高貴なオメガは、ただ愛を囁かれたい【本編完結】

きど

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第十五話

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「…本当に?」

「本当。ほら聞いて。俺がこんなになるのは、ヴィルだけだよ」

不安気に聞いてくるヴィルを抱き寄せ、ヴィルの顔を胸に寄せる。

「ドキドキしてる」

早鐘を打つ俺の鼓動を聞くヴィルの体から力が抜けていく。

「ヴィルとくっついてるからこうなってる」

「アーシュ…」

ヴィルが涙で濡れた顔で見上げ、縋る様に俺を見つめる。その表情が可愛くて仕方なくなる。

「好きだよヴィル。キスしてもいい?」

「…聞かなくていいから」

恥ずかしがって顔を赤らめるヴィルに触れるだけのキスを何度も落とした。

俺の可愛いヴィル。もう二度と誰もにも触れさせたりはしないから。

* * * 

リドールの王子の滞在の最終日は春のうららかな日差しが降り注ぎ、帰るには丁度いい気候だった。外の気候とは対照的に、陛下と王子が謁見する応接間には嫌な緊張感が漂う。

陛下の隣にヴィルが座り、俺とレトア卿が背後に控える。カリーノは、俺とヴィルの仲睦まじい姿を見てから部屋に引きこもって出てこないらしい。

小国の王程度には緊張しない様で王子は堂々と陛下に向き合う。レトア卿は王子に期待を寄せている様だが、王子がこれから何を言うのか分かっている俺は不愉快さを表情に出さない様に努めた。

「エステート王、ヴィルム王子を私の側室にくれないか?」

やっぱり。あの時から王子の意思は変わらなかったか。

* * *

ヴィルが王子に夜這いするのを阻止した夜、俺はそのままの足で王子の居室を尋ねた。

「可愛いオメガが来るかと思ったのに、なんだ君か。アルファを抱く趣味はないぞ」

王子は俺の顔を見るなりそう言うが、表情は面白そうに笑っていて内容と微妙に合っていない。

「お戯れを。私も王子とどうこうなるつもりはありません。」

「じゃあ、何で来たんだ?」

「陛下に側室入りを説明するのに、殿下達を側室に迎入れたい理由をお聞かせいただけたらと思いまして」

王子の軽口を流し本題に触れる。王子も聞かれることは想定していた様で、表情には相変わらず笑が浮かび余裕を感じられる。
本当は陛下には話を通さず握りつぶしてしまいたいが、リドールの王子が相手ではそれは難しい。それにどんな理由であれ、ヴィルは俺から逃げるために側室入りを希望するだろう。それだけは絶対に避けたい。

「本当はそんなことで理由が聞きたい訳ではないのだろう?自分が手をつけてるオメガを取られるのが癪に障るから聞いているのではかいか?」

王子は俺を試す様に言うが、自分が望めばヴィルを手に入れられると暗に言っているのが気に食わない。
どちらにしろレトア卿を焚き付けてカリーノの側室入りを促すつもりだ。大国の側室でも世継ぎを産めば、小国のエステートの王位なんか眼ではない程の権力を得られる。上昇思考の強いレトア卿ならば必ず乗ってくるはずだ。

「そういう訳ではありません。陛下にはきちんと理由を説明することが必要ですから。それにしてめヴィルム殿下と私が関係を持っていることを察していらっしゃったのに、側室に来るのはどちらでも良いと何故仰られたのですか?」

陛下は、オメガの殿下達に興味がない。だから、リドールから側室入りの打診が来たら本人達の意思など聞かずに快諾するだろう。

「あれだけ匂いをつけていたら、アルファなら誰でも分かるだろうさ。どちらでもいいとは言ったが、迎え入れるのはヴィルム王子の方が良さそうだな。だって君がわざわざこうして来るくらいヴィルム王子が大切で仕方ないのだろう?私はそういう人物が欲しい。」

ヴィルの発情期のたびに抱いているから、意図せずともヴィルには俺の匂いがうつっている。それにしても、王子には人のものが欲しくなる癖でもあるのだろうか?普通なら他の男の匂いのする人物を娶ろうなどと思わないはずだ。

「なぜ、ヴィルム殿下がよろしいのですか?他の男が手をつけた相手なんて、嫌がる方が多そうな気がしますが。」

「別に、自分のハーレムのために側室を集めている訳ではないからな。リドールがこれ以上戦争をしないための側室達だ」

「つまりは人質ですか?」

「そうだな。でもこれには小国側にもメリットがある。大国と婚姻関係が出来れば小国同士での争いもそう簡単には起こらなくなる。そういった役割があるからこそ、臣下に慕われている者を側室に入れた方が合理的だろう?そうすれば、小国も大国を裏切る可能性も減らせるからな」

ただのオメガ好きではなく、政治的な思惑を持って婚姻を進めるあたり優秀な事が分かる。

「カリーノ殿下も朗らかな人柄で、臣下からは慕われております。それにヴィルム殿下の番は私の予定ですので、カリーノ殿下を側室にされた方が寛容かと」

「すごい独占欲だな。やはりヴィルム王子を側室に迎え入れることにしよう。いくら愛し合っていようが、リドール帝国という大国に引き裂かれるだけだ。愛なんて権力には敵わない、所詮その程度のものだろ?」

「それは違うと思います」

「ほお。では、愛が権力に打ち勝つ等という世迷いごとを現実にしてくれるか所?それは、それで一興だ」

王子の冷酷な持論に反論すると、王子が出来ないと決めつけ謗る。この人は愛を拒絶しているが、誰よりも愛を求めている気がする。

「何を言われようが、ヴィルム殿下は私の番です。あなたの側室には絶対にさせません」

「それが現実になる様に、せいぜい励むんだな。フィリアス卿、君との話はこれで終わりだ。」

圧倒的な権力を持つ強者が、俺とヴィルに横恋慕するつもりみたいだが、俺はヴィルを手放すつもりは1ミリもないことを分からせてやる。そう自分に言い聞かせ、王子の元を後にした。

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