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第二十八章
ハーピィの反撃
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後半キックオフはハーピィからで、彼女たちはまず自陣にボールを戻し慎重にパスを回し始めた。
「あ! 後半はあの子たちから始めるんですね? しかも後ろにやって……エルフの真似だ!」
そう叫ぶアリスさんにそうですね、と軽く同意してハーピィチームの様子を伺う。予想通りだったのはカペラさん他数名が後半頭から交代出場していること。予想外だったのは鳥乙女チームのコンビネーションとパス精度が戻っていることだった。
「まあ『きいて』はくれないか」
ここはベンチではないので、俺は悔しさを隠さずに呟く。この『きいて』には二つの意味がある。
一つは『聴いて』くれなかったという意味だ。ハーフタイムに行われた決勝戦フェリダエーズとテル&ビッドの歌を、おそらくハーピィチームは聴いていない。試合前のアレで音痴な歌が自分たちへ与えるダメージを認識し、それがハーフタイムにも行われる事を知って何も手を打たない訳がない。
更衣室の壁に何か当てたか鳥乙女特有の魔力――監督会議でトナーさんがこっそり囁いてきた様に、ハーピィは声に関する特殊な能力を持っている――か何かで防音し、聴かないようにした事だろう。
そしてもう一つは『効いて』くれなかった。実の所、音痴な歌にリズムを狂わされ実力が発揮できていなかったのは前半途中までだ。彼女らは徐々に調子を戻しつつあった。それでも大差がついたのは、純粋にサッカードウ的に不利な状態――得点でリードされて攻めなければならない、戦術的に相性が悪い――だったからだ。
音程の狂った音楽による一撃目のダメージから回復し、二撃目を喰らわなかったハーピィチームはかなり手強い筈だ。
「アリスさん」
「はい?」
「またお願いするかもしれません。準備をお願いします」
俺が渋い顔でそう言うと、彼女はまっかせてくださーい! と胸を張った。そして
「で、何をでしたっけ?」
と付け加えてきた。
大丈夫かこのエルフ……!
『リーシャねえさまの分も私が!』
ハーピィのボール回しに業を煮やしたエルエルがボールホルダーへ襲いかかる。ボールを失うのを恐れた鳥乙女のMFは逃げるように後ろへ、サイドへとパスを繋いだ。
『駄目! エルエル一発で行かないで!』
事態に気づいたダリオさんが何か叫んだ。しかし警告らしいその声は届かず、エルエルは対面のドミニク選手へ猛烈なチャージをかけ、軽く交わされて尻餅をつく。
「おおう、ミノタウロスみたいな子ですね!」
「ええ。地球には『闘牛』って行事がありましてね」
俺はあんな低い位置――ドミニク選手はエースストライカーで、左右に流れる事はあっても基本は最前線にいる筈だ――に彼女がいる事に驚きながら答える。
「特別の訓練を受けた選手が、猛り狂った牛をひらりひらりと避けるんですが、その時に観客が『オレオレ!』と叫ぶんですよ。転じて、地球のサッカードウでもあんな感じでDFを避けた時にオーレ! って歌ったりします」
恐らくサッカーを知らない人々がもっとも知っている歌が『オーレーオレオレオレー!』みたいな曲だろう。初対面の人にサッカーを観るのが趣味だと言うと
「やっぱスタジアムで『オレオレ』言ってんの?」
と聞かれるのはサポーターあるあるだ。
「ふみふむ。『トウギュウ』に『オレオレ避け』と」
アリスさんはそう呟きながらメモを取る。いや俺俺詐欺みたいに言わんといてくれるかな?
「後半の方は……いや、すみません!」
勉強熱心なのかボケなのか分からないエルフ女性にツッコミたいのは山々だが、俺はアリスさんに断りを入れて話を中断する。
『エルエルったら!』
エルエルが空けた穴をクエンさんがカバーし、クエンさんの移動で空いたスペースにガニアさんが動いた。
試合は目が離せない展開になっていた。
その時の位置関係を整理すると以下の通りだ。まず、普段3TOPの真ん中でスタートするドミニク選手は右SBの様な位置。左WGとして交代で入ったカペラ選手はTOPよりやや下がった場所で、ティアさんとポリンさんの中間くらい。元気娘のトレパー選手はTOP下だ。
カペラ選手にはツンカさんがぴったりとくっついているので、事実上彼女はたった一羽でティアさんツンカさんポリンさん3エルフを自分のいる左サイドへ引きつけている事になる。同時に、エルエルが単騎でプレスをかけにいって外されて空いたスペースを、クエンさんガニアさんが前にスライドして埋めている。
結果、アローズDFライン中央には大きな空間が広がり、そこをムルトさんが単独で見る形になっていた。
「ライン上げないと……!」
聞こえる訳もないが俺は叫んで下を見た。シャマーさんも俺と同じ事に気づいて叫んでいる。この状況、普段であればラインを上げてハーピィの右WGやトレパーさんまでもオフサイドの位置へ置き去りにするところだ。
しかしティアさんとムルトさんの反応は遅かった。彼女の視点で言えば前が込み合い過ぎている。会長はいつもと違い、今日はカバーを重視していて重心が後ろだ。
それでもシャマーさんの指示を聞いてルーナさんはラインを上げた。ティアさんとムルトさんは遅れた。それで『ギャップ』ができた。
