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しおりを挟む公爵家から住み込みの打診のあった十日後、レティは公爵家へ移り住んだ。
「本日からよろしくお願いいたします」
「こちらこそよろしく頼む」
深々と頭を下げるレティへスタマーズ公爵は優しく微笑んだ。
「レティちゃん、仲良くしてくれたら嬉しいわ。お家が恋しくなったら週末でなくてもいつでも教えて頂戴ね」
公爵夫人はレティの頭を撫でながら、気遣うようにそう言った。
レティの母が荒れた翌日、伯爵は慌てて「住み込みは良いが週末は帰して欲しい」と頼み、公爵夫妻は快く頷いてくれた。そのためレティは平日はスタマーズ公爵家で、週末は伯爵家で過ごすこととなった。今朝出発する時には伯爵夫妻は笑顔でレティを見送ってくれた……弟のジャックは最後まで号泣していたが。
「はい。お気遣いいただきありがとうございます……ところでミゲル様は?」
公爵夫妻は決まり悪そうに顔を見合わせた。
「う……すまない。ミゲルはこういった場が苦手なんだ」
レティは視線をきょろきょろと動かした。レティを出迎えるため、公爵夫妻だけでなく大勢の使用人たちが玄関ホールに集まっていた。使用人たちも温かな笑顔で公爵夫妻とレティを見守っている……確かに気難しい彼には居心地が悪いだろう。
「いえ、後からまたご挨拶しますね」
「ああ、頼んだよ」
レティがにっこり笑うと公爵にも漸く笑顔が戻った。挨拶が終わると、執事のトニーがレティへ屋敷の案内を始めた。大方の場所を見終えると最後に厨房へと向かうが、先日借りた厨房への道のりと違うことにレティは気付いた。
「あら……先日と違う厨房なんですね」
「ええ、旦那様がレティ様専用の厨房を作るようにと仰られ、急遽準備いたしました」
「へ?!」
「足りないものなどありましたら遠慮なくお申し付けください」
「そ、そんな……」
レティが公爵家に来ると決まったのはほんの十日前の話だ。だが案内されたレティ専用の厨房は最新の設備が整っており、食材や調味料も十分すぎるほど準備されていた。そして……
「ミゲル様?」
新しい厨房では、先程見当たらなかったミゲルが待ち構えていたのだった。
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