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しおりを挟むレティが泣いたあの夜から、ミゲルは時折就寝前のレティの部屋へ訪れた。レティが寂しくなる頃合いが何故だかミゲルにだけは気付かれてしまっているようだ。ベッドサイドの椅子に座り、レティが眠りにつくまで隣にいてくれる。
「ミゲル様、学園は楽しいですか?」
「……あまり」
ミゲルの好きな話をさせると勉強の時間になってしまうことを学習したレティは自分から話題を振るようになっていた。
「学園は寄宿舎で生活する方が多いのですよね?」
「ああ」
学生の殆どが寄宿舎で生活することになっている。だが、偏食が激しく気難しいミゲルに寄宿舎での生活は難しいと公爵夫妻は考え、自宅からの通学を願ったのだった。
「……殿下も通学されている」
言い訳するようにミゲルは言った。レティはミゲルの言葉に目を丸くする。
「アーネスト王太子殿下ですね」
「……ああ。会ったことはあるか?」
「王宮へ父の手伝いに同行した時に、何度かお見掛けしました。遠くからですが」
アーネスト王太子殿下はミゲルと同学年であり同じ学園に通っている。遠くから見ただけでも大変な美丈夫であり、大勢の女性が黄色い声を上げているのをレティは何度も見た。レティがそう告げるとミゲルは苦々しい顔を浮かべた。
「あいつは……とんでもない男だ」
「あいつ……」
王太子殿下をあいつ呼ばわりとは不敬に当たるだろう。だが、ミゲルは気にすることなく言葉を続けた。
「あいつは幼い頃から一人の女に執着している」
「それは……」
レティにとってそれは悪いことでは無いように思えた。だがミゲルは首を振った。
「その相手には昔から婚約者がいる。二人は仲が良いと聞くし、第一あいつには内々とは言え婚約候補の令嬢がいる」
「まぁ!」
レティはつい声を上げてしまった。それは確かにミゲルの言う通りとんでもない男だ。婚約候補の令嬢に随分無礼だとレティは眉間に皺を寄せた。
「いいか。あいつには絶対近付いてはいけない」
「は、はい」
ただの伯爵令嬢で学園にも通っていないレティが王太子殿下に近付く機会など滅多にないだろう。だがミゲルの気迫に負け、レティはこくこくと頷いた。
(婚約者、か)
レティはちらりとミゲルの顔を見た。今はまだミゲルに婚約者はいない。だが、次期公爵の彼にはいつか婚約者が現れるだろう。普通なら幼い頃から婚約者が決定していても可笑しくないのだ。ミゲルに婚約者ができるのは明日かもしれないし来年かもしれない。こんな風にレティが公爵家に居られるのもその時までだろう。そう想うと何故か胸が苦しくなった。
「レティ?」
ミゲルから声を掛けられ、レティはハッとして慌てて笑顔を見せた。
「ミゲル様、またお話しして下さい」
「む……じゃあスタマーズ公爵家の歴史の続きを」
「それは嫌です」
「な」
ミゲルの戸惑いの表情にレティはくすくすと笑う。ミゲルと居られるのはほんの少しの時間だ。今だけ、今だけは甘えていたかった。
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