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第三十三章
アップせんと!
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宿舎としてあてがわれたのは巨大なゲル、騎馬民族が住むようなテントで、しかも有り難い事に男女別棟だった。だた俺とザックコーチだけでそのゲルを使用するのは申し訳ないのでお詫びとして雑多な荷物を預かる事になり、その搬入を終える頃には日はすっかりと落ちてしまった。
ここ、ニャルセロナはニャンダフル連邦共和国第二の都市で観光地として名高い。彼ら独特の建築もあればビーチもあり、見所はたくさんだ。だが今から出かける気持ちにもならず、俺とフィジカルコーチはルームサービスを頼み、それを食べながら他愛もない事を語らった後、すぐ床についた。
翌朝、朝食はこれまた専用のゲルに集まってみんなでとった。フェリダエ族の年頃の男女は離れて暮らし食事も別々になるが、もちろん異国からの観光客は別らしい。チームとしてオーダーした通りの食事がビュッフェ形式で並んでおり、コーチも選手も各自が選んだものを皿に取って適当なテーブルに分かれて食べた。宿泊所はゲルだが絨毯に直接座って、という訳ではない。この辺りもこちら側に合わせてくれた形だ。
ここまでフェリダエ側の歓待は素晴らしいものだ。宿舎も食事も申し分ないし、今日の前日練習も午後を譲ってくれた。完全に隔離してきたドワーフやゴルルグ族、もてなしてはくれているのだろうが感情が見えなかったインセクターとは全く違う。明らかな暖かみを感じる、と言っても過言ではないだろう。
ニャデムさんから聞いた通りエルフ全体への好意というのもあるだろう。だが俺はそれ以上に『王者の余裕』的なものを感じる。
「我々はサッカードウの頂点にいる。小細工など無用だ」
みたいな?
上等だ。こちらは小細工満載の残留ボーダーチームである。まあ小細工担当は主に監督の俺で、選手達は素直な子が多いが。ともかく、猫が余裕をみせているなら人間は抜け目なくそこへつけ込むだけだ。
「ああっとここでニャウダイール選手とジーニャ選手が接触!」
そんな事を考えていた俺の耳に、アナウンサーの大声が飛び込んできた。ただ大声、とは言え何度も聞き慣れた言葉なのでそれほど慌てず発生源の方へゆっくりと目をやる。
「ゴールは無人だ……ボールはヒラップス選手の前へ……ゴール!」
直前を越える絶叫が食事会場に備え付けられた魔法端末から響く。もちろん、その端末では映像――サッカードウ至上最大の番狂わせの一つと言われる、ゴルルグ族が絶好調のフェリダエ族を破った試合の得点シーンだ――も流れている。
これも俺がフェリダエ族へ出したオーダーの一つであり、小細工でもある。
「食事会場に大きなモニターを設置し、あの試合の映像をエンドレスで流したい」
とお願いしたのだ。
もちろん、そんな準備は自前でも簡単に出来る。だが俺はアウェイチームの権限として要求した。フェリダエ族の記憶の中で汚点として重くのし掛かる出来事を、彼女らに思い出させる為に。
いや別に選手や監督がこれを用意する訳じゃないけどね。ただ回り回って情報が伝われば、なんとなく嫌な感じになる筈だ。
そしてこれは逆に、自分達への良いメッセージにもなる。
「無敵に思えるフェリダエチームもこんな風に無様に失点し、負ける事がある」
という事をアローズ全体に意識させるのだ。
サッカーもサッカードウも、しっかり考えるのと同じくらいに
「考えなくても身体が動く」
