593 / 700
第三十三章
コーチは知りたいよう
しおりを挟む
選手たちは食事の後に散歩に行ったり二度寝をしたりと自由に過ごす事になっていたが、俺はフェリダエ族の公開練習を観る為、早々に宿舎を出た。因みに今日の同行者はナリンさんだ。相手チームのコンディション確認であればザックコーチに一日の長があるが、それよりも攻撃コーチであるナリンさんの目を頼りにしたいのである。
え? ミノタウロスとエルフの両方を連れて行けばって? そうすると宿舎側に残って全体に目を光らせる存在がいなくなる。名目上のヘッドコーチはジノリコーチで確かに彼女は戦術コーチとして逸材ではあるが、どうにも幼く舐められやすい。ニャイアーコーチとアカサオも全体を見るタイプではないし……となるとやはりミノタウロス元代表監督を残していくしかない。
この辺りのやりくり、意外と難儀なものである。いや贅沢を言ってはいけないのだが。そもそもの話、他チームの元監督や各ジャンルの一流指導者を同時に抱えている種族が他のどこにいるのか?
「贅沢は敵だ。欲しがりません勝つまでは!」
「何でありますか? それは?」
呟く俺にナリンさんが問う。俺は翻訳のアミュレットを外している時のいつもの癖で、口から日本語で思考を垂れ流してしまっていたのだ。そして、それを隣のナリンさんに聞かれてしまった。
「あーこれは確か日本が太平洋戦争をしていた時の標語です」
彼女に聞かせるつもりではなかった――迂闊な俺と対照的に、ナリンさんは俺の言葉を全て聞き漏らさず学ぼうとしている。勤勉なエルフだ――ので慌てつつ、俺は漫画で得た知識を思い出して応える。
「なんと! 日本は太平洋とも戦っていらしたんでありますね」
いや大海原と戦うのは無理やろ! と心の中で突っ込みつつ、頷くナリンさんに訂正の説明を送る。
「いや、戦争していた相手はアメリカという国で、太平洋というのは場所の名前です」
「そうでありましたか! 失礼したであります。クラマ殿から『大洋に吠える』といった雰囲気のチーム名を聞いた覚えがあったので、つい」
ナリンさんは照れ笑いしながらメモを取り、たぶんさっきの俺の言葉と説明を書き記していく。
「『大洋に吠える』ですか? 知らない名前だなあ。随分とポエマーなチーム名ですね」
一方、俺の方は確認できるメモもスマホも無いので頭を叩いたり耳を引っ張ったりしながら考える。
「大洋に……吠える……ちゃらちゃー」
地球にあるスポーツのチーム名でそこまで詩的なのは珍しいので、実在するならきっと聞き覚えがある筈なのだが思い出せない。むしろエモいBGMをバックにブラインドを下げて外を見るボスの姿しか出てこない。
余談だが詩人を英語で言えばポエット、詩的と言いたければポエティックである。ポエマーとは和製英語だ。最近は『エモい』という言葉の方が強いが。あと余談ついでに言えば、ブラインドを下げるシーンは『太陽○ぼえろ』ではなく『西部○察』である。
あ、待てよ? 西部じゃなくて西武だけどその繋がりで言えば……。
「ナリンさん? 『大洋にほえる』ではなく『大洋ホエールズ』では?」
「あ! それであります!」
俺が確認するとナリンさんはメモからぱっと顔をあげて応えた。
「やっぱりそっちかー。クラマさん、何を教えているんだか……」
『大洋ホエールズ』はサッカークラブではなく昔のプロ野球のチームだ。詳細はよく知らないが、なんやかんやあって今は横浜ベイスターズになっているらしい。クラマさんはまあまあの年輩だから知っていたとしても不思議ではないが……どういう文脈でその話になったんだ?
「クラマ殿はそのチームに『スーパーカートリオ』がいたと」
「スーパーカートリオ……ああ!」
今度はナリンさんが間違えなく伝えてくれたので、俺は一気に合点が行く。そう、クラマさん及びナリンさんが言う通り大洋ホエールズにはそう呼ばれる選手たちが所属していた。三人とも足が速く盗塁走塁で活躍した名選手たちだ。
で、その中の一人に高木豊という選手がいたのだが、彼のお子さんは三人もプロサッカー選手になっている。いや兄弟でサッカー選手になるというのは極めて珍しいという程ではないのだが、父親が有名な野球選手だというのは希有な方の例だろう。
で、その三選手とも父親の遺伝か、かなり足が速い。アンダー世代の日本代表にもなっているし海外移籍も経験している。恐らく足の速い選手とか才能の遺伝といった絡みで俎上に載せられたのだろう。
……とオチが分かってしまったらシンプルな話だったな。
「ショーキチ殿?」
「ああ、失礼」
一人で納得して苦笑いを浮かべる俺を、ナリンさんが不思議そうに見つめる。
「大洋ホエールズというのはサッカードウではなく野球のチーム名です。で、スーパーカートリオというのは俊足の選手三人組で、アローズで言うならリーシャさん、レイさん、エオンさんを3TOPに並べるようなモノでして……」
かくして、そこからスタジアムまで俺は勉強熱心なコーチに野球からスーパーカーまで色んな講義を行うこととなった。
え? ミノタウロスとエルフの両方を連れて行けばって? そうすると宿舎側に残って全体に目を光らせる存在がいなくなる。名目上のヘッドコーチはジノリコーチで確かに彼女は戦術コーチとして逸材ではあるが、どうにも幼く舐められやすい。ニャイアーコーチとアカサオも全体を見るタイプではないし……となるとやはりミノタウロス元代表監督を残していくしかない。
この辺りのやりくり、意外と難儀なものである。いや贅沢を言ってはいけないのだが。そもそもの話、他チームの元監督や各ジャンルの一流指導者を同時に抱えている種族が他のどこにいるのか?
