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第十四話

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邪魔が入ったと思った。ヴィルがやっと素直になり始めていたのに、カリーノの声を聞いて表情が固まってしまっている。背後のカリーノもこの状況に戸惑っている様だが、それは正直どうでもいい。とりあえずヴィルがまた意地を張ってしまう前に邪魔者を追い出すことを決めヴィルに布団をかけて裸体を隠す。そして俺は体を起こしカリーノに歩み寄る。

「カリーノ殿下、いくら妹君でもノックなしに飛び込んで来るのは感心いたしませんよ」

「そんなことより、なんでアーシュは上半身裸なの⁈兄様と何をしてたの⁈」

平常心を装い優しく諭す様に言った俺の言葉を流した挙句、状況からわかりきった事を聞いてくるカリーノに苛立ちが募る。

「カリーノ殿下、殿下にお話があるのでしょう?殿下の身支度を整えますので、一度退室してお待ちいただけますか?」

「ねえアーシュ、もしかして兄様と番になる準備をしてたの?」

カリーノもヴィルも刺激しない様に質問には答えずにいたのに、カリーノが遠回しにヴィルを抱いたのか聞いてくる。いつもならすぐに噛み付くヴィルが今は静かにしている。こんな場面を見られ少し気恥ずかしいのかもしれない。それにしても、ヴィルの俺に対する反発心が完全になくなった訳ではない状況で、ヴィルの気に障る言動はできれば控えたい。カリーノの質問に答えたら、ヴィルが拗ねてしまうことは目に見えている。

「私の番はヴィルム殿下ただお一人と昔から心に決めていますので。」

質問の意図に気づかないふりをして、自分の心のうちを素直に伝えカリーノの気持ちには応えられないことを暗に言う。

「……っ。そうよね。知っているわ。……、兄様の支度が済んだらまた来るわね。」

流石のカリーノも察した様で、泣くのを我慢した震える声で精一杯言うと足早に部屋から出ていく。俺はベッドに腰掛け布団に顔を埋めているヴィルの頭を優しく撫でる。

「良かったのか?」

「なにがですか?」

ヴィルが顔をあげずにぶっきら棒に呟く。

「カリーノを振って良かったのか?カリーノと番になった方がお前の望みは果たせただろう」

「私の望み?カリーノ殿下じゃ叶えられませんよ。前から何度も言ってますが、私の望みは」

相変わらず頓珍漢なことを言ってくるヴィルに心がヒリつきそうになりながら、自分の望みを伝える。

「ヴィルムに私の番になってもらう。それ以外はなにも望みません。」

「…嘘つき」

ヴィルはまたボソリと言う。

「嘘じゃないですよ。初めてあなたに番になって欲しいと言ったあの日から、私の気持ちは変わっていません」

俺達の関係が拗れたあの日から、ヴィルが欲しいという思いは何一つ変わっていない。

「ほらっ、お前は僕を甘い言葉で拐かそうとしているけど権力が欲しいだけじゃないか!今すぐ僕の前から消えろ!」

ヴィルが俺の手を払いのけて、勢いよく起き上がる。そして、感情を露わにして怒声を上げる。

あの日、ヴィルに番になりたい理由を聞かれたとき伝える順番を間違えたせいでヴィルは俺に不信感を抱き、俺達はこんなにも拗れてしまった。

「ヴィル聞いて。あの日本当は」

「やだ!離せ!」

ヴィルの顔を両手で固定すると、肩を押され抵抗される。あの日から何度も誤解を解こうとしたが、直情型のヴィルは自分の中で結論を出してしまい、話を聞いてくれなかった。ヴィルを傷つけてしまったから落ち着くまで待つつもりだった。でも、リドールの王子が現れて、そんな悠長なことをしている状況じゃなくなった。誰にもヴィルを渡さない。

「愛してる。ヴィルが好きなんだ。
ヴィルが側に居てくれるなら、何もいらない。」

あの日、本当に伝えたかった嘘偽りのない気持ちをぶつける。
ヴィルの瞳が揺れ、戸惑いと期待が垣間見える。

「あの日、お前は僕が立太子できるから番になりたいって言ったじゃないか」

「そうだね。でも、その言葉には続きがあるんだ。
『ヴィルが立太子できるから。そうすればずっと一緒にいられる。ヴィルが好きだから、他の誰にも渡したくない』」

「……」

「もし立太子出来なければ他国のアルファに嫁ぐことになるって、当時父から聞いていたから、あの時の俺はヴィルが立太子することにこだわりすぎていたんだ。言い方を間違えて傷つけてごめん。ヴィルを愛してる。だから、俺だけのヴィルになって」

誤解を紐解く様に伝えるとヴィルの抵抗が止み、瞳には涙が溜まっていく。

「…アーシュ」

ヴィルが震える声で、あの日から頑なに呼ばなくなった俺の名前を呼んだ。
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