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しおりを挟む「お前達、漸くか。」
ウィリアムが付いているヘンリー王太子が揶揄うようにニヤリと笑った。ウィリアムとヘンリーは、学生時代からの付き合いだ。ウィリアムが長い間、片思いを拗らせてきたのをずっと見てきたのだ。
「よくもまぁ、二十年も片思いしておいて、まともなアプローチも出来なかったなんて。」
ウィリアムは苦虫を噛み潰したような顔を隠そうともしなかった。二人の間では遠慮というものは存在しなかった。
「殿下には言われたくありませんが。」
「まぁ、そこを突かれると痛いな。」
ヘンリーは気を悪くしたような様子はない。ハッキリと意見を言うウィリアムを重宝していた。
「いや、しかし幼い頃からお前は酷かったぞ。」
この指摘にはウィリアムも言い返せない。ウィリアムは、七歳の頃カレンと初めて会った茶会で、一目惚れしてしまった。自分をちやほやする他の令嬢達とは違い、自分の好きなように生きているカレンが眩しかった。
そして、大好きな本ばかり見ているカレンに自分を見てほしくて、つい本を取り上げる意地悪ばかりしてしまっていた。本を取り上げた瞬間だけは、あの大きな瞳に自分が写っていた。その内、昆虫を渡して驚かせたり、カレンが嫌がる高所に連れていったり、と意地悪の幅が広がっていった。意地悪している間はカレンが自分を見てくれるからだ。
片思いを拗らせたまま、学生時代も、就職してからも、まともなアプローチは出来なかった。最近では、仕事帰りのカレンを待ち伏せて、煽ってから呑みに誘うのがやっとだった。
「殿下が悪い部分もあるんですが。」
ウィリアムは、苦し紛れに抗議した。カレンの両親に弁明したように、ヘンリーは、執務の中で令嬢への聞き取りが必要な場面では必ずと言って良いほど、ウィリアムに対応させた。ウィリアムの美しい容姿のお陰で、令嬢達は口が軽くなるのをよく分かっているからだ。
「悪かったと思っているよ。お前に頼り過ぎたな。」
ウィリアム自身も自分の容姿を活用していた部分はあった。だが、最近になってカレンの両親がカレンの縁談探しに奔走していることが耳に入り、ウィリアムは慌てて動き始めた。そして、令嬢への対応も後輩たちに任せるようになった。
「まぁ、無事に婚約を結べるよう協力は惜しまないよ。」
「でしたら・・・。」
漸く、カレンとの仲に変化があったのだ。カレンと結婚するためには、王太子ですら使う。片思い歴二十年の重さは、ウィリアムにしか分からない。
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