507 / 700
第二十八章
それぞれの陰の面
しおりを挟む
「ショーキチ先生! ツンカ選手はあのハーピィを止めたんですか? どういう事ですか!?」
アリスさんがたまらず訊ねてきた。
「止めました。その上でカペラ選手のファウルも誘って、こちらのセットプレーで再開です」
俺は審判さんのジェスチャーだけでなく、選手全体の動きも見ながら応える。基本的に裁定というのは審判さんのジャッジが絶対である。一方でフィールドの選手たちが、
「あ、これはどっちのボールだな」
と分かってそういう動きをする事がある。
今の場合、カペラ選手以外のハーピィ選手全員がセットプレイの守備に備えて自陣へ戻りだしていた。またツンカさん倒れたポイントへキッカーのボナザさんが近寄り、それ以外のエルフの選手が前へポジションを移動していた。つまりドリブルで抜いたつもりのルーキー以外の全員が、この勝負ツンカさんの勝ちだと理解したのだ。
「マジですかー。なんか『ボール持たれたら終わり』みたいな空気、出してませんでした?」
アリスさんがよくも心配かけさせやがって、とでも言うような口調で質問する。いやそこまでは言ってへんやろ。
「持たせるとやっかいだ、とは言いましたけど。まあ実はその後の対策もツンカさんには仕込んでありまして……」
俺がそう説明を始める間にも、カペラ選手は執拗に副審さんに説明を求めている。前言撤回、恐らく細身の彼女も今の勝負はボンキュボンなエルフの勝ちだと心の中では理解している。だがそれを簡単に認めてしまうと、この後の一対一でも心理面で負けてしまう。だから無理筋でも抗議を続けているのだろう。
「どういう仕込みかと言うと……あっ! 先にお願いして良いですか?」
「良いですけど、まだ追い打ちするんですか?」
ええそれも結構の追い打ちをね、と心の中で返事しつつ俺は別の言葉で返事をした。
「はい。生徒さんたちにブーイングさせて下さい。『審判に従え』でも『お前のファウルだろ、諦めろ!』でも何でも良いです」
「ええっ!?」
その言葉を聞いてアリスさんは少し言葉を失った。だがこれは一刻を争う指示だ。
「急いで! お願いします」
俺が重ねてそう言うと、アリスさんは渋々といった感じで生徒さんたちの方へ行き、何やら告げた。
『そっすね! おーいハーピィ、諦めろー』
『カペラちゃん、その頑張りはコンサートでー!』
アリスさんより若い生徒さんたちはチャンス到来、とばかりに――やはり学生さんは純粋で残酷な面があるな――騒ぎ出す。その効果は覿面で、周囲の観客たちにもその空気が伝わり大きなブーイングが巻き起こる。
『えっ!?』
その声にカペラ選手が驚き、傷ついた表情でスタンドを見渡した。彼女はエルフ語を理解しないが罵声と言うのは伝わるものだ。
「なんか、可哀想……。ショーキチ先生、結構冷酷なんですね……」
その光景を見たアリスさんが、か細い声で呟いた。
「そうですね。でもライバルチームの才能あるルーキーに『今日は運が無かっただけだ。次は負けない』とか思わせる訳にはいかないんです。叩ける時に叩かないと」
俺は特に何の感情も込めずに返す。サッカードウ初観戦のアリスさんに残留争いの仕組みであるとか、殺しやの本能――キラーズ・インスティンクトとか言うヤツだ。相手の弱みへつけ込み徹底的に叩きのめす精神、みたいな。外国人のコーチが良く言うし、ゲームの技名にもあったりする――について説明するのは難しいだろうし。
「……そっか! これがレイちゃんの言ってた『ショーキチにいさんの怖い面』なんですね!?」
俺のそんな思考を余所に、アリスさんは急に明るい声になって訊ねた。
「はい!? いや知りませんけど……彼女、そんな事を言ってたんですか!?」
ドーンエルフらしいアリスさんの情緒のふり幅と、ナイトエルフ娘がリークしていた情報に俺は驚き、目を丸くする。
「ふっふーんなるほどなるほど。優しくて頭が良いだけじゃなくて、ちょっと危険な感じも見せる、と。若い娘が年上の男性にイチコロでやられてしまうアレですなー!」
「すみません、レイさんは他になにか胡乱な事を言ってませんでしたか?」
いや俺、かなり年下ですけど!? というエルフと人間の間でずっとつきまとうやりとりは一端わきに置き、俺は別の疑念を引き続き追及する。
「し・り・た・いー?」
しかし、アリスさんはニヤニヤと笑いながら流し目で俺の顔を見てきた。なんかムカつくな!
