354 / 700
第二十章
愚かな指揮官と忠実な部下
しおりを挟む
『もうお前には騙されないからナ!』
「何もそんなに警戒しなくても……」
俺は未だかつて、こんなに警戒心アリアリの監督同士の握手を見たことがなかった。
「どうせ試合ではボコボコにされるのに……」
『ああン! 何か言ったカ!』
ロッカーを出て数分後。俺とカー監督はコンコース真ん中付近で少々、険悪な雰囲気を出しにらみ合っていたのだ。
『トケイ、アッテマスカ?』
『テーピング忘れてないー!』
だが周囲はあまり気にしていないようだ。何せ今は試合直前。選手審判スタッフは慌ただしく動き回っている。馬鹿二名に構うよりは試合に集中したい気分なんだろう。
「カー監督みたいなベテランにとってはルーチンワークかもしれませんけど、俺にとっては初めての事ばかりなんです。少なくとも対戦チームが一巡する間くらいはじっくり楽しませて下さいよ」
『くソ! なんか馬鹿にされた感じはするゾ! 負けないからナ!』
ゴブリン代表監督は俺の手を握ったまま、足をドシンドシンと踏みならした。
「まあ何にせよ良い勝負を!」
『ほえづらかくなヨ!』
これはこっちは引かないと収拾がつかないだろう。俺は自分の方から握手を解いて敬意を表すると、自軍ベンチの方へ戻った。
「珍しく長く話し込んでおられましたね? 何を言っていたのでありますか?」
俺が帰って来たのを見て、椅子に作戦ボードを設置していたナリンさんが問う。
「いやそれがさっぱり。やっぱゴブリン語ってチンプンカンプンですわ」
「じゃあ雰囲気だけで喋っていたのかよ!」
唐突にステフが現れて突っ込んできた。てかお前、いたのかよ!
「雰囲気だけで悪いか? というかすみません、関係者以外は困るんですよねー」
俺はそう言いながら彼女の背を押しコンコース方面から帰らせようとする。
「あ、すみません……って待て待て! 関係者! ちゃんとパスもある!」
俺に押されて一瞬、流されそうになった小柄なダスクエルフは慌てて首から下げた札を見せた。
「それ、本物?」
「お前が出したヤツだろ! 『セキュリティ面で不安だ』って!」
そうだった。それほど悪意や敵意が無いとは言えゴブリンサポーターは熱狂的、そしてフィフティフィフティスタジアムは老朽化の激しい建物だ。暴動だったり崩落だったりの危険性は否定できない。それで、念のためにステフをセキュリティスタッフとしてベンチ入りさせたのだ。
「ステフ殿がベンチにおられるのは初めてですね! 心強いです!」
「そうか? おう、任せておけ!」
俺と違って人間が……エルフができているナリンさんが素早くフォローを行いステフが秒で機嫌を治した。
「さて……と。やることはやったか?」
俺はエルフたちに心配をかけないよう、少し離れた所で独り言を吐いた。試合へ向けての準備は万全だ。それ以外の事も考慮に入れた。それでも何か説明のしようが無い不安が残っていた。
「体調不良でも引きずってるだけか! 気にしない!」
ダメダメ! 勝負の前に縁起が悪い! 今日の相手は残留争いのライバルだ。徹底的に叩かねば。
そうやって自分に言い聞かせながら、俺は試合開始の笛を聞いた。
俺の不安と裏腹に選手は開始直後からタフに、そしてプランに忠実に戦ってくれた。
今日のフォーメーションはいつも通り1442、スタメンはGKボナザさんにDFラインは左からルーナ、シャマー、ムルト、ティアという盤石の面子。
中盤は左からリスト、シノメ、クエン、エオン。並びとしてはフラットだが両サイドのリストさんとエオンさんは攻撃的なので中盤の底にボランチを2名置いた逆台形型とも言えるかもしれない。
そしてFWはダリオさんとリーシャさん。この2名はどちらも動き回る方で前線でDFを背負いボールをガッチリキープする、というタイプではないが――因みに背負えるタイプを最近では『前線で基準点となる』と言ったりする。ダリオさんなら数試合はできるかもしれないが、それ以上は彼女には負担が大きいだろう――サイドや中盤に流れたり落ちたりしてボールを受ける事はできる。どのみち、ゴブリンDFの中央にはカーリー選手が鎮座しているので、そんな所で勝負するのは分が悪い。なので別の場所を納めどころにする方がアリなのだ。
