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しおりを挟むレティが作ったのは人参入りのマドレーヌだった。多めに作ったので公爵夫妻へもお茶の時間に出すと大層喜ばれ、レティはほっと息を吐いた。
「ミゲル様、どちらでお茶にされますか?」
「ここでいい」
ミゲルは丸椅子に座ったままそう言った。確かに丸椅子の前には小さな作業台もあり、カップとマドレーヌくらいは並べられるだろう。だが、厨房の端で公爵令息へお茶を出すのは流石に気まずい。
「ですが……」
「構わん。誰かに何か言われたら俺に言われたと言え」
「は、はい」
レティは頷くと慌てて一人分のお茶の準備を始めた。その横でミゲルはもう一つの丸椅子を引っ張り出してきた。
「おい、お前も一緒に飲め」
「へ?それは駄目です」
「……何故だ」
「私は料理人として雇われています。料理人が主人のテーブルに着くなんて有り得ません」
いつも料理ばかりのレティだがマナーの講義だってきちんと受けている。腰に手を当てて胸を張ってそう答えたが、ミゲルは眉間に皺を寄せた。
「む……お前は一体誰に雇われているんだ?」
「それは……スタマーズ公爵家です」
「そうだろう?じゃあスタマーズ公爵家からの命令だ、ここに座れ」
「え」
「雇い主の命令は絶対、だろう?」
「そ、そんなぁ……」
肩を落とすレティへミゲルは勝ち誇ったように笑った。初めて見る彼の笑顔にレティは思わず目を丸くする。そして彼の貴重な笑顔を見てしまったからには、もう首を振ることはできなくなってしまった。レティはお茶の準備を済ませるとおずおずと丸椅子に腰掛けた。
「きょ、今日だけですからね!」
「ふん。さぁな」
意地悪くそう言われ、レティはムッとしてしまう。だがマドレーヌをぱくりと齧り、ほんの少し口角が上がった彼の顔を見たらたちまち許してしまうのだった。
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