「知りたいですよ。もちろん。スカラーシップの責任者として、対象児童の素行は」
なんとなく浮ついた話しへ持って行こうとする女教師に抵抗するように、俺は『責任者』『対象児童』『素行』といった言葉にアクセントを置いて返答した。
「むむむ! そんな堅苦しい言い方で誤魔化そうとして! 素直じゃないなー」
しかし彼女には通じなかった。アリスさんは下から突き上げるようなフォームで俺の二の腕にエルボーを何度も打ち込む。こんな子供じみた動作に反して、この女教師は心理のプロだ。未成年や俺を信頼している選手たちの様には騙されてくれない。少し譲歩するか……。
「どんな理由であれ、気にかけているのは事実です」
「じゃあ先にいっこ教えてくれたら言います」
「何をですか?」
なんだろう、また季語とか日本語のワビサビとかかな? と不安になりながら俺は応えた。
「シコミですよ!」
「シコミ?」
なんじゃそりゃ? 渋みだったら分かる……というか若輩者の俺には分からないが説明はできるが?
「あのツンカさんが可哀想なハーピィを止めたシコミですよ!」
アリスさんは生徒にヒントを与える先生っぽく説明した。
「あ、それか! 確かに後で言うと約束してましたね」
カペラさんにブーイングする事を優先して後回しにしてたヤツだ。いや、忘れていた訳ではないんだよ?
「それには、まずWGというポジションからですが……」
よりにもよってアリスさんにサッカードウの話へ引き戻される、という事態に若干の悔しさを覚えながら俺は話し始めた。
アリスさんがたまらず訊ねてきた。
「止めました。その上でカペラ選手のファウルも誘って、こちらのセットプレーで再開です」
俺は審判さんのジェスチャーだけでなく、選手全体の動きも見ながら応える。基本的に裁定というのは審判さんのジャッジが絶対である。一方でフィールドの選手たちが、
「あ、これはどっちのボールだな」
と分かってそういう動きをする事がある。
今の場合、カペラ選手以外のハーピィ選手全員がセットプレイの守備に備えて自陣へ戻りだしていた。またツンカさん倒れたポイントへキッカーのボナザさんが近寄り、それ以外のエルフの選手が前へポジションを移動していた。つまりドリブルで抜いたつもりのルーキー以外の全員が、この勝負ツンカさんの勝ちだと理解したのだ。
「マジですかー。なんか『ボール持たれたら終わり』みたいな空気、出してませんでした?」
アリスさんがよくも心配かけさせやがって、とでも言うような口調で質問する。いやそこまでは言ってへんやろ。
「持たせるとやっかいだ、とは言いましたけど。まあ実はその後の対策もツンカさんには仕込んでありまして……」
俺がそう説明を始める間にも、カペラ選手は執拗に副審さんに説明を求めている。前言撤回、恐らく細身の彼女も今の勝負はボンキュボンなエルフの勝ちだと心の中では理解している。だがそれを簡単に認めてしまうと、この後の一対一でも心理面で負けてしまう。だから無理筋でも抗議を続けているのだろう。
「どういう仕込みかと言うと……あっ! 先にお願いして良いですか?」
「良いですけど、まだ追い打ちするんですか?」
ええそれも結構の追い打ちをね、と心の中で返事しつつ俺は別の言葉で返事をした。
「はい。生徒さんたちにブーイングさせて下さい。『審判に従え』でも『お前のファウルだろ、諦めろ!』でも何でも良いです」
「ええっ!?」
その言葉を聞いてアリスさんは少し言葉を失った。だがこれは一刻を争う指示だ。
「急いで! お願いします」
俺が重ねてそう言うと、アリスさんは渋々といった感じで生徒さんたちの方へ行き、何やら告げた。
『そっすね! おーいハーピィ、諦めろー』
『カペラちゃん、その頑張りはコンサートでー!』