一方のゴブリン代表もフォーメーションは1442。エルフ代表と同じだが、大きく違うのは中盤だ。彼女らの並びは所謂ダイヤモンド型で、中盤の底、守備的MFは1名のみ。左右のMFは積極的に前に出るし、トップ下のクレイ選手もセットプレイに限らず優れたシューターで頻繁にシュートを撃ってくる。かなりの攻撃型と言っても良い。
そんな両チーム、噛み合わせで言うとやはりエルフ代表がサイドでは守勢に回る。ゴブリン代表のキーウーマン、カーリー選手もクレイ選手も中央がスタートポジションなので、こちらは真ん中に守備の数を集めている。またサイドのエオンさんもリストさんも――リストさん、CBとして出場するとしっかり守るのに、FWや中盤として出るとサボるんだよなあ――守備が得意ではない。サイドライン際では不利な状況になるのは必然であった。
しかし、だ。アローズはそれでも決して崩れる事無く相手に殆どチャンスを与えていなかった。
「何もそんなに警戒しなくても……」
俺は未だかつて、こんなに警戒心アリアリの監督同士の握手を見たことがなかった。
「どうせ試合ではボコボコにされるのに……」
『ああン! 何か言ったカ!』
ロッカーを出て数分後。俺とカー監督はコンコース真ん中付近で少々、険悪な雰囲気を出しにらみ合っていたのだ。
『トケイ、アッテマスカ?』
『テーピング忘れてないー!』
だが周囲はあまり気にしていないようだ。何せ今は試合直前。選手審判スタッフは慌ただしく動き回っている。馬鹿二名に構うよりは試合に集中したい気分なんだろう。
「カー監督みたいなベテランにとってはルーチンワークかもしれませんけど、俺にとっては初めての事ばかりなんです。少なくとも対戦チームが一巡する間くらいはじっくり楽しませて下さいよ」
『くソ! なんか馬鹿にされた感じはするゾ! 負けないからナ!』
ゴブリン代表監督は俺の手を握ったまま、足をドシンドシンと踏みならした。
「まあ何にせよ良い勝負を!」
『ほえづらかくなヨ!』
これはこっちは引かないと収拾がつかないだろう。俺は自分の方から握手を解いて敬意を表すると、自軍ベンチの方へ戻った。
「珍しく長く話し込んでおられましたね? 何を言っていたのでありますか?」
俺が帰って来たのを見て、椅子に作戦ボードを設置していたナリンさんが問う。
「いやそれがさっぱり。やっぱゴブリン語ってチンプンカンプンですわ」
「じゃあ雰囲気だけで喋っていたのかよ!」
唐突にステフが現れて突っ込んできた。てかお前、いたのかよ!
「雰囲気だけで悪いか? というかすみません、関係者以外は困るんですよねー」
俺はそう言いながら彼女の背を押しコンコース方面から帰らせようとする。
「あ、すみません……って待て待て! 関係者! ちゃんとパスもある!」
俺に押されて一瞬、流されそうになった小柄なダスクエルフは慌てて首から下げた札を見せた。
「それ、本物?」
「お前が出したヤツだろ! 『セキュリティ面で不安だ』って!」
そうだった。それほど悪意や敵意が無いとは言えゴブリンサポーターは熱狂的、そしてフィフティフィフティスタジアムは老朽化の激しい建物だ。暴動だったり崩落だったりの危険性は否定できない。それで、念のためにステフをセキュリティスタッフとしてベンチ入りさせたのだ。
「ステフ殿がベンチにおられるのは初めてですね! 心強いです!」
「そうか? おう、任せておけ!」
俺と違って人間が……エルフができているナリンさんが素早くフォローを行いステフが秒で機嫌を治した。
「さて……と。やることはやったか?」
俺はエルフたちに心配をかけないよう、少し離れた所で独り言を吐いた。試合へ向けての準備は万全だ。それ以外の事も考慮に入れた。それでも何か説明のしようが無い不安が残っていた。
「体調不良でも引きずってるだけか! 気にしない!」
ダメダメ! 勝負の前に縁起が悪い! 今日の相手は残留争いのライバルだ。徹底的に叩かねば。
そうやって自分に言い聞かせながら、俺は試合開始の笛を聞いた。
俺の不安と裏腹に選手は開始直後からタフに、そしてプランに忠実に戦ってくれた。
今日のフォーメーションはいつも通り1442、スタメンはGKボナザさんにDFラインは左からルーナ、シャマー、ムルト、ティアという盤石の面子。
中盤は左からリスト、シノメ、クエン、エオン。並びとしてはフラットだが両サイドのリストさんとエオンさんは攻撃的なので中盤の底にボランチを2名置いた逆台形型とも言えるかもしれない。
