしていた。
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