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しおりを挟む「リスさん。おはよう。」
フィリップがネズミになって数日。レナが大切に世話をしてくれているお陰でフィリップは何不自由なく暮らしている。
水やフルーツを切らさずに準備してくれ、バスケットの中のタオルはいつもふわふわだ。毎日の入浴の時間は拷問のようだが、清潔にしてくれるのは有難い。トイレの掃除まで公爵令嬢のレナがしてくれている。
フィリップの失踪のため、レナは王子妃教育も執務もストップしているようで毎日自宅で過ごしている。
「ふふふ。可愛い。」
フィリップが小さく切られたリンゴを齧っている様子をレナは幸せそうに見ていた。フィリップは彼女の美的感覚に首を傾げ、気まずくなりながらリンゴを齧り続けた。
「あの時リスさんに会わなかったら、リスってどんなものか知らないままだったわね。」
(レナ、こいつはリスじゃない。ネズミだ。)
ここ数日何度も訂正するフィリップの言葉はレナには届かない。
「リスに会うためには動物園に行かなくてはならないもの。」
自然が少ない王都では野生のリスを見ることは出来ない。だが数年前王都に初めて動物園というものが出来たので、王都でもリスは見ることはできる……しかし、レナは執務で忙しく足を運ぶことは無かった。
「フィリップ様は何度か行ったことがあるみたいなの。」
(うっ!)
王都で初めて出来た動物園は、周辺諸国でも珍しいようで他国からの来賓を案内することも多い。フィリップは案内の為に訪れたことがある。
「隣国の王女殿下をエスコートされていたこともあって……あの時のフィリップ様、楽しそうだった。」
(レ、レナ!違う!)
確かに王女殿下をエスコートしたことはある。にこやかに対応してはいたがそれはあくまで外交用のものだ。
「……いいなぁ」
(……レナ?)
「私も一度くらいフィリップ様と行ってみたかった……。」
目に涙を浮かべるレナに焦り、フィリップは何度も呼び掛けるが言葉は勿論伝わらない。だが、ネズミのフィリップが何だか慌てた様子だと気付いたレナはまた微笑みを浮かべた。
「ふふふ。リスさんに会えたんだもの。もう動物園は行かなくていいわね。」
そんな強がりのようなレナの言葉に、フィリップの心はじくりと傷んだ。レナはフィリップの頭を優しく撫で、へにゃりと笑った。
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