アリスさんより若い生徒さんたちはチャンス到来、とばかりに――やはり学生さんは純粋で残酷な面があるな――騒ぎ出す。その効果は覿面で、周囲の観客たちにもその空気が伝わり大きなブーイングが巻き起こる。
『えっ!?』
その声にカペラ選手が驚き、傷ついた表情でスタンドを見渡した。彼女はエルフ語を理解しないが罵声と言うのは伝わるものだ。
「なんか、可哀想……。ショーキチ先生、結構冷酷なんですね……」
その光景を見たアリスさんが、か細い声で呟いた。
「そうですね。でもライバルチームの才能あるルーキーに『今日は運が無かっただけだ。次は負けない』とか思わせる訳にはいかないんです。叩ける時に叩かないと」
俺は特に何の感情も込めずに返す。サッカードウ初観戦のアリスさんに残留争いの仕組みであるとか、殺しやの本能――キラーズ・インスティンクトとか言うヤツだ。相手の弱みへつけ込み徹底的に叩きのめす精神、みたいな。外国人のコーチが良く言うし、ゲームの技名にもあったりする――について説明するのは難しいだろうし。
「……そっか! これがレイちゃんの言ってた『ショーキチにいさんの怖い面』なんですね!?」
俺のそんな思考を余所に、アリスさんは急に明るい声になって訊ねた。
「はい!? いや知りませんけど……彼女、そんな事を言ってたんですか!?」
ドーンエルフらしいアリスさんの情緒のふり幅と、ナイトエルフ娘がリークしていた情報に俺は驚き、目を丸くする。
「ふっふーんなるほどなるほど。優しくて頭が良いだけじゃなくて、ちょっと危険な感じも見せる、と。若い娘が年上の男性にイチコロでやられてしまうアレですなー!」
「すみません、レイさんは他になにか胡乱な事を言ってませんでしたか?」
いや俺、かなり年下ですけど!? というエルフと人間の間でずっとつきまとうやりとりは一端わきに置き、俺は別の疑念を引き続き追及する。
「し・り・た・いー?」
しかし、アリスさんはニヤニヤと笑いながら流し目で俺の顔を見てきた。なんかムカつくな!
「知りたいですよ。もちろん。スカラーシップの責任者として、対象児童の素行は」
なんとなく浮ついた話しへ持って行こうとする女教師に抵抗するように、俺は『責任者』『対象児童』『素行』といった言葉にアクセントを置いて返答した。
「むむむ! そんな堅苦しい言い方で誤魔化そうとして! 素直じゃないなー」
しかし彼女には通じなかった。アリスさんは下から突き上げるようなフォームで俺の二の腕にエルボーを何度も打ち込む。こんな子供じみた動作に反して、この女教師は心理のプロだ。未成年や俺を信頼している選手たちの様には騙されてくれない。少し譲歩するか……。
「どんな理由であれ、気にかけているのは事実です」
「じゃあ先にいっこ教えてくれたら言います」
「何をですか?」
なんだろう、また季語とか日本語のワビサビとかかな? と不安になりながら俺は応えた。
「シコミですよ!」
「シコミ?」
なんじゃそりゃ? 渋みだったら分かる……というか若輩者の俺には分からないが説明はできるが?
「あのツンカさんが可哀想なハーピィを止めたシコミですよ!」
アリスさんは生徒にヒントを与える先生っぽく説明した。
「あ、それか! 確かに後で言うと約束してましたね」
カペラさんにブーイングする事を優先して後回しにしてたヤツだ。いや、忘れていた訳ではないんだよ?
「それには、まずWGというポジションからですが……」
よりにもよってアリスさんにサッカードウの話へ引き戻される、という事態に若干の悔しさを覚えながら俺は話し始めた。
0
あなたにおすすめの小説
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる