高貴なオメガは、ただ愛を囁かれたい【本編完結】

きど

文字の大きさ
14 / 85

第十四話

しおりを挟む
邪魔が入ったと思った。ヴィルがやっと素直になり始めていたのに、カリーノの声を聞いて表情が固まってしまっている。背後のカリーノもこの状況に戸惑っている様だが、それは正直どうでもいい。とりあえずヴィルがまた意地を張ってしまう前に邪魔者を追い出すことを決めヴィルに布団をかけて裸体を隠す。そして俺は体を起こしカリーノに歩み寄る。

「カリーノ殿下、いくら妹君でもノックなしに飛び込んで来るのは感心いたしませんよ」

「そんなことより、なんでアーシュは上半身裸なの⁈兄様と何をしてたの⁈」

平常心を装い優しく諭す様に言った俺の言葉を流した挙句、状況からわかりきった事を聞いてくるカリーノに苛立ちが募る。

「カリーノ殿下、殿下にお話があるのでしょう?殿下の身支度を整えますので、一度退室してお待ちいただけますか?」

「ねえアーシュ、もしかして兄様と番になる準備をしてたの?」

カリーノもヴィルも刺激しない様に質問には答えずにいたのに、カリーノが遠回しにヴィルを抱いたのか聞いてくる。いつもならすぐに噛み付くヴィルが今は静かにしている。こんな場面を見られ少し気恥ずかしいのかもしれない。それにしても、ヴィルの俺に対する反発心が完全になくなった訳ではない状況で、ヴィルの気に障る言動はできれば控えたい。カリーノの質問に答えたら、ヴィルが拗ねてしまうことは目に見えている。

「私の番はヴィルム殿下ただお一人と昔から心に決めていますので。」

質問の意図に気づかないふりをして、自分の心のうちを素直に伝えカリーノの気持ちには応えられないことを暗に言う。

「……っ。そうよね。知っているわ。……、兄様の支度が済んだらまた来るわね。」

流石のカリーノも察した様で、泣くのを我慢した震える声で精一杯言うと足早に部屋から出ていく。俺はベッドに腰掛け布団に顔を埋めているヴィルの頭を優しく撫でる。

「良かったのか?」

「なにがですか?」

ヴィルが顔をあげずにぶっきら棒に呟く。

「カリーノを振って良かったのか?カリーノと番になった方がお前の望みは果たせただろう」

「私の望み?カリーノ殿下じゃ叶えられませんよ。前から何度も言ってますが、私の望みは」

相変わらず頓珍漢なことを言ってくるヴィルに心がヒリつきそうになりながら、自分の望みを伝える。

「ヴィルムに私の番になってもらう。それ以外はなにも望みません。」

「…嘘つき」

ヴィルはまたボソリと言う。

「嘘じゃないですよ。初めてあなたに番になって欲しいと言ったあの日から、私の気持ちは変わっていません」

俺達の関係が拗れたあの日から、ヴィルが欲しいという思いは何一つ変わっていない。

「ほらっ、お前は僕を甘い言葉で拐かそうとしているけど権力が欲しいだけじゃないか!今すぐ僕の前から消えろ!」

ヴィルが俺の手を払いのけて、勢いよく起き上がる。そして、感情を露わにして怒声を上げる。

あの日、ヴィルに番になりたい理由を聞かれたとき伝える順番を間違えたせいでヴィルは俺に不信感を抱き、俺達はこんなにも拗れてしまった。

「ヴィル聞いて。あの日本当は」

「やだ!離せ!」

ヴィルの顔を両手で固定すると、肩を押され抵抗される。あの日から何度も誤解を解こうとしたが、直情型のヴィルは自分の中で結論を出してしまい、話を聞いてくれなかった。ヴィルを傷つけてしまったから落ち着くまで待つつもりだった。でも、リドールの王子が現れて、そんな悠長なことをしている状況じゃなくなった。誰にもヴィルを渡さない。

「愛してる。ヴィルが好きなんだ。
ヴィルが側に居てくれるなら、何もいらない。」

あの日、本当に伝えたかった嘘偽りのない気持ちをぶつける。
ヴィルの瞳が揺れ、戸惑いと期待が垣間見える。

「あの日、お前は僕が立太子できるから番になりたいって言ったじゃないか」

「そうだね。でも、その言葉には続きがあるんだ。
『ヴィルが立太子できるから。そうすればずっと一緒にいられる。ヴィルが好きだから、他の誰にも渡したくない』」

「……」

「もし立太子出来なければ他国のアルファに嫁ぐことになるって、当時父から聞いていたから、あの時の俺はヴィルが立太子することにこだわりすぎていたんだ。言い方を間違えて傷つけてごめん。ヴィルを愛してる。だから、俺だけのヴィルになって」

誤解を紐解く様に伝えるとヴィルの抵抗が止み、瞳には涙が溜まっていく。

「…アーシュ」

ヴィルが震える声で、あの日から頑なに呼ばなくなった俺の名前を呼んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

あなたは僕の運命なのだと、

BL
将来を誓いあっているアルファの煌とオメガの唯。仲睦まじく、二人の未来は強固で揺るぎないと思っていた。 ──あの時までは。 すれ違い(?)オメガバース話。

アルファだけど愛されたい

屑籠
BL
ベータの家系に生まれた突然変異のアルファ、天川 陸。 彼は、疲れていた。何もかもに。 そんな時、社の視察に来ていた上流階級のアルファに見つかったことで、彼の生活は一変する。 だが……。 *甘々とか溺愛とか、偏愛とか書いてみたいなぁと思って見切り発車で書いてます。 *不定期更新です。なるべく、12月までメインで更新していきたいなとは思っていますが、ムーンライトノベルさんにも書きかけを残していますし、イスティアもアドラギも在りますので、毎日は出来ません。 完結まで投稿できました。

婚約破棄?しませんよ、そんなもの

おしゃべりマドレーヌ
BL
王太子の卒業パーティーで、王太子・フェリクスと婚約をしていた、侯爵家のアンリは突然「婚約を破棄する」と言い渡される。どうやら真実の愛を見つけたらしいが、それにアンリは「しませんよ、そんなもの」と返す。 アンリと婚約破棄をしないほうが良い理由は山ほどある。 けれどアンリは段々と、そんなメリット・デメリットを考えるよりも、フェリクスが幸せになるほうが良いと考えるようになり…… 「………………それなら、こうしましょう。私が、第一王妃になって仕事をこなします。彼女には、第二王妃になって頂いて、貴方は彼女と暮らすのです」 それでフェリクスが幸せになるなら、それが良い。 <嚙み痕で愛を語るシリーズというシリーズで書いていきます/これはスピンオフのような話です>

番を持ちたがらないはずのアルファは、何故かいつも距離が近い【オメガバース】

さか【傘路さか】
BL
全10話。距離感のおかしい貴族の次男アルファ×家族を支えるため屋敷で働く魔術師オメガ。 オメガであるロシュは、ジール家の屋敷で魔術師として働いている。母は病気のため入院中、自宅は貸しに出し、住み込みでの仕事である。 屋敷の次男でアルファでもあるリカルドは、普段から誰に対しても物怖じせず、人との距離の近い男だ。 リカルドは特殊な石や宝石の収集を仕事の一つとしており、ある日、そんな彼から仕事で収集した雷管石が魔力の干渉を受けない、と相談を受けた。 自国の神殿へ神が生み出した雷管石に魔力を込めて預ければ、神殿所属の鑑定士が魔力相性の良いアルファを探してくれる。 貴族達の間では大振りの雷管石は番との縁を繋ぐ品として高額で取引されており、折角の石も、魔力を込められないことにより、価値を著しく落としてしまっていた。 ロシュは調査の協力を承諾し、リカルドの私室に出入りするようになる。 ※小説の文章をコピーして無断で使用したり、登場人物名を版権キャラクターに置き換えた二次創作小説への転用は一部分であってもお断りします。 無断使用を発見した場合には、警告をおこなった上で、悪質な場合は法的措置をとる場合があります。 自サイト: https://sakkkkkkkkk.lsv.jp/ 誤字脱字報告フォーム: https://form1ssl.fc2.com/form/?id=fcdb8998a698847f

僕が死んだあと、あなたは悲しんでくれる?

いちみやりょう
BL
死神 × 不憫なオメガ 僕を大切にしてくれる青砥と、ずっと一緒に居られると思ってた。 誰も感じない僕のオメガのフェロモンを青砥だけはいい匂いと言ってくれた。 だけど。 「千景、ごめん。ごめんね」 「青砥……どうしたの?」 青砥は困った顔で笑って、もう一度僕に“ごめん”と謝った。 「俺、和樹と付き合うことにした。だから、ごめん」 「そんな……。もう僕のことは好きじゃないってこと?」 「……ごめん」 「……そっか。分かった。幸せにね」 「ありがとう、千景」 分かったと言うしか僕にはできなかった。 ※主人公は辛い目に遭いますし、病気で死んでしまいますが、最終的に死神に愛されます。

無理です!僕は絶対にこんな屑駄目王子の嫁になりませんからね?

竜鳴躍
BL
見た目と才能を隠していた第二王子と第一王子の婚約者候補のラブコメ?王家ざまあ。番確定なのに未成熟で分かってない主人公(受)とすれ違いの攻。あげく第一王子は変装した弟に恋をするし、たいへんです。 ※前半あらすじ? 「なんでウチは公爵なのぉ!?」ハイリ5歳は絶望した。ちょっと顔が綺麗なだけで傲慢な第一王子。外面が良いだけの悪魔の婚約者候補に選ばれてしまう。ハイリは男の子だけどΩでお嫁に行く。だから女の子に混じって、実家の爵位と年齢から選ばれてしまった。死にそうになったところを助けてしまったり、あまりのアホさにやらかす男を助けてしまい、なんとか自分だとバレないように裏工作するハイリ。見た目と才能をひた隠しにして、どうにかこうにか誰かに第一王子を押し付けようとするのだった。 ☆短編になりました。

オメガなのにムキムキに成長したんだが?

未知 道
BL
オメガという存在は、庇護欲が湧く容姿に成長する。 なのに俺は背が高くてムキムキに育ってしまい、周囲のアルファから『間違っても手を出したくない』と言われたこともある。 お見合いパーティーにも行ったが、あまりに容姿重視なアルファ達に「ざっけんじゃねー!! ヤルことばかりのくそアルファ共がぁああーーー!!」とキレて帰り、幼なじみの和紗に愚痴を聞いてもらう始末。 発情期が近いからと、帰りに寄った病院で判明した事実に、衝撃と怒りが込み上げて――。 ※攻めがけっこうなクズです。でも本人はそれに気が付いていないし、むしろ正当なことだと思っています。 同意なく薬を服用させる描写がありますので、不快になる方はブラウザバックをお願いします。

処理中です...