という事が大事である。恐らく、今回の試合では攻撃のチャンスはあまりないだろうし、じっくり狙ってパスを出すという事も出来ないだろう。そんな数少ないチャンスに、咄嗟に浮かんで欲しいターゲットが映像と同じエリア、つまりCBとGKの間だ。
フェリダエ族は全体的に自信満々であり、それは守備の要のポジションでも変わりはない。協調してチームで守るというより自分が全て跳ね返す! という気持ちでいる。
それが悪い方向へ出たのが例のシーンだ。この場面でゴルルグ族の左SBが放ったクロスはふんわりとしたボールで、それほど鋭角でも正確でもなかった。セオリーで言えば手が使えるGKが前に出てしっかりキャッチすれば良い。
しかしフェリダエのニャウダイール選手は自分で処理しようとした。恐らく目論見としては自分がヘディングで軽くクリアしつつ迫り来るFWの逆を取り、素早く攻撃へ転じるつもりだったのだろう。背景情報を追加すると、このシーンは後半の13分。ゴルルグ族が意外な健闘をみせ、なんとここまで両チームともスコアレス。無得点であった。
自分チームの得点を期待していたサポーターはかなり焦れていたし、それ以上に選手が苛立っていた。
恐らくそれで彼女はああいうプレイを選択し、意志疎通を怠りGKのジーニャ選手と激突してしまった。そのこぼれ球がヒラップス選手の元へ転がったのは不運としか言いようがない。
とは言え、ここにもフェリダエチームとサッカードウ全体の問題点がある。まず一つにはGKの地位が低い。
「後ろの声は神の声」
という格言がサッカーにはあるが基本的に一番、後ろから見ているGKの方が全体を把握出来るので良い判断も出来る。だからあの様なシーンではGKからの指示および判断に従うべきだ。実際、アローズではその様に指導している。
また二つにはGKを組み込んだ攻撃の無さだ。仮に俺の推測通りすぐに反転攻勢に出たかったのだとしても、やはりそこはGKを使うべきだった。単純な人数の話、GKも使えれば11人で攻めることが出来るがFPだけだと10人しかいないのである。
まあGKに足下のテクニックがなければ難しいし、攻撃のトレーニングに組み込んでいなければいきなりは出来ないのだが。そしてこれも、アローズでは既に取り組んでいる。元FWのユイノさんだけでなくクラシックなタイプのボナザさんも、現段階でその面ではかなりのモノだ。
自慢かって? ええ、自慢ですよ! しかし王者フェリダエと明日には戦うのである。これくらいの自分上げは許して頂きたい……。
ここ、ニャルセロナはニャンダフル連邦共和国第二の都市で観光地として名高い。彼ら独特の建築もあればビーチもあり、見所はたくさんだ。だが今から出かける気持ちにもならず、俺とフィジカルコーチはルームサービスを頼み、それを食べながら他愛もない事を語らった後、すぐ床についた。
翌朝、朝食はこれまた専用のゲルに集まってみんなでとった。フェリダエ族の年頃の男女は離れて暮らし食事も別々になるが、もちろん異国からの観光客は別らしい。チームとしてオーダーした通りの食事がビュッフェ形式で並んでおり、コーチも選手も各自が選んだものを皿に取って適当なテーブルに分かれて食べた。宿泊所はゲルだが絨毯に直接座って、という訳ではない。この辺りもこちら側に合わせてくれた形だ。
ここまでフェリダエ側の歓待は素晴らしいものだ。宿舎も食事も申し分ないし、今日の前日練習も午後を譲ってくれた。完全に隔離してきたドワーフやゴルルグ族、もてなしてはくれているのだろうが感情が見えなかったインセクターとは全く違う。明らかな暖かみを感じる、と言っても過言ではないだろう。
ニャデムさんから聞いた通りエルフ全体への好意というのもあるだろう。だが俺はそれ以上に『王者の余裕』的なものを感じる。
「我々はサッカードウの頂点にいる。小細工など無用だ」
みたいな?