そしてFWはダリオさんとリーシャさん。この2名はどちらも動き回る方で前線でDFを背負いボールをガッチリキープする、というタイプではないが――因みに背負えるタイプを最近では『前線で基準点となる』と言ったりする。ダリオさんなら数試合はできるかもしれないが、それ以上は彼女には負担が大きいだろう――サイドや中盤に流れたり落ちたりしてボールを受ける事はできる。どのみち、ゴブリンDFの中央にはカーリー選手が鎮座しているので、そんな所で勝負するのは分が悪い。なので別の場所を納めどころにする方がアリなのだ。
一方のゴブリン代表もフォーメーションは1442。エルフ代表と同じだが、大きく違うのは中盤だ。彼女らの並びは所謂ダイヤモンド型で、中盤の底、守備的MFは1名のみ。左右のMFは積極的に前に出るし、トップ下のクレイ選手もセットプレイに限らず優れたシューターで頻繁にシュートを撃ってくる。かなりの攻撃型と言っても良い。
そんな両チーム、噛み合わせで言うとやはりエルフ代表がサイドでは守勢に回る。ゴブリン代表のキーウーマン、カーリー選手もクレイ選手も中央がスタートポジションなので、こちらは真ん中に守備の数を集めている。またサイドのエオンさんもリストさんも――リストさん、CBとして出場するとしっかり守るのに、FWや中盤として出るとサボるんだよなあ――守備が得意ではない。サイドライン際では不利な状況になるのは必然であった。
しかし、だ。アローズはそれでも決して崩れる事無く相手に殆どチャンスを与えていなかった。
0
あなたにおすすめの小説
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…
アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。
そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!
『スローライフどこ行った?!』追放された最強凡人は望まぬハーレムに困惑する?!
たらふくごん
ファンタジー
最強の凡人――追放され、転生した蘇我頼人。
新たな世界で、彼は『ライト・ガルデス』として再び生を受ける。
※※※※※
1億年の試練。
そして、神をもしのぐ力。
それでも俺の望みは――ただのスローライフだった。
すべての試練を終え、創世神にすら認められた俺。
だが、もはや生きることに飽きていた。
『違う選択肢もあるぞ?』
創世神の言葉に乗り気でなかった俺は、
その“策略”にまんまと引っかかる。
――『神しか飲めぬ最高級のお茶』。
確かに神は嘘をついていない。
けれど、あの流れは勘違いするだろうがっ!!
そして俺は、あまりにも非道な仕打ちの末、
神の娘ティアリーナが治める世界へと“追放転生”させられた。
記憶を失い、『ライト・ガルデス』として迎えた新しい日々。
それは、久しく感じたことのない“安心”と“愛”に満ちていた。
だが――5歳の洗礼の儀式を境に、運命は動き出す。
くどいようだが、俺の望みはスローライフ。
……のはずだったのに。
呪いのような“女難の相”が炸裂し、
気づけば婚約者たちに囲まれる毎日。
どうしてこうなった!?
最初から最強ぼっちの俺は英雄になります
総長ヒューガ
ファンタジー
いつも通りに一人ぼっちでゲームをしていた、そして疲れて寝ていたら、人々の驚きの声が聞こえた、目を開けてみるとそこにはゲームの世界だった、これから待ち受ける敵にも勝たないといけない、予想外の敵にも勝たないといけないぼっちはゲーム内の英雄になれるのか!
ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話
ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。
異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。
「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」
異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる