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第三十八章
勉強しましたっせ
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アブリ島の海に大きな夕日が落ちていく。昼間はサーファーの群を弄んだ波も今は穏やかで、優しい風が海の上を走り海岸沿いの細い木々を撫でて去る。大いなる青い海と赤い太陽の邂逅に、多くの住民や観光客が足を止めてそれを見守った。
ミノタウロスの大半が住むこの島はハーピィのアホウやフェリダエのニャルセロナとはまた違った南国感がある。アホウが地中海でニャルセロナがブラジルだとしたら、アブリ島はハワイといった所か。緑が豊かで波も大きい。大自然の力強さと雄大さを感じる島だ。
こんな所で生まれ育ったら、そりゃロハスでスローライフでマハロな性格にもなるだろう。俺は久しぶりに故郷へ帰ったザックコーチとラビンさんのミノタウロス夫妻の事を思った。
「楽園、てやつか……」
これはちょっと色っぽい漫画誌ではなく文字通りの意味である。南国で景色が美しく時間がゆっくりと流れている。今もちょうど、部屋のベランダのすぐ下のレストランで篝火が焚かれ初めて歓声が沸いた。
俺達エルフ代表チームが宿舎としているホテル、サーロ・インには他の客も泊まっている。その大半が新婚カップルやファミリー連れなのでギスギスしたところがなくてトラブルの恐れも少ない。むしろその幸せな雰囲気にあてられて闘争心が萎えないか心配なくらいだ。
俺はそれらの全てを……病床のハンモックの上から眺めていた。体感では熱は38度になるかならないかぐらいか? ごくごく単純に風邪である。 しかしせっかく南国リゾートに来て、病気で寝込むとは……。修学旅行で熱を出してずっとお宿で寝ている学生の気分はこんなものだろうか?
俺は我が身の不運を呪いながら、どの辺りから体調が悪かったか? を思い出そうとした。とりあえずドワーフ戦終了時から振り返ろう……。
『ゲームセット! 健闘した両チームに拍手を~!』
審判さんの笛が鳴り、試合が終わった。ノゾノゾさんがご機嫌な声で何か叫び、観衆がそれに応えて選手達へ拍手を贈る。
『『おお~』』
上空のスクリーンには元気に飛び跳ね客を煽るノゾノゾさん、そして頭を抱えるロビンさんーードワーフ代表往年の名選手で、同族がエルドワクラシコに負けた際はスキンヘッドになる約束をしているーーの姿が映し出され、それを見たサポーター達が様々な声を発した。
この中の何割が弾むノゾノゾさんの胸に、何割が明日にはなくなるロビンさんの髪に向けられた声なんだろう? 俺はそんな事を考えつつ、ナリンさんとジノリコーチを連れてドワーフベンチ前へ向かう。
「お疲れさまでした。良い勉強をさせて頂きました」
俺はそう言って意外と晴れやかな顔のポビッチ監督の手を握る。勉強させて貰った、は関西芸人的な言い回しではあるがレイさんポリンさんという学生コンビがそこそこ苦しめられたのは事実ではあるし、そう間違った表現でもないだろう。
『学びの多い試合でした』
『ポビッチ監督にはまだまだかなわないのう……』
『いやいや。まあ勉強についてはこれから、じゃな?』
エルフとドワーフのコーチコンビが俺の言葉を伝えると、ポビッチ監督は愉快そうに笑って俺の肩に手を伸ばしーー身長差があるからねーー叩いた。ずいぶん機嫌がええやんけ、この老将。
「勉強がどうとかおっしゃっていますが……何でありますか?」
「あーそれはちょっと後で。俺たちは先に行きますね?」
俺はナリンさんの問いを少し誤魔化して応え、ジノリコーチ達に声をかけてその場を去る。例によってドワーフはドワーフ同士で少し話があるだろう。
「『勉強』って言葉には複数の意味がありましてね」
そして十分、距離が空いた所で話を切り出す。
「はあ」
「文字通りの学問の他に、値段を下げるって意味があるんですよ」
あと関西には『べんきょう部屋』というラブホテルが幾つかあって、関西人の助平的にはそういう意味もあるんだがナリンさんがメモを取りだしたのでそれは黙っておく。
「実はいまドワーフとある商品について値段交渉中で。最終的には『試合に勝った方が勉強しよう』という話になっていまして」
サッカードウのコーチにアクリルチャームまで説明すると長くなるので、そこは端折って話した。
「勝った方が、でありますか?」
「ええ。勝者総取りがサッカードウの常ではありますが、クラシコに負けた上に商売でも損を被るのはあまりにも被害が大きいだろうと」
もともとエルフvsドワーフは非常に重要度の高い勝負だ。敗者へのダメージもでかいし、そのままでは必要以上に激しい試合になってしまう。更に言えば俺の髪の毛も賭けられているしね!
それを少しでも解消する為、今回だけは敗者にも得るものがある約束をポビッチ監督と密かに結んだのだ。場合によっては八百長やそれに近いモノと思われてしまうかもしれない取り決めだが、ここは異世界でドワーフ代表監督は老練だった。
彼はその提案に、短く太い首を縦に振った。
「なるほど、そんな事まで考えて……。地球のサッカードウは奥が深いでありますね!」
「いや、地球だからというかなんというか……」
素直に感心するナリンさんに俺は少々、心苦しくなる。今回の動きは地球やサッカーは関係なく、俺という人間の小賢しさからきたモノだ。
『『お、お、お、お~!!』』
しかし補足説明を口にする前に俺達はゴール裏に到着し、サポーター集団と選手達が弓を構える仕草をする。
『『オイ! オイ! オイ!』』
そして太鼓が三度、打ち鳴らされ、全員で矢を放つ動きを同じく三度、行う。勝利の儀式、エアアーチェリーだ。全員、と言ったが何名かは自分の頭を剃り上げる動きを、対面のドワーフゴール裏へ向かって行う。
『『ブーブー!』』
それを見たドワーフサポーターがブーイングで返す。もちろんこれは、スキンヘッドの刑の事をエルフがイジって、ドワーフが怒っているという状況だ。
「おおう、殺気だってきた! 早めに入りましょう!」
我々へ届きはしないがドワーフゴール裏から物が投げ入れられ、それに今度はアローズサポーターがブーイングを返す。俺はチーム全員を急がせ、とっととピッチを後にすることにした……。
ミノタウロスの大半が住むこの島はハーピィのアホウやフェリダエのニャルセロナとはまた違った南国感がある。アホウが地中海でニャルセロナがブラジルだとしたら、アブリ島はハワイといった所か。緑が豊かで波も大きい。大自然の力強さと雄大さを感じる島だ。
こんな所で生まれ育ったら、そりゃロハスでスローライフでマハロな性格にもなるだろう。俺は久しぶりに故郷へ帰ったザックコーチとラビンさんのミノタウロス夫妻の事を思った。
「楽園、てやつか……」
これはちょっと色っぽい漫画誌ではなく文字通りの意味である。南国で景色が美しく時間がゆっくりと流れている。今もちょうど、部屋のベランダのすぐ下のレストランで篝火が焚かれ初めて歓声が沸いた。
俺達エルフ代表チームが宿舎としているホテル、サーロ・インには他の客も泊まっている。その大半が新婚カップルやファミリー連れなのでギスギスしたところがなくてトラブルの恐れも少ない。むしろその幸せな雰囲気にあてられて闘争心が萎えないか心配なくらいだ。
俺はそれらの全てを……病床のハンモックの上から眺めていた。体感では熱は38度になるかならないかぐらいか? ごくごく単純に風邪である。 しかしせっかく南国リゾートに来て、病気で寝込むとは……。修学旅行で熱を出してずっとお宿で寝ている学生の気分はこんなものだろうか?
俺は我が身の不運を呪いながら、どの辺りから体調が悪かったか? を思い出そうとした。とりあえずドワーフ戦終了時から振り返ろう……。
『ゲームセット! 健闘した両チームに拍手を~!』
審判さんの笛が鳴り、試合が終わった。ノゾノゾさんがご機嫌な声で何か叫び、観衆がそれに応えて選手達へ拍手を贈る。
『『おお~』』
上空のスクリーンには元気に飛び跳ね客を煽るノゾノゾさん、そして頭を抱えるロビンさんーードワーフ代表往年の名選手で、同族がエルドワクラシコに負けた際はスキンヘッドになる約束をしているーーの姿が映し出され、それを見たサポーター達が様々な声を発した。
この中の何割が弾むノゾノゾさんの胸に、何割が明日にはなくなるロビンさんの髪に向けられた声なんだろう? 俺はそんな事を考えつつ、ナリンさんとジノリコーチを連れてドワーフベンチ前へ向かう。
「お疲れさまでした。良い勉強をさせて頂きました」
俺はそう言って意外と晴れやかな顔のポビッチ監督の手を握る。勉強させて貰った、は関西芸人的な言い回しではあるがレイさんポリンさんという学生コンビがそこそこ苦しめられたのは事実ではあるし、そう間違った表現でもないだろう。
『学びの多い試合でした』
『ポビッチ監督にはまだまだかなわないのう……』
『いやいや。まあ勉強についてはこれから、じゃな?』
エルフとドワーフのコーチコンビが俺の言葉を伝えると、ポビッチ監督は愉快そうに笑って俺の肩に手を伸ばしーー身長差があるからねーー叩いた。ずいぶん機嫌がええやんけ、この老将。
「勉強がどうとかおっしゃっていますが……何でありますか?」
「あーそれはちょっと後で。俺たちは先に行きますね?」
俺はナリンさんの問いを少し誤魔化して応え、ジノリコーチ達に声をかけてその場を去る。例によってドワーフはドワーフ同士で少し話があるだろう。
「『勉強』って言葉には複数の意味がありましてね」
そして十分、距離が空いた所で話を切り出す。
「はあ」
「文字通りの学問の他に、値段を下げるって意味があるんですよ」
あと関西には『べんきょう部屋』というラブホテルが幾つかあって、関西人の助平的にはそういう意味もあるんだがナリンさんがメモを取りだしたのでそれは黙っておく。
「実はいまドワーフとある商品について値段交渉中で。最終的には『試合に勝った方が勉強しよう』という話になっていまして」
サッカードウのコーチにアクリルチャームまで説明すると長くなるので、そこは端折って話した。
「勝った方が、でありますか?」
「ええ。勝者総取りがサッカードウの常ではありますが、クラシコに負けた上に商売でも損を被るのはあまりにも被害が大きいだろうと」
もともとエルフvsドワーフは非常に重要度の高い勝負だ。敗者へのダメージもでかいし、そのままでは必要以上に激しい試合になってしまう。更に言えば俺の髪の毛も賭けられているしね!
それを少しでも解消する為、今回だけは敗者にも得るものがある約束をポビッチ監督と密かに結んだのだ。場合によっては八百長やそれに近いモノと思われてしまうかもしれない取り決めだが、ここは異世界でドワーフ代表監督は老練だった。
彼はその提案に、短く太い首を縦に振った。
「なるほど、そんな事まで考えて……。地球のサッカードウは奥が深いでありますね!」
「いや、地球だからというかなんというか……」
素直に感心するナリンさんに俺は少々、心苦しくなる。今回の動きは地球やサッカーは関係なく、俺という人間の小賢しさからきたモノだ。
『『お、お、お、お~!!』』
しかし補足説明を口にする前に俺達はゴール裏に到着し、サポーター集団と選手達が弓を構える仕草をする。
『『オイ! オイ! オイ!』』
そして太鼓が三度、打ち鳴らされ、全員で矢を放つ動きを同じく三度、行う。勝利の儀式、エアアーチェリーだ。全員、と言ったが何名かは自分の頭を剃り上げる動きを、対面のドワーフゴール裏へ向かって行う。
『『ブーブー!』』
それを見たドワーフサポーターがブーイングで返す。もちろんこれは、スキンヘッドの刑の事をエルフがイジって、ドワーフが怒っているという状況だ。
「おおう、殺気だってきた! 早めに入りましょう!」
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