【完結】先に求めたのは、

たまこ

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 「彼女はまた来るのか」そうミゲルから尋ねられ公爵夫妻は大層舞い上がった。人付き合いを嫌う息子が興味を持った初めての相手なのだから。


「ペルジーニ伯爵家へ婚約の打診をしましょうよ」

 興奮気味の公爵夫人は目を輝かせてそう言った。あの気難しい息子がこうやって他者……しかも令嬢へ興味を持つなどもう二度とないだろう。レティをミゲルの婚約者として据え置くことが一番の案だと思えた。だが公爵は首を振った。

「おそらく断られると思うよ」

 ペルジーニ伯爵家が普通の貴族だったら婚約は容易かっただろう。伯爵家が公爵家と縁を結べるなんて諸手を挙げて歓迎されたはずだ。

 だが、ペルジーニ伯爵は貴族としての地位や功績に一切興味の無い稀な人間だ。しかも現国王が彼を友人だと明言し重用している。スタマーズ公爵家からの婚約打診など断る方法はいくつでも持っているだろう。

「それではどうしたら……」

 頭を悩ませた公爵夫妻は、レティをミゲルの傍に置き、尚且つ偏食で身体を壊す恐れのある息子へ食事を食べさせられるという一石二鳥の案を思い付いた。それがレティを料理人として雇うことだった。

 勿論、ペルジーニ伯爵夫妻へは本来であれば婚約の打診をしたい旨を初めから伝えていた。だがレティの意向を慮る伯爵夫妻の気持ちを汲み、婚約はレティとペルジーニ伯爵夫妻の意思を尊重すると契約を交わしていた。



 ミゲルにそれらが伝えられたのは、全ての手続きが完了した後だった。ミゲルは混乱した。自分のたった一言のせいでレティはとんでもないことに巻き込まれてしまったのだ。レティへの申し訳なさが湧き上がるのに、両親へ手続きを撤回してくれとは言えなかった。彼女へ悪いと思っているにも関わらず、レティが公爵家にやってくることを心待ちにする自分に愕然とした。

 そしてレティが公爵家に住み込みの料理人としてやってきた夜、ミゲルの罪悪感は頂点へと達した。レティの部屋の前を通ると微かに泣き声が聞こえたのだ。昼間は笑顔で挨拶をし、厨房の設備を褒め称え、文句を言いながらもミゲルとお茶をしてくれた彼女が一人で泣いているなんてミゲルは居ても立っても居られなくなり、レティの部屋に無許可で入った。


「ここに来ることは私が決めました」

 レティは真っすぐな目でそう言い切った。ミゲルはその言葉に半信半疑だった。だがすぐにそれは本当だと知った。彼女の厨房で二人で過ごす日々の中でレティはそれを教えてくれたのだった。
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