「贅沢は敵だ。欲しがりません勝つまでは!」
「何でありますか? それは?」
呟く俺にナリンさんが問う。俺は翻訳のアミュレットを外している時のいつもの癖で、口から日本語で思考を垂れ流してしまっていたのだ。そして、それを隣のナリンさんに聞かれてしまった。
「あーこれは確か日本が太平洋戦争をしていた時の標語です」
彼女に聞かせるつもりではなかった――迂闊な俺と対照的に、ナリンさんは俺の言葉を全て聞き漏らさず学ぼうとしている。勤勉なエルフだ――ので慌てつつ、俺は漫画で得た知識を思い出して応える。
「なんと! 日本は太平洋とも戦っていらしたんでありますね」
いや大海原と戦うのは無理やろ! と心の中で突っ込みつつ、頷くナリンさんに訂正の説明を送る。
「いや、戦争していた相手はアメリカという国で、太平洋というのは場所の名前です」
「そうでありましたか! 失礼したであります。クラマ殿から『大洋に吠える』といった雰囲気のチーム名を聞いた覚えがあったので、つい」
ナリンさんは照れ笑いしながらメモを取り、たぶんさっきの俺の言葉と説明を書き記していく。
「『大洋に吠える』ですか? 知らない名前だなあ。随分とポエマーなチーム名ですね」
一方、俺の方は確認できるメモもスマホも無いので頭を叩いたり耳を引っ張ったりしながら考える。
「大洋に……吠える……ちゃらちゃー」
地球にあるスポーツのチーム名でそこまで詩的なのは珍しいので、実在するならきっと聞き覚えがある筈なのだが思い出せない。むしろエモいBGMをバックにブラインドを下げて外を見るボスの姿しか出てこない。
余談だが詩人を英語で言えばポエット、詩的と言いたければポエティックである。ポエマーとは和製英語だ。最近は『エモい』という言葉の方が強いが。あと余談ついでに言えば、ブラインドを下げるシーンは『太陽○ぼえろ』ではなく『西部○察』である。
あ、待てよ? 西部じゃなくて西武だけどその繋がりで言えば……。
「ナリンさん? 『大洋にほえる』ではなく『大洋ホエールズ』では?」
「あ! それであります!」
俺が確認するとナリンさんはメモからぱっと顔をあげて応えた。
「やっぱりそっちかー。クラマさん、何を教えているんだか……」
『大洋ホエールズ』はサッカークラブではなく昔のプロ野球のチームだ。詳細はよく知らないが、なんやかんやあって今は横浜ベイスターズになっているらしい。クラマさんはまあまあの年輩だから知っていたとしても不思議ではないが……どういう文脈でその話になったんだ?
「クラマ殿はそのチームに『スーパーカートリオ』がいたと」
「スーパーカートリオ……ああ!」
今度はナリンさんが間違えなく伝えてくれたので、俺は一気に合点が行く。そう、クラマさん及びナリンさんが言う通り大洋ホエールズにはそう呼ばれる選手たちが所属していた。三人とも足が速く盗塁走塁で活躍した名選手たちだ。
で、その中の一人に高木豊という選手がいたのだが、彼のお子さんは三人もプロサッカー選手になっている。いや兄弟でサッカー選手になるというのは極めて珍しいという程ではないのだが、父親が有名な野球選手だというのは希有な方の例だろう。
で、その三選手とも父親の遺伝か、かなり足が速い。アンダー世代の日本代表にもなっているし海外移籍も経験している。恐らく足の速い選手とか才能の遺伝といった絡みで俎上に載せられたのだろう。
……とオチが分かってしまったらシンプルな話だったな。
「ショーキチ殿?」
「ああ、失礼」
一人で納得して苦笑いを浮かべる俺を、ナリンさんが不思議そうに見つめる。
「大洋ホエールズというのはサッカードウではなく野球のチーム名です。で、スーパーカートリオというのは俊足の選手三人組で、アローズで言うならリーシャさん、レイさん、エオンさんを3TOPに並べるようなモノでして……」
かくして、そこからスタジアムまで俺は勉強熱心なコーチに野球からスーパーカーまで色んな講義を行うこととなった。
0
あなたにおすすめの小説
俺たちの共同学園生活
雪風 セツナ
青春
初めて執筆した作品ですので至らない点が多々あると思いますがよろしくお願いします。
2XXX年、日本では婚姻率の低下による出生率の低下が問題視されていた。そこで政府は、大人による婚姻をしなくなっていく風潮から若者の意識を改革しようとした。そこて、日本本島から離れたところに東京都所有の人工島を作り上げ高校生たちに対して特別な制度を用いた高校生活をおくらせることにした。
しかしその高校は一般的な高校のルールに当てはまることなく数々の難題を生徒たちに仕向けてくる。時には友人と協力し、時には敵対して競い合う。
そんな高校に入学することにした新庄 蒼雪。
蒼雪、相棒・友人は待ち受ける多くの試験を乗り越え、無事に学園生活を送ることができるのか!?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…
アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。
そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる