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第三十八章
エルフのしたと足と
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その後の記者会見でも、ドワーフ側からの投げ入れは続いた。もちろん、それは物ではなく厳しい言葉である。
「あの様な卑怯な手段で勝って嬉しいのか!?」
「たまには正々堂々と闘え!」
「ホームで勝ったくらいで調子になるな!」
と言った、ほぼ負け惜しみに近い言葉が山のように浴びせかけられたのである。てか最初の以外は質問じゃないやないけ!
「ウチが応えたらええ?」
それらの言葉のターゲットになっているのは主にレイさんだった。先制点へ繋がった、GKの背後から忍び寄りボールを奪ったプレイが非難の的となっているのだ。しかも前回のプレシーズンマッチでは無断で病院へ直行していて会見には居なかったので、今日初めてドワーフからの槍玉に挙げられた訳である。
「どうぞ」
俺はレイさんの顔を見て頷く。今日の出席者は俺と彼女、あとシャマーさんだ。ナイトエルフのファンタジスタが何を言ってもカバーできるだろう。
「えっと、めっちゃ嬉しいです。ああいうプレイ、ずっと試したかったけど、ウチを見逃してしまうような迂闊なチームとはなかなか当たらへんかったし。しかもガキならともかく代表チームでねえ!」
先程の言葉を、レイさんは子供故の残酷さで打ち返す。この子やっぱ煽るの上手いな。
「なんじゃとこのクソ餓……」
ドワーフ報道陣の先頭にいた記者さんがそう言いかけたが、すんでのところで口を閉ざす。ここでレイさんをクソ餓鬼と罵ったら流石に出禁になるだろうし、彼女を餓鬼と嘲ったらその彼女からガキ以下と暗に指摘されたドワーフ代表の地位が更に低くなる。
「何かと物議を醸すゴールが多いクラシコですが、何か特別な指導はされているのですか?」
ナイトエルフとドワーフの緊張の隙をぬってゴルルグ族の記者さんが発言をした。蛇人族は他と違ってこういう真面目な質問が多くて助かるが、逆にこちらを冷静に観察している怖さがあるな。
「特にそういうのはないです。でもビッグディールにはスモールディテールが大事と言いますか……。大きな事を成すには細部に気を払う事が必要だ、というのはこれからもチームに言い続けていくつもりです。そうやってチームを成長させるのが俺の仕事ですので」
あまり情報を与えたくないがはぐらかし過ぎても不評を買う。そんな判断から発した言葉だったが、報道陣は大いに頷いた。なんとドワーフさん達も含めて、だ。
「確かに。大きなモノは小さなモノからできておる」
というかドワーフの琴線に触れた言葉だったのだろう。赤くなっていた職人気質の土の種族も、髭を撫でて感心し呟いている。
「(うんうん! ショーちゃんのモノも、大きくなる前は小さいもんねー)」
「(何の話ですか!)」
急にシャマーさんが耳元で囁き、俺はテーブルの下でそっと彼女の足を蹴った。ここまで、何か厳しい質問が来たら援護しようと控えてくれていたキャプテンだがもう危機はないと判断して俺をからかう側にモードチェンジしたのだろう。くそ、気持ちの切り替えの早いエルフめ!
「すまぬ。最後に一つ、質問良いかの?」
「はい? どうぞ」
と、端の方のドワーフさんが手を挙げ、俺は机下の戦闘――俺は軽く戒めの為にシャマーさんの足を踏んだだけだが、彼女はつま先で俺の太股の内側を突こうとしていた――を一時中断し質問者を指す。おそらくもう、荒れるような質問はないだろう。
「ふむ。ええと、おぬし……誰だっけ?」
「監督です! エルフ代表の監督、ショーキチです!」
俺は焦って立ち上がり、帽子を脱いで顔を見せた。確かに普段のスーツ姿と違ってジャージにキャップだが、それはないだろう!
「お前、誰が話していると思っていたのだ!?」
別のドワーフのツッコミに会場全体がドッと沸く。その笑い声が、記者会見終了の合図となった。
「じゃあ、整理運動しっかりね」
記者会見場を出た俺はシャマーさんとレイさんをクールダウンへ送り出し、別れてシャワー室の方へ向かった。あちらに残した物を何点か、回収する為である。
「あったあった。良かった、盗られてなくて」
入り口のカーテンにかけたスーツを目にし俺は一人、安堵の呟きを漏らす。チーム公式スーツは商品化されそこそこの数は生産できるようになってはいる。しかし俺専用の物だけはドラゴンさんが魔法で作った逸品で、特別に品質が高いのだ。これが無くなるとショックだ。
まあ盗むエルフなんていないだろうけど。
「これと、これと。あれ? 何か足りない気がする」
しかし、ジャケットやズボンを手に取りつつ俺は少し首を捻った。スーツの装いを構成するもの、つまりネクタイやベルトといった物までちゃんと残ってはいる。であるのに何か物足りない気がするのだ。
「どしたん? 何か無いん?」
「ええ。無いって事は分かるんですけど何が無いかが思い出せなくて」
俺はそう自然に説明したところで異変に気づき、急に発生した声の方向を見た。
「レイさん! どうしてここに? ちゃんとクールダウンしなきゃ……」
「そうなんやけどね……。ウチさあ? 今日、チョンボもしたけど、結構がんばりもしたやん?」
声の主、若きファンタジスタは例によって音もなく俺の後を追跡し、いつの間にかすぐ側にいた。まったく、ナイトエルフは忍び足が上手くて困る!
「確かにそうですね。一般的にはミスをした後に動きが鈍くなる選手が多いのですが、レイさんは見事なリカバリーをみせてくれました。ありがとうございます。あとは身体のリカバリーですね!」
もっとも、その忍び足の上手さが先制点に繋がったんだよな? と思いつつも悪い予感を感じた俺は、そっと後ずさって距離を置きつつプロのトレーナーっぽく返す。
「ほなさ? 暫定でええから、久々にご褒美くれてもええやん? なあ、して?」
一方、レイさんが求めているのは別のトレーニングの様だった。彼女は空いた距離を一飛びで詰めると、俺の身体をドン! とシャワー室の中へ押し込んだ!
「あの様な卑怯な手段で勝って嬉しいのか!?」
「たまには正々堂々と闘え!」
「ホームで勝ったくらいで調子になるな!」
と言った、ほぼ負け惜しみに近い言葉が山のように浴びせかけられたのである。てか最初の以外は質問じゃないやないけ!
「ウチが応えたらええ?」
それらの言葉のターゲットになっているのは主にレイさんだった。先制点へ繋がった、GKの背後から忍び寄りボールを奪ったプレイが非難の的となっているのだ。しかも前回のプレシーズンマッチでは無断で病院へ直行していて会見には居なかったので、今日初めてドワーフからの槍玉に挙げられた訳である。
「どうぞ」
俺はレイさんの顔を見て頷く。今日の出席者は俺と彼女、あとシャマーさんだ。ナイトエルフのファンタジスタが何を言ってもカバーできるだろう。
「えっと、めっちゃ嬉しいです。ああいうプレイ、ずっと試したかったけど、ウチを見逃してしまうような迂闊なチームとはなかなか当たらへんかったし。しかもガキならともかく代表チームでねえ!」
先程の言葉を、レイさんは子供故の残酷さで打ち返す。この子やっぱ煽るの上手いな。
「なんじゃとこのクソ餓……」
ドワーフ報道陣の先頭にいた記者さんがそう言いかけたが、すんでのところで口を閉ざす。ここでレイさんをクソ餓鬼と罵ったら流石に出禁になるだろうし、彼女を餓鬼と嘲ったらその彼女からガキ以下と暗に指摘されたドワーフ代表の地位が更に低くなる。
「何かと物議を醸すゴールが多いクラシコですが、何か特別な指導はされているのですか?」
ナイトエルフとドワーフの緊張の隙をぬってゴルルグ族の記者さんが発言をした。蛇人族は他と違ってこういう真面目な質問が多くて助かるが、逆にこちらを冷静に観察している怖さがあるな。
「特にそういうのはないです。でもビッグディールにはスモールディテールが大事と言いますか……。大きな事を成すには細部に気を払う事が必要だ、というのはこれからもチームに言い続けていくつもりです。そうやってチームを成長させるのが俺の仕事ですので」
あまり情報を与えたくないがはぐらかし過ぎても不評を買う。そんな判断から発した言葉だったが、報道陣は大いに頷いた。なんとドワーフさん達も含めて、だ。
「確かに。大きなモノは小さなモノからできておる」
というかドワーフの琴線に触れた言葉だったのだろう。赤くなっていた職人気質の土の種族も、髭を撫でて感心し呟いている。
「(うんうん! ショーちゃんのモノも、大きくなる前は小さいもんねー)」
「(何の話ですか!)」
急にシャマーさんが耳元で囁き、俺はテーブルの下でそっと彼女の足を蹴った。ここまで、何か厳しい質問が来たら援護しようと控えてくれていたキャプテンだがもう危機はないと判断して俺をからかう側にモードチェンジしたのだろう。くそ、気持ちの切り替えの早いエルフめ!
「すまぬ。最後に一つ、質問良いかの?」
「はい? どうぞ」
と、端の方のドワーフさんが手を挙げ、俺は机下の戦闘――俺は軽く戒めの為にシャマーさんの足を踏んだだけだが、彼女はつま先で俺の太股の内側を突こうとしていた――を一時中断し質問者を指す。おそらくもう、荒れるような質問はないだろう。
「ふむ。ええと、おぬし……誰だっけ?」
「監督です! エルフ代表の監督、ショーキチです!」
俺は焦って立ち上がり、帽子を脱いで顔を見せた。確かに普段のスーツ姿と違ってジャージにキャップだが、それはないだろう!
「お前、誰が話していると思っていたのだ!?」
別のドワーフのツッコミに会場全体がドッと沸く。その笑い声が、記者会見終了の合図となった。
「じゃあ、整理運動しっかりね」
記者会見場を出た俺はシャマーさんとレイさんをクールダウンへ送り出し、別れてシャワー室の方へ向かった。あちらに残した物を何点か、回収する為である。
「あったあった。良かった、盗られてなくて」
入り口のカーテンにかけたスーツを目にし俺は一人、安堵の呟きを漏らす。チーム公式スーツは商品化されそこそこの数は生産できるようになってはいる。しかし俺専用の物だけはドラゴンさんが魔法で作った逸品で、特別に品質が高いのだ。これが無くなるとショックだ。
まあ盗むエルフなんていないだろうけど。
「これと、これと。あれ? 何か足りない気がする」
しかし、ジャケットやズボンを手に取りつつ俺は少し首を捻った。スーツの装いを構成するもの、つまりネクタイやベルトといった物までちゃんと残ってはいる。であるのに何か物足りない気がするのだ。
「どしたん? 何か無いん?」
「ええ。無いって事は分かるんですけど何が無いかが思い出せなくて」
俺はそう自然に説明したところで異変に気づき、急に発生した声の方向を見た。
「レイさん! どうしてここに? ちゃんとクールダウンしなきゃ……」
「そうなんやけどね……。ウチさあ? 今日、チョンボもしたけど、結構がんばりもしたやん?」
声の主、若きファンタジスタは例によって音もなく俺の後を追跡し、いつの間にかすぐ側にいた。まったく、ナイトエルフは忍び足が上手くて困る!
「確かにそうですね。一般的にはミスをした後に動きが鈍くなる選手が多いのですが、レイさんは見事なリカバリーをみせてくれました。ありがとうございます。あとは身体のリカバリーですね!」
もっとも、その忍び足の上手さが先制点に繋がったんだよな? と思いつつも悪い予感を感じた俺は、そっと後ずさって距離を置きつつプロのトレーナーっぽく返す。
「ほなさ? 暫定でええから、久々にご褒美くれてもええやん? なあ、して?」
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