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しおりを挟む暇があればレティの厨房で過ごし、就寝前はレティの様子を見に行く毎日が続いた。
「婚約者に随分ご執心みたいだな」
学園でアーネストから揶揄うように言われミゲルは眉間に皺を寄せた。
「……婚約者じゃない」
「でもそうするつもりだろう?」
学園でも社交界でも既にスタマーズ公爵家にミゲルの婚約者候補の令嬢が住み込んでいると噂になっていた。婚約は交わしていない、だが婚約していると誰もが思っている。
「さっさと婚約してしまったらよかったのに。確かにペルジーニ伯爵と父上は仲が良いけどスタマーズ公爵から頼まれれば協力してくれただろうに」
ミゲルの父は国王陛下の下で働いており信頼も厚い。国王陛下がスタマーズ公爵に付く可能性も十分あった。
「……レティの意に添わないことはしたくない」
「ちゃんと好かれてから婚約したいということ?」
アーネストの問いにミゲルは不機嫌そうに頷いた。ミゲルらしくない、そう言いそうになるが慌てて飲み込んだ。学園では碌に友人も作らず、同級生の名は殆ど覚えていない。そのくせ学業面は優秀だし爵位は高いので要らぬ反感ばかり買っているミゲルが相手の気持ちを思いやる言葉を口にしているのを見てアーネストは少々戸惑っていた。
「だが、早く婚約は結んでおけよ。遅ければ遅いほど厄介なことになる」
「お前には言われたくない」
婚約者候補がいながら他の女性にうつつを抜かすアーネストの言葉をミゲルはいつも聞き流していた。だがこの時の言葉だけは聞いておくべきだったのだと今になって後悔している。
レティは成長するにつれミゲルと距離を取るようになっていった。そうするとミゲルも声を掛けるのを躊躇うようになった。レティの距離を詰めるために、デートに誘うだとか、プレゼントを贈るだとか、そんなスキルは持ち合わせていなかった。そうやって手をこまねいている内にレティがスタマーズ公爵家に来て八年が過ぎてしまっていた。
「……と言う訳で、俺は出会った頃からレティを好いている」
「な……っ」
「レティ?」
顔を至近距離に近付けて、ミゲルが首を傾げた。
「な、何が、と言う訳で、ですか!お、下ろしてください!」
「なぜ怒る?」
ミゲルの昔話を聞いている間、レティはミゲルへ椅子を勧めた。だが厨房にあるのは一人用の丸椅子が二つ。ミゲルはレティと離れたくないからと、彼女を抱き上げるとどかりと床に座り壁に背をもたれた。レティは話の間、散々下ろすようにと説得するがミゲルは聞く耳を持たなかった。
「レティ、聞いていたのか?聞いていなかったのなら、もう一度説明するが……」
「き、聞きましたから!もう!」
レティはあまりの恥ずかしさに手で顔を覆った。話の間、ミゲルがあんまり優しい顔で語るから、レティはこれ以上怒ることはできなくなってしまった。だが、一つ確認しなければならないことがある。
「……王女様は?婚約されるのではなかったのですか?」
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