上等だ。こちらは小細工満載の残留ボーダーチームである。まあ小細工担当は主に監督の俺で、選手達は素直な子が多いが。ともかく、猫が余裕をみせているなら人間は抜け目なくそこへつけ込むだけだ。
「ああっとここでニャウダイール選手とジーニャ選手が接触!」
そんな事を考えていた俺の耳に、アナウンサーの大声が飛び込んできた。ただ大声、とは言え何度も聞き慣れた言葉なのでそれほど慌てず発生源の方へゆっくりと目をやる。
「ゴールは無人だ……ボールはヒラップス選手の前へ……ゴール!」
直前を越える絶叫が食事会場に備え付けられた魔法端末から響く。もちろん、その端末では映像――サッカードウ至上最大の番狂わせの一つと言われる、ゴルルグ族が絶好調のフェリダエ族を破った試合の得点シーンだ――も流れている。
これも俺がフェリダエ族へ出したオーダーの一つであり、小細工でもある。
「食事会場に大きなモニターを設置し、あの試合の映像をエンドレスで流したい」
とお願いしたのだ。
もちろん、そんな準備は自前でも簡単に出来る。だが俺はアウェイチームの権限として要求した。フェリダエ族の記憶の中で汚点として重くのし掛かる出来事を、彼女らに思い出させる為に。
いや別に選手や監督がこれを用意する訳じゃないけどね。ただ回り回って情報が伝われば、なんとなく嫌な感じになる筈だ。
そしてこれは逆に、自分達への良いメッセージにもなる。
「無敵に思えるフェリダエチームもこんな風に無様に失点し、負ける事がある」
という事をアローズ全体に意識させるのだ。
サッカーもサッカードウも、しっかり考えるのと同じくらいに
「考えなくても身体が動く」
という事が大事である。恐らく、今回の試合では攻撃のチャンスはあまりないだろうし、じっくり狙ってパスを出すという事も出来ないだろう。そんな数少ないチャンスに、咄嗟に浮かんで欲しいターゲットが映像と同じエリア、つまりCBとGKの間だ。
フェリダエ族は全体的に自信満々であり、それは守備の要のポジションでも変わりはない。協調してチームで守るというより自分が全て跳ね返す! という気持ちでいる。
それが悪い方向へ出たのが例のシーンだ。この場面でゴルルグ族の左SBが放ったクロスはふんわりとしたボールで、それほど鋭角でも正確でもなかった。セオリーで言えば手が使えるGKが前に出てしっかりキャッチすれば良い。
しかしフェリダエのニャウダイール選手は自分で処理しようとした。恐らく目論見としては自分がヘディングで軽くクリアしつつ迫り来るFWの逆を取り、素早く攻撃へ転じるつもりだったのだろう。背景情報を追加すると、このシーンは後半の13分。ゴルルグ族が意外な健闘をみせ、なんとここまで両チームともスコアレス。無得点であった。
自分チームの得点を期待していたサポーターはかなり焦れていたし、それ以上に選手が苛立っていた。
恐らくそれで彼女はああいうプレイを選択し、意志疎通を怠りGKのジーニャ選手と激突してしまった。そのこぼれ球がヒラップス選手の元へ転がったのは不運としか言いようがない。
とは言え、ここにもフェリダエチームとサッカードウ全体の問題点がある。まず一つにはGKの地位が低い。
「後ろの声は神の声」
という格言がサッカーにはあるが基本的に一番、後ろから見ているGKの方が全体を把握出来るので良い判断も出来る。だからあの様なシーンではGKからの指示および判断に従うべきだ。実際、アローズではその様に指導している。
また二つにはGKを組み込んだ攻撃の無さだ。仮に俺の推測通りすぐに反転攻勢に出たかったのだとしても、やはりそこはGKを使うべきだった。単純な人数の話、GKも使えれば11人で攻めることが出来るがFPだけだと10人しかいないのである。
まあGKに足下のテクニックがなければ難しいし、攻撃のトレーニングに組み込んでいなければいきなりは出来ないのだが。そしてこれも、アローズでは既に取り組んでいる。元FWのユイノさんだけでなくクラシックなタイプのボナザさんも、現段階でその面ではかなりのモノだ。
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