ドミニク選手はそれを見逃すような未熟者ではなかった。
「あ! 後半はあの子たちから始めるんですね? しかも後ろにやって……エルフの真似だ!」
そう叫ぶアリスさんにそうですね、と軽く同意してハーピィチームの様子を伺う。予想通りだったのはカペラさん他数名が後半頭から交代出場していること。予想外だったのは鳥乙女チームのコンビネーションとパス精度が戻っていることだった。
「まあ『きいて』はくれないか」
ここはベンチではないので、俺は悔しさを隠さずに呟く。この『きいて』には二つの意味がある。
一つは『聴いて』くれなかったという意味だ。ハーフタイムに行われた決勝戦フェリダエーズとテル&ビッドの歌を、おそらくハーピィチームは聴いていない。試合前のアレで音痴な歌が自分たちへ与えるダメージを認識し、それがハーフタイムにも行われる事を知って何も手を打たない訳がない。
更衣室の壁に何か当てたか鳥乙女特有の魔力――監督会議でトナーさんがこっそり囁いてきた様に、ハーピィは声に関する特殊な能力を持っている――か何かで防音し、聴かないようにした事だろう。
そしてもう一つは『効いて』くれなかった。実の所、音痴な歌にリズムを狂わされ実力が発揮できていなかったのは前半途中までだ。彼女らは徐々に調子を戻しつつあった。それでも大差がついたのは、純粋にサッカードウ的に不利な状態――得点でリードされて攻めなければならない、戦術的に相性が悪い――だったからだ。
音程の狂った音楽による一撃目のダメージから回復し、二撃目を喰らわなかったハーピィチームはかなり手強い筈だ。
「アリスさん」
「はい?」
「またお願いするかもしれません。準備をお願いします」
俺が渋い顔でそう言うと、彼女はまっかせてくださーい! と胸を張った。そして
「で、何をでしたっけ?」
と付け加えてきた。
大丈夫かこのエルフ……!
『リーシャねえさまの分も私が!』
ハーピィのボール回しに業を煮やしたエルエルがボールホルダーへ襲いかかる。ボールを失うのを恐れた鳥乙女のMFは逃げるように後ろへ、サイドへとパスを繋いだ。
『駄目! エルエル一発で行かないで!』
事態に気づいたダリオさんが何か叫んだ。しかし警告らしいその声は届かず、エルエルは対面のドミニク選手へ猛烈なチャージをかけ、軽く交わされて尻餅をつく。
「おおう、ミノタウロスみたいな子ですね!」
「ええ。地球には『闘牛』って行事がありましてね」
俺はあんな低い位置――ドミニク選手はエースストライカーで、左右に流れる事はあっても基本は最前線にいる筈だ――に彼女がいる事に驚きながら答える。
「特別の訓練を受けた選手が、猛り狂った牛をひらりひらりと避けるんですが、その時に観客が『オレオレ!』と叫ぶんですよ。転じて、地球のサッカードウでもあんな感じでDFを避けた時にオーレ! って歌ったりします」
恐らくサッカーを知らない人々がもっとも知っている歌が『オーレーオレオレオレー!』みたいな曲だろう。初対面の人にサッカーを観るのが趣味だと言うと
「やっぱスタジアムで『オレオレ』言ってんの?」
と聞かれるのはサポーターあるあるだ。
「ふみふむ。『トウギュウ』に『オレオレ避け』と」
アリスさんはそう呟きながらメモを取る。いや俺俺詐欺みたいに言わんといてくれるかな?
「後半の方は……いや、すみません!」
勉強熱心なのかボケなのか分からないエルフ女性にツッコミたいのは山々だが、俺はアリスさんに断りを入れて話を中断する。
『エルエルったら!』
エルエルが空けた穴をクエンさんがカバーし、クエンさんの移動で空いたスペースにガニアさんが動いた。
試合は目が離せない展開になっていた。
その時の位置関係を整理すると以下の通りだ。まず、普段3TOPの真ん中でスタートするドミニク選手は右SBの様な位置。左WGとして交代で入ったカペラ選手はTOPよりやや下がった場所で、ティアさんとポリンさんの中間くらい。元気娘のトレパー選手はTOP下だ。
カペラ選手にはツンカさんがぴったりとくっついているので、事実上彼女はたった一羽でティアさんツンカさんポリンさん3エルフを自分のいる左サイドへ引きつけている事になる。同時に、エルエルが単騎でプレスをかけにいって外されて空いたスペースを、クエンさんガニアさんが前にスライドして埋めている。
結果、アローズDFライン中央には大きな空間が広がり、そこをムルトさんが単独で見る形になっていた。
「ライン上げないと……!」
聞こえる訳もないが俺は叫んで下を見た。シャマーさんも俺と同じ事に気づいて叫んでいる。この状況、普段であればラインを上げてハーピィの右WGやトレパーさんまでもオフサイドの位置へ置き去りにするところだ。
しかしティアさんとムルトさんの反応は遅かった。彼女の視点で言えば前が込み合い過ぎている。会長はいつもと違い、今日はカバーを重視していて重心が後ろだ。
それでもシャマーさんの指示を聞いてルーナさんはラインを上げた。ティアさんとムルトさんは遅れた。それで『ギャップ』ができた。
ドミニク選手はそれを見逃すような未熟者ではなかった。
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