D○ZNとY○UTUBEとウ○イレでしかサッカーを知らない俺が女子エルフ代表の監督に就任した訳だが

米俵猫太朗

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第三十四章

ゴール裏が知る裏事情

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 ピッチの中も報道陣が追って来れない安全地帯なので、俺はナリンさんを連れて何時も通り芝生や環境のチェックに出た。
「うわ、客の入ったニャンプ・ノウはまた格別ですね」
「はい! 自分も大好きなスタジアムであります!」
 そう言って二人で見上げた客席には多数の観客がおり、既に打楽器を中心とした音楽や酒で盛り上がっている。中心となっているのはやはりフェリダエ族だが、ここは観光都市でもあり猫人たちが人気チームなのもあって他種族の姿も多く見られた。
「あ、トロールの集団もいる! 珍しいですね」
「はい。あの種族がサッカードウで数少ない関心を持っているのが、フェリダエチームでありますから」
 俺が殊更に色気のない集団――アカサオに再確認したが、やはり俺は綺麗な女性を目で追う習性があるらしい。そしてニャンプ・ノウの客席には色っぽい猫のお姉さんがたくさんいる――の方を指さすとナリンさんは少し苦笑しながら説明した。
「彼女達にとっては目の上のたんこぶでありますから。偵察も出すのであります」
「ああ、なるほど」
 そうか、アレはトロールのスカウティング部隊か。いやまったく潜んでないけどね!
「でも近いうちに、エルフにも注目させてやりますよ」
「はいであります!」
 俺がそう宣言するとナリンさんも気合いを入れて応えた。ここまでアローズはピッチ外の事で話題になる事が多かった。しかし本業で衆目を集めたいのが本音だ。
 俺達はそんな事を考えながら、そのエルフが集まっている一角へ向かった。

「監督、女の子のニュース見たよ! 大変だったねー!」
 エルフ側ゴール裏へ到着すると、ジャックスさんが第一声でそんな事を言ってきた。
「しーっ! 声が大きいですって!」
 俺は背後のサポーター集団を見渡しながら言う。彼はアウェイにも皆勤参戦しているアローズの熱烈サポーターにして、日本語学習者でもある。なんでも俺の就任が切っ掛けで学び始めたとか? 光栄だね。
 ま、そんなこんなで先ほどの大声も日本語で周囲には伝わらない筈ではあったが、やはり印象は良くないだろう。俺は端正な顔立ちのエルフを窘めた。
「大丈夫! みんな事情は知ってるよ」
 どんな事情だ? と思いつつジャックスさんの背後を見渡したが、気合いの入ったお姉さんも腕まくり状態のお兄さんも、そこにいるエルフはだいたい穏やかな顔で笑っていた。
「知ってる、って何をですか?」
 監督がサポーターの女性に手を出す。しかも勝利の女神とか何とかの女神とか称される美女に、だ。嫌悪感を持たれても仕方のない状況だが、ゴール裏集団は特に殺気を俺に向けてはいなかった。
 何故だろう? アリスさんがコアサポ――サポーター集団の中でも熱心で中心的な存在たちの事だ。イタリアではウルトラと呼んだりもするらしい――ではなく新参だからか?
「アリス先生、ワタシの日本語の先生でもあるよ! 彼女がオコチャなの、仲間によく話してる!」
 ジャックスさんはそう言った後、背後の仲間に何かエルフ語で声をかけた。一斉に笑い声が起こり、太鼓がドン! とならされる。ライブのMCでドラムの人がとりあえずオチ代わりに鳴らすみたいだ。
「あ、ジャックスさん学院で彼女から!? ああ!」
 彼の日本語は長耳ならぬ長足の進歩を遂げている。だが俺は一応、彼に分かるような簡易な表現をしようとし、結果として訳の分からない言い方になった。
「そう! 日本語講座! ワタシ以外にも生徒いるね! でもアリス先生に彼氏いるって、アレ嘘でしょー」
 しかし、良い感じに俺の意図をくみ取り言葉に答えたジャックスさんは再び背後へ話しかけ、また同じ一連の動きが繰り返された。
 そうか。ジャックスさんは俺より先にアリスさんと知り合ってて、彼女の素性を知っていたから、あの報道を見てもこんな反応なのか。そしてそれはコアサポ集団にも伝わっている、と。
「それはそうと『彼女がオコチャ』ってなんですか?」
 事情を理解し安心して初めて、俺は彼の説明にあった謎の言葉に気がついた。
「あれ? オコチャ違った?」
「ええ、おそらく……」
 サッカーファン的にオコチャと言えばナイジェリアの伝説的な選手、オコチャだ。超絶スキルのフェイントとドリブルでDFをきりきり舞いさせる姿は『魔術師』と称された。アリスさんは中級魔術も教えているらしいので、そういう意味では魔術師ではあるが……たぶん違うだろう。
「何がありますかね?」
 日本語の語彙で言えばナリンさんの方がジャックスさんに近いだろう。俺は救いを求めてナリンさんの顔を見た。
「そうでありますね……。おしゃま、お洒落、お転婆……」
 心優しいエルフは気を使いながら同じレベルの話者が使いそうな、音が似ている形容詞? をあげていく。
「……おっちょこちょい、おちゃめ」
「おちゃめ!!」
 ジャックスさんは急にそう叫び、ナリンさんと顔を見合わせた。
「「おちゃめです!」」
「ほう、それですか。ありがとうございます」
 何とか捻り出してくれて少し盛り上がっているエルフ達に悪いので、俺は取り敢えず礼を言って考え込む。
 お茶目、か。意味は悪戯っぽくて愛嬌があるとかその辺りだよな? 間違ってはいないしそれで彼女の諸々の行動を表現できるが、うーむ……。
「監督、どうしたの? 報道で、困ってる?」
 一方、ジャックスさんの方は俺の顔を見て誤解し、心配そうに話しかけてきた。
「いえ、困っては、い……います、が」
 否定するのは間違っているが肯定するのも正しくない、という状態で俺はまた曖昧な答えを返した。
「そう! 大丈夫、何とかなるよ!」
 そしてジャックスさんは、今度はナリンさんとたぶんエルフ語で何か話し、ウインクを俺に送った。
「はあ。まあそうなる事を祈りますが」
 曖昧に頷く俺をエルフ達が優しい笑顔で見つめる。今度は太鼓によるオチがつかず、俺達はなんとなくその場を離れ、ベンチ前へ向かった。
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