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第三十四章
いちばーん野蛮
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ハルク・ホーガン。昔のアメリカの伝説的なプロレスラーで、その人気はプロレスの枠に止まらないほどの人物だ。得意技はアックスボンバーやレックドロップだが他にもシングネーチャームーブ、自身の代名詞となるような動作が幾つかある。
その一つが手をくるっと回してから耳に添え客の歓声を聞くというか煽るもので、これはサッカーでもゴールセレブレーションに良く使われる。そもそもプロレスのポージングとサッカーはなかなか相性が良いものでもあるのだ。
しかし、この時ツンカさんが行ったのはそれではない。もっと危険なモノだった。
『おういぇあ!』
俺が止める間も無く、アメリカンテイストのギャルエルフは自分のユニフォームに手をかけ叫び、力を込めて引き裂いた。それこそ、アメリカンプロレスの王者の様に。
「ちょっ! こんな公衆の面前で!」
言葉が通じないなりに彼女を止めるか、何かで身体を隠してあげるか俺は迷い、とりあえず目を背けスーツの上を脱いで彼女へ差し出す。しかしその一瞬で彼女の下着姿はバッチリと視界の隅に収めてしまった。
そう、つまりこの『自分の服を腕力で引きちぎってしまう』という動きも、ハルク・ホーガンの有名なパフォーマンスなのだ。
力強さやワイルドさ、そして服の下から現れる肉体美を見せつける意味がある……のだと思う。実際の所、素材や状態によっては意外と簡単に出来てしまう事なので力の誇示としてはどうなんだ? という見解もなくはないのだが。ハルク・ホーガンがよく破いたTシャツには切れ目が入っていたし。
そして今、ツンカさんが破いて脱ぎ捨てたユニフォームにもバッチリ裂け目が入っていた。フェリダエ族の爪によって。あと下から現れたグレーの下着に包まれた豊かな胸と引き締まった腹筋も、肉体美と言って差し支えないものだった。
差し支えあるのは、それを俺含む野郎どもがじっくり見ることなのだ。
『ショーどうしたの? これ、バーバリアン・クラインだから見せてもオッケーなヤツなんだけど?』
一方、ツンカさんは何が俺に言いながらゴソゴソとしていた。
「いや、そうかもしれませんけど!」
言葉は分からないが単語と僅かな視覚情報でなんとなく、彼女の伝えたい意味が理解できた気がして言い返す。おそらく何とか聞き取れた単語の『バーバリアン・クライン』とはこの世界の下着メーカーの名前だろう。
元は暑い地方に住む薄着の蛮族、バーバリアンが着用していた伝統衣装であったが、その機能性と格好良さで世界中に広まったという。見た目はほぼ下着なのだが灰色の――クラインという特殊なネズミの皮の色だ。薄くて軽くても丈夫らしい――カラーとデザインがシャープなイメージを見た相手に与えるので『敢えて見える様に着用する下着』としてダンサー等に人気なのだ。何を隠そう、バード天国の参加者にも見えるように着ていた女性がいたくらいだ。
チェックはしているんですよ。言わないだけで!
『ショーちゃん、まだ下着姿見るのに抵抗あるんだ……』
『監督! じゃあ私が目隠ししてあげるよ!』
背後でシャマーさんとユイノさんの声がして、俺の顔上半分が何かに覆われた。
「あー見えなくなった! ユイノさんですか? 助かります……おぇ!」
大きさと感触で、俺の目を含む顔面の大半がGKのグローブで隠されたのに気づき礼を言う……と同時にうめき声を漏らす。
『どうしたの監督!?』
「ユイノさん、やっぱ放して!」
俺は彼女の手袋から立ち上る臭いに吐き気をもよおし、必死でそこから逃れた。
『ショー!? やっぱり見たいの?』
『でも時間がないよねー』
ツンカさんとシャマーさんがなにやら心配そうに話しているのが聞こえたが、俺は呼吸を整えるのに必死だった。これが使い込まれたGKグローブの臭いか……想像以上だな!
「大丈夫、ちょっと驚いて喉が詰まっただけで」
人前で脱げるギャルや監督誘惑慣れしているキャプテンと違い、ユイノさんは乙女回路を持っている。正直に臭かった、とは言えないだろう。言っても通じないけど。
「ツンカさん……も着替え終わってますね。ナリンさん!」
俺はツンカさんが新しいユニフォームに袖を通し終わったのを確認し、アシスタントコーチを呼んだ。
「審判さんに合図して復帰の許可を貰いましょう。で、ポジションですけど……」
「あっ!」
俺に駆け寄り作戦ボードを渡そうとしたナリンさんが、急に足を止めピッチの方を向いた。つられて俺もそちらを見る。
「うわ、まずい!」
フィールド上では今でもフェリダエ族の猛攻が続いており、アローズは全員が自陣に釘付け状態であった。ただそれだけなら良いのだが……。ツンカさんがピッチ外にいる間は、リーシャさんがその穴埋めに走っていた。
その帰結として、本来であればリーシャさんをマークするDFの選手――先制点のPKを取られた選手から、今はニャアゴ選手に変わっていた――もアローズ陣の深くまで上がっていた。FWが下がって守備をする事の負の側面、相手も連れてきてしまうという現象が起きていた訳だ。
そしてパス回しの中で、そのニャアゴ選手へパスが渡った。熟練のFWほど滑らかではないが大きなキックフェイントに何名かのエルフが姿勢を崩す。それを見て、フェリダエのCBは力強く右足を振った。
『ボナザさん!』
ユイノさんが思わず先輩GKの名を叫ぶ。ニャアゴ選手のシュートは何名もの選手の足をすり抜け、地を這いゴール隅へ転がる。
「あーくそ!」
俺はほんの少し未来を予測して悪態をつく。恐らくボナザさんからはブラインドになってシュートがほぼ見えなかったのだろう。ユイノさんの祈りも空しく、アローズのベテランGKはそのシュートに全く反応できなかった。
「「ゴーーール!」」
再びフェリダエ族のスタジアムアナウンスが絶叫する。前半のアディショナルタイム、ニャアゴ選手のシュートが決まって2-1! 俺たちは逆転されてしまった……。
その一つが手をくるっと回してから耳に添え客の歓声を聞くというか煽るもので、これはサッカーでもゴールセレブレーションに良く使われる。そもそもプロレスのポージングとサッカーはなかなか相性が良いものでもあるのだ。
しかし、この時ツンカさんが行ったのはそれではない。もっと危険なモノだった。
『おういぇあ!』
俺が止める間も無く、アメリカンテイストのギャルエルフは自分のユニフォームに手をかけ叫び、力を込めて引き裂いた。それこそ、アメリカンプロレスの王者の様に。
「ちょっ! こんな公衆の面前で!」
言葉が通じないなりに彼女を止めるか、何かで身体を隠してあげるか俺は迷い、とりあえず目を背けスーツの上を脱いで彼女へ差し出す。しかしその一瞬で彼女の下着姿はバッチリと視界の隅に収めてしまった。
そう、つまりこの『自分の服を腕力で引きちぎってしまう』という動きも、ハルク・ホーガンの有名なパフォーマンスなのだ。
力強さやワイルドさ、そして服の下から現れる肉体美を見せつける意味がある……のだと思う。実際の所、素材や状態によっては意外と簡単に出来てしまう事なので力の誇示としてはどうなんだ? という見解もなくはないのだが。ハルク・ホーガンがよく破いたTシャツには切れ目が入っていたし。
そして今、ツンカさんが破いて脱ぎ捨てたユニフォームにもバッチリ裂け目が入っていた。フェリダエ族の爪によって。あと下から現れたグレーの下着に包まれた豊かな胸と引き締まった腹筋も、肉体美と言って差し支えないものだった。
差し支えあるのは、それを俺含む野郎どもがじっくり見ることなのだ。
『ショーどうしたの? これ、バーバリアン・クラインだから見せてもオッケーなヤツなんだけど?』
一方、ツンカさんは何が俺に言いながらゴソゴソとしていた。
「いや、そうかもしれませんけど!」
言葉は分からないが単語と僅かな視覚情報でなんとなく、彼女の伝えたい意味が理解できた気がして言い返す。おそらく何とか聞き取れた単語の『バーバリアン・クライン』とはこの世界の下着メーカーの名前だろう。
元は暑い地方に住む薄着の蛮族、バーバリアンが着用していた伝統衣装であったが、その機能性と格好良さで世界中に広まったという。見た目はほぼ下着なのだが灰色の――クラインという特殊なネズミの皮の色だ。薄くて軽くても丈夫らしい――カラーとデザインがシャープなイメージを見た相手に与えるので『敢えて見える様に着用する下着』としてダンサー等に人気なのだ。何を隠そう、バード天国の参加者にも見えるように着ていた女性がいたくらいだ。
チェックはしているんですよ。言わないだけで!
『ショーちゃん、まだ下着姿見るのに抵抗あるんだ……』
『監督! じゃあ私が目隠ししてあげるよ!』
背後でシャマーさんとユイノさんの声がして、俺の顔上半分が何かに覆われた。
「あー見えなくなった! ユイノさんですか? 助かります……おぇ!」
大きさと感触で、俺の目を含む顔面の大半がGKのグローブで隠されたのに気づき礼を言う……と同時にうめき声を漏らす。
『どうしたの監督!?』
「ユイノさん、やっぱ放して!」
俺は彼女の手袋から立ち上る臭いに吐き気をもよおし、必死でそこから逃れた。
『ショー!? やっぱり見たいの?』
『でも時間がないよねー』
ツンカさんとシャマーさんがなにやら心配そうに話しているのが聞こえたが、俺は呼吸を整えるのに必死だった。これが使い込まれたGKグローブの臭いか……想像以上だな!
「大丈夫、ちょっと驚いて喉が詰まっただけで」
人前で脱げるギャルや監督誘惑慣れしているキャプテンと違い、ユイノさんは乙女回路を持っている。正直に臭かった、とは言えないだろう。言っても通じないけど。
「ツンカさん……も着替え終わってますね。ナリンさん!」
俺はツンカさんが新しいユニフォームに袖を通し終わったのを確認し、アシスタントコーチを呼んだ。
「審判さんに合図して復帰の許可を貰いましょう。で、ポジションですけど……」
「あっ!」
俺に駆け寄り作戦ボードを渡そうとしたナリンさんが、急に足を止めピッチの方を向いた。つられて俺もそちらを見る。
「うわ、まずい!」
フィールド上では今でもフェリダエ族の猛攻が続いており、アローズは全員が自陣に釘付け状態であった。ただそれだけなら良いのだが……。ツンカさんがピッチ外にいる間は、リーシャさんがその穴埋めに走っていた。
その帰結として、本来であればリーシャさんをマークするDFの選手――先制点のPKを取られた選手から、今はニャアゴ選手に変わっていた――もアローズ陣の深くまで上がっていた。FWが下がって守備をする事の負の側面、相手も連れてきてしまうという現象が起きていた訳だ。
そしてパス回しの中で、そのニャアゴ選手へパスが渡った。熟練のFWほど滑らかではないが大きなキックフェイントに何名かのエルフが姿勢を崩す。それを見て、フェリダエのCBは力強く右足を振った。
『ボナザさん!』
ユイノさんが思わず先輩GKの名を叫ぶ。ニャアゴ選手のシュートは何名もの選手の足をすり抜け、地を這いゴール隅へ転がる。
「あーくそ!」
俺はほんの少し未来を予測して悪態をつく。恐らくボナザさんからはブラインドになってシュートがほぼ見えなかったのだろう。ユイノさんの祈りも空しく、アローズのベテランGKはそのシュートに全く反応できなかった。
「「ゴーーール!」」
再びフェリダエ族のスタジアムアナウンスが絶叫する。前半のアディショナルタイム、ニャアゴ選手のシュートが決まって2-1! 俺たちは逆転されてしまった……。
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